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開封体験のCXデザイン – ブランドに学ぶカスタマーと繋がる方法
人の第一印象は、最初の10秒以内で決まると言われているが、これはブランド体験においても同じである。
オフラインの世界に実店舗を持つブランドであれば、店舗空間全体を利用し、カスタマーが店に足を踏み入れた瞬間に彼らをブランドの世界観に浸らせることができる。
一方、店舗を持たないブランドにとって、オフラインにおけるカスタマーの最初のタッチポイントは、カスタマーサポートに問い合わせる時でも、プロダクトを初めて使う時でもない。それは、配達された箱を開ける瞬間だ。
「どうせ捨てられてしまうものに金など掛けられん!」と思うブランド担当者も多いかもしれない。そんな方にこそ、D2Cブランドの『開封体験作り』への力の入れようを見て欲しい。
店舗を持たない彼らにとって、カスタマーがパッケージを開ける瞬間こそが、カスタマーとの最初の「リアル」なタッチポイントであり、彼らは開封体験をブランドの価値や世界観を伝えるための重要なコミュニケーションの一つとして位置づけているからだ。
ブランドの第一印象を決めるパッケージ
ブランドの第一印象を決定する10秒のカウントダウンは、家に届いた商品を開ける瞬間からスタートする。
Dotcom Distributionが実施したEコマースのパッケージングに関する調査によると、しっかりとブランディングされたプレゼントようなプレミアム感のあるパッケージは、ブランドに対するロイヤリティーを上げ、さらにクチコミを促進するという。
同調査によると:
- 40%の消費者がプレミアムなパッケージングを提供する会社に対して高いロイヤリティーを抱くと回答。
- オンラインストアで注文した商品がプレゼントのように包装されていた場合、40%の消費者が「同じショップで再び購入するだろう」と答えている。この数字は、2015年の調査の29%から大きく伸びている。
- 40%の消費者が、「ブランディングされたパッケージ、もしくはプレゼントのように綺麗に包装されたパッケージは、ブランドに対するイメージに影響を与える」と答えている。
- 「プレゼントのように綺麗に包装されたパッケージは、ブランドに対するイメージに影響を与える」と答えた人のうち、2/3以上の人が「ブランドに対してラグジュアリーな印象を持つ」と答えたのに加え、60%の人が「商品を受取ったときに、期待感を抱く」と答えている。
- しっかりブランディングされ、さらにプレゼントの様に包装されたパッケージは、クチコミを促進する。「ブランディングされたパッケージ、もしくはプレゼントのように綺麗に包装されたパッケージは、ブランドに対するイメージにプラス影響を与える」と答えた消費者の50%以上が、「該当ブランドを友人におすすめする」と回答し、その割合は2015年に行った同調査結果の40%から大きく伸長している。
開封動画の流行
開封体験の重要性を押し上げたきっかけとして、英語圏における“Unboxing”と呼ばれる動画コンテンツの流行がある。Unboxing Video(開封動画)とは、購入したばかりの商品を文字通り開封、商品のレビューを行う動画コンテンツのジャンルのことである。
Youtubeを中心に、instagram、Snapchatなど各ソーシャルメディアチャネルで公開され、人気を博している。商品が届いた状態から、箱を開け、商品を取り出し、その場で使ってみて、その感想を述べるというのが、 一般的なUnboxing動画の流れだ。
Unboxing動画では、最新デバイスから、コスメ、ファッション、子供用の玩具、食べ物に至るまで、業種問わず多岐に渡る商品が開封されている。
また、インスタグラムで#unboxingと検索すると、人気の動画として、『Omega』や『Louis Vuitton』『GUCCI』など丁寧に包装された高級ブランドのギフトボックスを開封する動画がたくさん紹介されている。つまり、それだけ幅広いオーディエンスがいるということになる。
ブランドがUnboxing動画へ寄せる期待
Google トレンドによると、「Unboxing」というキーワードが使われ始めたのは、2006年で、その検索数は年々増加している。2015年の12月をピークに、最近はややダウントレンドでになりつつあるが、依然としてかなりの検索ボリュームがある。むしろ、コンテンツとして定番化した感がある。
Youtubeで”Unboxing”と検索すると、なんと7600万件、instagramでは、67万件のもの検索結果表示される。(2018年6月現在)
これだけ人気のあるUnboxing動画。今、多くのブランドがPRのチャンスと捉えている。シェアしたくなるような開封体験の提供は、かなりの母数の潜在カスタマーにリーチできる(しかも無料で)大きな可能性を秘めているのだ。
2014年10月に実施されたGoogleの消費者調査によると、回答者の5人に1人が開封動画を見たことがあると答えている。また、開封動画を見たことがある人の62%が、特定の商品について調べる際に開封動画を見ると答えている。
加えて、実店舗に代わるショッピング体験を提供する手段としても、ユーザーがソーシャルメディアに投稿するunboxing 動画にブランドは期待を寄せている。
なぜなら、unboxing動画は、オンラインストアの画面では十分に伝えることができない、商品の感触、機能性、使ってみた感じなど、消費者が購入するかどうか決めるのに必要な情報を提供してくれるからだ。
ユーザーが投稿する開封動画は、潜在カスタマーにリーチし、彼らの期待感を高めるのに一役買っているのみならず、商品に関する情報を伝えるための有効な手立てとなっている。そのため、ブランドはますます開封体験を重視するようになってきているというわけだ。
開封体験ベストプラクティス
ブランディングされ、プレゼントのようなプレミア感のあるなパッケージを使用するブランドに対して、消費者はポジティブな印象を抱くことが分かった。
また、シェアしたくなる開封体験を提供することは、ユーザーによるunboxing動画の投稿を促す。
その結果として、潜在顧客に対して、オンラインストアでは伝えきれない商品の魅力を発信することが可能になるということも明らかになった。
開封体験をデザインすることは、ビジネスにとって良い事ばかりのようであるが、効果的な開封体験とは、一体どういうものなのだろうか?
充実した開封体験を提供するブランドの共通点を見つけるべく、筆者自ら様々な商品を購入し、開封体験を検証してみた。その結果、魅力的な開封体験を支える3つの特徴が見えてきた。
(1) パッケージそのものが、ブランドコンセプトを体現
エコ・フレンドリーなシューズブランド『Allbirds』は、ボックスで目一杯ブランド価値を表現している。Allbirdsが使用している配送用の箱は、配送の役目を終えたらシューズボックスとして使えるようなデザインとなっているのだ。
かさばるシューズボックスをさらに大きな配送用の箱に詰めるのではなく、シューズボックスそのものを配送用にしてしまうという発想の転換だ。
箱を開けると箱の内側にまず、『WE ARE ALLBIRDS』という自己紹介が。配送中に箱の中でシューズが動き回らないよう固定する仕切りには、ブランドのバリューが記載されている。(写真上)さらに、シューズの中からは、かわいい顔つきのシューズキーパーが入っており、そこにも商品の特徴が書いてある。少しのスペースも無駄にすることなく、ブランディングを行っている。
加えて、発送に使われる箱にはリサイクルダンボールと大豆ベースのインクが使われており、100%リサイクル可能とのこと。パッケージそのものがブランドのコンセプトを体現するものとなっている。
(2) 配送手段としての機能性(商品の保護、返品への配慮)
せっかくブランディングされた素敵なパッケージを用意しても、発送の途中でダメージを受けたり、汚れてしまったりしていては元も子もない。Eコマースビジネスを行う以上、カスタマーの元に商品を万全な状態で届けることは大前提である。
花束の配送サービスを提供する『BloomThat』は、花束の形を活かした円錐形のパッケージを採用。花を傷めることなく、商品が配達された瞬間から花束を受取ったときの喜びを体験できるようにしている。そして、円錐型のパッケージを開けると、リサイクル麻布でラッピングされた花束が現れるようになっている。
また、配送で使われる箱の役割は、必ずしもそれで終わりではない。ペットボトルをリサイクルした素材を使ったシューズブランドの『Rothy’s』の配送用の箱には、未使用の両面テープが予めセットされている。カスタマーが商品を気に入らなかった場合、そのまま箱に入れて返送してもらえるようにするためだ。
配送用の箱を返送用に再利用することでゴミを減らせるし、梱包用の箱やテープをカスタマーに用意してもらう手間も省ける。
ほんのちょっとした気遣いではあるが、開封の瞬間に留まらず、ショッピング体験全体をより快適なものにする、スマートな仕組みである。
(3) シェアを促す、サプライズ
愛犬用のサブスクリプションサービスの『barkbox』は、思わずシェアをしたくなる仕掛けが豊富だ。
Barkboxを購読すると、毎月テーマに沿った愛犬用のオモチャとおやつが届くのだが、ボックスに同封されている商品を解説する「お品書き」には、毎回クスッと笑ってしまうような(多くが犬に関連したダジャレだ)コピーが採用されている。
例えば、アートがテーマのボックスであれば、「The Academy of Fine Arfs」、(犬の鳴き声を表現する擬音語”Arf”と「Art」を文字ったダジャレ)恐竜がテーマのボックスには「ジュラシック・パーク」を文字った「CHEW RASSIC BARK」(Chewは「噛む」、Barkは「吠える」)というタイトルがつけられている。
シェアを促す仕掛けは、コピーライティングだけではない。ボックスに同封された商品の説明が書かれたお品書きが撮影用の小道具として利用できるようになっているのだ。
お品書きの一部を切り取り線に沿ってくり抜くと、アートがテーマのボックスであれば、アートフレームに、プロムがテーマのボックスであれば、首輪に着けることができるリボンが完成する。
photo credit:@tobeyandpercy
さらに、箱の中敷きに使われている紙にすらシェアさせる仕掛けが隠されている。アートがテーマの月なら、塗り絵ができる仕様に、プロムがテーマの月であれば、裏面が壁に貼り付けて撮影をすることのできるバナーとなっていた。
phot credit:@happyhuskyhiro
Allbirdsの例とも共通するが、BarkBoxは、パッケージのスペースを上手く活用し、ユーザーがソーシャルメディアに開封体験を共有するのを促す仕掛け作りに力を入れていることがわかる。
まとめ
オンラインで商品を販売する限り、必要となる発送用のパッケージ。「包んで、送って完了」ではなく、「何で」、「どのように」包むか、そして「どのような行動をカスタマーに期待するのか」を考えでデザインを行うことで、カスタマーのショッピング体験、さらにはブランド体験を向上させることができる。
日本では、商品のラッピングサービスは商慣習として根付いているし、素敵なパッケージを使用しているブランドも多い。
また、ブランドのオリジナルのハッシュタグを作り、ユーザーにシェアを促すことも、一般的に行われている。その一方で、もし海外展開を行う場合、果たしてその開封体験は、ターゲットとなるユーザーに正しく響くものだろうか?
例えば、商品を保護するために、何重にも梱包することは、一見開封体験の向上に貢献しているように見える。しかし、もしエコフレンドリーが売りの商品を販売するブランドがこのようなパッケージを採用したらどうだろうか?ユーザーにとっては、過剰包装と捉えられてしまい、逆にブランドにネガティブな印象を与えてしまう可能性がある。
また、開封体験のシェアを促すために作成したキャンペーンハッシュタグが、全く別のことを意味するキャンペーンであったら?イギリス発のファッションブランド「Dorothy Perkins」は、リサーチを怠った結果、かなり恥ずかしいキャンペーンハッシュタグを約1年間に渡り使い続けてしまうという大失態を犯してしまった。 ブランドの頭文字を使った#LoveDPいうキャンペーンハッシュタグを作りったものの、「DP」という略語は、なんとハードコアなポルノ用語だったのだ!
パッケージから始まる開封体験には、カスタマーと繋がり、ブランドの価値を高める可能性が詰まっている。そのためには、ターゲットとなるユーザーを理解し、彼・彼女たちに響く開封体験をデザインすることが重要だ。btraxでは、アメリカ市場における、ユーザーを起点としたマーケティングサポートを行っている。ご興味のある方は是非お問い合わせを。