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AIスタートアップが語る、グローバルサービスを生み出す組織とは【DFI 2019】
- サービスの拠点は、そのサービスが受け入れられる or ニーズがある場所にする
- 国や文化の違いを理解した上で、クリアなコミュニケーションを心がける
- 「サービスにかける熱量」と「多様性」が採用と組織運営のキーワード
AI、ビッグデータ、クラウドコンピューティングといった最新技術の開発が進み、実用化が着々と進んでいる。それらを活用した新たなサービスが世界で生み出され、各業界の在り方が着実に変化する中、日本でもその流れについていくことが急がれている。
各企業、さらに政府までもが「イノベーション」や「グローバル」といった言葉を掲げ、新たなサービスや製品を世界に向けて生み出していこうと躍起になっているのが現状だ。
このようなミッションのもとに、新規事業開発を任されている読者も多いのだろうが、まず課題になるのが、その組織づくりである。
グローバルに求められるサービスを、「どこで」「誰と」「どのように」作り上げていくか。2019年11月5日に開催された「DESIGN for Innovation 2019」での『AI Startupが挑戦するグローバルで通用するサービスデザインとは』のセッションでは、株式会社シナモンの平野未来氏とビースポーク株式会社の綱川明美氏からお話を伺った。
ここでは、セッション内容の要点を振り返り、グローバルに向けた新規事業開発における組織づくりについて、ヒントを得る。
平野未来 株式会社シナモン 代表取締役
株式会社シナモン代表取締役シリアル・アントレプレナー。東京大学大学院修了。レコメンデーションエンジン、複雑ネットワーク、クラスタリング等の研究に従事。2005年、2006年にはIPA未踏ソフトウェア創造事業に2度採択された。在学中に株式会社ネイキッドテクノロジーを創業し、iOS/Android/ガラケーでアプリを開発できるミドルウェアを開発・運営。2011年に同社を株式会社ミクシィに売却。2014年度の日経新聞社が選ぶ「若き40人の異才」に選出。現在は株式会社シナモン社代表取締役として、人工知能事業に従事。プライベートでは2児の母。
綱川明美 ビースポーク株式会社 代表取締役
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)卒。豪系投資銀行にて日本オフィス初の新卒として機関投資家向け日本株のリサーチ・セールスに従事。その後、日本株のトレーディング、海外企業の日本進出支援、日系金融機関の海外進出コンサルティング業務を担当し、フィデリティ・インターナショナルで機関投資家向け金融商品の開発を経て、2015年に株式会社ビースポークを設立。世界8カ国からトップレベルの開発者を採用し、「ガイドブックを超える体験」をコンセプトに、国内外の旅行セクターでAIを活用したソリューション「Bebot(ビーボット)」を展開中。現在、成田国際空港、京都市、JR東京駅、ホテルニューオータニ他多数施設へ導入中。
まずは、シナモン、ビースポークについて教えてください。
平野氏(以下、敬称略):
シナモンには、200名を超えるメンバーがいます。そのうち日本人は30人程度で、比較的グローバルな会社です。日本とベトナムと台湾にAIラボがあり、アメリカにセールス拠点があります。組織的に一番ユニークなところは、AI リサーチャーが100名いるところです。彼らは、最先端の論文を日々読み込み、リサーチを進め、最新技術に関する論文も積極的に発表しています。
事業としては、 非構造データをアクションにつながるインサイトへと転換していくAIの構築を行っています。非構造データは、メールや画像、音声やPDF、またワードやパワポなどのファイルに載っている情報ほとんどを指します。このような IT 時代なので、各社に大量の情報があるのですが、うまく活用されずに眠っている現状があります。
その一方、現在非構造データから意味ある情報を抽出する作業は、人間が手動で行わないといけない状況。私たちはその自動化を行っており、現在3つのリサーチピラーがあります。まず、デジタイズというアナログデータをデジタル化する領域。それを構造化する領域、そして最後に情報の理解をする領域です。こういった要素技術を組み合わせてAIソリューションを提供しています。
綱川氏(以下、敬称略):
ビースポークは、国内においては、インバウンドの旅行者向けにAIを活用したチャットのサービスを提供しています。4年前に趣味の領域で始めた会社ですが、今35名程度の社員がおり、サンフランシスコと渋谷で展開をしています。
国内向け製品の開発は全て国内で行っていますが、社員のほとんどが外国人で、欧米系の社員が多いです。サンフランシスコの責任者は GoogleXでCFOをしてきたドイツ出身者です。3年間ほどかけてやっと口説き落としました。エンジニアはAmazonやGoogleなど、海外からも引き抜いてきていることが多いです。
解決している課題は、訪日外国人向けの多言語サポートです。弊社のサービスは、スマートフォン媒体を通して提供されます。例えば東京駅や成田空港など提携施設内でスマートフォンをWi-Fiに接続すると、当社のチャットページが画面上にPopアップする仕組みになっており、それぞれの言語で質問すると回答が返ってきます。
実は、自動化以外に行っていることがたくさんあります。1つ例を挙げると、チャットの履歴 分析を通した機会損失の特定です。具体例としてはホテルの予約サイトです。
例えば日本国内の予約サイトでは10泊以上予約できないシステムになっていることが多いのですが、それ以上の連泊に関する問い合わせが多いことを分析し、システム改修でその分 の売り上げ増加を見込めることを提案が可能となったりします。また、訪日外国人に向けた台風や地震など災害時に向けた正確でリアルタイムな情報共有にも取り組んでいます。
日本拠点で世界に通用するイノベーションを生み出す
波江(btrax, Inc. モデレーター):
お二人とも、グローバルな市場にサービスを展開されていますが、平野さんは、日本企業をターゲッティングされていましたし、綱川さんも訪日外国人向けにサービスをスタートされていましたよね。グローバル展開を狙うサービスを、日本拠点にスタートすることについてどう考えていらっしゃるか教えてください。
平野:
まず、行うサービス事業によって拠点の選び方は変わってくると思います。エンタープライズ向けビジネスだとすると、オペレーションやレギュレーションは、国によって大きく変わるので、どこの国から始めるのかは最初から考えるべきです。むしろエンタープライズ向けで、最初から数カ国展開は難しいと思います。
ですので、どこの国から始めるのかについては、その事業の特徴となるところから一番良い国を選ぶべきだと思っています。私たちのメインのプロダクトは、紙に書かれていることを自動で読み取って入力できるAI-OCRを搭載したプロダクトですが、この領域って実は日本が最も進んでいるんですね。
この背景には、日本のオフィスで紙の使用がとても多いことがあります。もうちょっと引いて考えると、日本ってどうしても非効率的なことをやっている国なんですよね。でも採用難の状況を考えると、企業はこのようなサポートのプロダクトをもう使わざるをえない状況にまで来ている。
私たちはアメリカに拠点がありますが、このビジネス領域は日本の方がまだ1年半ほど進んでいる感覚です。中国では、競合を見つけるのが難しいほど全然進んでいない状況です。
また、自分自身が日本人で、営業するにも日本語の方がやりやすかったという点もあります。このような理由が重なり、私たちにとってはビジネスを始めるのに日本が最適でした。日本から始めましたが、実際海外の案件が増えてきているので、これで良かったと思っています。
綱川:
私たちがサービスを始めたのが2015年。2015年は、まだ訪日外国人の数が現在と比べて全然少なかったんです。日本では、チャットボットもAIも今ほどブームになっていなかったタイミングです。おそらくそれが、海外ではなく日本で始めたことによって、サービス利用の広がりが速くなった理由ではないか思っています。
通常ならば、創業2、3年目の渋谷のインターネット企業と日本の政府が一緒に仕事をすることは、おそらくないはずです。それでも仕事ができたのは、すごく強いニーズがあったから。
多言語対応にお困りでしたし、他に代替するソリューションが当時はそれほど存在しなかった。それを理由に、成田空港や東京駅など、普段であればお付き合いできなさそうな会社さんに採用頂きました。タイミングが良かったと思います。
グローバルな組織の在り方
波江:
お二人とも海外に拠点を持たれ、会社を構成するメンバーも多国籍ですが、海外拠点の活用方法や社内のコミュニケーションについて気をつけていらっしゃることを教えてください。
綱川:
私は渋谷とサンフランシスコに拠点を持っていますが、サンフランシスコを始めたのは今年です。以前から1、2ヶ月に1回ぐらい通ってはいましたが、拠点作った後は、現地とのビジネスの進み具合が圧倒的に速いです。
実は、もともとあまり海外に投資する予定はありませんでした。しかし、私たちの場合、公的機関とのやり取りが多いので、その国で登記されてないと発注ができない案件とみなされてしまうことが多いんです。それで急いで作った経緯があります。
平野:
AIラボ がベトナムと台湾にありますが、コミュニケーションが結構難しいです。ハイコンテキストとローコンテキストという考え方がありますが、日本もベトナムも台湾もハイコンテキストな国なんですね。
ローコンテキストは、例えばドイツとか北欧のような、ものすごくダイレクトにコミュニケーションをする国です。一方東アジアのほとんどの国はハイコンテクストで、ダイレクトにはコミュニケーションをせず、行間読むことを求められるコミュニケーションをする国です。
最もマネジメントが難しいのは、ハイコンテキストな国が複数あるケースです。ハイコンテキストな国同士は、それぞれの空気が異なるので、読み合おうすると必然的にミスコミュニケーションが起きやすい。しかも同じ空間で仕事しているわけではなく、リモートで行っているので、かなりそれが起きやすい状況になってしまいます。
私たちが社内で明確な共通認識として定めていることは、説明はできる限りクリアにしないといけないということ。日本だと、話をして理解されないと、「理解力ないな」と思ってしまうことが多いですが、それはうちの会社では逆。理解しなかったのが悪いのではなく、説明の仕方が悪かった、発言者の責任なんだ、そういう風に明確にしています。
グローバルなサービス開発のための組織を作り上げる
波江:
シリコンバレーでは、イノベーションを生み出すためには、オープンでフラットな組織であるべきとよく言われており、実際にそのような会社が多いです。お二人は、様々なバックグラウンドを持つメンバーをまとめていく上でどのようなことに気を配って組織づくりをされていますか?
綱川:
オープンとかオープンじゃないというのは、あまり考えたことがない人が多いと思っていて。理由としては元々すごくフラットなので上下関係がそもそも存在しないんですね。ただ、その中でも大事にしているのは、プロダクトにかける思いが熱いこと。採用の一番の条件にもなっています。
こういう技術を使いたい、こういうものが作りたい、というよりは、どうしたらより良いユーザー体験が実現できるかというゴールに向かって一緒に走っていける姿勢を大事にしています。なので、会社の雰囲気もフレキシブルでちゃんと意見があるときは言える。オープンと言えばオープンだと思います。
波江:
様々なバックグラウンドを持ち、なおかつ専門性が高い人たちを会社のメンバーに取り入れていらっしゃる印象です。どのようにそのようなメンバー達を集めていくのか気になります。
平野:
「うちに来るとAIリサーチを学べる」というメリットを提示しています。
そもそもAIリサーチャーは日本に全然いません。400名ぐらいしかいないのですが、そのうちの半分がアカデミアに入っている状態なので、本当に少ないです。そうすると採用がものすごく難しくなるので、私たちは育成するということを行っています。
私たちの経験上、数学の天才であることが良いAI人材のキーです。コンピューターサイエンスのバックグラウンドを持つ数学の天才に対して、ディープランニングのトレーニングをすると、とても精度の高いアルゴリズムを短期間で作ってくることが分かっています。これは、圧倒的に修士号や博士号でディープラーニングを専攻していた人を引き抜いてくるよりも人材を獲得しやすいです。
彼らからすると、お給料を貰いながら勉強ができるし、ある程度のランクになってくると、実際の日本の企業で使われるAIを開発できる。これは、大学に通うだけではなかなか得られない経験なので、彼らにも大きなメリットなんですよね。
綱川:
採用においては、バックグラウンドのダイバーシティはあって良い一方で、思考は似ている必要があると考えています。
例えば、仲間割れや意見が一致しなかったときのコンフリクトの対処の仕方はすごく大事です。意見を押し通してくる文化なのか、それとも一旦他人の話を聞いてその真ん中で折りあえるような姿勢で話し合いができるのかどうなのかを見ています。バックグラウンドというよりは、その人のパーソナリティによる部分が多いと思うんですね。
ですので、面接でもその辺りの質問を一番重要度高く行います。バックグラウンドは全然バラバラでも構わないけれども、一緒にいて心地の良い人と私たちは働きたいと思っているので。ハードスキルだけでなく、会社のカルチャーにフィットしているのかどうかは、最近特に注目して見るようになりました。
平野:
うちの会社では、みんなかなりダイレクトに意見を言ってきます。それを設定している文化ですし、人のそれぞれの考えは多様性があったほうが、健朗な組織になると思っているんです。
ドメスティックな組織、グローバルに構成された組織、2つのやり方がありますが、どちらも正しいと思います。おそらくドメスティックな会社の方が、コミュニケーションが速い。みんなが共有している文化背景が一緒だからです。
とはいえ、グローバルな組織だと、最終的に到達できるところがドメスティックな会社よりも大きくなるし、また何かしらの大きな変化があったときに変化しやすいと思います。ですので、私はグローバルな多様性を許容することを大切にして組織運営をしています。
これからグローバルサービスを生み出す人々へ向けて
波江:
これからグローバルに向けたサービスを作っていくという方たちに向けてメッセージをお願いします。
綱川:
やっぱり一番大事なのは本気で取り組むことだと思います。私たちも最初、無名の頃こんな人取れないだろうと思っていた相手を、2年、3年アタックし続けて、遂にYesと言ってもらえた経験があります。いつも本気だと最後にちゃんと熱意が伝わることがあると思います。どれだけ本気かによってその後の成功の割合が変わってくるのかなと!
平野氏:
綱川さんと一緒で、本気にならないとできないんだなと感じます。特に、海外への営業は本当に大変です。例えば、シニアな営業メンバーがとても高額なオファーで引き抜かれた、など。
あとは、日本の会社、特に大企業はとても意思決定が遅いと思われていますが、そうとも限りません。アメリカの会社の方が意思決定に長くかかるんですね。私の経験だと、これまで日本の企業だとPOCに入るのに1か月とか、長くて2ヶ月とか。
むしろアメリカだともっと長かったりするので、本当にその覚悟を決めて行かないと駄目だと感じています。シナモンも本気で頑張ろうと思っていますので、一緒に頑張っていきましょう。
まとめ
グローバルに展開するサービスを手がけるお二人。今回は、日本で事業をスタートしたことでメリットになった点、海外拠点の活用方法、また組織づくりにおけるヒントを伺うことができた。
お二人とも日本を事業のスタート地点にされているが、ユーザーのニーズに深く即したものをつくり上げることや、その土地で進んでいる領域に関わるサービスを展開することで、グローバルに展開されているようだ。
組織づくりにおいては、ハイコンテキストとローコンテキストのコミュニケーションの差を埋めるために、クリアに説明することを組織として明確に定めているという平野さんと、同じゴールに向かって一緒に走り抜けられるよう、チームメンバーのカルチャーフィットを大切にされているという綱川さんのストーリーが印象的だった。
ユーザー課題をいかに解決するかにコミットし、チームのコラボレーションを工夫して実践されているお二人のお話は、セッション中、言葉としては出てこなかったものの「デザイン経営」のあり方を実例として共有いただけたと感じている。
グローバルなサービス開発には本気で取り組むことが重要と揃って伝えてくださったお二人。お二人からいただいたヒントを元に、ビートラックスとしてもより一層「本気で」クライアントとグローバルサービスデザインに取り組んでいきたい。ぜひこちらからお問い合わせください。
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