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イノベーション=技術革新はもう古い!新たな価値を創造した9事例
生き残りをかけてイノベーション担当部署が多くの企業で創設されている。イノベーションの必要性が社内でも議論し始められ、そもそもイノベーションとは?と改めて問い直している読者も多いかもしれない。
iPodやAirbnb、Facebookがイノベーションの事例として挙げられることも多いが、それらに匹敵するようなアイデアが生まれるとは思えないという声もクライアント企業からよく聞く。
しかし、これらのような社会のあり方を大きく変えるようなサービスを生み出すことだけが果たしてイノベーションなのだろうか?そもそもイノベーションとは何なのか、イノベーティブなサービスやプロダクトとはどのように作られているのか、ここでは具体的な事例を9つ取り上げながら考えていく。
今の時代に求められる「イノベーション」とは?
「イノベーション」という言葉をGoogle検索すると、シュンペーターの理論やクリステンセン氏による「イノベーションのジレンマ」の解説などと並び、「社会のあり方を変えるような発明」や「組織における変革」と様々な説明を目にする。
これまでイノベーションは単に「技術革新」と訳されてきていたが、そんな時代もすでに終わりを迎えた印象だ。弊社CEOのブランドンも以下のようにイノベーションを定義している。
「新しい価値の創造」ー Brandon. K. Hill
「イノベーション」の定義が「技術」から「世の中にもたらす価値」の変革に遷移してきているのには訳がある。近年、モノづくりの起点や人々が価値を感じる対象が変わってきているからだ。
これまで良いモノづくりといえば、最先端の技術を商品に落とし込んでいくというアプローチが主流だった。しかし、現在のモノづくりでは社会的な課題に対してどのようなアプローチやソリューションを取るかを起点に始まることが増えている。
人々の購買欲求に関しても、単純にスペックが高い商品に惹かれるという時代は終わり、顧客の興味は、その商品によってどんな意義のある体験を得られるかという点に完全に移り変わっているのである。
イノベーションは必ずしも「破壊的」である必要はない
iPodが音楽をオンラインからダウンロードするのを当たり前のものとしたり、Airbnbがホテル以外の新しい宿泊先を社会に提案したりと、これまでの業界のあり方を覆すようなものがイノベーションと捉えられることも多い。
しかし、それはあくまでイノベーションの一片に過ぎない。これまでのあり方を必ずしも「破壊」することが、イノベーションとして求められている訳ではない。
ここからは、必ずしも何かを破壊するわけではなく、社会に新しい価値を提案したイノベーション事例を9つ紹介していく。
新しい価値を提案したイノベーション事例
1. LGのRoll Up Television
LGのRoll Up Television(正式名称 LG Signature OLED TV)は、先日のCES2019で紹介され話題になった。これは、テレビは据え置きする家具であるというこれまでの概念を覆し、必要なときに必要な分だけ画面をロールアップして出すという新しいテレビ。画面を数インチだけ引き出して、テロップのようにニュースや天気情報を表示するという使い方もできるようだ。
プロモーション動画では、大きな窓を背景にこのテレビが設置されているが、大きなテレビを設置できるような壁面が部屋にない場合や、景観をテレビに邪魔されたくないといった消費者の悩みを解決するために作られたようにも見ることができるだろう。このプロダクトが提示しているのは「テレビは必要なときだけ取り出すもの」という新たな価値観だ。
2. GoPro
GoProは、新しい価値を社会に提案したイノベーション事例の1つだ。徐々に動画の質を向上させているGoProだが、発売当初は業界的に言えばそれほど特別な技術を搭載させているカメラとは捉えられていなかったはずだ。
ズームアップの機能もほとんど無いGoProだが、独特の魚眼レンズを用い、自分の見た世界をそのまま切り取ったように、他人に共有することができる。また、GoProはアクションカメラとして売られている商品だが、その最たる特長はソーシャルへの共有が簡単だという点だろう。
これまでのビデオカメラは、画質のクオリティに注力されることが多く、動画ファイルも重すぎてコンピューターへの移行も時間がかかった。それに比べGoProは、スマートフォンと簡単に連動して、即時にショートフィルムを作ったり、YoutubeやInstagramへのアップロードも信じられないほど簡単にこなせてしまう。
GoProは、ビデオカメラの価値を「自分が見た世界をそのまま共有する」こととして新たな提案を行ったのである。
3. Starbucks App
アメリカでは2011年からサービスが始まったStarbucksのモバイルアプリは、モバイル上での支払いや事前注文を可能にした。Starbucksといえば、顧客とバリスタとのコミュニケーションを重要視していることで有名だが、このアプリでは店頭に着いたらすぐに商品をピックアップできるという新たな価値を提案した。
Starbucksは、多くの消費者の中で、コーヒーを購入するという行為が出社前のルーティンになっているということに注目したのだろう。
また、Starbucksのモバイルアプリは、スピーディーなコーヒーのピックアップ自体だけでなく、そのUIにも小さなイノベーションを見せている。例えば、アプリ内のOrderのタブをタップして1番最初に表示されるのは、グランドメニューではなく、それまでに購入した商品の履歴。
たくさんの選択肢があっても、結局複数の同じ商品の中からリピートして注文する人がほとんどであるという事実をもとに、商品購入までのステップに小さなイノベーションを起こしたのがこのUIだ。
4. ウォータータンク Wello
Welloは、インドの開発が行き届いていない地域での水の生活利用にイノベーションを起こしたウォータータンクだ。Catapult Designという社会貢献のためのプロジェクトに注力するデザイン会社によって最初のプロトタイプが作られた。
Welloが誕生するまで、インドのラジャスタン州のある地区では、女性や子供が1日の最低でも4分の1の時間を水汲みに費やしていた。それまで汲んだ水は瓶に入れて頭に載せたり脇に抱えたりして1日に何度も運ばれていたが、Welloはタンク自体が、タイヤのようになっており、ハンドルを握って転がすことで1度に45Lの水を運ぶことができる。
この地域では、浄水施設のある水汲み場を新しく建設しても、水汲みの負担が大きさから、衛生面よりも距離を重視して、より近場に設置されている非浄水施設から水を調達し続けたり、水の利用を制限しようとしたりする住民が多く、公衆衛生の向上に苦労していた。
しかしWelloによって、より多くの住民が清潔な水にアクセスしやすくなり、地域全体の衛生状況の改善に成功したのである。
Welloは特別難しいテクノロジーを使っているわけではないが、利用者の生活に着目してウォーターボトルに工夫を施すことで、綺麗な水を気軽に使うという新たな価値観を開発途上地域に提案した。
5. Nurx
Nurxは、避妊用ピルのオンラインサブスクリプションサービスを提供するサンフランシスコ拠点のスタートアップだ。各オンライン記事でも、2019年に注目すべきスタートアップとして取り上げられている。
これまで避妊用ピルといえば、毎月婦人科や薬局を訪れる手間があり、うっかりストックが切れてしまうということもよくある問題だった。しかし、Nurxのサービスは毎月自動的にピルを自宅に届けてくれるのでその心配はいらない。オンラインで申し込むことができるので、ピルの利用を開始するハードルもグッと下げている。
オンラインとはいえど、何か懸念があれば医師にメッセージまたは直接相談できるサービスも併せており安心だ。最近では、HIV感染予防薬のサブスクリプションもサービスとして開始準備を始めており、性に関する健康は身近で気軽なものであるべきという価値をNurxは提案している。
6. Fortified Bicycle
Fortified Bicycleが提供しているのは、盗まれない自転車。日本でも自転車の盗難というのは後を絶たない問題ではあるが、アメリカにおいての自転車盗難の問題はさらに深刻だ。
車体はしっかりスタンドに固定されていても、タイヤやサドル、ライトといった部品が取り外されて転売されてしまうというケースがかなり多く、どうせ盗まれるなら普段使いに高価なものは買わないという声はよく聞く。
しかし、Fortified Bicycleは、特別な鍵を使わないと外せないネジを車体に採用しているため、サドルやタイヤなどが勝手に外されてしまう心配は不要だ。
盗難防止を現在のレベルまでに徹底させるために、付属ライトの開発に30回以上、車体本体には8回以上のイテレーションを繰り返しているのだそう。Fortified Bicycleは盗難されにくいU型ロックも開発している。これらの購入は全てAmazonから可能だ。
自転車は盗難されてしまうものという前提姿勢の人々に対して、盗難されない自転車を買うという新しい価値を提案しているのがFortified Bicycleだ。
7. YubiKey
スウェーデン発のスタートアップYubicoはパソコンやモバイルの鍵、YubiKeyを開発している。彼らが提案するのは、パスワードを記憶しない新しいセキュリティロックの在り方だ。
これまで、MacやWindowsなどの機器やGmail, Facebook, Githubなどのサービスのログインには、パスワードを使用することが当たり前だったが、YubiKeyをUSBポートに差し込みログイン時にタップすると、パスワードなしでログインが可能だ。他にもNFC対応のラインナップもある。またYubiKeyはパソコンだけでなく、モバイルにも対応している。
同社はスウェーデンの企業でありながら、AppleやGoogleなどパートナー企業との協業も重要だったことから、開発はシリコンバレーで行ったそう。YubiKeyは、パスワード忘れによるヘルプデスクへの連絡が多くなりがちなユーザーのフラストレーションに注目したプロダクトとも言えるだろう。
8. OKINO
OKINOは、サーフィンとヨガをどちらも楽しめる新しいレギンスを展開するブランドだ。自身もサーフィンとヨガを楽しむ創業者が、ヨガをライフワークに実践するサーファーは実はかなり多いという点に目をつけ、どちらにも使えるレギンスの開発に思い至ったそう。
OKINOのレギンスは、スピーディーに乾燥する素材、砂が入りづらい足首周り構造、動きやすさを重視した縫い合わせなど工夫を凝らしている。また、海の中で物がなくならないよう、レギンスの内側にポケットとキーホルダーも施されていたり、日焼け防止のためにSPF50+の生地が採用されたりもしている。
これらの機能を実現し、OKINOは、海から上がってそのままヨガスタジオへ向かうという新しい習慣を提案している。
番外編 From Japan:亀田製菓の柿の種マシーン フリカキックス
最後に、日本からもイノベーティブな商品が登場していたので紹介したい。昨年、亀田製菓が製造、販売にまで持ち込んだ柿の種マシーン フリカキックスは、柿の種を砕いてご飯にかけるふりかけを作る機械だ。
新たな食べ方や挑戦を発信していくKAKITANEX LABOの取り組みで、消費者から柿の種の食べ方などを募る取り組みを行っているが、かなり多くの人が商品を砕いて別のレシピに用いているということに注目したそう。
ここですごいのは、メーカーとしてタブーと考えられ続けてきた「出来上がり商品を砕く」という行為を通して、会社として「柿の種をお菓子から食事に」という新たな価値を提案したことだ。
一見、冗談とも捉えられかねない商品だが、これによって亀田製菓は確実に新たな売り上げや消費者に対する商品品質理解に繋げている。
イノベーションはユーザーから生まれる
イノベーションに大切なのは、社会に新たな価値を提案して、人々の生活に変化を与えることだ。
また、ここで紹介してきたイノベーションを注視してみると、開発者たちは、いかに新しい技術を商品化するかというよりは、いかに人々の問題を解決するような新しい価値を提供するかというところに注力しているように感じられる。
そして、その誕生背景に着目してみると、どれもが人々のニーズ起点で生まれた製品やサービスであるということがわかるのではないだろうか。
人々が本当に必要とするニーズは、一見現状で間に合っているような場面やこんなものだ…と皆が諦めているような状況にこそ潜んでいる可能性は高そうだ。
イノベーション創出の第1歩として、普段の生活の中から人々をよく観察し、必要とされている新たな価値を探るところからスタートしてみてはどうだろうか。
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