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スタートアップが外部からの資金調達を行わない方が良い7つの理由
先日、とある起業家と出会った。今後のグローバル展開を見据え、リサーチのために日本からサンフランシスコに来ている。
プロダクトもかなりユニークで素晴らしい。そのスケールしやすいSaaS系のビジネスモデルから考えるに、さぞ多くの投資家が興味を持つだろうと思った。
早速「かなり投資を受けているんですか?」と聞いたところ、全て自己資金で回しているという。
むしろ、自分たちのやりたいことをやりたいように進めるために、無理に資金調達を行わず、自己資金で頑張っているとのこと。とても素晴らしいと思った。
「まずは資金調達を」と考えるスタートアップ起業家が多い中で、あえて外部資本を入れずに自分達の資本力だけでビジネスを進めている。これはかなりしたたかで賢い。
資金調達は起業家が最も知りたいこと
実際に起業家へのメンタリングを行う際に、最も頻繁に聞かれる質問の一つが「どのように資金調達をしたらよいか?」というもの。
僕はそれに対してまずは「なぜ資金を調達する必要があるの?」と聞くようにしている。というのも、結構な割合でその質問に答えられない人が多いから。
多くの人は無意識に “スタートアップ = 資金調達が必須” と考えている。
でも実は、自己資金だけで進められるのであればそれに越したことはない。
シリコンバレー有数のエンジェル投資家の一人であるロン・コンウェイも、起業家へ「できるだけ自己資金で進めること」とアドバイスしている。
資金調達 = 成功 ではない
そう。スタートアップ系のメディアでは毎日のように資金調達のニュースが頻繁に取り上げられ「XX社が〇〇億円獲得」の見出しが踊る。
そして、その度にその企業が注目を集める。そのせいか、いつの間にか資金調達をする事自体が一つの成功を成し遂げたような感覚になる。
でもそれはちょっとした勘違い。
資金調達をするということは、誰かが何かしらの方法で生み出したお金を受け取るということである。それはもらったお金、ではなく、あくまで、借りた、もしくは将来のリターンのために一時的に預かったようなもので、厳密には負債なのだ。
たとえその資本に取締役会の席や優先株式、優先清算権、その他多くの典型的な「ひも」が付いていなかったとしても、外部資本には必ず何かしら副作用があることを認識する必要があるだろう。
投資家からの資金調達 7つの弊害
では具体的にスタートアップができるだけ資金調達、それも投資家からの投資を受けない方が良いと思われる理由を7つほど考えてみよう。
なお、これは必ずしも絶対に投資を受けるべきではないという意味ではなく、あくまでも下記の内容を理解した上で、納得した状態で投資を受けた方が良いよ、という事であるのでご注意を。
1. 本業に集中できにくくなる
資金調達を行うにはかなり膨大な時間とエネルギーを要する。
ざっと考えてみただけでも、それぞれの投資家に対してピッチを行い、フォローアップミーティングをし、財務表やこれまでのユーザーの伸びや、評価額を含む各種書類を提出し、タームシートと呼ばれる投資条件を受け取り、それを元にハードな交渉を行う。また、それぞれのラウンド毎に既存の投資家への説明も求められる。
このプロセスを楽しめるのであれば全く問題はないが、多くの起業家はプロダクト作りに集中したい事が多く、資金調達に関わるプロセスがかなりストレスになることもある。
2. エグジットへの強いプレッシャー
シリコンバレーでスタートアップ投資を行っていた方が日本に行ってみて一番問題だと思ったのが、VCのスタートアップに対する姿勢だという。
全てのVCがそうだとは限らないが、日本では多くの場合、事業を育てることよりも、手っ取り早くエクジットしてもらうことを求めるらしい。それも比較的低い売り上げや時価総額で上場可能なマイクロ上場を期待される。
逆に、シリコンバレーのユニコーン企業などは、短期の黒字化や上場を急ぐことなく、ユーザーとの対話を優先する。じっくりとサービスを成長させることで、なるべく長期的に喜んでもらえるような内容にしたいから。
そのような企業はユーザー人気も高く、収益的にもいつでも上場できるのに、なかなか行わない。その理由は外部からのノイズを極力減らし、ビジネス利益よりもプロダクトの品質を向上させることに集中するため。それによりどんどんユーザー数は増え、評価額が上がり、ユニコーンになっていく。
これが日本国内でVCなどの投資家から投資を受ける場合、比較的短期 (5年以内など) でのエクジットが求められる。エクジットの際の “上がり” が小さい分、投資家がリターンを出すためには、例え時価総額が低い段階でも、こまめに上場してもらうしかない。投資家の利益のために「早過ぎたんだ。腐ってやがる」上場が乱発される。
投資を受けたスタートアップ側としては、ビジネスの照準をIPOに定める事が求められる。それゆえに、サービスの質やユーザー数よりも、とりあえず上場を目指す。そうすると、その後スケールしにくくなり、理想的な成長の妨げになることもある。
3. 投資してもらう事がクセになる
スタートアップが資金調達を受けることを英語で “ドーピング” と表現する事がある。そう、スポーツ選手なんかが実力以上の結果を出すために薬に手を出すアレ。
売り上げや実力以上のお金が手に入るため、能力以上の結果を出せるドーピングに似ていることからつけられた。
短時間で大きなお金が入ってくるため、起業家はしっかりと自分を律しておかないと、外部資本の獲得に成功するのが癖になる。気をつけないと、いつの間にか資金調達を繰り返すことにハマり、それが癖になる。いわゆる「資金調達ジャンキー」になってしまう事もある。
そして、いつの間にか手段と目的が逆になり、スタートアップをするために資金調達を行うのか、資金調達を行うためにスタートアップをしているのかすらわからなくなってしまう。
資金調達は、くれぐれも慎重に行いたい。
4. 投資家からのコントロールを受ける
いったんVCから資金調達を行うと、ほとんどの場合、彼らからの何かしらのコントロールを受けることになる。それが良い時もあるし、そうでもない時もある。
たとえ創業チームが過半数の株式を保有していたとしても、株式配分、利益、配当、経営方針、などを外部の取締役会から指示されたりもする。
VCによっては、創業チームが大きな権利を得ることさえできないように、希釈化防止策、配当、清算優先権、強制償還、その他の特典を設定している場合もある。
まあ、それは極端な例だったとしても、それなりに外部から口出しされることを覚悟しておいた方が良いだろう。
5. ユーザーよりも投資家を優先しがち
外部からの投資を受けたということは、投資家に対しての責任が生じる。その結果どうしても、サービスの方向性、マネタイズ、経営方針、採用戦略などを投資家が喜ぶ内容にせざるを得なくなる。
場合によってはユーザーのメリットよりも、投資家を意識した方針を立てざるを得ない。そうなると、サービスの品質も下がったり、ユーザーメリットよりも、エクジットするためのマネタイズを優先することになってくる。
最終的に、サービスを始めた頃の純粋な気持ちが薄まり、いつの間にか投資家のための経営を行う結果にもなり得る。
6. 資金の無駄遣いをしてしまう
大きな資金を獲得すると、おしゃれなオフィス、設備、豪華な飲み会の開催など、ついつい無駄遣いをしてしまいがち。お金が無いなら無いでリーンにできることもできなくなる。
外側からみても明らかにお金のある会社と見なされるので、さまざまな営業を受ける。
また、経営者に対して「奢ってくれ」と甘えてくる人も増える。例えそれが自分のお金でないとしても、口座に巨額のお金が振り込まれたことで、気が緩む。
それまでクリエイティブな手法で節約していたことも忘れ、片っ端からガンガン採用して、ゆるゆるの予算を組む。そして気づいた頃にお金がなくなって焦る。
強い会社は、お金があってもなくても派手な使い方はせずに、徹底的に泥臭い手法でビジネスを進める。そして市場のタイミングを虎視眈々と狙い、好転した際に一気に拡大をする。それまではかなり地道な経営を行う。
7. 成功したと勘違いしてしまう
大きめの資金調達、特にVCからの投資を獲得すると、周りの人たちの接し方も変わってくるだろう。従業員も増え、一気に会社っぽくなってくる。
おそらくメディア取材の問い合わせもくるし、外からみてもかなり「成功」してるように見える。もちろん起業家自身も成功している錯覚に陥る。
ここが一つの落とし穴でもある。資金調達はスタートアップを成長させるための手段であって、目的ではない。そこを勘違いしないようにするのは、かなり難しい。
かなり冷静なメンタルを持っていない限り、資金調達を成功させた時点で、会社がうまくいっていると勘違いしてしまう。
It’s about the FUCKING money
著書「HARD THINGS」でベン・ホロウィッツは投資を受けることの責任の重大さを自身の経験を元に語っている。経営状態が悪化した際に投資家かわ言われた一言、”It’s not about the money. It’s about the FUCKING money!” がその甚大さを示している。
現代では比較的に容易にスタートアップへの投資が行われ、起業家としても最初のステップだと感じるかもしれない。しかし、それはあくまでスタートラインであって、ゴールではない。
日本からユニコーンが生まれにくい理由にも
また、日本国内においてのVC投資のその多くが短期での小規模リターンを求めることもあり、じっくりとユーザーを集め、長期的にユニコーン企業へ成長させるモデルとは相反している部分もあるだろう。
冒頭でも触れたが、自己資金で進めることが可能なのであれば、まずはそこからやってみることをおすすめする。そして投資家を選ぶ際には、なるべくビジョンに共感してくれ、長期的な成長を理解してくれる人を見極めるるのが良いだろう。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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