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ナイキやパタゴニア等に学ぶセルフマネジメントを促す組織体制
従業員は勤務時間のうち20%を、個人的に取り組みたいプロジェクトに使うことができる
これはかの有名なGoogleの「20%ルール」である。この制度からはGmailなどの有名サービスも数多く生まれ、同社のイノベーションの源泉とも称されてきた。
しかしながら、元Googleのエリック・シュミット氏等によるマネジメント書籍『How Google Works – 私たちの働き方とマネジメント』では、この「20%ルール」の真の目的について、次のように述べられている。
「20%ルールの最も重要な成果は、そこから生まれる新プロダクトや新機能ではない。新しい試みに挑戦する経験を通じて、社員が学ぶことだ。たいていの20%プロジェクトでは、日常業務では使わないスキルを学び、普段は一緒に仕事をしない同僚と協力する。」
ここから分かる通り、Googleにおける20%ルールは、結果として生まれる成果物よりも”社員自身が新しいチャレンジをして学ぶプロセス”を大切にした取り組みであると言える。
社員一人ひとりのセルフマネジメントを促す組織体制
このGoogleの例以外にも社員自身の自律性や個の力を高めることによって組織を改善しようとする取り組みが数多く行われている。
このような取り組みの例として、「ティール組織」や「ホラクラシー」など、新たに生まれてきた組織形態について耳にする機会も多いのではないだろうか。
ティールやホラクラシーと聞くと「何のことかよくわからない」と感じる人も多いかと思うが、これらは簡単に言うと「ヒエラルキー型→フラット型」へのシフトを、組織として目指す動きのことである。
この際大きな軸となるのは、いかに社員一人ひとりの自律性向上を促すことができるか、ということであり、それは目指すものがティール組織であろうとホラクラシー組織であろうと、同様に重要なポイントとなる。
では、個の自律性を高めるために、企業は一体何をすべきなのだろうか?今回は、「社員個人のセルフマネジメントを促す」仕組みを持ち、成果を上げてきた企業3社の事例を紹介したい。
1. ナイキ:「管理された自律性」によってスピーディーなローカライズを実現
ナイキででは、フラットな組織形態を取り入れている。
世界各地でビジネスを展開している同社だからこそ、ナイキブランドを損ねないようにしながらも各地で適切なローカライズが行われる「管理された自律性」を作り出す必要があったのである。
ナイキでは、部署がブランド毎に分けられ、それぞれが独立した意思決定権を与えられており、ブランド単位の意思決定を行う際にCEOの確認をとる必要はない。
またこのブランドごとの部署も、さらに小さなチームに細分化されて業務を分担しており、このさらに細かい単位にまで、きちんと意思決定権が分散されている。
さらに、社員が業務についての報告を行うのは「自身の所属するブランドのマネージャー」と「全社ポリシーの管理者」の2名のみに簡略化されており、担当製品について何か新しい取り組みをしたいと考えたときに説得しなくてはならないのは前者、すなわちブランドマネージャーのみとなっている。
このような2者による管理体制を取ることで、ブランド単位で意思決定を行うことのできる自律性と、全社としての経営の一貫性とを巧みに共存させていると言える。
ナイキのような大企業がこのようなフラットな組織構造をとることは一般的に難しいと考えられているが、ナイキにとってこの体制を採用するメリットは大きかったようだ。
具体的には、フラットな組織を形成することによって意思決定スピードが早まり、さらに市場のニーズに対する対応力が高まったという。
フラットな組織体制が新規プロダクトの開発に大きな影響を与える
意思決定のスピードについては、新製品開発にかかる期間の短さがその効果を示している。
同社では、製品がデザインされてから実際の生産にたどり着くまでにかかる時間が平均1年半であり、これは他社と比較しても極めて早い開発スピードである。
このようにスピーディーに生産をすることによって、その時々のトレンドや消費者の嗜好性にきちんとフィットした製品をタイムリーに提供することができ、結果として顧客満足も高まるのだという。
さらに、各マネージャーの管理範囲が小さく、各地で動くチームのサイズも小さくなったことで、多様な顧客ニーズや生産システムにおいて生じるニーズにも柔軟に対応できるようになった。
ナイキの製品は、一製品の開発・生産につき年間30,000〜40,000回もの変更が行われる。
このような莫大な作業量にもかかわらず、意思決定権が各ブランチに分散されていることで、変更に際していちいち本部に確認を取る必要が無いため、よりニーズにフィットした製品づくりをスピーディーに行うことができる、というわけだ。
2. パタゴニア:社員の自律性を「信じる」文化
環境に配慮したアウトドアブランドとして有名なパタゴニア。「社員をサーフィンに行かせよう!」という印象的な経営哲学をご存知の方も多いのでは無いだろうか。このフレーズが示す通り、同社は社員一人一人の自主性を重んじ、彼らが自分自身の人生を楽しむことができるような仕組みを整えている。
パタゴニアの組織構造は、リーダー層、マネージャー層、プレイヤーと大きく3つに分かれており、CEOのイヴォン・シュイナード氏はそれぞれの役職を次のように表現する。
「まずリーダーが適切なマネージャーとチームを選び、適切なビジョンを設定する。そして彼らの登るべき山を選択したのち、潔く身を引く。ここが最も重要なポイントだ。
そこから、その山をどのように登るのかを示すのはマネージャーの仕事。マネージャーは、チーム全員をゴールに向かって率い、それぞれのメンバーに自律性を与えていく。」
パタゴニアでは、リーダー層は登るべき山、すなわち取り組むべき問題を定義するのみで、それ以降の意思決定は全てマネージャーと彼らが率いるチームに委ねられている、ということである。
一見マネージャーの責任が重いように感じられるが、チームメンバーが自律性を持ったセルフスターターであるがゆえに、マネージャーにばかり業務が集中してしまうということは起こらない。
パタゴニアにおけるマネージャーは絶対的なボスではなく、ビジネスとしての方向性を定め、チームに対して適切なコーチングを提供するメンターのような存在であり、個人としての自律性を持ったチームメンバーはこのようなマネージャーからのサポートを適宜受けながら、各自責任を持って仕事を進めていく仕組みである。
社員への信頼があるからこそ、彼らをサーフィンへ送り出せる
このように社員一人一人が責任を持って自身の仕事を終わらせている、という前提があるからこそ、彼らのプライベートな生活を支援する仕組みも整えている。
例えば、ヨガやランニングに出かける社員が多いランチタイムにはミーティングを設けず、勤務時間中であっても良い波が出ているときには社員をサーフィンに送り出す、といったようなことが日常的に行われている。
また、環境問題関連のインターンシップ2か月分の費用を会社が負担するという取り組みも行っているようである。このように、パタゴニアでは社員の業務遂行能力への信頼を根底に置いたサポート体制が整っている。
このような組織文化は、パタゴニアのビジネス面での成功を大きく支えていることはもちろんのこと、人材の定着にも貢献しているようだ。これまで、パタゴニアにおいて産休を取った社員の復帰率はなんと100%!
1973年の創設以来、産休を理由に退職した社員は一人もいないという。さらに退職率全体を見ても4〜4.5%と小売業界の中でも群を抜いて低水準であり、こうした組織文化が多くの社員に愛され、継続的に会社に貢献しようという思いを生んでいるということが伺える。
3. アトラエ:社員全員がオーナーシップを持って働く
2016年6月に東証マザーズ上場を果たした日本のHRテックベンチャー企業のアトラエ。同社は、成功報酬型求人メディアのGreenや完全審査制AIビジネスマッチングアプリyentaなどの人気HR関連サービスを提供しているが、そのフラットな組織形態でも注目を集めている。
同社の一番の特徴は役職や出世が一切ない組織形態。マネージャーなどの役職は一切なく、社員はプロジェクト単位で動き、一人一人が社会に対してどういう価値を提供できるのかを自らの頭で考えながらビジネスを推し進めているという。
このように全くのフラットな組織だと、社内ステータスを可視化するようなポジションを与えることで社員のモチベーションを保ったり、給与体系の透明性を確保したり、ということができないために、その評価制度にもたくさんの工夫がなされている。
アトラエでは評価システムとして「360度評価」を採用している。これは、社員それぞれが自分を評価してほしいと思う人を5人選出したのち、 社内の評価査定委員会がその選定の正当性を見極め、最終的に選ばれた5人がその人の評価を行う、という仕組みである。
さらに、この5人の評価者それぞれの評価もその人自身の周りからの評価を反映する形で重み付けしてあるため、人気投票にならないように工夫されている。
このように極めて民主的な方法で個人の社員の評価・給与設定がなされているため、わかりやすいポジションを与えられることがなくとも貢献度の高い社員が不公平感を抱くようなことは起こらず、その評価がモチベーションとなって社員の意識レベルのボトムが向上していく仕組みである。
社員全員が会社を動かすオーナーに
またアトラエでは「全社員経営者主義」を掲げ、従業員一人一人に経営に対するオーナーシップを持ってもらう工夫も行なっている。2016年には、日本で初めて特定譲渡制限付株式を全従業員に付与し、社員全員が物理的に会社のオーナーシップを保有するようになった。
さらに、経営メンバーが決めたことを、社員自ら企画し検討を進めていく取り組みである「ワーキンググループ」を導入し、評価制度や採用関連など、様々な重要トピックが、それを実行する社員自身によって日常的に話し合われている。
社長の新居佳英氏は、「会社として大切にすべきことは、みんなの意見を尊重して変化できる組織であり続けること」であると語る。
新入社員でも中途社員でも、社歴が長くても短くでも、自分が声を上げればその意見が通るという経験を持つことは、彼らが当事者意識を持って会社の事業に取り組むための大きなモチベーションになっていると言えるだろう。
日本企業に求められ始めている組織変革
これまで見てきた3社の事例からわかる通り、「社員の自律性を促す」仕組みづくりは、世界的な大企業から日本のベンチャー企業に至るまで、様々な規模の企業で行われている世界的な動きである。
フラットな組織文化、社員の自律を促す組織形態は、日本のいわゆる大企業には馴染みにくいものだと感じられるかもしれないが、大手企業が組織のフラット化を目指す動きも少しずつ出始めている。
btraxでは、サービスやプロダクトだけでなく、組織のカルチャーや構成そのものを醸成を支援することで、日本企業が組織変革をするサポートを行っている。
「今一度会社の組織カルチャーを見直したい」と感じる方は、こちらよりぜひお気軽にご相談ください。
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