デザイン会社 btrax > Freshtrax > スタートアップは残業をしまくる...
スタートアップは残業をしまくるのか?ーサンフランシスコ・ベイエリアのワーク・ライフ・バランス事情
最新テクノロジーの導入により仕事の効率化は進む一方、いつでも仕事に取り組める環境は社員に対して常にストレスを与えることに繋がりかねない。そういったテクノロジーが生活に浸透しているサンフランシスコ・ベイエリアだが、仕事とプライベートのバランスに対してはどう考えられているのか。
今回、ここでのワーク・ライフ・バランスに対する考え方を起業者・経営者側と社員側から掘り下げてみたところ、充実した生活を送るには「テクノロジーと離れて自分の時間を持つ」ことが鍵になりそうだと見えてきた。
仕事とプライベートの一体化は今も進む
西海岸を中心にリモートワークや自由な就労時間というのが認められている職場は多い。反面、仕事とプライベートを切り離すのは難しくなっているのも事実である。「仕事とプライベートに優先順位をつけるべきではなく2つとも充実させるべき」というワーク・ライフ・インテグレーションという考え方は、テクノロジーが日常生活にある今では社員にも一般的になっている。
AmazonのCEO、ジェフ・ベゾスも仕事とプライベートの調和について語る1人。先日のForbesの記事にて「ワーク・ライフ・ハーモニー」という言葉を用い、「いつも終業時刻ばかりを気にしているような惨めな社員ばかりだったら、今の会社の雰囲気は醸成されなかった」と語っている。
プライベートと仕事を一緒に生活の中に取り入れ、半ば仕事を生きがいにする、経営者・起業家スタイルの生き方は一般社員にも求められていくようだ。ではベイエリアの起業家の生活における仕事とは一体どういったものだろうか。
起業家ライフに激務はつきもの?
ベイエリアの起業家の間には、そのビジネス成功秘話の影に、長時間労働が当然であるという考え方が浸透しているようだ。彼らがワーク・ライフ・バランスを追い求めることは理想的でありつつもやはり現実的には無理なのか。こういった議論は今も激しく行われている。
実際に今年5月、ベンチャーキャピタリストであるブレイク・ロビンスは「より大事なのはどれだけ長く働いたかではなく、どれだけスマートに仕事をこなすか」という旨をツイート。
それに対し、Paypal創業当初の幹部でsquareの元COOの経験を持ち、現在は投資家のキース・ラボイスは「まったく違う」と返信。PayPalやFacebookの起業当時の話やプロアメフトチーム、ペイトリオッツのビル・ベリチック監督の1日20時間近くに及ぶ努力を引き合いに出し、「他にもいる才能ある人に対し、ただスマートさで勝てると思い込むのは傲慢だ」と付け加え、物議を醸した。
I’ve read a ton about Elon/Amazon/PayPal. I also read Grit earlier this year. SpaceX, for the most part, was a terrible work-life balance.
— Blake Robbins (@blakeir) May 30, 2017
プロジェクト管理ツール「Basecamp」を開発したことで知られるプログラマーのディビッド・ハイネマイヤー・ハンソンも数日後に「これはラボイス氏だけでなく、VC達の間では広く共有されている信念である」とツイートしている。
現にスタートアップ起業家の逸話は数多く存在する。TeslaやSpaceXの創業者、イーロン・マスクは、自身のスタートアップ立ち上げ時にデスクの隣にビーンバッグを置き、テスラ製造ラインの近くには寝袋を置いていたという。
また、TwitterやSquareのファウンダーであるジャック・ドーシーは10年前の自分にかけるアドバイスとして「運動や健康にもっと気を使った生活をすること」だと語るほど、創業時は仕事に没頭していたようだ。
ラボイスは後日WIREDの記事に「若い人たちに『一生懸命働かなくてもよい』とキャリアアドバイスを与えるのは誤りのように感じる」と答えている。彼にとって、「一生懸命働く=時間を気にせずに働く」ということのようだ。成功するために差し出す「何か」はもちろんあって当然だろうが、多くの起業家にとってそれは「労働時間」なのだろう。
「努力してこそ功を成す」考え方が根底にある
またプロテスタントのスタートアップ起業家たちにとって、激務は宗教的観点から宿命であるという考え方がある。ドイツ人社会学者のマックス・ウェーバーも自身の1920年の著書にて「プロテスタント・ワーク・エシック」と呼ばれる考え方に言及している。
要は資本主義の社会において懸命に働くことは信心深さの表れとともに宗教的義務であり、一生懸命なほどより信心深いクリスチャンという証で救われる可能性も高くなる、というのである。そういう意味で、長時間労働は「懸命に働く」ことの明確な表れなのだ。
できるだけ生産性の高い仕事ができるよう、オフィスデザインや柔軟な働き方制度の導入を通じて働く環境が整えられつつあるが、長時間労働という犠牲は今後もある程度社員に求められていきそうだ。
雇用者側に立つ起業家がこのような立場の中、果たして社員は起業家と同じ情熱を持って、仕事を半ば生きがいにして時間を気にせず働けるものなのだろうか。社員の仕事とプライベートのバランスに関する考え方について、Googleで行われた研究がある。
Google社内のワーク・ライフ・バランス研究、gDNA
このように働き方に対する見解が様々ある中、シリコンバレーにあるGoogle本社も「社員の仕事に対する経験」について知るべく、ワーク・ライフ・バランス研究「gDNAプロジェクト」を社内で始動。
同社のPeople Operations部署にいるラスロー・ボックを筆頭に、博士号を持つ社員が研究員として4000人のGoogle社員を対象に長期研究を始めた。
ボック率いるチームは最初の数年で社員のワーク・ライフ・バランスに対する考え方に特徴があることを発見。それが次の2つであった。
セグメンテーター:仕事とプライベートをしっかり分けており、家にいるときはメールを確認しないという社員。研究対象となった社員のうち、31%がこのセグメンテーターであった。
インテグレーター:仕事とプライベートの境界線が曖昧で、常にメールを確認してしまう社員。残りの69%の社員がこのインテグレーターに当てはまる。
興味深いのは、この69%のインテグレーターのうち半数以上が仕事とプライベートをもっと分けたいと答えているということだ。仕事がいつどこでできるようになった今でも、やはり仕事に絶対にかかわらない時間の確保は多くの社員に必要なようである。
この結果を見たGoogleは、ダブリンオフィスで「Dublin Goes Dark」というプログラムを実施。社員が仕事を終えて家路につく前に、仕事に使うデバイスをオフィスのフロントデスクに置いていき、仕事から離れる生活を推奨したのである。
この施策の後、多くの社員がストレスの少ない、楽しい仕事後の時間を過ごしているという報告があったとボックは語る。就労時間外のメールは無視し、休みの時間をフルに活用してもらうことは長期的な視点から社員の健康面にとって良いことかもしれないと彼は期待している。
gDNAプロジェクトは2012年から始まり現在も進行中だ。Googleは「仕事にかかわる社員の経験」を長期に亘って様々な角度から進めようとしている。しかし、実施数年で雇用者・起業家側と従業員の間で仕事に対する認識の違いがすでに明らかになりつつあるのだ。
まとめ
ワーク・ライフ・バランスやインテグレーションの実践がなかなか難しいのも、仕事に対する認識が起業家と一般社員の間で一致していないことが原因にあるように感じる。仕事こそ生きがいと捉える起業家とあくまでも業務と捉える一般社員。
ここに絶対的な温度差があるからこそ、ワーク・ライフ・バランスは未だに一般社員から強く求められ、ワーク・ライフ・インテグレーションは起業家の生活の根幹となっているのかもしれない。
こういった違いがあるからこそ、起業家・経営者側が社員に彼らと同じマインドで働くことを求めるために、オフィス環境などを整えていくのだろう。雇用側が社員の採用の際にカンパニーフィットを重視するのもそのためだ。
一般社員に起業家と同じマインドを求めること自体は企業の成長にとって好ましいことだろう。一方で社員とその家族の健康や幸福度を重視することもまた社員の意欲を高め、企業の成長にとって必要なことだ。
現時点ではどちらがいいのか明確な答えはないが、ただ明らかなのは、すでに「いつでも」「どこでも」仕事ができてしまう環境になっているということだ。そんな環境のなかで時にはテクノロジーと離れ、リラックスできる時間を確保するなど、社員がうまく自ら最適なバランスを見つけだすことがこれからは求められる。
本記事をきっかけにご自身のワークとライフのバランスあるいはインテグレーションの程度について、改めて考えてみてはいかがだろうか。
起きている時は常に働いている事。特に自分の会社を始めようと思っている場合は、そのぐらいの覚悟が必要だ。単純計算で、周りの人が50時間しか働いていないなら、自分は100時間働く。そうする事で、他の2倍のスピードで物事を達成させる事が可能になる。
– イーロン・マスク
参考:
- Google’s Scientific Approach to Work-Life Balance (and Much More)
- The Best Companies For Work-Life Balance
- The Gospel of Hard Work, According to Silicon Valley
- Jeff Bezos To Donald Trump And Peter Thiel: Develop A Thick Skin
- Q&A with Jack Dorsey
- What it’s like to work for legendary NFL coach Bill Belichick, whose interview process takes days
【イベント開催!】Beyond Borders: Japan Market Success for Global Companies
日本市場特有のビジネス慣習や顧客ニーズ、効果的なローカライゼーション戦略について、実際に日本進出を成功に導いたリーダーたちが、具体的な事例とノウハウを交えながら解説いたします。市場参入の準備から事業拡大まで、実践的なアドバイスと成功の鍵をお届けします。
■開催日時:
日本時間:2024年12月6日(金)9:00
米国時間:12月5日(木)16:00 PST / 19:00 EST
*このイベントはサンフランシスコで開催します。
■参加方法
- オンライン参加(こちらよりご登録いただけます。)
- 会場参加(限定席数) *サンフランシスコでの会場参加をご希望の方は下記までお申し込みまたはご連絡ください。(会場収容の関係上、ご希望に添えない場合がございます。予めご了承ください。)
- 対面申し込み:luma
- Email(英語):sf@btrax.com
世界有数の市場規模を誇る日本でのビジネス展開に向けて、貴重な学びの機会となりましたら幸いです。皆様のご参加を心よりお待ち申し上げております。