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内向的な人はデザイナーに向いていないのか?
デザイナーという役割にはどうしてもキラキラしているイメージを持たれる。
特に、イベントに登壇したり、メディアのインタビューを受けたり、ファシリテーションをバリバリこなしている「カリスマデザイナー」は、話すのが上手で、コミュニケーションに長けている。
しかし、実際の現場においては、ほぼほぼコミュ障に近いレベルのデザイナーもいる。そんな内向的な人たちは、果たしてデザイナーに向いていないのだろうか?
これまでのデザイナー経験、デザインチームのリーダーとしての経験、そしてデザイン会社経営の経験を元に、内向的なデザイナーに関しての考察をまとめてみた。
デザイナーの仕事の2/3はコミュニケーション
デザインの世界では、コミュニケーションは大きなカギを握っている。
恐らくデザイナーの仕事のうち、3分の2はコミュニケーションであると言っても過言ではない。
デザイナーの仕事の最初の3分の1が、正しい人を探してその人から正しい情報を引き出す事で、次の3分の1が実際のデザイン作業。
そして最後の3分の1が出来たものの情報を正しい人に正しく伝える事。この行程を経て、はじめてきちんとしたデザインが作り上げられる。
つまり、最初と最後の3分の1ずつは、コミュニケーション能力にかかっている。”黙っていても良い物を作れば売れる”という時代は終わり、作ったものの見せ方や、伝え方と言ったマーケティング、プロモーション、プレゼンテーションの部分もデザイナーが考える必要がある。
なので…
自分は内向的だからデザイナーに向いてないと思っている方。安心してください。向いてますよ。
そもそも内向的って?
内向型の人間とは何なのか?実は、かなり誤解されやすい。
多くの人は、内向的な気質な人に対して「社会性がない」「話しかけにくい」「人付き合いが悪い」「オタク気質」といったイメージを持ちがち。この定義は外れてはいないが、実はかなり間違っている。
内向的な人と外向的な人の本当の違いは、エネルギーをどこで消費し、どこで得るかということで、スキルとはあまり関係がない。
しかし多くの人は:
- 外向的な人は陽気でコミュニケーション上手
- 内向的な人は内気でコミュ障
って考えがち。でもそれは大きな間違い。
違いはエネルギー源
従って、内向的か外向的かについては、スキルとは関係なく、エネルギー源がどこにあるか、そしてどこでエネルギーを消費するかの違いである。
内向型と外向型は、どこからエネルギーを得ているかに関係している。
内向的な人 : 一人で過ごすことでエネルギーを補給する傾向がある長時間、人と一緒にいること、特に大勢でいることでエネルギーを失ってしまう
外向的な人: 他の人からエネルギーを得る。一人でいる時間が長いとエネルギーが枯渇してしまう。社交的であることがエネルギーチャージになる
なので、究極的には一人でいるのが楽か、大勢と一緒にいるのが楽かの違いである。なので社交的かどうかとか、コミニュケーションが得意かどうかは直接関係ない。
言い方を変えると、内向的な人でも問題なく高いプレゼン力や、コミュニケーション能力を獲得することができる。ただ、意味なく大勢の人の中にいると疲れてしまうというだけだ。
どちらのタイプの人も、スキル次第で社会的な場において重要な役割を果たすことができる。
また、多くの心理学的構成要素のように、内向性か外向性かの特性はグデーションで測られ、100%内向的、100%外向的であることは非常に稀。一人の人間に両方が混在していることも珍しくない。
業界のクリエーターやリーダーの多くが内向的
世界人口の25~40%が内向的であるとの調査結果がある。なので決して珍しくはない。むしろ、現在ビジネスで活躍している人の多くが内向的な特性を持っている。例えば、
内向的な著名人:
- ティム・クック – Apple CEO
- マーク・ザッカーバーグ – Meta CEO
- イーロン・マスク – Tesla, Space-X 創業者
- ビル・ゲイツ – Microsoft 創業者
- ジェフ・ベゾス – Amazon 創業者
- ピーター・ティール – PayPal 創業者
- セルゲイ・ブリン – Google 創業者
- マリッサ・メイヤー – Yahoo 元CEO
- ウォーレン・バフェット – バークシャー・ハサウェイ CEO
- スティーブ・ウォズニアック – Apple 創業者
ちなみに、日本国内のデザイン系の会社の創業者や代表、チーフデザイナーなどの多くも内向型の人が多いと思われる。実際、後輩のGoodpatchの土屋くんやIN FOCUSの井口くんも意外と内向的だったりする。
デザイナーは外向的な方が良いという誤解の原因
デザインを正しく行うには、毎日人と話し、関係を築いていく必要がある。時には交渉が必要になってくる。また、自分のアイディアを採用してもらえるように理路整然としたプレゼンも求められる。
社内的にも、ユーザーとの対話に数日費やすことが、なぜビジネスの利益につながるのかを説明し、プロダクトマネージャーを説得しなければならない。
エンジニアには、なぜそのスタイルを修正したり、インタラクションやアニメーションを追加することでユーザーエクスペリエンスが向上するのかを理解してもらう必要がある。
このように、複数のシーンでデザイナーはデザインの品質を上げることがビジネスの利益につながる理由を説明し、プレゼンし、場合によっては活発な議論をする。
そのような仕事内容を考えると、相当なコミュニケーション能力が求められるし、聞く人を惹きつけるぐらいのカリスマ性が必要だと誤解されるのも無理がないだろう。
しかし、現在活躍している多くのデザイナーの気質は真逆であることも少なくない。
内向的な人の主な特性
内向的な人はデザインリサーチや、ユーザー理解のエリアで強みを発揮すると考えられる。具体的に内向的なタイプの人のどのような特性がデザイナーに向いているのだろうか?
- 聞き上手
- 物事を深く考える
- 観察するのが好き
- 周りの意見に流されにくい
- 己をしっかりと理解している
- 詳細に対してのこだわりがある
- 内に秘めた情熱を持っている
- 個別または少人数の会話を好む
- 人間関係に量よりも質を重要視する
- 一人で複数のアイデアを検討してから共有する
- 感情やアイデアについて静かに語り合うのが好き
考えてみれば、これらはすべて優れたデザイナーの特徴である。
優秀なデザイナーが内向的である5つの理由
次にこれら上記の内向的な特性が、デザインにおいて不利になるどころか、優秀なデザイナーになり得る理由を考察してみる。
1. デザインは少人数で行われることが多い
デザインプロセスのほとんどは、一緒に仕事をする少人数のグループやチームで行われる。最も効果的なリデザインサーチは、個人で行われる。
内向的な人は人間関係に深く投資する傾向があり、少人数で の交流からエネルギーを得ることができるため、このすべてが内向的な人 にとって有利に働く。
2. 内向的な人はデザインリサーチャー特性が高い
内向的な人はもともと聞き上手で観察力に優れているため、ユーザーリサーチャーとして最適な場合が多い。彼らは沈黙を楽しみ、リサーチセッション中に被験者を誘導することが少ない。
また、内向的な性格の人は、間が空くのを恐れず、相手のペースに合わせられるので、より詳しい情報を引き出すのが上手。また、自分が目立つのが苦手であるため、常にユーザーを主役として物事を考えるのに長けている。
3. 深い人間関係を築くことが上手なので、関係者との協働に長けている
内向的な人は1対1や少人数での交流からエネルギーを得ているため、普段から交流している人とは深い関係を築くことが多い傾向がある。
また、内向的な人は、自分の思考の中で「充電」する時間が長いので、自己認識が得意だったりもする。それにより、他者への純粋な感謝や相手への深い関心を持ち、その結果、真の意味で深い人間関係を築くことにつながる。
これによって社内外の人たちへの深い洞察力を武器に相手を理解し、優れたデザインを理解してもらうための手法を考えるのが上手である。
自分が話すことよりも、相手がどう思っているかを観察・理解するのが得意なため、チーム全体の調整にも向いている。
この特性が理由で、内向的なデザインリーダーは時にして周りをインスパイアする存在にもなり得る。
4. インサイトを深堀するのが得意で、周りの意見に左右されにくい
内向的な人の多くは、フィードバックを元にユーザーインサイトを自分自身が納得するまで深堀しないと気が済まない。この気質がデザインを考える際に大きな強みになる。
ユーザーやクライアント、経営陣からのリクエストをより深く理解し、「なぜ」そうするべきかをはっきりさせ、常にプロジェクトの全体と照らし合わせながらデザインを進める。
また、内向的な人は、誰かがアイデアを出したからといって、すぐに実行に移すということはあまりしない。あるいは、実行に移すとしても、じっくりと検討した上で、意図的に実行に移す。
そしてその特性上、内向的な人は「周りからのプレッシャーによるデザイン決定」に陥る可能性が非常に低いということ。彼らは複数の角度から慎重に検討し、自分自身が100%理解するまで考え抜く必要があるため、八方美人的な同調圧力に屈することが少ない。
全員の意見を考慮した上で、最も適切なデザインを提案する傾向がある。おそらくこれは内向的な人がデザイナーに向いている一番の理由かもしれない。
エンジニアと一緒に仕事をするのに向いている
内向的な人は、よく考えてから発言する傾向があるので、エンジニアにとっても仕事のしやすいパートナーになりやすい。
エンジニアの多くは内向的であることが多いため、自ずと内向的なデザイナーはエンジニアと一緒に仕事をするのに向いていることが多い。
彼らは話す前に考えるので、エッジケースや、特殊な利用が状況が発生した際に、UIがどのように反応すべきかについて、より徹底した思考をすることができる。
エンジニアは、このような思考プロセスを非常に高く評価してくれる。このようなエッジケースの予測は、最終的な成果物の納品スピード、信頼、品質を向上させることにつながる。
内向的なデザイナーをまとめる方法
このように、内向的なタイプの人は優れたデザイナーになる可能性を秘めている。自分はデザイナーではなくても、デザインチームや、チームのマネージャーやリーダー職についている場合は、そんな気質のデザイナーをしっかりとケアしてあげることが重要になってくる。
特に外交的な気質をもつマネージャーは、自分と異なる気質のメンバーの特性をしっかりと理解し、適切なマネージメントをしなければならないだろう。
では「適切なケア」を提供するにはどのような事に注意するべきだろうか。
まず、各メンバーが人格特性スケールのどの位置にいるのかを把握することかは始める。それにより、彼らをどのようにサポートすればよいのかが見えてくる。そして、各直属の部下とこのテーマについて話し合うこと。
そして、チーム内で内向的な傾向を持つ人を特定したら、適切な仕事の仕方とサポート方法を提供する。具体的には:
プライバシーを尊重する
必要なときには、プライバシーを守るための時間と空間を与える。Zoomミーティング中にカメラの電源を入れなかったとしても、無理に矯正しない方が良い。もしかしたら、カメラOnにするプレッシャーを感じてるだけかもしれないので。
人前で恥をかかせない
人前で恥をかくことは、多くの内向的な人が最も恐れることの一つ。思っている以上に彼らに大きなダメージを与えます。
例えそれがポジティブなフィードバックを意図していたとしても、内向的な人にとっては、人前で行われるとネガティブな体験として捉えられることもある。
新しい状況をまず観察させる
内向的な人は、観察力が優れているが、新しい環境に馴染むには時間がかかることも。新しいチームに紹介したり、新しい仕事を与えるときは、集団の中で大きな貢献を期待する前に、観察し、その場の状況を把握するための時間と空間を与えるようにするのが良い。
そうすることで、彼らは学び、考え、自分自身の見解を形成し、その後、自分の役割と価値を生み出す事につながる。
考える時間を与え、すぐに答えを求めない
新しいチームや環境に慣れた後でも、引き続き考える時間を与える。彼らにとってのフィードバックや答えを求めるときは、まずその答えを考える機会を提供する。
リーダーとして、すぐに解決策を出してほしい場合でも、焦りは禁物。内向的な人は処理する時間が必要で、長期的にみるとかなり価値のある時間となる。
相手の話を遮らない
邪魔をされるのは誰にとっても良い経験ではないが、特に内向的な人には悪い影響がある。例え異なる意見だったとしても、相手の意見に耳を傾け、よく考えてから次に進むよう、最善を尽くしたい。
これは、大きなグループでは特に重要になってくる。内向的なメンバーは、大人数の場ではエネルギーを大量消費していることを思い出そう。
予定の変更は事前に知らせる
内向的な人は、大きな変化が起こることを前もって知っていることを非常に高く評価する。
1on1などで、別のプロジェクトに移される時期や、プレゼンテーションやグループ進行の準備のための十分な時間を前もって知らせるのは、モチベーションを担保するのに大きな効果がある。
終了の15分前に知らせる
相手と話す必要があったり、何かで急に呼び出す必要がある場合、内向的な人は少なくとも15分前に今やっていることを終わらせるようにと伝えておくと喜ばれる。
新しい状況に突然放り込まれると、内向的な人には特に衝撃的が大きい。可能な限り、何か新しいことを始める前に、片付けと準備をする時間を与えよう。
改善策のフィードバックは個人的に
たとえどのようにポジティブなフィードバックをしたとしても、内向的なチームメイトに人前でフィードバックをするのはあまりおすすめしない。
フィードバックや方向性、批判は1on1などで言われた方が受け止めやすい。また、メッセージを伝えた後、相手が個人的にそれを考える時間があることを確認し、必要であれば次のステップについて後で連絡するようにする。
スキル開発は小グループで
可能な限り、トレーニング、コーチング、スキル開発は、個人または少人数で行うのがベスト。そうすることで、より多くのことを学び、より多くのことに参加し、費やした時間はより大きなリターンとなる。
また、ワークショップだけでなく、個人で行う「宿題」のような学習活動も取り入れると良い。
チーム内で気の合う「ベストフレンド」を見つけてあげる
会社やチームのカルチャー開発を行う際には、内向的な人たちだけでなく、外向的な人たちにも響くような方法を考えたい。
一つの方法として、同じような興味、背景、趣味を持つメンターやスタッフを紹介する「バディシステム」を活用する。それにより濃い人間関係が構築され、チーム全体のパフォーマンスも上がる。
友達をたくさん作ることを強制しない
社内外の人脈作りや人間関係作りに対してプレッシャーを与えない。短時間でたくさんの友人や人脈を作ろうと押しつけると、内向的な人は非常に負担に感じることがある。
特性を尊重し、無理に外向的にしようとしない
これは、リーダーとして最も重要な事柄の一つかもしれない。会社や組織では、どうしても外向的な人に注目が集まり、パフォーマンスが高いように思われる。一般的に営業や大人数の前でのワークショップなどは、外向的な人の方が特性が合っている。
内向的な人を外向的な人と同じように扱おうとすると、燃え尽き、フラストレーション、仕事の質の低下、そして全体的な精神的健康が損なわれることにつながる。
まとめ: 内向的でも優れたデザイナーになれる!
感情やアイデアについて静かに語り合うのが好きで、大勢の聴衆の前で素晴らしいプレゼンテーションをすることができるのに、集団の中ではぎこちなく、世間話が苦手な人に会ったことはないだろうか? 世の中の多くの優れたデザイナーはそんな特性を持っている。
もし自分自身が内向的で、デザイナーとしての特性に疑問を感じているとすれば、その必要はない。むしろ、その気質はデザイナーに向いている。現代のビジネスシーンでは、何かと社交的な人が注目されがちであるが、内向的な人も同等かそれ以上の価値がある。
特にデザイナーの仕事内容を考えてみると、下手なキラキラよりも、地味だけどじっくりと物事の本質を見抜ける人の方が適している。また、社交的で、リーダーのポジションにいる人は、ぜひ内向的なデザイナーたちを上手にサポートしていただけると、チームのパフォーマンスがより向上するだろう。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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