デザイン会社 btrax > Freshtrax > 実践デザイン思考!量より質を極...
実践デザイン思考!量より質を極めるユーザーリサーチ基本のキ
- そもそもユーザーリサーチって何?:ユーザーの特性や物事を達成する際のモチベーションや言動・行動を学ぶために行う調査
- なぜ「質的」ユーザーリサーチが重要なのか:価値ある潜在的なニーズを見つけ出すため
- デザイン思考的ユーザーリサーチを成功させるための手段とは:1on1 インタビュー、フォーカスグループインタビュー、フィールドリサーチ、エスノグラフィー
『デザイン思考』『UX』。まるで全てを解決するための魔法であるかのように唱えられるようになった。
「デザイン思考を取り入れよ!」と指令する上層部。それに応えようと奔走する実行部隊。近年、日本企業でよく目撃するようになった構図だ。
心当たりのある読者の皆さんであれば、デザイン思考のコンセプトやプロセスについては理解済みなのではないだろうか。
しかし、いざ実践となっても各ステップの本質が上層部に浸透していなかったりして、アウトプットの価値がなかなか伝わらなかったりする。
ユーザーリサーチを制するものがデザイン思考を制する
そこでまずは、デザイン思考のファーストステップであり超重要な『ユーザーリサーチ』を深く理解することがとても大切だ。おさらいすると、デザイン思考の第1歩は「ユーザーに対する共感と深い理解」から始まる。
つまり、最初の具体的なアクションとなるのが、質的調査に重点を置いたユーザーリサーチの実践である。
そこで今回は質的なユーザーリサーチとは何か、また、デザイン思考の実践においてなぜそれが重要なのか、を解説する。
これらについて深い理解と自信を持って説明できるようになれば、上層部とも折り合いをつけて、デザイン思考を着々と実践していくための重要な1歩を踏み出すことができる。
筆者はこれまで、サンフランシスコの現地デザイナーたちとも日々情報交換をしながら、自動車メーカーや保険メーカー、ソーシャルメディア等の業界と、新たな体験デザインのためのユーザーリサーチを実践してきた。
この記事では、そんな筆者がデザイン思考実践における第1アクションである「ユーザーリサーチ」、特に「質的な」ユーザーリサーチの「WHAT(何なのか)」「WHY(なぜやるのか)」「HOW(どのようにやるのか)」について解説していく。
WHAT:そもそもユーザーリサーチって?
ユーザーの特性(Character)や物事を達成する際のモチベーション(Aim)や言動・行動(Behavior)を学ぶために行う調査のこと。
(出展 Interaction Design Foundation)
上記のように、ユーザーリサーチとは、その名の通りユーザーについて深く理解するために行う調査のことだ。
具体的な調査方法としては、ユーザーに対するインタビューやユーザー観察(フィールドワークやエスノグラフィ)、アンケート、ユーザーテスティングなどがあるる。
生成的調査 VS 評価的調査
ちなみにユーザーリサーチについて語るとき、そのフェーズによって「Generative Studies(生成的調査)」と「Evaluative Studies(評価的調査)」と分けて呼ばれることがある。
「Generative Studies」では、インタビューや観察等の手法でユーザーの価値観や課題を探り、ビジネス機会を見出すことを目的とする。
一方、「Evaluative Studies」では、プロトタイプとテストを通して、仮説としてたてた課題はそもそも存在しているのか。また、考えたソリューションは機能するのかを検証していく。
デザイン思考を軸としたビジネス作りでは、このような2種類のリサーチプロセスを通して、より価値のあるサービス・プロダクト開発を行っていく。
今回の記事は、デザイン思考実践の第一歩をテーマにしているので、ユーザーの価値観や課題を探りビジネス機会を見い出そうとする「Generative Studies」について解説していく。
質的調査 VS 量的調査
さらに、このようなリサーチを行うとき「質的調査」と「量的調査」が存在する。質的調査は、人の行動や感情など数字では表せられない情報を対象にしたリサーチだ。
インタビューやエスノグラフィーといった深い調査であるといった性質上、リサーチの対象になる人数は限られてくる。
一方、情報を数字で表せるように扱うのが量的調査である。こちらはサーベイなどを用いて、より多くの人を調査の対象にできる。
新たな機会の発掘を目的にする「Generative Studies」では、質的・量的調査のうち、特に質的調査に価値の重み付けがされていることを押さえておきたい。
WHY:なぜ「質的」ユーザーリサーチが大事なのか?
質的調査の価値は理解されづらい
ビジネスの場面では、どれだけ大きな結果が生み出されるのかを数字として論理的に導かれていることが求められることも多い。
上記でも述べたように、インタビュー等を行う質的調査では、アンケートなどを使った量的調査に比べ、調査対象になる人数が限られてくる。
そのため、これまで統計的な結果をもとにビジネスの意思決定を行ってきた人たちにとって、質的調査の結果をビジネス機会に直接結びつけることが受け入れ難いことも多々あるようだ。
「質的調査の結果をもって見つけたビジネス機会の価値を上層部に説得するのに手こずっている」と漏らす声は、実はサンフランシスコのUXミートアップですら聞くことがある。
しかし、ここは自信を持って言い切りたい。デザイン思考のアプローチで何か新たなサービス・プロダクトを作るとき、より比重をかけて行いたいのは「質的調査」である。
改めて…デザイン思考は人の感情に関わる深いニーズを探る
繰り返しになるが、デザイン思考では、ユーザーへの深い共感を通し、ユーザー自身も気づいていないような潜在的な課題を定義する。
そして、プロトタイプとテストを繰り返しながら、その課題にアプローチするソリューションを生み出す。そのようなマインドセット(考え方・姿勢)のことを指す。
またデザイン思考では「人間の感情に関わるような深いニーズ」に注目する。「XXが欲しい」「XXに困っている」というような既にユーザーに認知された機能的なニーズに比べ、人間の感情に関わるニーズ、しかもユーザー自身も気づいていなかったような潜在的なものにアプローチすると、
それだけ大きな感動をユーザーに届けられる。ここに注目するのがデザイン思考の考え方だ。
慣れていないと少し難しいが、デザイン思考の考え方では、インタビューしたユーザーを「XXXというコンテキストに置かれたOOOな考え方を持つ人」の代表として扱い、そこから得たインサイト*を基に似たようなコンテキストに置かれた人々の抱えているニーズをあぶり出そうとする。
単に「年齢や性別、居住地」といった表面的なデモグラフィック情報でユーザーを括るのではアプローチできない。しかし、実は多くの人が抱えている深いレイヤーのニーズだ。(*「インサイト」とは、あるユーザー行動を喚起するようなそのユーザーに関する事実についての発見のことを指す。)
価値ある「潜在的なニーズ」を見つけ出すために
そして、その「ユーザー自身も気づいていないような潜在的なニーズ」を見つけるには、ユーザーに深く共感し、ユーザー以上に我々側がユーザーを理解する必要がある。
そのためには、ユーザーの価値観や彼らが置かれた環境、状況といったコンテキストをしっかりと理解することが必要不可欠なのである。「いつ」「どのようなときに」「どんな感情で」「なぜ」、その行動をとったのか、これらを知らずして、ユーザーが本当に必要としていることを推測することは不可能だ。
インタビューや観察といった「質的」なユーザーリサーチでは、より多くの角度からユーザーを理解しようとすることが可能である。
しかし、アンケートのような「量的」調査で得られる情報は、選択式の質問に対する回答が主になってしまうため、そのようなコンテキストがわかりかねる。
つまり、共感にまでたどり着くような深いユーザー理解が困難だ。これが、デザイン思考のアプローチにおいて、質的調査を重要視したい理由である。
以下の図は、質的・量的調査の性質をそれを端的にわかりやすく示している。
量的調査では100人を対象にして10の実証をできるのに対し、質的調査では10人を対象にして100の新たな真実を学ぶことができるので、その分価値あるインサイトを期待できる
デザイン思考のアプローチでは、できるだけたくさんのユーザーインサイトを得て、ユーザーに関して深くて鋭い発見をしようとする。
そして、その発見が「ユーザーも気づいていないような潜在的なニーズ」の発掘に繋がるというわけだ。
質的調査と量的調査の使い分け
ただし、ここで気をつけたいのは、これが質的/量的、どちらが調査方法として優っているという話ではないということだ。使いどころが違うということである。
物事の実証が得意な「量的」調査では、質的調査で見つけたビジネス機会をチーム外のメンバーやマネジメントチームを説得する際の補強材料等に使ったり、その後のリスク回避やビジネスアイデアの検証に活用したりするのが効果的だ。
また、アンケートといった量的調査を行うことで、質的調査を始める前に、全体のユーザーの傾向を把握したり、インタビュー対象者を選出したりすることができるようになる。
HOW:デザイン思考的ユーザーリサーチを成功させるための手段
ユーザーリサーチの基本スキル:まずは好奇心を全開にし、オープンマインドになること
デザイン思考的ユーザーリサーチを成功させる上で最も重要なのは、その姿勢である。
英語では「Be Curious and Open-minded!」などと言ったりするが、自分ではなく、ユーザーに共感し、彼らを彼ら以上に理解するためには、これ以上ない好奇心とオープンマインドを持ち合わせる必要がある。
ここで言う好奇心とは、本気でユーザーに興味を持つということだ。ユーザーの言動や行動ひとつひとつに疑問を持ち、「なぜだろう」「本当にそうかな」と探偵のように突き詰めようとする態度こそが、より深いレベルでのユーザー理解の燃料になる。
オープンマインドとは、自分の中にある固定概念をできる限り取り外し、これまでに知らなかった考え方や事実についても柔軟に受け入れる姿勢のこと。
人間はついつい自分の常識が世界の常識と同じだと勘違いしてしまい、「なぜ?」と問う好奇心が鈍ったり、自分の物差しで情報を遮断してしまったりする。
そうすると、目の前に存在したはずの新たな真実を発掘せずに見逃してしまうのだ。オープンマインドを持つことは、そういったリスクを防ぎ、ユーザーについて多くの真実を見つける上での重要な鍵になる。
さらに、何もジャッジしないオープンマインドな態度は、他人に安心感を与え「話しやすい」と思ってもらえることが多くなる。
つまり、初めて出会うようなユーザーとの対話において、彼らから本音や感情を素直に見せてもらえる可能性がぐんと上がる。これは、より深くユーザーを理解する上で是非とも引き出したい部分だ。
ユーザーリサーチのスキルが「好奇心とオープンマインド」と言われると「なんだ、そんなことか」と思うかもしれない。しかし実は、その姿勢を実践することが1番難しい。多くの方、特にデザイン思考の実行を任命されるような人は、「自分はできている」と勘違いしていることの方が多い。
まずはその難しさを自覚することが第1歩だ。本当の意味で「好奇心とオープンマインド」を持ち合わせることこそがリサーチの良し悪しを決める最大の肝となる。どんな細かいリサーチスキルを身に付けることよりも先に、このことの重要性を頭に刻み込みたい。
ユーザーリサーチの基本手法
ここからは質的なユーザーリサーチで採用される基本的な手法を紹介したい。ユーザーリサーチの具体的な手法は様々存在するが、今回は最も基本になる4つの手法の概要を紹介する。
1on1 インタビュー
形式:質問者と回答者の1対1で行うインタビュー。回答者自身のことやリサーチトピックに関する回答者の意見、習慣、実体験などを聞き出していく。回答者(ユーザー)がどんな価値観(考え方)を持っているのかを理解することに注力する。
利点:1対1の対話なので、他の人を気にすることなくパーソナルな情報を集めやすい。また1つの質問やトピックに関して深掘りしやすい。
注意点:1対1であるからこそ、回答者との間に信頼関係を築かないと緊張感から感情や本音を引き出しづらくなる。
フォーカスグループインタビュー
形式:4-6名のグループとモデレーターの座談会形式。リサーチトピックに関して、参加者らに意見や体験等をそれぞれ話してもらったり、議論してもらったりする。
利点:何かしらの共通属性を持つ人を集めたグループに対して行う場合、そのコミュニティの持つ共通の価値観や経験などをあぶり出しやすい。また他人の言葉に対する感情的な反応からその人の人となりを推測する助けになる。
注意点:グループとして活発に発言が出るように促す必要がある(開始前のアイスブレークの実施が効果的)。
1on1に対してひとりひとりの回答に対する深掘りにかける時間が少ない。周りのメンバーに合わせたり流されたりして、1対1の場合に対して、本音を話してくれない可能性が高まる。
フィールドワークリサーチ
形式:ユーザーの生活範囲に直接足を運び、ユーザーの生活環境を観察・体験し、理解を深め、ユーザーへの共感を高める。
利点:ユーザーからの発言やそのほかの情報に関する背景をより良く知ることができるため、ユーザーに共感するための視点が増やせる。自身があまり知らないフィールドのことであれば、特に行いたい。
注意点:時間や日にち等、様々な条件によって環境は変化する。そのため、自分の目にしたもの、体験したことが、必ずしもユーザーのそれと同質であるわけではないことを意識することが大事。
エスノグラフィー
形式:もともとアカデミックな領域において使われることが多かった手法。本来は、調査対象者と同じコミュニティに一定期間生活をすることで、調査対象を理解するというリサーチアプローチだ。
しかし、ビジネスの場面におけるリサーチでは、そこまでは行わないことがほとんど。
実際のところは、ユーザーの自宅や職場などを1時間程度訪れ、普段の生活の様子を見せてもらうなどして、ユーザー理解を深めることが多い。
フィールドワークでは幅広く全体像をつかもうとするのに対し、エスノグラフィーでは特定のユーザーやグループに着目してより深いインサイトを得ようとする
利点:生活環境にはその人の価値観やライフスタイルが色濃く反映されるため、ユーザー行動の「なぜ」を紐解く鍵がたくさん得られる。
実際の行動を見せてもらうことができるので、発言との矛盾や発言に対する裏付けを得ることが可能。発言と行動の矛盾にはそれだけ強い潜在課題が隠れているということなので、見つけられたら、深く分析したい。
注意点:ユーザーは調査対象とされていることを知っているので、普段通りの状況とは異なる可能性があることを意識することが大事。
まとめ
本記事ではユーザーリサーチのWhat、Why、Howについて語ったが、結局のところ、デザイン思考のスタートは「ユーザー自身も気づかないほどの深い潜在課題」を探ること。そのための手段が、ユーザーの行動に対する「なぜ?」を深掘る「質的ユーザーリサーチ」である。
他人のことを本当に理解することは容易いことではないが、だからこそ、できるだけ本来の姿に近いユーザーの情報やインサイトを集め、共感しようとすることが必要なのである。
冒頭でも述べたように「質的ユーザーリサーチ」を深く理解し自信を持って、そのWhat、Why、Howを語れることは、社内でデザイン思考を着実に実践して成功に導く上での第1歩になる。
そして、好奇心をたっぷり持って、オープンマインドに、ユーザーを観察したり、対話したりすることで、価値あるユーザーインサイトを導き出してほしい。
今回の記事では、そのためのユーザーリサーチの考え方についてを中心に説明したが、この後の分析や実際のプロジェクトの形への落とし込み方も大切になってくる。
btraxでは、価値のある体験デザインのために、クライアントをユーザーリサーチからサポートしている。
スタッフは皆インターナショナルな経験が豊富なため、国境を超えたユーザーリサーチも得意。単なる言語の翻訳だけでなく、文化的背景を理解したユーザーリサーチが可能だ。
また、デザイン思考の考え方から、実践を通して学べるブートキャンプ型ワークショップ「Innovation Booster」も提供している。デザイン思考を実践に移そうと奮闘するみなさん、お気軽にお問い合わせを。
CES 2025の革新を振り返りませんか?
1月11日(土)、btrax SFオフィスで「CES 2025 報告会: After CES Party」を開催します!当日は、CEOのBrandonとゲストスピーカーが CES 2025 で見つけた注目トピックスや最新トレンドを共有します。ネットワーキングや意見交換の場としても最適です!