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【医療テック×UX】スタートアップが変えた私達のヘルスケア体験
近年、医療技術は発達し続けているが、実際の生活で使う医療サービスのUXは同じくらい優れているだろうか。
予約がなかなか取れなかったり、病院でも待たされたり、同じ薬を処方してもらうためにまた予約して病院に行く必要があったりと、これらのペインが未だに多く残っているのではないだろうか。
さらに医療費の高騰、治療格差などアメリカ全土で抱える問題は山積みだが、ここサンフランシスコではこのような問題に着目した多くの医療系スタートアップがしのぎを削っている。彼らは医療技術の向上を図りつつも、患者と医者にとってメリットの高いサービスの提供を目指してきた。
そこで今回は我々の生活を変えつつある医療テックのスタートアップを紹介したい。
可動式クリニックで職場の近くで治療を受けることを可能にした歯科スタートアップ
Studio Dental(スタジオ・デンタル)
アメリカ人は歯に対する美意識が高い。治療だけでなく歯並びの矯正やホワイトニングなど見た目のための治療も非常に一般的である。サンフランシスコも例外ではないわけだが、ここにはよりハイテクな歯科サービスがある。
歯医者のUberとも呼ばれる、固定オフィスを持たないトレーラー歯医者であるStudio Dentalだ。Studio Dentalは2013年にサンフランシスコで創業したデンタルスタートアップである。
サンフランシスコのSoMaエリアと呼ばれるスタートアップを中心としたビジネス街で、38フィート(約12メートル)ほどのトレーラー式オフィスから歯科医療を提供している。
主なターゲットはSoMaエリアのGoogle、Airbnb、Salesforceといった大手テック企業の従業員だ。これら企業の従業員は充実した福利厚生のおかげでオフィス内、もしくは近辺で福利厚生サービスを受けることに慣れている。
そうなると、予約や病院までの移動、さらに病院で待機など長い時間を取られると、歯医者に行くことがさらに億劫な作業になる。そこで彼らの職場から近い距離に病院を設け、それも新しくオフィスを建てることなく歯科医療を提供することでこの悩みを解消しようということになった。
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トレーラー購入資金については、クラウドファンディングプラットフォームであるIndigogoを通して4万ドルの調達に成功した。またトレーラー内のデザインは「世界でもっともクールなオフィス」として受賞歴もある建築会社のMontalba Architectsによって作られた。
Studio Dentalを実際に体験
筆者も実際に利用してみたが、内装や器具は実店舗型歯医者と何ら変わらない感じになっている(もちろん広さは異なる)。さらにスマートな治療体験のため、予約はもちろんオンラインから可能であったり、トレーラー内のオフィスの受付スタッフがリモートだったり、問診票はタブレットに入力したりと工夫がみられた。
驚くような最新技術があるわけではないが、そこには治療サービスをどのように患者に届けるか考えられた体験があった。現在はサンフランシスコのみの展開だが、このような方法はいろんな都市、地域に適用できるのではないだろうか。
病院とのシームレスなやりとりとAIによる予防治療で優位性を高める
One Medical(ワン・メディカル)
従来の病院とのやりとりにメスを入れたサービスがある。One Medicalは会員制の医療サービスプラットフォームである。年会費は149ドル。同日予約、24時間対応のビデオ電話による問診、検診のリマインダーなどが一元化されており、オンラインであればモバイルからも治療を受けることができる。
もともとは個人向けサービスだったが、数年前からUberやAdobeといった企業向けサービスとしても拡大しており、今年さらに3億5000万ドルの資金調達を達成した。今後今ある72のオフィスを2倍近くまで増やす予定だという。
注目なのは医療技術の向上とはまた違った角度から治療の質を改善しようと試みている点ではないだろうか。One Medicalのネットワークは、まず病院での長い待ち時間を解消し、医者が患者一人あたりに充てられる治療時間をちゃんと確保することを可能にした。
実際に診察・治療予約の95%は時間通り、もしくはそれよりも早く開始され、医者一人あたりが担当する患者数を従来の病院よりも35%減らし、患者一人に充てる時間を増やしたそうだ。
さらにシームレスな治療体験を提供することでもサービスの向上に貢献している。One Medicalを使ったサービスは問診以外のほとんどをオンラインで受けることができる。自分の治療履歴をアプリで確認できるほか、いつも飲む処方薬の依頼もアプリから行うことができるようになっている。
これはつまり病院側もほぼ全ての治療をオンラインで処理することができるということだ。
オンライン処方薬リクエストからAIによる予防治療といった新たな取り組みへ
このような取り組みはアメリカで広がりつつある。大手薬局のWalgreensやCVS pharmacyも同社のアプリやテキストメッセージによる処方薬のリクエストを受け付け、その後指定した店舗での受け渡しを行っている。今まで病院で行っていたやりとりのオンライン化は受け入れられつつあるといえる。
またOne MedicalはAIを使った予防治療にも注力をしている。独自のアルゴリスムとマシンラーニング技術を使って治療実績から病気などの防止に役立てるという取り組みだ。
以前、「2017年に注目されたイノベーティブな米国スタートアップ5選」で紹介した未来の病院と呼ばれるForwardやCircle Medicalも競合になるわけだが、One Medicalはこれら競合に勝つために、今まで医療業界で解決が難しいと言われてきた問題に取り組んでいく方針だ。その問題というのは患者の過去の治療履歴を全て集めることだ。
このデータを集めるには様々な保険会社が管理している複雑な情報を処理する必要があり、アメリカのヘルスケアシステムでは解決が困難と言われてきた。One Medicalは、自社プラットフォームでこの複雑な情報をさっと読み込み、患者により良い治療を提供するための処置まで提示できるよう技術革新を急いでいる。
オンラインのみでもパーソナライズした治療の提供が可能に
Curology(キュロロジー)
もはや医者に会うことすらせずに治療をうけることができるサービスもある。企業側が病院を介すことなく治療サービスを提供しているため、医療のD2C(Direct To Consumer)と呼ばれることもある。
このうちの一つに、ニキビ予防やアンチエジング向けのカスタマイズスキンケアの提供をしているCurologyがある。
Curologyではウェブサイトから肌の悩みに関する質問に答え、肌の写真も送ることになっている。このデータを皮膚科医が診断し、各個人向け適した洗顔、化粧落とし、乳液を作る。ユーザーはこれをサブスクリプション式に購入する仕組みだ。
スキンケア業界は2021年までに市場規模が1,350億ドルにまでなると予測されているが、一方で患者36,000人あたりにに1人の皮膚科医しかおらず、不足しているのが実態。治療を受けづらくなり、医療費の高騰に繋がっているのだ。
このような状況の中、皮膚科医による直接の診察なしに自分にあった基礎化粧品が購入できるサービスが受け入れられているのは納得できる。
さらにCurologyは医者を直接介さないからといって、サービスの質を落とすことはしない。皮膚の悩みに関するデータを集めたあと、悩みの分野に基づいてその専門領域の皮膚科医が担当として選ばれるのだが、サブスクリプションプランにはその担当医による個別対応サービスも含まれているのだ。
そしてその価格は毎月約20ドル〜になっており、ニキビに悩む10代にも手が届く、安心のサービスと言える。
Smile Direct Club(スマイル・ダイレクト・クラブ)
このような医療系D2Cブランドは歯の矯正治療にも広がりを見せている。ほとんど検診に行くことなく治療が完了することができるようになったのだ。矯正のD2Cブランドだけでもすでにいくつか存在しているが、その中でも一番多くの投資を受け注目されているのがSmile Direct Clubである。
前にも述べた通り、アメリカでは歯の手入れに対する意識が日本よりも高く、小・中・高校生で歯科矯正をする人が非常に多い。矯正が日本よりも一般的であるものの、その費用は決して安くはなく、多くて70万円ほどすると言われている。
それでも矯正をする人が多数なので、大人になってから歯並びがあまりにも整っていないと、経済的に貧しい家庭の出身なのかと認識されることがあると聞くくらいだ。
このような需要がある中、Smile Direct Clubでは診察は最初の1回だけという気軽さと約19万円という良心的な価格が受け、すでに30万人以上の治療を行ってきたという。
もはや歯科治療を受けているという感覚は少ない
筆者もSmile Direct Clubを実際に使って治療をうけたが、1度も歯科医と顔を合わせることなく、6ヶ月で治療が完了した。最初に1度だけクリニックに行き、歯の3Dスキャンをとって、あとは自宅で矯正器具がとどくのを待つだけであった。
しかもそのクリニックはサンフランシスコの大手コワーキングスペースであるWeWorkに入っている。
後日、歯科医に送られた3Dスキャンデータが診断され、それを元に矯正するシミュレーションができたら、マウスピースのような器具を製造・発送してくれるというプロセスだ。
6ヶ月分の器具はいっぺんに届いたが、ほぼ毎週ある器具付け替えのタイミングではリマインドのメールもきた。
利用してみて、筆者が日本で歯科矯正をしたことのある人の話を聞いていた印象を180度変えた体験であった。日本では高額だったり、何回も歯医者に通う必要があったり、痛かったりとなかなか手を出しづらい印象を持っていたのだ。
また、D2Cならではの特徴かもしれないが、唯一のクリニック訪問から器具の受け取りまで、歯医者から治療を受けているような感覚があまりなく、ワクワクさえもするようなエンゲージメントがあったように思う。
Smile Direct Clubのクリニックに行く機会は1回のみだが(医師とは直接会わない)、フォローアップメール、マイページ、キットが送られてくる箱、ソーシャルメディアなどのユーザーとの接点を上手く使って、ブランディングもしているのだ。
これに加えて3Dスキャンを活用してより正確かつ遠隔からの治療を可能にし、各個人が満足のいくサービスの提供をしっかり行っている。
まとめ
今回は昨今の医療サービスにみられるUXの優位性を中心に医療系スタートアップを紹介した。医療技術がどれだけ進歩しようが患者と病院の接点やそれぞれの体験が考えられていないとその医療サービス全体のUXは確立できないのではないだろうか。
治療のオンライン化やAI、3Dスキャンの活用など、新しい技術の取り組みも人の力ではできなかったより質の良い医療を提供している。
一方で、ユーザーが医者を探すところから病気を治すところまでのフローを描いたサービスの提供も必要ということだ。彼らのペインを取り除くだけでなくどんな気持ちになって欲しいかを考え、ユーザーとの接点でそれを実現していくことが重要になるのではないだろうか。
医療業界は患者、保険、病院、医者、医療費など様々な事柄が絡み合う複雑な分野だ。まだまだ問題も多いが、それゆえ医療とUXの組み合わせは非常に可能性を秘めていると言える。
btraxではユーザーのインサイトに基づいたサービス開発コンサルティングを行っている。サンフランシスコ・シリコンバレーの起業マインドセット、カルチャーを学べるだけでなく、プロトタイピング、現地の人へのユーザーテスティング、初期ユーザー獲得のためのマーケティング活動など一貫してサポートできるのが強みだ。ご興味のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせを。
参考:
・Why Sara Creighton sold her brick-and-mortar practice to create the Uber of dentistry
・A Dentist On Wheels? Open The Pearly Gates
・How Curology Achieved 5X Growth By Adding a Personal Touch to Prescription Skincare
・Curology Secures $15 Million in Series B Funding to Scale Direct-To-Consumer Subscription Skincare
・One Medical raises $350 million from Carlyle Group to help double up offices and offerings
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