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ファッションテック企業ZOZOが可能にした新たなUX【田端氏・金山氏インタビュー前編】
日本発、世界のファッション・テックを牽引する株式会社ZOZO。もともと輸入CD・レコードのカタログ販売からスタートした会社だったが、日本のファッションブランドのEC化に先駆けて、2004年にインターネット上のセレクトショップを集積したファッション通販サイト『ZOZOTOWN』の運営を開始。現在では、ZOZOTOWN出店ショップ数は1,100件を超え、年間購入者数は739万人を超えている。
またEC事業を核としながらも、ユーザーのファッション体験を向上するために、テクノロジーを活用した様々な新しいプロジェクトをローンチしている。
今回、同社のコミュニケーションデザイン室 室長である田端信太郎氏と、テクノロジー部分を担う子会社『株式会社ZOZOテクノロジーズ』代表取締役CINOである金山裕樹氏に、テクノロジーがユーザーのファッション体験に与える影響や、同社の今後の海外展開についてお話を伺った。
前編では同社が作り出した新たなファッション体験と、それを支えるテクノロジーについて掘り下げていく。
田端信太郎
株式会社ZOZO
コミュニケーションデザイン室 室長
【プロフィール】
1975年石川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。NTTデータを経てリクルートへ。フリーマガジン「R25」の立ち上げや、広告営業の責任者を務める。2005年、ライブドアに入社し、livedoorニュースを統括。ライブドア事件後は執行役員メディア事業部長に就任し経営再生をリード。さらに新規メディアとして、BLOGOSなどを立ち上げる。
2010年春からコンデナスト・デジタルへ。VOGUE、GQ JAPAN、WIREDなどのWebサイトとデジタルマガジンの収益化を推進。2012年、NHN Japan(現LINE)執行役員に就任、広告事業部門を統括。2014年、上級執行役員法人ビジネス担当に就任。2018年3月から株式会社ZOZO コミュニケーションデザイン室 室長。
金山 裕樹
株式会社ZOZOテクノロジーズ
代表取締役CINO(Chief Innovation Officer)
【プロフィール】
AppleとGoogle、両社のベストアプリを受賞した唯一のファッションアプリ「IQON」(アイコン)を運営するVASILYを創業後、2017年10月に「ZOZOTOWN」 を運営するZOZOにM&A。M&A後はZOZOの技術開発を担うZOZOテクノロジーズのイノベーション担当代表取締役として、ZOZO研究所の発足などR&Dと新規事業の創造を行なっている。
著書に「いちばんやさしいグロースハックの教本」(インプレス)など。
ZOZOが創り出した新たなファッション体験
自宅で『あなたサイズ』の服が買える:ZOZOSUIT(ゾゾスーツ)
ファッションECの最大の課題であった「サイズ問題」を解消するべく開発された、採寸用ボディースーツ『ZOZOSUIT(ゾゾスーツ)』が話題を呼んでいる。
ZOZOSUITは、全身に施された300~400個のドットマーカーをスマートフォンのカメラで360度撮影することで、ユーザーの体型サイズを瞬時に計測することができる、革命的なデバイスだ。
そして、ZOZOSUITでの測定データをもとに、PB『ZOZO』のデニムパンツやTシャツ、スーツに至るまで、ユーザーひとりひとりの体型に合った服を注文することができる。
「サイズへのこだわりは、我々の企業のDNAに刻まれています」と田端氏は語る。長らくファッションECのプラットフォーマーであったZOZOだが、試着できないECでもサイズのあった服を届けるというのは、ZOZOTOWNスタート時から貫いてきた同社のこだわりであり、ZOZOSUIT開発は自然な流れだと説明する。
アパレル製品は、国ごとにサイズ表記が異なるのはもちろん、ブランドごとにもサイズ表記にばらつきがある。国内外の様々なブランドの商品を取り扱うZOZOTOWNでは、商品が倉庫に入る時点で、1つずつ検品してサイズを測るという作業を、ファッション通販サイトとしてブレイクスルーした時から一貫して行っていたそうだ。
ブランドを横断して自分に合ったサイズを見つけられる『あなたサイズ検索』
「地道で大したことはない」と田端氏は語るが、同社のサイズに対する徹底した姿勢は、ZOZOSUITを生み出し、それによってユーザーの服選びを劇的に楽にする新しいサービスの提供も実現した。それが、『あなたサイズ検索』という、ZOZOSUITで計測した体型データを基に、あなたサイズの商品だけを絞り込んでZOZOTOWN内の商品の検索結果に表示できるという機能だ。
このサービスでは同社が展開するプライベートブランド(以下PB)『ZOZO』のみならず、他のブランドの商品においても、あなたサイズの商品を瞬時に見つけることができる。初めて購入するブランドや海外のブランドであっても、サイズ選びで失敗するリスクを最小限に抑えることができる革新的なサービスだ。
今までも、体重や身長、普段着用しているブランドのサイズからフィットするであろうサイズを割り出して適切なサイズをおすすめするサービスや、3Dスキャナで体型データを測定することができるデバイスは存在していた。しかし、ZOZOSUITほど精密かつ簡単に体型サイズを計測し、ショッピングに活かすことができるサービスは、筆者が知る限り現段階では他には存在しない。
面倒な服選びから解放:おまかせ定期便
2018年2月、ZOZOは、アパレル経験豊富なスタッフがユーザーに似合うコーディネートを定期的にお届けしてくれる『おまかせ定期便』というサービスを開始した。
好みのテイストや取り入れたいアイテム、取り入れたくない柄・カラー、隠したい体型のパーツ、好きなサイズ感、予算感等、サービス申し込み時に回答したファッションの好みに関する情報を基に、独自のアルゴリズムで分析し、最終的にスタッフがコーディネートをした商品を届けてくれるサービスだ。ユーザーは、自宅で試着をし、気に入った商品のみを購入することができ、気に入らなかった商品は無料で送り返すことができる。
『Stitch Fix』や『Truck Club』等、アメリカでも同様のサービスが、近年人気となっているが、日本でこの体験を提供したのは同社が初めてだ。
↑コーディネートや着こなしのアドバイスが記載された「レター」が商品と一緒に届く
考えずにオシャレになれる
同サービスは、属性の全く違う2つユーザー層に響いているという。1つは、これまでZOZOTOWNで買い物をしていた、「ファッション関与度」が高い層。そして、もう1つがあまりファッション関与度は高くないが、金銭的に余裕がある層だ。
後者は、ZOZOSUITをきっかけにサービスを知った、テック業界に従事する人も多いと言う。おまかせ定期便によって、面倒な服選びから解放され、さらにアパレル経験豊富なスタッフが選ぶオシャレな服を身にまとうことできる、という点に価値を見出しているようだ。
生身のスタッフがユーザーの感覚ニーズに対応
筆者がおまかせ定期便とStitch Fixを実際に利用したみたところ、ユーザーの趣向を把握するための事前質問の濃度に違いがあることに気がついた。
おまかせ定期便は、Stitch Fixに比べ、質問項目数がやや少なく、質問内容についても、ふんわりと感覚的なものが多い。田端氏曰く、ユーザーの好みに合う商品を選ぶ際には、まだまだ人力に頼っているそうだ。おまかせ定期便では、数値化することが難しいユーザーの気持ちや、「かっこいい」や「かわいい」等の感覚的なニーズをアパレル経験豊富なスタッフが汲み取ることで、限られた質問項目でもユーザーが満足するサービスを提供することができているという。
「日本の飲食店でいう『板長おまかせコース』のように、お客さんが何も選ばなくても、旬の食材から提供する食事メニューを決めてくれるようなサービス」だと田端氏は語る。その一方で、今後は機械の力を惜しみなく使って、よりデータドリブンなサービスにしていきたいと金山氏は意気込みを見せている。
体験創出の裏にあるテクノロジー
テクノロジーを担う新会社『ZOZOテクノロジーズ』とは
ZOZOSUITやおまかせ定期便を支えているのが、金山氏が率いるZOZOテクノロジーズだ。同社は「70億人のファッションを技術の力で変えていく」というミッションのもと、2018年4月に発足した。会社設立には、ZOZOグループ全体として、テクノロジーに対する投資・強化をやっていこうとする意図がある。
設立の背景には、PBを展開する上で非常に重要になってくる採寸技術の強化という目的があるという。PBであるZOZOは、S、M、Lという既存のサイズではなく、「Be unique. Be equal.」というコンセプトに基づき、『Your Size』として、ユーザー一人ひとりに合ったサイズの服を作成している。
当然、一人ひとりに合ったサイズの服を制作するには採寸技術が肝となり、それを実現するのが、採寸用のボディースーツのZOZOSUITだ。そして、このZOZOSUITのテクノロジーを支えるのが、同社の役割というわけだ。
ファッションを数値化
ZOZOテクノロジーズのR&D部門『ZOZOリサーチ』は、「ファッションを数値化」することによって、美しい、かっこいい、かわいいファッションとは一体何なのかを科学的に解明している。ファッションを数値化することによって、ユーザーにどのようなメリットがあるのだろうか?
「数字によって見える化すると、人間は理解しやすくなります。例えば美味しいレストランを見える化・数値化したのって、食べログやYelpだったんですよ。食べログで星4.5の店だったら『おいしそうだな』って思いますよね。ユーザーレビューによってお店の評価が数値化されているから、我々は現象を捉えることができるんです。」と金山氏は説明する。
「ファッションにおいても同じで、自分がオシャレだと思っているファッションについて、例えば数値で3/100とか出たら『ちょっと着替えてきます…』ってなるわけです。」
物事を定量的に捉えることによって、人は物事判断しやすくなる。フィットしているのか、してないのか。オシャレなのか、オシャレじゃないのか。似合っているのか、いないのか。買うべきか、買うべきでないのか….このような概念を、定量的に捉え、提示することによって、ユーザーのファッションについての理解助けることが、ZOZOリサーチの研究ゴールだ。
さらに、ZOZOリサーチは、機械の力を使って、最適なコーディネート、服の組み合わせを作るという論文を発表しており、KDD(International Conference on Knowledge Discovery and Data Mining)という、データマイニングにおける研究発表がなされる国際的な学会のワークショップにて採択されている。
ZOZOテクノロジーズが保有する技術が、今後どのようにZOZOのサービスに組み込まれるかは、非常に注目したいところである。
完全自動生産への挑戦
ZOZOが業界の仕組みを変える可能性を秘めているのは、あなたサイズの服を手軽に購入できるというからだけではない。その生産プロセスも徹底的にテクノロジーを使って効率化されていることにも注目したい。
2018年8月に前澤社長が、「服の作り方革命」に挑戦したいエンジニアをツイッターで募集していたので、その要綱を見てみたが、サーバーサイドエンジニアや制御系アプリケーションエンジニアなど、ファッションブランドの求人では、まず目にすることのないポジションが募集されていた。
同採用ページによると、一人ひとりの体制に合わせたアパレル商品を、人を介することなく完全自動で生産するための研究を進めており、そのために、画像処理技術や、ロボットアーム、機械学習などを使い、完全自動生産のスマートファクトリーの構築に挑戦するとのこと。
今でさえ、即日から約2週間以内であなたサイズの商品が納品されているのに(通常のオーダーメイドには、数週間から数か月かかるのが業界の常識だ)、これがさらに効率化されているということで、ますます期待が膨らむ。
「日本には僕ら以外、ファッションテック企業はいない」
金山氏が注目するファッションテック企業があるかどうか伺ったところ、「正直、まだまだファッションテックと言えるような会社が少ない気がします。おこがましいかもしれませんが、少なくとも日本には、僕ら以外ファッションテック企業はいないと思っています。ファッションテックと自称していても、僕から見ればテックではないですね」と語る。
後編: 体型データが秘める可能性とZOZOの海外への挑戦【田端信太郎氏・金山裕樹氏インタビュー後編】ではZOZOが持つデータ活用の可能性と、ZOZOの海外展開についてお話を伺う。
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