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モビリティ業界で注目され始めたMaaSとは?
あなたは日常的に、どの様な交通手段を使っているだろうか?例えば会社へ行く時。あなたは5分歩いてバス停へ行き、ICカードをタッチして8:15発のバスに乗る。
駅に着いたらまたICカードをタッチして、乗車率120%の満員電車に10分間揺られた後、ようやく駅に着いたのは8:55。会議に遅刻しそうなのでタクシーを使い、カードで支払おうと思ったら対応していない!なんとか現金での支払いを終え、オフィスに着く頃には疲れ果てている… その様な日常が、一変する可能性があるかもしれない。
バスも電車もタクシーも、事前に乗り換え情報が検索でき、そして支払いまで事前にワンタッチで済ませることができたとしたら?それがまさに、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)が実現しようとしていることである。
MaaSとは
MaaSへの注目は年々高まっており、2018年に入ってからは特に、総務省や国土交通省などの国家機関もこの領域に関するレポートを出す様になっている。
国土交通政策研究所のレポートに基づいてMaaSを定義すると、「ICT を活用して交通をクラウド化し、公共交通か否か、またその運営主体にかかわらず、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を1つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ 新たな『移動』の概念」であるという。
少し難しく聞こえるが、簡単に言えば、全ての交通機関を1つのプラットフォームを介して利用できるようになる、ということである。
フィンランドで生まれたMaaSの概念
もともとこの概念が生まれたのは、北欧先進国の一つであるフィンランド。技術庁と運輸通信省の助成の下、世界で初めてとなるモビリティサービスのオープンイノベーションプラットフォームの開発のために2014年につくられた官民共同プロジェクトがきっかけである。
このプロジェクトをもとに、2016年2月にはMaaS Finlandが民間企業として立ち上がり、220万ユーロの資金調達を達成。その後社名をMaaS Globalに変更し、MaaSのサービスを首都ヘルシンキで展開するWhimというアプリの運用を2016年10月に開始した。
これは、現在の乗り換え案内系アプリを使う様に目的地を検索するだけで、公共交通機関とライドシェア、タクシー、レンタカー、レンタサイクルなどの組み合わせから最適なものを選べ、運賃もオンラインで支払うことができるというMaaSアプリである。
運賃体系もユニークで、Whim To Goと呼ばれる都度払いの他、利用回数制限付き月額49€のWhim Urban、乗り放題月額499€のWhim Unlimited、というサブスクリプション型になっている。
すなわち、月に決まった額を事前に支払ってしまえば、バスでもタクシーでもレンタサイクルでも、好きな様に組み合わせてシームレスに移動することができる、ということである。このWhimは、現在ヘルシンキ以外にもイギリス、オランダ、ベルギーなどヨーロッパ各地に広がっており、今後も拡大していくと考えられている。
アメリカでも同様の取り組みがないかを調べると、MaaSという言葉の定義自体がグローバルとは異なるようだ。アメリカではUberやLyftなどを含めた「移動体験」に付加価値を乗せたサービス全体のことを指しており、大きな捉え方をする場合が多い様である。
より限定的な意味でのMaaS、すなわちWhimの様なサービスはアメリカには未だ存在せず、アメリカにおいてはライドシェアや自動運転関連のサービスの方が「移動」関連サービスとして注目され、それがMaaSという曖昧なワードと共に広がっている様だ。
このヨーロッパとアメリカにおける違いを説明する要素の一つとして、それぞれのモビリティーカルチャーの相違が挙げられるのではないだろうか。ヨーロッパの都市は比較的小さく入り組んだ道が多く、バスや電車などの短距離公共交通機関に頼った都市構造になっているのに対し、広大な国土を持つアメリカは言わずもがな、今も昔も車社会である。
「複数の交通機関を乗り継ぐ」ことに関するストレスを解消する様なサービスはアメリカよりもヨーロッパで生まれやすく、一方で車を起点に移動を進化させたサービスはヨーロッパよりもアメリカで生まれやすい、という様なことが言えるのではないだろうか。
日本におけるMaaS
さて、日本のモビリティーカルチャーは、ヨーロッパとアメリカの、どちらに近いだろうか?東京、もしくは首都圏に限って考えると、おそらく多くの人がヨーロッパ的な移動、すなわち複数の公共交通機関を乗り換えて目的地にたどり着く移動を行っていると答えるであろう。
すなわち、ヨーロッパのモビリティー市場において大きな需要のあったWhimの様なMaaSサービスは、日本の首都圏のモビリティー市場においても十分な需要を確保するだろうと考えられる。しかし一方で、地方では車文化が主流であり、この様な地域ではアメリカの様に車を活用した形のサービスの方がフィットが良い様に思われる。
この様な地域ごとのニーズ差が出てくるのは必然だが、MaaS関連のニーズが日本市場に存在し、それが認知され始めているのは事実である。今年12月、日本初の産学官MaaS促進団体であるJCoMaaS(Japan Consortium on MaaS)が設立され、欧州諸国に倣った産学官連携型エコシステムが構築されようとしている。
このほか、JR東日本は2017 年 9 月、交通事業者、国内外メーカー、大学、研究機関などが参加・連携して社会課題の解決に取り組むことを目的に、「モビリティ変革コンソーシアム」を設立。3 つのワーキング・グループ(WG)を設置し、Door to Door推進WGにおいて都心地域等におけるマルチモーダル・サービスを検討している。
またトヨタは2018年1月、ラスベガスで行われたCES2018にてモビリティサービス専用EV「e-Palette concept」を発表し、自動運転を見据えて様々なサービスを提供する事業者向けモビリティサービスプラットフォーム(MSPF)の構築を推進するとしている。
この様に、産学官連携型のみならず民間企業による独自の取り組みも進んでおり、MaaSという概念が今後日本に及ぼして行く影響は、ヨーロッパ並み、もしくはそれ以上になると考えられる。
MaaS市場カオスマップ
ここまで、「全ての交通機関を1つのプラットフォームを介して利用できるようになる」という定義の下でMaaSの取り組みを見てきたが、先ほど述べた様にアメリカでのMaaSの定義はより広く、「移動体験」に新たな価値を提供するサービス全般という、より大きな範囲を指す。
そこで、整理と理解のため、ここでは一旦大きな定義でのMaaS市場を俯瞰し、世界各国にどの様なプレーヤーがいるのかを見てみよう。
以下は、モビリティサービス・プラットフォームを運営する株式会社mellowが作成したMaaS市場のカオスマップである。ここでは、MaaS市場における世界各国の主なプレーヤーが、分野ごとにまとめられている。
MaaSカオスマップ 2018年最新版(出典元:株式会社mellowブログより)
この様に、「移動」関連のサービス、という大きなくくりでMaaSを理解した場合、
- 配車サービス
- バイクシェア
- カーシェア
- カープール(相乗り)
- 自動運転
- シェアパーキング
- 宅配・輸送・物流
- 飲食系サービス
という大きく8つの領域が存在していることがわかる。さらに、ここに挙げられているサービスは、アメリカや中国など、日本以外の国から始まったものがほとんどで、現時点で存在する日本発のMaaS関連サービスは数えられる程度であることがお分かりいただけるだろう。
日本市場と相性の良さそうな注目スタートアップ
先ほども述べたように日本でもMaaSへの取り組みはすでに始まっており、2019年には新たなサービスが生まれることも予想される。それに先駆けて、ここでは日本市場との相性の良さそうな海外発のサービスを、3つほど紹介する。
1. BlaBlaCar(ブラブラカー)
フランス発の世界最大規模の有料版長距離相乗り(カープール)プラットフォーム。「いつ、どこまで」移動するかを登録したドライバーと、長距離を安く車で移動したいユーザーをマッチングする。ユーザーとドライバーのプロフィールは事前に管理会社が審査するため、安全性も確保されている。
このサービスのユニークな点は、ユーザーもドライバーも事前に自分がどれだけおしゃべりなのかを「Bla」から「BlaBlaBla」までの三段階で設定し、自分に合ったユーザー・ドライバーを探すことができるということ。現在22ヶ国において展開され、日々移動を安く、便利に提供するだけではなく、人々がカープールを通じてお互いをより信頼できる世の中を実現しようとしている。
2. Waymo(ウェイモ)
スタンフォード人工知能研究所の元ディレクターや、Googleストリートビューの発明者などで構成されたチームが手掛ける自動運転車の開発会社。GPSや、レーザーカメラ・レーザースキャナーを使い、様々な道路情報(周辺の車両、歩行者、信号、障害物)を把握した上でコンピュータが総合分析し、運転操作を自動で行う。
Waymoが開発している自動運転車は既に100万Km以上、アメリカの公道でテストされ、独自の機械学習技術による「世界一経験豊富な自動ドライバー」の実現を目指している。
関連記事:Tesla, Uber, Googleから学ぶ自動運転車の現状と未来
3. Postmates(ポストメイツ)
シリコンバレー発の買物・宅配代行サービス。「なんでも、いつでも、どこでも」を提供できる世の中の実現を描くPostmatesは、従来の大手宅配会社の手が届かなかったスーパーマーケットでの買い出しや宅配代行、またUBER EATSのようなレストランの料理宅配代行サービスも行っている。スタッフはフルタイムの宅配従業員を雇うのではなく、一般の人をパートタイムで配達員として雇うことで、デリバリーサービスを効率的に提供している。
現在のところ、欧米諸国に遅れをとっている日本。しかしながら、産学官MaaS促進団体であるJCoMaaSの設立が象徴する様に、MaaSひいてはモビリティーという領域に対しては公・民かかわらず、分野を超えて協働していかなくてはならない、という意識が芽生え始めていると言える。
移動文化という文脈で考えたとき、日本は、公共交通機関での乗り継ぎが主流な都市部と、依然として車文化がメインの地方、という2つが共存している国であり、この性質は日本がどの様に自国のMaaS市場を広げていくのか、ということを面白くしていくだろう。
ここ2年ほどで、公的機関、民間機関の両方で大きな動きが出始めているMaaS市場。2019年以降私たちの移動のあり方は、どの様に変わっていくのか、引き続き注目したい。
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