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勘違いから見えたデザイン思考の本質とは?—ファシリテーターの経験を通して気づいたこと
デザイン思考ワークショップのファシリテーターとして活動し始めて約1年。
これまでに、デザイン思考の初心者であるワークショップ参加者の方々から「デザイン思考って失敗を恐れずトライアンドエラーを繰り返すプロセスのことですよね?」とか「この業界ではどのようにデザイン思考を使うべきですか?」と質問されることが度々あった。
実際にこのような質問を受けると、「ワークショップでうまく伝えられていなかったんだな」と反省させられる。失敗を恐れずトライするプロセスがデザイン思考でしょ?は半分正解だし、半分不正解だ。また、デザイン思考を使えばどんなときも何か秀逸なサービスが生まれるなんていうのは他力本願な勘違いである。
デザイン思考はあくまでユーザーを中心にした問題解決のための思考法であり、「使うもの(Tool)」というより「身につけるもの (Mindset/Skill)」であると私は考える。
デザイン思考を用いて問題解決を図った結果、イノベーションが起こることは多分にあり得る。しかしそれは、実践を積んでデザイン思考を自分のものにした場合にのみ起こることだ。
大学・大学院を通して、国際社会学を専攻し、非営利分野でのキャリアを考え続けていた私は「デザイン思考は新しい問題解決の方法」とだけ聞き、世界中の問題をイノベーティブに解決しまくることを夢見て、デザイン思考に重きを置くイノベーションデザイン会社btraxでのインターンに参加した。
そんなビジネスもサービスデザインも何にも知らない新卒学生だった私が、インターン、アシスタントの道のりを経て、ファシリテーターになるまでに学び得たデザイン思考の本質をこの場を借りて共有したい。
デザイン思考をおさらい
デザイン思考とは、デザインのプロセスを通して、クリエイティブな問題解決を図る方法だ。具体的には、ユーザーへの共感をもとに問題を設定する、、失敗を恐れずにアイデアをテストして改善を繰り返す、といったデザイナーが用いる手法をそのプロセスとして組み込んでいる。
過去のデータや時には感覚を頼りに意思決定を行ってきた従来的な問題解決のアプローチに対し、デザイン思考は、ユーザーに共感することを通して、彼らが将来的に何を欲しいと思うのか本人たちも気づいていないような潜在的なニーズを探り、それをベースにビジネスの意思決定をサポートする。
そもそもデザイン思考という言葉が有名になったのは、カリフォルニアに本社を構えるデザインスタジオIDEO社の創業者ティム・ブラウン氏が2005年にハーバードビジネスレビュー誌において、「デザイナーの手法と感性はビジネスに応用可能である」と提唱したのがきっかけだ。
※デザイン思考に関する定義は様々あるが、今回はIDEO社のウェブサイトを参考にした。
関連記事:デザイン思考入門 Part 1 – デザイン思考の4つの基本的な考え方
新人ファシリテーターが実践から学んだ「デザイン思考の本質」とは
1. ユーザー理解なくしては全く役に立たない
まず先に、デザイン思考はあくまで「人を中心にした問題解決ありきのイノベーションのためのもの」であることをもう一度念押ししておきたい。「人を中心とした」「問題解決ありき」だ。
何を言いたいかというと、「人を中心にした」というのが前提にあるため、ハッピーにしたい対象もわからずにデザイン思考は使えない。
さらに、「問題解決ありき」なので、解決したい問題が特にないという場面でのイノベーション創出には向いていない。
「〇〇業界でいいサービスを作りたいので、デザイン思考を教えて欲しい」「××の技術でイノベーティブなことをしたいんです」といった相談はクライアントから度々よせられるが、その度に私は、デザイン思考が少し誤解されているように感じる。
誰を助けたいのか、どんな問題を解決したいのか見当がついていない漠然とした状態で、デザイン思考を使うことは基本的に出来ないからだ。
もちろん、それらの見当がついていないからといって、デザイン思考がビジネスアイデアの創出に全く役立たないというわけではない。忘れてはならないのは、デザイン思考をそのような場合に使うには「誰を救いたいか」を定める必要があるということである。
例えば、〇〇業界での新規サービス作りにデザイン思考を応用したいなら、まずは「ユーザーはどんな人かな?」「その業界ではどんな問題が存在しているんだろう?」と思考を巡らせてみたい。××の技術を使ったイノベーションなら、「××の技術はどんな問題を解決しうるだろう?」「その問題を抱えている人ってどんな人だろう?」といった具合になるだろう。
当たり前のように感じるかもしれないが、助けたい対象のことを深く知って共感すればするほど、デザイン思考は威力を発揮する。そのため、インタビューを通じて得られる一次情報は、デザイン思考における最高の武器だ。
btraxのワークショップ内で、サービスアイデアに対してユーザーインタビューを行う前の参加者の様子を見ていると、ユーザーの抱える問題は何か、どこを改善すべきかといった議論がチーム内で白熱し、気づけば問題は机上の空論化、議論が迷宮入り…となってしまうことがよくある。
しかし、彼らが「これだ!!!」と本質的な問題を見つける瞬間は、決まってユーザーとの対話の後である。
なぜなら、ユーザーとの直接対話は、ユーザーのリアルな仕草や声のトーン、身なり等たくさんの一次情報の宝庫だからである。それらは、ユーザーに対する共感をより深いレベルで促し、彼らの潜在的な問題を見つけやすくする。
失敗や間違いを極端に恐れがちな日本社会に慣れている参加者らは、完璧な準備を目指してしまい、まだ議論が道半ばだから…とユーザーに会いにいくことを躊躇しがちになってしまうようだ。しかし、ユーザーを理解しなければ、本当の問題を見つけて解決してあげられないのだ。
どんどんユーザーにぶつかって、様々な視点から彼らについて発見していくことがデザイン思考的イノベーションへの近道だと私は考える。
2. 今解決されるべき問題を真摯に追求すること
デザイン思考の鍵は問題を定義するDefineのプロセスであると私は強く感じている。
つまり、いま見えている問題をいかにリフレーミングするかという点に、問題解決の方法がいかにクリエイティブかつイノベーティブになるかがかかっているのだ。
ここで私自身が落ちた穴についてご紹介したい。新人研修の一環としてまず私に与えられた課題は、「パレスチナの8歳の女の子をユーザーとしたサービスを考える」というデザイン思考ワークショップを受けること。
「結果、私は撃沈した。デザイン思考のフレームワークを使っているのに、出てくるアイデアはありきたりだし、なんの問題も解決するように思えなかった。さらに言えば、そんなの本当に女の子が喜んで使うの?というサービスしか思いつかなかった。
何が問題だったのか?当時すぐに思いついたのは、「ユーザーを知らなすぎたこと」。エンパシーマップに書き込んだことは、メディア等を通して報じられる中東から「推測」した情報のみ。「そんなことで彼らに共感することは全く不可能だったんだ、こんなことで彼らの潜在的ニーズを掴むなんてできるわけがない。」そう思った。
しかし、1年以上経って振り返ると、問題は「エンパシーマップを描けば、いいアイデアが湧いてくるはずという甘え」とそれによる「目の付け所の違い」にあったと分析する。
というのも、実は、このエンパシーマップを描いた時、少なからず自分が持つ現地情報をもとに女の子に共感することによって、彼女の潜在的なニーズが浮かび上がりつつあった。例えば、命に関わりうる安全性の欠如により、子どもらしい外の世界に対する好奇心を抑圧しなくてはいけないという閉塞感を取り除くことだ。
しかし、私はそれを無視していた。原因は、当時先行して考えていた「パレスチナとイスラエルの子どもたちが仲良くなるようなサービスを作りたい!」というアイデアに引っ張られ過ぎていたことにあった。
女の子が抱えるニーズを様々な角度から分析し、ニーズを満たす可能性を探索しようとするよりも、いかに先行していたアイデアを形にしていくかということにばかり執着していたのである。
実はこのタイプの落とし穴に引っかかるケースは、btraxのワークショップ参加者のなかにも多い。特に先に問題解決策としてのサービスを具体的に考案されていた場合に、それに引っ張られすぎて、どんなに共感してもユーザーの抱える本質的な問題に目を向けられなくなってしまうのである。
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デザイン思考では、自分の先入観を排除し、できるだけフラットに素直な気持ちでユーザーに向き合い、何が本当に解決されるべき問題なのか真摯に定義していくことが重要になってくる。先で述べたように、どんどんユーザーにぶつかることは大事なのだが、ただプロセスに乗っかるだけでは本質を捉えていない。
そういう意味で、「失敗を恐れずトライするプロセスがデザイン思考でしょ?」は半分正解で半分不正解なのである。
デザイン思考初心者なら「本」で理解しようとしてはいけない
ユーザーが誰なのかはっきりさせて彼らをより深く理解すること、そして何が彼らの本質的な問題なのかできるだけフラットな目線に立って追求すること。この2点が私が1年かけて学び得たデザイン思考の本質だ。
幸いなことに私はファシリテーターになるまで、インターンとして、アシスタントとして、デザイン思考の発祥の地サンフランシスコにあるbtraxで働きながら、たくさんのプロジェクトにおいてデザイン思考のアプローチを実践し、頭を悩ませまくる機会に恵まれた。
また、サンフランシスコ市内で行われる関連イベントやミートアップに参加したり、スタートアップ界隈で働く友人とたくさん関わったりして、理解を深めることが出来たのも大きかったと思う。
どんな本を読んでデザイン思考を学んだのか?とはよく聞かれるが、実質、私が最初から最後まで全部読んだ本は、IDEO社のトム・ケリー氏 著作である「Creative Confidence」のみであり、私はデザイン思考をほぼ実践を通じて学んだと言える。
実際のところ、まだ初心者だった時に関連本を読んでもあまりピンとこなかったのを覚えている。それよりも、実践を何度か通して、改めてその本を読んでみたときに、そこで説明されていることを初めて理解したように感じた。
最後に:デザイン思考とスポーツは似ている
そして、今もデザイン思考に関してはプロジェクトごとに学ぶことばかりだ。
例えば、インタビューではどのように質問をするとより深いインサイトが得られるか、問題定義のときの目の付け所などを少しずつ体得しているように感じている。これらは、必ずしも本で説明されることではないし、デザイン思考のベストな使い方は個人によって異なるように思う。
本を読んでも無駄!とは言わないが、たくさんの本を読破してデザイン思考を理解しようとすると、理論でがんじがらめになって混乱を招いてしまう可能性がある。
スポーツにおいても、トレーニングでコツをつかみながらベストな体の動かし方を覚えていくように、デザイン思考も身近にある実在する問題で繰り返しトライしながら学んでいくのがオススメだ。
デザイン思考を通じたイノベーティブな視点と問題解決スキルを磨くため、私も日々レベルアップに励んでいきたい。
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