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クリエイティビティのリミットを開放する6つの要素
創造的かつ感性豊かな発想で人の心に深く響き鳥肌が立ってしまうようなクリエイティビティーとは一体どこから生まれてくるのでしょうか。想像力のリミットを遥かに超えて一般的な常識を根底から覆すような思考を行うには一体何が必要なのでしょうか。
そのヒントは、クリエイティビティーの研究者であるTina Seeligが提唱する、イノベーションエンジンと呼ばれるフレームワークを構成する6つの要素に隠されています。
- Imagination / 想像力
- Habitat / 習慣
- Knowledge / 知識
- Attitude / 姿勢
- Resources / 環境
- Culture / カルチャー
これらは、僕が今までシリコンバレー・サンフランシスコの先進的なデザイン事務所やIT企業、画期的なデザイン教育プログラム、書籍等を通して得た体験や知識とシナジーが高いものなので、今回はこのイノベーションエンジン・フレームワークを元に学びを共有させて頂ければと思います。
1. 想像力を発揮する為に必要なのは「?+?=10」の考え方
想像力は、知識よりも大切だ。知識には限界がある。想像力は、世界を包み込む。- Albert Einstein
「5+5=?」「?+?=10」という両者の質問には、1つ決定的な違いがあります。それは前者の質問は解が1つなのに対して、後者の質問は解が無数にあるという点です。
言われてみればその通りなのですね。しかし、質問の仕方によって得られる中身が全く異なってくるというい事実を、普段から意識している人はどれだけいるでしょうか。これは常識として見過ごすには、あまりにももったいない物の考え方なのです。
良質なアイデアを生み出すためのブレインストーミングでも全く同じ事が言えます。”Think Better”という書籍では、非常に効果の高いブレインストーミングプロセスが紹介されていますが、その中でも非常に興味深いのは、優れたブレストは「何に対してブレインストーミングするのかをブレインストーミングするところから始まる」という論点決めの部分に多くの労力を投資する必要性が強調されている点です。
これは「最初に解決するべき問題を何に設定するかによって、問題解決プロセスの半分以上が決定される」からだと言われています。想像力を存分に働かせて問題を解決するには、「結果」よりもまず先に、どのように問題を解決するかという「発想」から始めなければいけないのです。そしてそうした思考を発揮するには、適切な習慣や環境が整っている必要があります。
2. 習慣はクリエイティビティーの大切な源
“ルーティーンとはクリエイティブプロセスの大半を占めるものであり、それは誰にでも利用可能なインスピレーションの貴重なリソースなのです。” – Twyla Tharp
この一文は”The Creative Habit”という書籍の著者であるTwyla Tharpが文中で述べているものです。彼女は30年以上ももダンス舞台を創造する仕事をしてきた経験から、日々の習慣がどれだけクリエイティブな仕事をする上で重要かに気づき、習慣作りの重要性を強く説いています。
ではそうした習慣の中でも、具体的にどういったものがが必要なのでしょうか。Tina Seeligは「ジョーク、アイデアを繋げ組み合わせる、前提を疑う」という3つの習慣を良い例として挙げていますが、その他に僕が個人的に重要だと感じている習慣は「How Might We」思考、コラボレーション・シンキング、そしてプロトタイピングです。
「How Might We」思考
これはGoogle、Facebook、そして IDEO で頻繁に用いられている思考フレームワークで、「How Might We」とは日本語で「どのようにすれば私たちは〜」と置き換える事が出来ます。ある特定の理想状況を意図的に想定することで、思考の枠組みを大胆に組み替え、想像力を刺激しながらアイデアを出す方法として知られています。
コラボレーション・シンキング
“Lean UX”という書籍では、様々な情報を共有出来る形でオフィス空間にどんどん貼っていき、チームと受動的なシェアを行うのがUXの基本原則として紹介されています。例えばペルソナをオフィス内で共有したり、関わっているプロジェクトのKPIがどのように変動しているかをリアルタイムで共有出来る手書きやデジタルのダッシュボードを置く事で、自然とチーム内での会話が活発になったり、ディスカッションの量が増えていくという利点があります。
プロトタイピング
「とりあえず作ってみる」という習慣は、非常に多くの学びを提供してくれます。これは一見効率の悪そうな作業に見えるかもしれませんが、とても複雑化して先を予想するのが困難な現代においては、ある程度の仮説を持ってアイデアを次々と具現化してしまい、それを土台に一緒に考えたり進めるスタイルの方が結果として良い結果へと繋がっていきます。
上記で紹介させて頂いたような体系的な方法に関しては、IDEOやFrog Designが提供しているデザイン・ツールキットに多くのエッセンスが凝縮されているので、一度ご覧になってみることをお勧め致します。
- HUMAN-CENTERED DESIGN TOOLKIT
- DESIGN THINKING FOR EDUCATORS TOOLKIT
- Frog Design – Collective ActionToolkit
ここまででクリエイティビティーを発揮するためにどのような習慣が重要かというお話をさせて頂きましたが、まだ足りていない大切な側面があります。それは知恵へと繋がる知識の深さと、不確実な状況でも創造し続けることの出来るモチベーションの維持です。
3. 知識なくしてイノベーションあらず
ひとつのことに打ち込み、それを究めることによって、人生の真理を見出し、森羅万象を理解することができる。ひとつの仕事や分野を深く追求することにより、すべてを知ることができる。広くて浅い知識は、何も知らないことと同じだ。- 稲盛和夫
深い知識なくしてイノベーションを生む事が難しいことは容易に想像することが出来ますが、ではその知識はどのように蓄積され、どのように個人の専門性は磨かれていくのでしょうか。
各都市にスタートアップのコミニティを効果的に築く方法論を具体的に説いた”Startup Communities: Building an Entrepreneurial Ecosystem in Your City”という書籍の著者は、イノベーションが生まれやすいスタートアップのエコシステムには大学機関、政府、コミニティ、投資家、インキュベーター、プレイヤー達がそれぞれ密接に関わりあっていなければいけないと述べています。
その中でも特に、学習イベントの開催や情報提供に関連しているコミニティや大学機関は、知識を得る為に非常に重要なリソースであり、プレイヤー同士が最新の情報を交換したり、相談役となるメンターを得る為には欠かせない場所です。
シリコンバレー・サンフランシスコではこうしたイベントが毎日のように開催されていて、知識に磨きをかける機会が数多く提供されています。また、デザインやプログラミング領域でも、ブートキャンプという数週間〜数ヶ月徹底的かけて徹底的に知識を叩きこんでくれる場所が数多くあるため、多くのプレイヤー達が短時間で濃密な知識を習得出来る環境が整っています。
- hack reactor 12週間のJavaScriptのブートキャンプ
- AppAcademy 8週間のRubyのブートキャンプ
- DevBootCamp 9週間のRubyのブートキャンプ
- General Assembly User Experience Designのコースなど、8-16週間で週2回
とはいえば、はやり知識だけでは足りません。モチベーションがなければ、知識を知恵に変換しながら、創造性を常に発揮し続けることは出来ない為です。
4. モチベーションはMeaningから生まれる
21世紀の複雑で創造的な仕事には、自主性・成長・目的という内的な動機づけにする必要がある。- ダニエル・ピンク
これはダニエル・ピンク のTED講演「やる気に関する驚きの科学」からの一節ですが、僕がサンフランシスコに来て一番衝撃を受けたのは、それぞれ個人が持っている「自主性・成長・目的」へどれだけ忠実に従って自由に生きているかという点です。
心からやりたいと思える事が見つかればすぐ次のステップへ移り、スタートアップをしたければその日から始め、外的な金銭的/保証的インセンティブよりも自分内部の想いに素直な人がサンフランシスコには本当に多いのです。
米国でよく呼ばれる「Meaninig」を持ちあわせている人達は、とても高いモチベーションを維持しているように想います。Meaninigとは日本語で「意義」であり、自分がやっていることに対して強い社会的意義を感じていたり、情熱を感じている場合が多いようです。
このMeaninigが彼等をドライブさせ、どんな苦境をも乗り越えていくモチベーションを生み出しているのです。彼等は誰かにやらされて物事を行う事を嫌い、自分がやりたいと思ったことをどんどんこなしていきます。
“知識はクリエイティビティの道具箱であり、想像力は知識を新しいアイデアに変える触媒で、姿勢は物事を推し進める活力。”というTina Seeligが述べた表現は、的確にそれぞれの関連性を示しています。これらの要素に加えて更にクリエイティビティを発揮するには、環境と文化が必要となります。
5. 環境作りは幼稚園を見習うべき
わたしたちは社内に必要な空間をマトリックスにして分類していますが、オフィスというものをひとつの街のように構成するようにしています。- Studio O+A
「Studio O+A」という、フェイスブック、Square、AOL、サムスンといった人気テック企業がこぞってオフィスデザインを依頼するサンフランシスの空間設計事務所があります。上記の引用はその事務所のチーフデザイナーが述べたものですが、彼等はクリエイティヴィティを増進し、社内を活性化する新しいオフィスのかたちを提示しています。創造的な空間を設計するために多様な要素を一つにまとめるという方法論は非常に興味深く、物理的空間がどれだけ大切かを物語っています。
この「ひとつの街」というコンセプトを備えた空間のヒントは、「幼稚園」の中に隠されています。僕達が幼稚園に通っていた頃を思い出してみると、そこには本当に様々な遊び道具があり、他の幼稚園児達と多くのコラボレーションを通して、作りながら学ぶ機会が毎日の様にありました。
しかし、学校やオフィスへ行くと、施設内の様子がガラッと変わり、規則的で、遊び心がなく、とても無機質な室内になります。そんな場所で、どうやって創造性を発揮しろというのでしょうか。
先日僕は、d.schoolのワークショップへ足を運ぶ機会があったのですが、そこは遊び心に溢れ、まるで大人の為に作られた幼稚園のような空間でした。規則的に並べられた椅子や机は存在せず、空間が有機的に設計されています。加えて彼等が解決しようとしている問題の多くは非常にイシュー度の高いもので、限られたリソースの中で高速に解決案を作っていくラピッド・プロトタイピングでは、個々のクリエイティヴィティが存分に発揮されていました。
ちなみに、d.schoolが出版している”Make Space”という書籍には、こうした創造的な空間を作るヒントが多く共有されています。どのような空間にするとコラボレーションが生まれやすく、想像力が刺激されるのかという点について説明されているので、オフィス設計等の参考にされてみる事をお薦め致します。
6. カルチャーはムーブメントを起こす起爆剤
「ミーティング中に水を差すような発言をした人にはボールを投げつけて良い」-IDEOの企業カルチャーより
新しいアイデアはどんなに斬新なものでも歓迎という企業カルチャーを持っているプロダクトデザイン事務所として有名なIDEOでは、上記のようなユニークなルールが設定されています。サンフランシスコ・シリコンバレーの企業では、こうした自由奔放で開放的な企業カルチャーを持っているところがとても多いです。
サンフランシスコでは、多くの企業が人材採用プロセスで自社カルチャーとどれだけ候補者がマッチするかをとても重要視しています。それは彼等が企業カルチャーが持つクリエティビティに対する影響力を熟知し、それがサステイナブルなビジネスのキーとなる事を知っているからです。
これは、デレク・シヴァーズがTEDで行った「ムーブメントの起こし方」の5ステップに共通するものがあります:
- ステップ1 リーダーが勇気を持って立ち上がる
- ステップ2 最初のフォロワー(追従者)が現れる
- ステップ3 最初のフォロワーが周りに声をかけ参加を呼びかける
- ステップ4 3人目…、4人目…、5人目…と増え続ける
- ステップ5 ムーブメントとなる
企業カルチャーも上記と同じ性質を持っていて、ユニークで魅力のあるカルチャーを作る経営者やスタートアップが現れ、そこに創業メンバーとしてフォロワー達が現れ、徐々にメンバー数が増え、まるでビジネスではなく何かのムーブメントであるかのように周囲へ浸透していきます。
また、マーケターとして有名なSeth Godin氏が著した”Tribe”という書籍には、カルチャーに関する興味深い事実が示されています。Tribeとは日本語で「民族」のことであり、ここでの定義としては「同じ意志を共有した少人数の集合」、つまりは同じカルチャーを共有している個人の集合を指しています。
そして同じカルチャーを共有する仲間は、ある特定の言葉を頻繁に共有する傾向にあるというのです。例えばGoogleやAppleであれば「キャンパス」、Facebookであれば「ハック」、Zapposであれば「ファミリー」といった具体です。こうして独自の社内共有で利用される単語が少しづつチームへ浸透することにより意識が次々と共有され、より強くユニークなカルチャーが形成されていくのです。
終わりに
Sir Ken Robinsonというクリエイティビティーに関する研究を行なっている学者は「創造性とは特定の人に与えられる先天的な能力ではなく、誰しもが創造的な能力を存分に発揮出来る可能性を必ず秘めているものである」と述べました。そして僕もまた、誰しもがクリエイティブになる機会や可能性を秘めていると強く信じています。
今回は想像力、習慣、 知識、姿勢、環境、カルチャーという6つの要素に関するの執筆を通して、僕にとっても多くを見つめ直す良い機会となりましたが、同時にこの記事がクリエイティブに働いたり生活する皆さんのヒントへとなれば幸いです。
参考:
- 18分で学ぶクリエイティビティ (TED Talks) – Tina Seelig / 青木靖 訳
- Think Better: An Innovator’s Guide to Productive Thinking [Hardcover]
- The Creative Habit: Learn It and Use It for Life [Paperback]
- The Secret Phrase Top Innovators Use – Warren Berger
- Lean UX: Applying Lean Principles to Improve User Experience [Hardcover]
- d.school: Institute of Design at Stanford
- HUMAN-CENTERED DESIGN TOOLKIT
- DESIGN THINKING FOR EDUCATORS TOOLKIT
- Frog Design – Collective ActionToolkit
- ダニエル・ピンク 「やる気に関する驚きの科学」
- シリコンヴァレーで大人気の空間設計事務所のデザイナーが語る、21世紀のオフィス
- Make Space: How to Set the Stage for Creative Collaboration [Paperback]
- デレク・シヴァーズ 「社会運動はどうやって起こすか」
- Tribes: We Need You to Lead Us [Hardcover]
- Out of Our Minds: Learning to be Creative [Hardcover]
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