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インスパイアとパクリの境界線 〜 どこからがアウト?
サンフランシスコの大学でデザインを学んでいた際に、初日に現役デザイナーの先生が生徒に放った一言が今でも忘れられない。
それは、
Nothing is original, it’s all been done before.
(オリジナルなんてあり得ない。すでに誰かが以前に作っている)
デザインを学ぼうとしているのに、何だこのモチベーションを下げるアドバイスは。
しかし彼によると、どれだけ頑張ってオリジナルなデザインをしたと思ったところで、絶対にすでにどこかで似たようなデザインが存在するとのこと。
これはどういうことなのだろうか。オリジナルの作品を作ることは無理ということか。
しかしその一方で、もちろん模倣は絶対に禁止。真似をするのはダメだが、全てをオリジナルで作る必要もない。インスパイアは受けるべきだが、パクリはNG. なかなか難しい境界線である。
これは、デザインに関する話になると必ず議論になるトピックでもある。
「優れた芸術家は模倣し、偉大な芸術家は盗む」
これはスティーブ・ジョブスが引用したことで世の中に広く知れ渡った表現で、画家のパブロ・ピカソも語っていたとされる。人類の歴史を見ても、もっともクリエイティブとされるこの二人が、ものづくりとは“盗む”ことから始まる、と発言しているのは非常に興味深い。
そしてさらに、実は他の偉人も近い事柄を発言していることがわかった。例えば:
- “クリエイティブである一番の秘訣はその元ネタがバレないことだ” by アインシュタイン
- “何もまねしたくないなんて言っている人間は、何も作れない” by サルバドール・ダリ
などがそうである。確かに自分自身も以前に「クリエイティブなことがそんなにも凄いのか」にて下記のように書いたことを思い出した。
僕たちのような人種、いわゆるデザイナーやクリエイターと呼ばれる人達の中にはオリジナリティがある者こそ偉く、既存のものを改善したり、模倣したりする人々を軽蔑するタイプの人もいる。
でも、その軽蔑している人々が創り出すものは、誰にも相手にされずに自己満足で終わってしまうケースが少なくない。
しかし彼らはそれでも頑なに”オリジナル”であることにこだわる。しかし、どんなにクリエイティブであっても、多くの人の注目を集めず、世の中に対してほとんど影響を与えることが出来ないプロダクトにどんな存在意義があるのであろうか。
アイディアを盗むことには躊躇しなかったが、パクられてブチギレたジョブス
上記の通り、新しいものを作り出す際に、積極的に他のアイディアを取り込んでいたジョブスは、以前のインタビューで、下記の通り語っている。
“特に初期の頃に我々は良いアイディアを盗むことに関しては全く躊躇しなかった”
しかしその一方で、MacやiPhoneなどの革新的なプロダクトをリリースしたが、Windowsを知った時には完全にMacのパクリだと激昂し、Androidに対しては核戦争を起こしてでも叩き潰すとまで宣言していた。
それくらい、自分たちの“発明”がパクられることに関しては神経質なくらいに敏感であった。これはなかなか難しい問題に感じる。なぜなら、本人は”インスパイアされた”と主張しても、相手は“パクられた”と感じてしまうこともあるからである。
パクリに超敏感なディズニー
コンテンツの版権管理に厳しいことで有名なディズニー。しかし、その多くのストーリーは、白雪姫や、ピノキオや、不思議の国のアリスなどのパブリック版権をベースにしている。その一方で、自分たちのコンテンツに対しては厳しい利用規制を設けているのが面白い。
なぜ人はパクりたくなるのか?
そもそもなぜ“パクリ”が発生してしまうのだろうか?その理由としては、おそらく下記が挙げられるだろう。
- デザイン工程が短縮され、コストが低くなる
- すでに人々に受け入れられているベストプラクティスだから
- 脳裏に残っていた形が無意識のうちにアウトプットされた
- 機能性を追求していったところ、自ずと同じような造形になった
- ソフトウェアのコードなど、一から書くと効率が悪いから
- オリジナルを利用するとライセンス料がかかるから
- リスペクトからくるオマージュ
なぜパクリがいけないのか
では、そもそもなぜパクリがいけないのだろうか?そもそも、国や文化によってはパクることが必ずしも悪いこととされていない場合もある。
しかし、日本やアメリカなどの先進国を中心に、一般的にパクリやコピーは良くないこと、や場合によっては違法だとされるケースが多い。それを体系化したのが、コピーライトや知的財産権のコンセプトだろう。
すなわち、時間や労力をかけ、血の滲む思いで作り出したクリエイターの努力を保護するためにそれは存在する。
パクられの定番 “I ♥ NY”
このコピーライトのコンセプトを一番理解しやすいケースの一つが、”I ♥ NY”だろう。恐らく皆さんもどこかで見たことのあるこのデザイン。
このアートワークはもともと、1977にニューヨーク市をプロモーションするための広告キャンペーンのために、デザイナーのMilton Glaserがデザインしたもの。実はこのロゴ、製作者のGlaserは1ドルも得ていないのである。
それも、この広告を担当した代理店に対して、彼が“ボランティア”で提供したから。もちろん現在ではその利用に関しては管理されているが、当のクリエイターには全くお金が入らない状態だったのが皮肉である。
それだけではない、皆さんもご存知かもしれないが、このデザインを元に、別の都市バージョンなどもたくさん存在し、今ではTシャツやマグカップに印刷され、お土産やさんの定番アイテムとなっている。まさに、パクられの定番ケースとも言えるだろう。
日本と中国のお菓子は酷似しているものが多い
アメリカのアジア系スーパーマーケットに行くと、日本のお菓子と中国のお菓子が並べれていることが多い。そしてそのパッケージから中身までかなり似ているものが多いことに気づく。ただ、中国のお菓子の方が少し安い。
最近は韓国のお菓子も日本から “インスパイア” されている
日本のお菓子のクオリティの高さはかなりのもので、お隣の、韓国のお菓子にもかなり似通ったものが多い。パッケージだけではなく、その形状や味までもが「完コピ」されてたりする。
Tinder UI/UX パクリかも?事件
ここ最近のパクリに関する例だと、TinderのUIとUXのパクリ (かも) 事件が挙げられる。これは、実はインスパイアなのか、パクリなのかに関しては論争中である。
簡単に説明すると、Tinderのファウンダー同士が仲間割れして、そのあとの泥沼バタバタ劇の後、Whitney Wolfeが退職し、新しく立ち上げたBumbleというアプリのUIがTinderのインターフェースと動き(UX)をパクったとして訴訟されている事件である。
Arial vs Helvetica 論争
もう一つの“パクリ”疑惑で有名なのがタイプフェイスの“Arial”と”Helvetica”を巡る論争だろう。「美しいデザインを作る鍵「タイポグラフィ」基礎の基礎」でも紹介されているとおり、それぞれが、WindowsとMacの定番フォントになっている。
しかしこの二つ、その識別をするのが難しいぐらい非常に似通っている。Helveticaはもともと1957年にMax Miedingerによってデザインされた。
Arialはというと、 1982年にRobin NicholasとPatricia Saundersによってデザインされたことからもわかる通り、Helveticaよりもかなり後である。
その当時、IBMやMicrosoftがHelvaticaの利用ライセンス費を回避するためにArialが開発されたとされる説もあるぐらいに、この二つは酷似しており、多くのデザイナーの中には「ArialはHelveticaのパクリである」とする人も多い。
AirbnbもNetflixも自社フォントを開発
実はこのArial発明のモチベーションに近い事例が最近でも起こっている。AirbnbやNetflixといった、いわゆる「デザインドリブン」なスタートアップたちがこぞって自社フォントをデザインしているのだ。
これも、デジタルプラットフォームを中心にサービスを提供するに当たり、フォントの利用ライセンス費用を節約することと、タイプフェイスにも自社のアイデンティティを表現し、ユーザーへの価値向上を目指した例でもある。
クリエイティブにはインスパイアが欠かせない
冒頭にある通り、もしかしたら今の時代、どれだけ頑張っても100%オリジナルということは無いのかもしれない。
それは偶然の一致かもしれないし、意図的な理由かもしれない。どちらにしろ、全くのゼロからよりも、何かにインスパイアされて創り出す方が良い結果に結びつくことも多い。
そもそも、言葉もアートも音楽も、そしてデザインも全ては真似ることから始まる。画家も文字通りの“模写”である、デッサンから始まる。逆に、真似もできないのにオリジナル作品を作るのは、ほぼ無理な気がする。
その点に関しては、ソフトウェアも、ビジネスモデルだってそうなのかしれない。そもそも、突発的に全く新しいアイディアが生み出されることはほぼない。
参考: バナナは最高のUX – 自然界に学ぶデザイン【バイオミミクリー 】
エジソンは電球を発明していない!?
エジソンといえば、電球を発明した世界一の発明家と思っていたが、実は電球は彼が発明したものではない説が有力になっている。最初に電球に作って特許を取得したのはイギリスのジョセフスワンで、エジソンは実用化したに過ぎないとのこと。
電球自体はすでに発明されていたが、エジソンはそれをより実用化させるために、6,000種類もの素材を試したのちに、フィラメントを利用した電気ランプを生み出した。厳密にいうと元々あった電球の”改良版”であった。
エジソン以外にも下記の様なインスパイアからの”発明”の例がある。
ジェームス・ワット:
トーマス・ニューコメンの蒸気機関の修理を元に12年の歳月を掛け自身の改良版を製作し、産業革命を生み出した
クリストファー・レイサム・ショールズ:
ピアノからインスパイアされ、現代のQWERTYレイアウトのタイプライターを発明
GUIとマウスを実用化し、パソコン普及させたApple
これも業界ではとても有名な話であるが、AppleはOSのインターフェイスもマウスも“発明”していない。元々は、ゼロックスが開発していたAltoが世界初のグラフィカルユーザーインターフェース (GUI)とマウスの前身となるポインターデバイスを実装した先進的なコンピューターを生み出した。
Altoは実験的プロダクトで一般的には販売されていなかったが、Xeroxはその後1981年にプロフェッショナル向けにStar 8010を発売. これはMacが発売される実に3年も前のことである。
それらを目の当たりにし、感動したジョブスが、そのコンセプトを自社のOSのハードウェアに採用したことで革命が起きた。
ただそれは単なるパクリではなく、様々な改良を施したからこそ出た結果である。例えば、ウィンドウ上部に固定のメニューバーを設置し、ファイル消去の際のゴミ箱も追加した。マウスも2ボタンからシンプルで使いやすい1ボタンのものに改良した。
これは、AltoのGUIを元にしたOSをLisaとMacintoshに搭載したことでパーソナルコンピューターに革命が起こったという、優れたインスパイアがあったからこそ、世界を変えるプロダクトが生み出された例である。
その後も、ジョブスおよび、AppleはSONYからもかなりインスパイアを受け、家に置いておいても可愛いデザインのパソコンを生み出した。
これは、彼がMacのデザインをfrogに発注した際に”SONYがパソコンを作った感じのデザイン“とリクエストしたことからも理解できる。Appleが行ったことはパソコンと家電の融合である。それが彼らのオリジナリティーになった。
融合することでオリジナルでなくても新しいモノが生み出される
このAppleの例からもわかる通り、全くオリジナルでなくとも、何かと何かを融合 (フュージョン) することで、全く新しいコンセプトのイノベーションが生み出されることもある。そしてその融合されるもの同士は、なるべく異なる方がよりユニークなモノが生み出される。
この辺りが、模倣 (パクリ) とインスパイアの違いなのかもしれない。全く同じものをまるパクリするのは良くないが、それを少し変換すると改善版ができ、そして複数のモノを融合すればよりイノベーティブなモノが出来上がる。リストにしてみるとこんな感じだろうか。
- 模倣 – ダメゼッタイ
- 変換 – まあまあok
- 融合 – かなり良い
複数の構成要素を融合して生み出された新しいプロダクト例
この様に複数の要素を複合することで新たなイノベーションが生み出されることもある。下記に紹介するのは、すでに発明されていた技術を融合したことで発明されたプロダクトである。
グーテンベルクの活版印刷: 1440年
- 活版印刷: 1040年
- スクリュープレス: 1年
- インク: 紀元前180年
- 紙: 紀元前1800年
フォードモデルTの大量生産開始: 1908年
- アッセンブリーライン: 1867年
- 互換性部品: 1801年
- 自動車: 1885年
そして、現代におけるTeslaも既存の自動車に、ソフトウェアとインターネットを融合して生み出された新しいタイプのプロダクトであると言えるだろう。
事業におけるインスパイアの定番、タイムマシン型ビジネス
インスパイアが重要なのは、デザインやプロダクトだけでは無い。ビジネスモデルもそうである。特に最近であれば、すでにアメリカ西海岸で人気のあるサービスを元に、その“日本版”を展開している例も多々見受けられる。
例えば、グルーポンにインスパイアされたポンパレ、日本版のVenmoに当たるPaymo, Mediumを参考にしたnote、DogVacayのコンセプトを日本向けに展開しているDogHuggy, GREEによる日本版Hotel TonightのTonightなどがそうだろう。
これらは、すでに海外で”ニーズがある”ことが実証されている様なビジネスをその後、日本向けに“リメイク版”を展開する、タイムマシン型ビジネスとも呼ばれている。決してイノベーティブではないかもしれないが、手堅いビジネスモデルの作り方ではあるかもしれない。
ハリウッドのヒット作もリメイクだらけ
実は、映画業界ではリメイクやリミックス、インスパイア系がかなり主流になってきている。特に最近のヒット作のその多くはリメイク作品。ハリウッドにおける過去10年間の興行収入Top 100作品のうち、74作は過去作品のリメイクか続編か他媒体からの映画化作品である。
例えば、猿の惑星やキングコング、ブレードランナーなどがそうである。カリブの海賊なんかは、元々テーマパークのアトラクションを映画化したもののリメイクだし、トランスフォーマーの元ネタはおもちゃである。
この様に、元々あるコンテンツをリメイクやリミックスすることで新しい価値を生み出す、Repurposingという概念が普及している。
インスパイアの宝庫スターウォーズ
おそらく数ある映画の中で、最も多くの作品からのインスパイアを取り入れているのが、スターウォーズシリーズだろう。監督のジョージ・ルーカスは元々黒澤明の大ファンであることは公言しているし、コアな映画ファンから見ると、かなり他の作人のオマージュっぽいシーン満載らしい。
例えば、オープニングの立体的に文字が流れるのはフラッシュゴードンのオープニングにそっくりだし、ダースベーダーとオビワンの対決シーンは、黒澤作品の隠し砦の三悪人をモデルにしている。
パクリ、インスパイア、オマージュ、リスペクト、パロディーの違いは?
ここまでくると、境界線がわかりにくくなってくる。そして、パクリとインスパイアの他に、オマージュやリスペクト、そしてパロディーまで入ってくると、その微妙な差が曖昧になりがち。では、それぞれに対してのクリエイター側の狙いをベースに検証してみよう。
クリエーターの狙い:
- パクリ: バレたら困る
- インスパイア: バレた時の言い訳として使う
- オマージュ: わかる人にだけにわかってもらいたい
- リスペクト: 他のクリエイターに気づいて欲しい
- パロディー: バレなきゃ困る
アイディア vs 行動
そもそもアイディアにおけるパクるパクられるの概念はなんなのであろうか?「あれ、元々は俺のアイディアだったんだよ」っていう人は多いが、結局は考える、言う、だけではなく、行動に移して実現した方が正しい様な気がする。
それでもパクリ論争は絶えない
特にアートの世界では、かなり定期的にパクリなのかインスパイアなのかの論争や、議論が繰り返されている。広告、CDジャケット、ポスターなどはその中心だろう。下記はオリジナルのクリエーターからいちゃもんが入っている例。
結局インスパイアとパクリの違いは?
で、結局どこからどこまでがインスパイアでパクリなのか?おそらく完璧な模倣だと良くないが、フュージョンやリメイク、リミックスであれば新しいものが生まれ、人類の進化につながるのではないかと思われる。
簡単に言うと:
- インスパイア: プラスαを加えたり、融合することでイノベーションへを生み出すきっかけになる
- パクリ: 完全模倣で、オリジナルに勝てない劣化版
なのかもしれない。
気をつけなければならないのは、インターネットが普及した現代では、以前よりも、よりパクりやすくなったということ。それを逆手にとって、誰でも利用できるオープンソースなどが出てくるで、加速度的に世の中が進化するようになった。
今後はブロックチェーンなどのテクノロジーを活用した版権管理などが進む見込みでもある。
しかし、実は本当のオリジナルは、自然界だけなのではないかとも考えられる。でも、それでもやはり、前の世代からのコピーx環境による調整に他ならない。我々人間だって、親や祖先からのリミックス作品であることは間違いないのだから。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax
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