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なぜアメリカの優秀な若者は大企業で働かないのか
「大企業と中小企業、どちらで働く?」
日本の就職活動ではありがちなこの質問だが、アメリカの優秀な若者たちにとって、すでにこの答えは明白なようだ。
本稿では、働き方や仕事に関する考え方について、特に他世代と明らかに異なる趣向を持つ「ミレニアル世代」の特徴に触れながら、日米の学生の就職活動・仕事に関する価値観を比較することで、なぜアメリカの若者、特に「ミレニアル世代」が大企業で働きたがらないのか分析してみたいと思う。
日本人学生の根強い大企業志向
日本で新卒に人気のある上位の企業は誰もが知る、いわゆる「大企業」がほとんど全てを占めており、前年度にもランクインしているような「安定」した企業がほとんどである。
このランキングに表れているように、日本では「安定さ・高給料・好待遇」を求めて大企業に就職したいと望む学生が過半数を占めており、人によっては大企業に採用される・働くことが、人生における勝ち組として捉えられることさえある。
日本ではある意味大企業で働く事がステータスになっている様だ。
大企業に入れば、ベンチャーに比べて倒産のリスクが少ない傾向にあり、そのブランド力から安定感を味わうことができる。また、1度就職したら定年まで働きたいと考える傾向にある日本人にとっては、福利厚生が必要最低限な中小企業よりも、ユニークで平均収入が高い傾向にある大企業に魅力を感じるのもうなずける。
新卒に人気の就職先はどこも大企業ばかり
「アメリカでは優秀な人ほどスタートアップで働き、起業する」
ではアメリカでの状況はどうなのか?真逆である。大手経営コンサルティング会社アクセンチュアの調査によると、2015年に卒業したアメリカの学生で大企業にて働きたいと答えたのはたった15%にしか満たない。
一番人気は中小企業の35%で、政府機関で働きたいと答えたのもたった10%であった。
また、Glassdoor社が行う従業員自身が投票する「Best place to work(最高の職場)」ランキングにおいて、1位のAirbnbをはじめとして、上位に入った企業の約半数が、ミレニアル世代と同じく、2000年以降にできたスタートアップ企業であった。
この事からも、アメリカではスタートアップ企業の台頭が著しく進んでおり、アメリカの若者にとってもスタートアップへの就職が決して珍しい選択肢ではない事がわかる。
アメリカでの就職人気No1は2008年創業/未上場のスタートアップ企業
この事からも、アメリカではベンチャー企業の台頭が著しく進んでおり、アメリカの若者にとってもベンチャーへの就職が決して珍しい選択肢ではない事がわかる。
ちなみにこのランキング、以前にはGoogleやFacebookも1位輝いていたが、すでにそれらの企業も若者にとってはイケてない大企業になってしまったのか、今回のランキングでは、それぞれ8位と5位にランクダウンしている。
株式会社ドリームインキュベータの代表取締役会長である堀氏によると、ハーバード大学のビジネススクールで最も優秀な学生はスタートアップ企業を選び、次に優秀な学生は大企業に就職、そして最後が役員になる風潮にあるという。これは、日本の学生の傾向とは完全に真逆の傾向であると言える。
アメリカでは優秀な人程起業するケースが多いので、スタートアップで働くという事はその準備にももってこいなのである。
手厚すぎる待遇!大企業の必死な労働力集め
多くの若者がスタートアップで働く事を希望するため、米国の大企業は、低い失業率と技術者の不足が原因となり人材不足に頭を抱えている。
近年、大企業は技術者をより取り込み、長く会社に所属してもらうために、一斉に信じ難いほどの好待遇を従業員に打ち出したのである。一つの例として最近は従業員の健康向上に関連させた「睡眠ブーム」が起こっている。
例えば、健康グッズ関連のAetnaのCEOマーク・ベルトローニは、従業員が連続して7時間あるいはそれ以上の睡眠が20日間証明できる人には、1日につき25ドル、1年で500ドルまで支給をするとCNBCのインタビューで答えた。
また、このように現金を支給する以外にも、Google, Zappos, Ben & Jerry’sなどの企業は、オフィスに「昼寝部屋」を設置している。
確かに、「昼寝部屋」を設置する企業は日本にも増えており、眠気を解消して作業能率を上げることが期待できる。しかし、大企業が従業員に提供するものはこれだけではない。
LinkedInは無期限の休暇を取ることを可能にし、Etsyは男女両方に対して育児有給休暇を提供し、Spotifyは冷凍受精卵の保管とアシスタントの提供をする。
他にもPwCは学生ローンへ助成金を払い、Twilioは本を購入するためのお金と無料版Kindleを提供、Twitterは鍼治療を提供、Asanaは無料ライフコーチ付き、そしてZillowは母乳を与える必要のある母親の夜間配送コストを支払うというのだ。
自分勝手? 米国のミレニアル世代とは
「ミレニアル世代」は、特に米国で1980年から2000年代初頭に生まれた若者たちを呼ぶ。単語自体は「千年紀の」を意味し、それ以前の世代とは異なる特性を持つ世代として注目されている。
世代の特徴として「怠け者世代」「自分勝手」「恵まれすぎている」と言われ、ネガティブな表現が先行することが多い。また、同時に彼らはYOLO (You Only Live Once – 一度っきりの人生)をモットーとしており、安定よりも冒険を望む傾向にある。
ミレニアル世代と管理職:仕事に求める価値観のギャップ
また、特に「仕事をする上で大切にしたいこと」という観点においてその上司にあたる世代との考え方のずれが顕著であることが知られている。
メアリーミーカー氏が1995年から発表している「インターネットトレンドレポート2015」によると、ミレニアル世代が最も仕事上重要なものと答えたのは「有意義な仕事」(30%)と「達成感」(24%)であり、管理職の世代の回答と大きく差をつけた。
「大きな責任を任せられること」が大切だと答えたのは管理職の12%に対し、ミレニアル世代はわずか3%であった。また、ミレニアル世代である2013年〜2015年度の大学院卒業者対象に行ったアクセンチュアの調査によると、たとえ給料が低くなるとしても「社会的で前向きな社風」のある会社に働きたいと答える人が60%と半数を超えた。
また、2013−2014年度の卒業者の半数が、今従事している仕事は、自分の能力以下であるか、大学で学んだ知識をあまり必要としない仕事であると考えている。興味深いのは、2013−2015年のたった3年以内の差の中でも働き方の傾向が異なることだ。
2015年度卒業者は2013年・2014年度卒業者と比べて、専攻を選ぶ前にその分野の仕事の将来性を最も深く考えており、加えて2013年・2014年度卒業者の43%が、自分の望む分野の仕事でなくても良いという回答が半数をのぼる回答に対し、2015年度卒業者のうちの3分の2は、自分が学んだ専攻に関連する仕事に就きたいと望んでいる。
急速に高まるミレニアル世代の存在感
アメリカではこの15年で労働人口の割合に大きな変化が見られた。2000年に最大の労働人口を占めていたのは1946年〜1959年生まれにあたるベビーブーマー世代であった。
しかし、2015年にはベビーブーマーや、ベビーブーマーとミレニアル世代の間の世代であるジェネレーションXを抜いて、ミレニアル世代が労働統計局によると35%と、最も労働人口の中で大きな割合を占める世代となった。
そして、移民流入なども影響し、ミレニアル世代は2025年には世界の労働者の75%に達すると言われている。また、幼い頃からインターネットやソーシャルメディアに慣れ親しんできた最初のデジタル世代である。
これらのことから、ミレニアル世代が消費者としても労働力としても、会社や社会に与える影響が非常に大きくなってきていることがわかる。
大企業で働く人・中小企業で働く人
このように申し分のない役得を与える大企業に対して、ミレニアル世代の若者の大半はなぜ大企業に魅力を感じないのだろうかと、不思議に感じるかもしれない。確かに、大企業に入るには非常に厳しい関門を突破しなければいけないし、その厳しい倍率自体が尻込みさせる部分的要因かもしれない。
異なるワークスタイル: 大企業 | スタートアップ | ミレニアル
大企業 | 中小企業/スタートアップ | ミレニアル | |
働き方 | 固定・自由度低い | 柔軟・自由度高い | 有意義な仕事をしたい |
チームにおける存在 | 自分の代わりがいつもいる状態、自分の貢献度が認識しにくい | 自らの存在が必要不可欠、自分の貢献が目に見える | 自分の貢献が分かる方が良い |
利益分配 | 株主・会社のため | 自分にも分配可能 | 達成感が欲しい |
報酬、その他の待遇 | 比較的高め。福利厚生も充実 | 比較的低め、福利厚生も充実していない | あまり気にしない。社会的で前向きな会社を希望 |
会社の成長性 | 低い | 高い | 業種の将来性を重要視 |
入社後のリスク | 低め | 高め | リスクを取ってチャレンジしたい |
自らの働き方への裁量度 | 低い | 高い | 高い方が良い |
重要なのはコントロールを与える事
マークスグループ代表取締役のジーン氏は、大企業と中小企業に働く従業員を比べると、大企業の従業員は「コントロール力」を失っていると語る。大企業で働くということは、自分の仕事はただの仕事でしかなく、会社全体を自分の手にすることはできない。
自分が責任を持っている仕事も、いつでも他の人に取ってかえられる。会社のために、株主を満足させるためだけにプロジェクトに取り組み、言われた通りに従えば、「昼寝部屋」を使え、夜間に母乳を届けてもらうのだ。
一方、中小企業は大企業が与えることのできないものを従業員に提供するとジーン氏は語る。それはコントロール力(裁量権)である。数十人単位の会社なら、自分の行いが会社全体に非常に大きなインパクトを起こすことができる。
自らの意思決定、チームへの貢献がどれだけ会社にとって重要なことか、そして自分がその会社を去る行為がいかに会社にとって破滅的なことか、一部署の働き手としてではなく、いちビジネスの必要不可欠な一部分として再確認することができるのだ。
日本でももっとスタートアップで働きたいと思う若者が増えるためには、一般的なに縛られない自由で柔軟に選べる考え方を社会に浸透させることが必要だ。アメリカの若者たちから型にはまらない進路選択を見習うことで、今後日本経済を支える若者たちにとって働きやすくイノベーションが生まれやすい社会となるのではないだろうか。
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