デザイン会社 btrax > Freshtrax > なぜVCはいつも偉そうなのか
なぜVCはいつも偉そうなのか
先日サンフランシスコにて、毎年恒例のJapanNightの決勝戦が行われた。
このイベントは、日本のスタートアップ企業5社が、地元のオーディエンスと審査員の前で英語でのピッチを行い、優勝チームを決定するという内容で、2010年よりbtraxが毎年開催している。
第8回目を迎えた今回も沢山の注目を集め、会場は超満員。これまでの集客数を更新し、多くのメディア取材も行われた。
サンフランシスコのSOMA地区のクラブを貸し切った会場では、東京予選を勝ち抜いた5チームによる白熱したプレゼンバトルを繰り広げた。
5分間のプレゼンの後に、シリコンバレーのVCを中心に構成される合計4人の審査員による5分の質疑を経て、採点。合計点数で、スペースマーケットが優勝チームとして選ばれた。
それぞれのチームのプレゼンは非常に品質が高く、その後の質疑の際も堂々とした受け答えが見られた。
中には審査員からのサービスに対する懐疑的な質問に対して、「そんな事はありません。」ときっぱりと反対意見を言うプレゼンターがいたりなど、かなりヒートアップした場面も見られた。
後日、イベントに関しての体験談として、審査員であるVC (ベンチャーキャピタリスト) の方々の対応に関して、下記のような意見のコメントを見つけた。
“投資ファンドにいたときの自分について反省する事が最近多いです。いろんなことで。
例えば、ベンチャーのピッチコンテストのジャッジの仕事って、単にビジネスを評価する仕事じゃない。
– 中略 –
投資の事をわかってない質問、ビジネスの実情を知らない事が丸出しの質問を、上から目線の態度でされると、ああもうこのファンドは関わりたくないし他のスタートアップにもお勧めするのはやめなきゃ!って思っちゃう。
そう考えると、いろいろ反省させられます。。。笑”
スタートアップ系イベントでの審査員
日本でもアメリカでも、スタートアップが参加するピッチ系のイベントでは、VCの人達が審査員として参加するケースが多い。
普段から多くのプレゼンを聞き、スタートアップの目利きを行っているその職業柄、最適な役割と言える。
今回のイベントでも、当日の審査員としてだけではなく、出場チームに対して事前のピッチレッスンや、アドバイスなども提供して頂き、VCの方々には日頃からとてもお世話になっている。
現在の市場の状況や、類似サービス、適切なチーム構成等、その企業の今後の成長性を元に投資をするかどうかを短時間で判断している彼らは、イベントでの5分間デモピッチに対する質疑や採点の際にも日々の仕事でのスキルが活かされる。
その一方で、プレゼンを行う側からしてみると「高圧的な態度でそこまで言われる筋合いは無い」と思うくらいに、厳しい質問が投げかけられる事もある。
観客として見ている分には面白いかもしれないが、ステージ上で返答しなければならない起業家としては、なにぶん理不尽に感じる事もあるかもしれない。
審査する側として難しい質問をするのは比較的容易であるが、瞬時にそれにアドリブで答えなければならない方が高レベルのスキルが必要とされ、難易度が高い。
実際のところ、そのサービスが最終的に成功するかどうかはユーザー、顧客、そしてマーケットが決める事であり、審査員やVCの判断が必ずしも正しいとは限らないのだ。
現在では大人気となっているTwitterやAirbnbなども、初期の段階では周りの人々に、散々こき下ろされていたという事実もある。
VCという仕事
そもそもVCとはどんな仕事なのか?ベンチャーキャピタリストと呼ばれるこの仕事はごく簡単に言うと、個人や企業、団体から預かったお金を将来有望と思われるスタートアップを中心とした企業に対して投資を行い、数年後のエクジット (バイアウトかIPOなど) を通じてリターンを生み出すのが主な役割となる。
その目的達成には、優れた嗅覚と知識、教養、ネットワークが必要とされる。
星の数程あるスタートアップの中から、”これはいける!”と判断した企業に対して現金を投資し、株式等をなるべく有利な条件で取得する。
毎日の様に複数の起業家からのプレゼンを審査し、次のGoogleやFacebookを見つけ出し、速い段階で投資を行う事が出来れば、大きなリターンを生み出す事が可能になる。
しかしながら、新規ビジネスの9割以上が失敗する中で、結果を出していくのは至難の技である。
最近では、サンフランシスコを中心に、大きな評価額を誇る、ユニコーンと呼ばれるスタートアップの躍進が目立つが、その陰では多くのスタートアップが日々消えていっている。
投資する側としても、シリコンバレー地域を中心に成功を収めている著名VCファームの活躍を目にする事がある反面で、投資した金額以上のリターンを生み出せているVCは、実に全体の25%以下だと言う。
そんな厳しい状況の中で着実に結果を出す為には、皆に気に入られるよりも、嫌われてでも時には冷酷な判断を下し、起業家に対して厳しい態度を取らざるを得ない時もあるだろう。
彼らの一番の仕事は、お金を預けてくれた人々へのリターンを出す事であり、起業家を喜ばせる事ではない。
VCの人達全てが”いつも偉そう”と言うわけではないが、総じてそのようなイメージを持たれているのは、その仕事の厳しさ故かもしれない。
友人VCからの告白
会社を始める以前より、VCを”なりわい”としている友人が何人かいた。
その中でも,シリコンバレーの中心地にオフィスを構える友人とは、特に交流が深く、VCという世界の裏側、厳しさ,そして時にはえげつなさを知る事が出来た。
自分が会社を始めた直後もよく相談に乗ってもらっていたが、彼からのアドバイスの一つが、“自分の金で失敗するのも良し、家族や友達から借りたお金で失敗するのも良し。しかし、外部の投資家からのお金で失敗するのは許されない。“というものであった。
失敗に寛容なイメージのあるシリコンバレーであるが、投資事業はどこでもやはり切った張ったの厳しい世界。安易な気持ちで投資を受けると大きな痛手を負ってしまう可能性もある。
事実、カリスマ投資家、ロン・コンウェイへのインタビューでも、起業家に対して彼は「出来るだけ自己資金で運営すること」とアドバイスをしている。
敏腕VCの友人も、最近の市場変化を元に投資先を選定するのは容易ではないらしく “Twitterみたいのがヒットしちゃうと、ぶっちゃけどんな基準で投資したら良いか分からない”と語っていた。
ハーバードMBAを保持する彼のようなエリートがロジカルに分析してみても、今後どのようなサービスが市場でヒットするかを読むのは容易でないそうだ。
起業家側から見たVC
では、投資を受ける起業家側からはVCはどのように写っているのであろうか?
サンフランシスコ・シリコンバレーで起業家と呼ばれる立場の友人と話しをしてみると、VCに対しての印象はかなり賛否両論である。
まず、それぞれのVCファームで個性があり、起業家との関わり方が異なる。
起業家と密接にやりとりをし、育てようというポリシーの所もあれば、お金以上は干渉せずに、自由に展開してもらいたいと考えているVCもある。
そして、それぞれの担当者ごとにも、そのやり方に個性がある。
なるべく多くのスタートアップと接しその中からダイアモンドの原石を見つけたいと思っているケースもあれば、信用しているネットワークからの紹介が無いと絶対に会えないVCもいる。
そして、起業家に対してはっきりとYes, Noを伝える人もいるが、実は多くの場合、曖昧な態度で投資するかどうかの答えを先延ばしにする事が多い。
これは、めまぐるしく変化する市場環境で、今はとりあえず”保留”にしておく事で関係性を保ち、いざ投資したい、と思う時にまた連絡したいからである。
しかし、このような態度が起業家から見ると、”思わせぶりな態度でスタートアップを散々振り回したあげく、結局投資しない優柔不断な奴ら“と見られる事もあり、必ずしも評判が良く無い。
加えて、契約書にサインする直前で判断を覆すケースもあり、不誠実と思われる場合もある。
また、自身で会社を立ち上げた経験の無いVCも多く、最前線で戦っている起業家からすると、”起業した事も無い評論家につべこべ言われたく無い”という気持ちが本音であろう。
特にエンジニアやデザイナーなど、技術系の人が中心にプロダクト作りをしているテクノロジー系スタートアップから見ると、スーツで決め込んだ、敏腕ビジネスマン気質のVCは自分達とは価値観の合わない別世界の人々と思われても仕方が無い。
自分自身を”キング・オブ・オタク”と豪語する、500 StartupsのDaveも、
“シリコンバレーのスタートアップへの投資をするのに、スーツを着るのはもっともバカな考えだ。Tシャツにパーカーを来て、純粋に自分たちの夢を追い求めている若者達に、スーツを来た奴らが上から目線でとやかく言っても良い関係が築ける分けない。VCはアホな奴らばかりだ“
と荒ぶっている。
日本のVC vs アメリカのVC
最近では、シリコンバレーのスタートアップ/VCの動向に習い、日本でもVCファームや、企業としての投資部署であるCVC (コーポレート・ベンチャー・キャピタル) の動きが活発である。
国内外の企業に対しての投資を通じて、経済的リターンや、事業としてのシナジー創出が大きな目的となっている。
btraxでも、日本企業とサンフランシスコ・シリコンバレーエリアのスタートアップとのコラボレーションプロジェクトや、投資やM&Aを念頭に置いたスタートアップの調査等をサービスとして提供している。
アメリカのスタートアップへの投資を希望する日本企業が増えている中で、現地の優良スタートアップは投資を受ける側から、ネットワークやリソース、アドバイスや技術等、お金以上の価値を投資側から求める。
資金調達の際に彼らは、できるだけ現金上の付加価値のある、”スマートマネー”を獲得する事を目指している。
また、こちらのスタートアップは投資を受けた後も、事業に対してのあまりにも細かな干渉や、頻度の高過ぎる報告義務を嫌う傾向がある。
そういった点で、日本のCVCがシリコンバレーに来てもなかなか投資を達成出来ない理由の一つに起業家との距離感や、やり取りのスタイルに慣れていない事が一つの原因である。
お金だけを出すだけの、管理の細かな上から目線の金融屋スタイルだと、どうしても敬遠されがちである。
これからのVCがスタートアップ投資を行う際には、起業家とイコールな感覚で、共に悩み、苦しみ、成長して行く覚悟が必要になってくるだろう。そして、投資・資金調達はあくまでスタートであり、ゴールではない事を理解する事も重要である。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
CES 2025の革新を振り返りませんか?
私たちは1月11日(土)、btrax SFオフィスで「CES 2025 報告会: After CES Party」を開催します!当日は、デザインリーダーたちがCES 2025での注目トピックスや最新トレンドを共有します。ネットワーキングや意見交換の場としても最適です!