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パンデミックによる肉不足も解消!プラントベース食品最前線
- コロナで肉品切れ&プラントベース肉は価格を落としての拡大中
- プラントベース(乳製品・肉代替)市場は約5,000億円拡大。チェーン店でも買えるまでに浸透中!
- 拡大の理由はアメリカの消費者の食スタイルの変化、植物性への移行の重要性、そして味!
- 注目ブランド紹介:gardein、Forager Project、Miyoko’s Creamery
トイレットペーパーの次は肉が無い!?
コロナウイルス感染拡大を受け、アメリカでは牛肉、豚肉の供給にも影響が出始めた。
屠殺場や食肉パッキング工場でも従業員の集団感染が発生し、4月末までに、カナダおよび国内有数の工場が閉鎖に追い込まれた。
これにより、大手ハンバーガーチェーンのWendy’sでは原料の精肉が手に入らず、全体の約20%の店舗(1,043店舗)でハンバーガーが品切れとなった他、コストコなどでは、一家庭当たりの精肉の購入制限が設けられた。
今後もウイルスの拡大が続けば、洗浄作業のために工場の閉鎖は長引き、冷凍肉の貯蔵も底を尽きて、さらに肉不足が深刻化することが懸念されている。
この肉不足の問題を受けてクローズアップされているのがプラントベース(植物由来)食品だ。嗜好の変化やその健康面から度々注目されてきたが、新型コロナウイルスの影響を受け、さらなる広がりを見せている。
そこで本記事では、最新のプラントベース食品市場について紹介する。ポイントとしては以下。
- 新型コロナウイルス感染拡大によるアメリカでのプラントベース食品市場の急成長
- アメリカのプラントベース市場規模とその浸透度
- そもそもなぜプラントベース食品が消費者に受け入れられているのか
- 注目されているプラントベース食品ブランド紹介
Twitterで拡散されたビーフ切れを訴える貼紙 Big Rapid Newsより
新型コロナウイルス感染拡大によるプラントベース食品市場の急成長
前述の通り、パンデミックにより肉不足となり、食肉の流通価格は上昇した。一方で、プラントベース食品への需要は高まり、各社がそれに応え供給を強化していることで、プラントベース食品市場は盛り上がりを見せている。
代替肉の製造を行うImpossible Foodsは、小売店での販売を拡張した他、レストランへの卸値を15%下げることも発表した。
同じく代替肉スタートアップのBeyond Meatも、2020年第一四半期の売上が前期比141%増の100億円越えと堅調に推移しており、夏には価格を下げることを発表して株価も上昇している。
家族4人分のハンバーガーを作ろうとした場合、精肉を使うとパテの価格は全員分で5ドル程度で済む。一方、Beyond Meatのハンバーガー用パテは1枚が約3ドルで12ドルと、2倍以上の価格差があった。
Impossible FoodsもBeyond Meatも、精肉が不足・高値となっている今が、精肉との価格差を縮め、新規顧客を得るチャンスと見ていることが分かる。
乳由来に限らず、多くの種類が並ぶアメリカの日配品売り場 Dine Magazineより
アメリカのプラントベース食品市場の規模とその浸透度
ではプラントベース食品の市場規模はどのくらいなのか。また、一般消費者にとってどのくらい身近なものになっているのだろうか。
2020年3月に発表された最新のSPINS小売売上データを元に、The Good Food InstituteがまとめたPlant-based Food Market Overview(プラントベース食品市場概要)によると、プラントベース食品の売上は過去2年間で29%増加し、2019年に50億ドルに達した。
その主な内訳は、植物性ミルクが20億ドル、次いでヨーグルトやバター、アイスクリームなどの代替となる植物性乳製品が14億ドル、そしてプラントベースミートが10億ドルとなっている。
日本では、フードテック発の代替肉に関するニュースを目にすることが多いと思うが、実際には植物性乳製品も市場を大きく占めていることが分かる。
また食材としてスーパーでプラントベース食品が購入できるだけでなく、カフェ、レストランでもプラントベース食品をオーダーできる機会も多い。
日本でもスターバックスで豆乳・アーモンドミルクに加え、オーツ麦由来のオートミルクが期間限定で選択できたようだが、カリフォルニア州発祥のブルーボトルコーヒーでも、アーモンドミルク、またはオートミルクが選択でき、ナッツアレルギーを持つ人でも植物性ミルクが選択できる。
さらにファストフードチェーンでもプランドベース食品が食べられるようになっている。Impossible Foodsのパテを使用したハンバーガーは、バーガーキングをはじめとする多くのハンバーガーチェーンで食べられるということはかなり浸透してきた。
これに加え、Impossible Foodsの代替肉は、アメリカ全土に200店舗以上を展開するCheesecake Factoryというレストランのボロネーゼにも使用されている。
筆者も実際に食べてみたが、トマトソースの味もあり、見た目、食感ともにひき肉との差は全く感じなかった。 Veg Newsより
このように、プラントベース食品はかなり身近なものになってきている。スーパーや馴染みのレストランで見つけることことができるため、日本と比べてもプラントベース食品に挑戦するハードルが低いのだ。
関連記事:ビヨンドミートだけじゃない。食品産業に革命を起こす次世代フードを実食。
人々の意識:アメリカでなぜプラントベース食品が求められているのか
冒頭で述べたように、昨今の肉不足もあり、プラントベース食品の需要は高まっている。一方で、アメリカのユーザーの食の嗜好の変化にも需要拡大の理由があるという点も理解しておく必要がある。それが『フレキシタリアン』という食スタイルの台頭だ。
フレキシタリアンという言葉は「基本的にはベジタリアンだが、たまに肉を含めた動物食性食品を食べる人」と定義されている。2003年のワード・オブ・ザイヤー(アメリカ版新語・流行語大賞のような賞)で『最も便利な言葉部門』に選出されるなど、知名度もさらに高まっている。
プラントベース食品の認証組織であるPlant Based Foods Associationがまとめた2017年のレポートによると、アメリカ人の約3分の1がフレキシタリアンとのこと。
Plant Based Food Associationより
厳格なベジタリアンまたはヴィーガンがいまだ少数派であるのに対し、こうした「ゆるく楽しむ層」が徐々にメインストリームになりつつあるのだ。
なぜフレキシタリアンが増えてるのか
以下2つの理由がある。
- もともとは、自分の健康や地球環境のため(コロナ拡大でこの意識は加速)
- 今では、プラントベース食品の味も進化していて、味も選ばれる理由になっているため
中高年を中心に、動物性脂肪に含まれる飽和脂肪酸のさらなる摂取を控え、より繊維質の多いプラントベース食品を取り入れる人が増えている。また、ミレニアル世代(25-39歳)やGenZ世代(8-24歳)では、社会的問題への危機意識から、ライフスタイルを選択する人も多い。
関連記事:ミレニアル世代のマインドセットを捉えて成功したスタートアップ事例
地球全体の人口増加に対して、動物性たんぱく質の供給が追い付かなくなると予想されていることや、食品の生産過程について描いた「Food Inc.」というドキュメンタリー映画が議論を巻き起こしたように、あらゆる情報にアクセスしやすくなった現代において、動物性食品の生産過程に対する消費者の嫌悪感は一層高まっている。
こうした中、生きた動物を販売する中国の市場で人間に感染したのが最初と言われている新型コロナウイルスが蔓延したことで、人間が食物として動物に依存することを問題視する風潮は強まっている。
動物愛護的な観点だけではなく、その加工過程で働く人々の健康リスクの管理といった公衆衛生的な問題意識の高まりも、人々がプラントベース食品を選ぶことの追い風となっているのだ。
プラントベース食品は「味」でも選ばれている
こうした理由に加え、今では52%もの人が、プラントベース食品を選ぶ理由に「味」も挙げたと報告されている。
筆者もそうであったが、「代替食品って確かに動物性原料を使っていないが、その分味は動物性食品より劣るのでは?」というイメージを持ってしまう方も多いだろう。しかし、最新の プラントベース食品の味は、ここまで進化しているのだ。
注目のプラントベース食品ブランド3選
現在、Plant Based Foods Associationには、170社のプラントベース食品関連企業が登録されており、「むしろ動物性食品よりこのプラントベース食品が食べたい!」と思う魅力的な商品が日々開発されている。その中でも特に注目なのが以下の通りだ。
- gardein: ミートレス・ミートシリーズ
こうした新しいタイプの商品はスタートアップ企業発のイメージが強いかもしれないが、こちらは米大手食品メーカーのコナグラ・ブランズ傘下にあるgardeinが作るプラントベース食品だ。肉に限らず、魚の代替食品もラインナップしている。
食品や日配品を注文できるAmazonフレッシュでもその知名度や人気は高く、Beyondブランドにも引けを取らない商品だ。
こちらのシリーズの売り上げは、2020年3月13日から4月19日に前年同期比で65%増加したと報告されており、その需要が高まっていることが分かる。
ところで皆さんは『ミートレス・マンデー』という言葉をご存じだろうか?自分自身と地球の健康のために、読んで字の如く、月曜日は肉を食べないようにしよう、というプロジェクトである。
2003年にジョンズ・ホプキンス大学などが主導して発足したプロジェクトであるが、gardeinのホームページでも詳しく発信されている。
例えば、肉を食べないことで制限できるエネルギーをインフォグラフィックで見せている。(真偽は置いておくとしても、)「1週間に食べるハンバーガーを1つ減らすと、車の使用を500km強(320マイル)控えたことになる」など、生じるインパクトは思った以上に大きく、それならもっと肉を控えようかな、という前向きな気持ちにならないだろうか。
このように、味や食感を動物性の食品に近づける努力だけではなく、一個人の行動にも大きな意味がある、ということをしっかりと啓蒙していることも、この商品が選ばれている理由なのかもしれない。
2. Forager Project : カシューナッツのミルク由来の乳製品代替食品
2013年創業のカリフォルニア発ブランド、Forger Projectが手掛ける、カシューナッツ由来のミルクから作られる商品だ。
主力商品である『カシューグルト』は、ヨーグルトに代わり最近の筆者の定番にもなっているのだが、味種も6種類以上と豊富で、購入頻度が高くてもマンネリ化しない。
カシューナッツ由来のクリーミーで滑らかな口当たりが特徴であり、酸味は控えめでヨーグルトとムースの中間のような印象を受ける。ヨーグルトとはまた違った風味であるが、むしろこの味が気に入った。
またヨーグルトと栄養成分を比較しても遜色がなく、発酵をしていることから乳酸菌も含まれており、ヨーグルトに求めていた整腸作用も得られ、機能面の満足度も非常に高い。
(左)カシューグルトの栄養成分 / (右)全乳ヨーグルトの栄養成分
味も栄養も劣らない上、自分の健康だけではなく、環境や動物のためにも良いとなれば、もはやこちらを選ばない理由はない。
3. Miyoko’s Creamery: 植物性バター&チーズ
名前からお察しの通り、日本人女性が2014年にサンフランシスコ近郊のSonomaで立ち上げた、ヴィーガン向け乳製品代替食品を作るMiyoko’s Creamery。
こちらも主にカシューナッツやオーツミルク、ココナッツオイルなどを発酵させたバターやチーズを製造している。ホール・フーズなどのオーガニック志向のスーパーだけでなく、コストコでの取り扱いもあって手に入りやすい。ヴィーガン食品として複数の賞を受賞しており、味にも定評がある。
ところで、動物由来の原料を全く使用していないMiyoko’s Creameryの公式ホームページに、つぶらな瞳をした可愛らしい牛を抱きしめる女性の写真が掲載されているのはとても印象的だ。日々スーパーや食卓に並ぶ加工済みの食品や肉の塊から、本来の家畜動物の姿を思い浮かべることはなかなか難しいのではないか。
しかし、人が動物と寄り添う様子をあえて掲載することで、「あなたの選択が動物を救うことになる」と消費者にダイレクトに訴えかけている。
一方で、こういった新しいブランドの見せ方は、まだ完全に受け入れられているというわけではない。Miyoko’s Creameryは、食品規制当局(The California Department of Food and Agriculture)から『Butter』 という文言を商品パッケージに使用しないよう、またこのように牛をホームページに掲載することをやめるように求められたとし、今年2月、カリフォルニア州を訴えたと報じられた。
州は「バターとは、哺乳類のミルクやクリームから作られるものであり、消費者が誤認する可能性がある」と主張しているようだが、ピーナツバターなど、植物由来の食品でバターと名の付くものはすでに市場に溢れており、主張と現状には認識のズレがあるようだ。
プラントベース食品市場が急拡大する一方で、牛乳やヨーグルトの売り上げはここ数年間減少、または横ばいに留まっている。
Miyoko氏はCBSN Bay Areaの取材に対し、「州は変化する消費者を無視し、消費者意識の変化によって脅かされている既存産業を守ろうとしている」と、一貫して抗戦の構えだ。
この『Butter』を巡るバトルからも、州が動くほどに、代替食品を巡るムーブメントが大きくなっていることがお分かり頂けるのではないだろうか。
関連記事:食の多様性を支えるフードテック・スタートアップ3選
まとめ
人間にとっては甚大な被害をもたらしている新型コロナウイルス。しかし各地でロックダウンが実施され、人間の活動が停止したおかげで、一時的に地球環境が改善したことも報告されており、我々の日常生活がいかに地球に負荷をかけているかを改めて痛感させられた。
希望的観測かもしれないが、これをきっかけに消費者の問題意識がより高まり、環境に優しい行動を望むようになると考えると、今回取り上げたフレキシタリアンの増加など、アメリカで起きている消費者のムーブメントは、今後日本にも広まっていくのではないだろうか。
本記事で紹介した事例はどれも、食品としての美味しさの追求だけにとどまらず、食事という一連の体験の中で消費者が抱えていたネガティブな感情や罪悪感、小さなストレスを上手く克服して、ブランド力を高めていると言えるだろう。
btraxでは、こうした最新の市場動向のリサーチから、アメリカ市場進出に際してのブランディング、さらにはグローバルに通用するプロダクト開発に必要なマインドセットの教育まで、幅広い観点から日本企業のグローバル展開を支援させて頂いている。少しでも興味を持たれた方はお気軽にお問い合わせを。
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