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革新的デザインの裏側【インタビュー】Flipboardデザイン主任-Marcos Weskamp
まるで雑誌をめくるように、最新のニュースや友だちのアップデートを見ることのできるアプリケーション「Flipboard」。その革新的なインターフェイスと操作性(UI/UX)はリリース直後から大きな反響を呼び、Appleの選ぶ最も優れたiPadアプリである「iPad App of the Year」(初年度)にも輝いた。驚くべき事にコンセプト段階では、PCブラウザー向けに考えられていたという。
そして、現在まさにユーザビリティデザインの優れたアプリケーションの代名詞とも言える彼らが、今年9月には30の公式コンテンツパートナーを揃え、日本国内でもいよいよ本格的な展開をみせてきた。今回はそんなFlipboardの生命線とも言えるデザイン部署を統括するMarcos Weskamp氏と、広報担当のChristel van der Boom氏に、Flipboardのデザイン哲学と今後の展望を伺った。
【話者プロフィール】
ゲストトーカー: Marcos Weskamp – 上記写真中央
Flipboard, Inc. Head of Design
アルゼンチン・ロザリオ生まれ。アルゼンチンの大学で建築、美術、グラフィックデザインを学んだ後、奨学金を得て日本へ留学。2001年卒業後、日本の電通でアートディレクター、Adobe本社でExperience Designerとして活躍後、Flipboard創業に参画。
ゲストトーカー: Christel van der Boom – 上記写真右
Flipboard, Inc. Communication
オランダ生まれ。アムステルダム大学卒業後、PR会社勤務。メディアリレーションから社内マネジメントまで幅広く経験後、Flipboard創業に参画。
インタビュアー:Brandon K. Hill (ブランドン・片山・ヒル ) – 上記写真左
btrax, Inc. CEO @BrandonKHill
サンフランシスコ州立大学デザイン科卒。北海道札幌市出身の日米ハーフ。高校卒業時までほぼ日本で育ち、1997年アメリカサンフランシスコに移住。現在はサンフランシスコに本社のあるグローバルクリエイティブエージェンシー: btrax, Inc. CEO。
【目次】
- バックグラウンド, Flipboardファウンダー達との出逢い
- Flipboardのデザインプロセス
- Flipboardの存在意義, デザイン哲学
- 海外展開、そしてFlipboardのこれから
インタビューを行ったのは、シリコンバレーの中心地Palo AltoにあるFlipboard本社。元々ガレージだったというそのオフィスは、まさにこの辺りのスタートアップの雰囲気。広いオープンスペースに所狭しと机が置かれ、スタッフが忙しそうに働いている。その中でもひときわ背の高いMarcosが僕たちを迎えてくれた。ゆっくりと話しが出来る様に近くのカフェに移動し、テラス席にてカジュアルな雰囲気の中、セッションが始まった。
1. バックグラウンド, Flipboardファウンダー達との出逢い
Flipboardのデザインは日本仕込み?
Brandon K. Hill (BH):まずはMarcosさんのデザイナーとしてのバックグラウンドから教えて頂けますか?実は日本の学校で勉強されていたと伺ったんですが。
Marcos Weskamp (MW):はい、実はぼく、デザインは日本の学校で学んだんですよ。
BH:いやあ最初に聞いたときは驚きました。どうして日本だったんですか?
MW:生まれ育ちはアルゼンチンなんですが、あるときどうしても海外に行って勉強したいと思ったんです。最初はアメリカの美大に行きたかったんだけど、学費が高すぎて断念してしまった。すると父親から、「日本に行くべきだ!日本大使館はいろんな奨学金を出してるから調べてみろ!」と勧められて(笑)。 それがきっかけで日本のデザイン学校に通うことになりました。学校は御茶ノ水にあったんですよ。
BH:その学校ではどんな勉強を?
MW:日本の伝統的なアートや建築から写真、一般的なグラフィックデザインまで、幅広く勉強していましたね。すごく楽しかったですよ。パソコンは一切利用せずに全てペンと紙ベースでのデザイン作業でしたね。
BH:そうした日本で学んだことがやはり今でも影響していたりします?
MW:間違いないですね。日本独自の文化観やアートセンスや、シンプルなモダンデザインからはたくさんのインスピレーションをもらいました。特に日本の伝統的なデザインは世界の中でも特にユニークだと思いますよ。その後デジタルデザインに出会って、テクノロジーで解決出来るデザインの問題がある事に気づいてからは、HTMLやPHPを始め、Webデザイナーに必要な技術をとことん吸収しました。
BH:卒業後も日本で働かれてるんですよね?
MW:はい、電通でアートディレクターとして働きはじめました。電通の広告の歴史100年を振り返るウェブサイトを作ることに関われたり、仕事はハードでしたけどもとてもエキサイティングでしたね。その後バスキュール,そしてサンフランシスコに移りAdobeで働いて、今に至ります。
BH: そういえば以前にFlipboardのデザイナーで、現500 StartupsメンターのCraig Modも日本の大学に行ってましたね。彼は以前にbtrax主催のSF JapanNightの審査員も務めてくれました。 Flipboardは何かと日本との縁がありそうですね。
BH:Flipboardに参加するきっかけはなんだったんですか?
MW:Flipboardは元々、CEOのMikeとCoFounderのEvanとが始めたプロジェクトだったんですが、実はEvanとは以前から知り合いだったんです。その彼がたまたま行ったAppleのイベントで突然壇上に現れて、自分の成し遂げたいビジョンについて語っていたんですね。これからのウェブコンテンツ体験はより革新的なものになっていくはずだと。それにものすごい感銘を受けて彼にすぐに話しかけに行ったんです。そしたらもうすっかり意気投合しちゃって。そうしてぼくがFipboardに加わったのは2009年の12月、Flipboardが法人登記をするちょうど前でしたね。
2. Flipboardのデザインプロセス
Flipboardは社員全員がデザイナー!?
BH:そうして今、Head of Design というタイトルでFlipboardのデザイン全体を指揮しているんですよね。ちなみにほかにデザイナーは会社で何人くらいいるんですか?
MW:うーん、50人かな。
BH:50人!?
Christel van der Boom (CB):50人って、社員全員っていう意味になりますね。(笑)
BH:なるほど。(笑)
MW:というのも、デザインというのは会社全体で考えていくべきものだと僕は思っているんです。実際、うちの会社ではいつもPhotoshopやIllustratorを開いているひとがたくさんいますよ。正式なデザイナーは本社に4、5人、ニューヨークのオフィスに2人かな。
BH:つまり5人くらいのデザイナーと、他のデザインマインドをもったスタッフで構成されている、ということですね。
MW:その通りです。ぼくたちは何よりデザインにフォーカスをしています。そして素晴らしいデザインとは数人の頭から生まれてくるのではなく、このプロダクトに携わるすべてのひと一人ひとりが意識を向けることによって生まれるものだと、ぼくは信じています。実際サーバーエンジニアから素晴らしいデザインフィードバックが生まれたりもしていますしね。
BH:うーん、おもしろいですね。
MW:だからぼくが常々考えているのは、良いデザインを会社全体で考えていくために、いかによいコミュニケーションの仕組みを社内に築けるかということです。ぼくたちのミッションは他でもなく、良いデザインをユーザーに届けることですから。
デザインの議論はコトバだけで終わらせない
BH:具体的にはどんな風にデザインをつくっていってるんですか?
MW:そうですね。まずご覧頂いたとおり、社内の壁にはデザインマイルストーンとともに、最新のデザイン案が貼ってあって、誰もが見れてアイデアを出せるようにしてあります。またオフィシャルなもので言うと、週二回全体でデザインを考えるミーティングがありますね。キッチンにある広い机にみんなで腰掛けて、そこでデザインチームが最新のデザイン案をみんなに見せるんです。そこでフィードバックをもらったりしてますね。
BH:いいですね。その時に何か気をつけている点などはあるんですか?
MW:ポイントは議論を言葉だけで終わらせないことです。必ずそのデザインアイデアをその場ですぐスケッチに落として、イメージを視覚的にみんなで共有することを心がけています。
BH:なるほど。それは納得です。
MW:これ、本当に大切なことなんですよ。以前はスケッチを取らずに議論して終わりのミーティングも何度かあったんですが、もう結果が全然違う。だから必ずスケッチを通じてビジュアルイメージをみんなで共有しながら、デザインは決めていきます。
3.Flipboardの存在意義, デザイン哲学
Flipboardは、ウェブコンテンツの体験性を刷新する
BH:ここで改めて、Flipboardが生まれたストーリーをお聞きしてもいいですか?
CB:ここは私がお話した方がいいですよね。すべてはウェブコンテンツの体験性の崩壊。この解決のためにFlipboardは存在しています。例えば雑誌って非常にシンプルですよね。そのメディアの中に伝えたい内容のヘッドライン、その象徴的な写真、そしてコンテンツが綺麗なタイポグラフィーで載っています。一方で例えばニュースをウェブで見ようとすると、3つの邪魔があるんです。
BH:おもしろいですね。その3つとはなんでしょうか?
CB:1つはウェブブラウザですね。ナビゲーションやプラグインのボタンなど。2つ目はそのニュースサイト内のナビゲーションや他のいろいろなコンテンツ。そして最後がマネタイズのための広告です。この状態でユーザーはコンテンツに集中できるでしょうか。またそのコンテンツのストーリーは消えてしまってるように思います。私たちはこのウェブコンテンツの体験性の崩壊を、すぐれたデザインで解決したいんです。
MW:パソコン上で見るサイトはあまりにも複雑になりすぎている。パソコンというデバイスの長い歴史で、人間にとって、全てが難しくなりすぎてきているとぼくたちは思うんです。だから、客観的に見て、一度すべてをリセットし直す必要がありました。だからFlipboardは、現在のデバイス、インフラ、デザインやテクノロジーを駆使して、全てをスクラッチから作り直したアプリケーションだと思っています。
iPadは、偶然のタイミングから
BH:なるほど。そうした想いからMikeさんとEvanさんはスタートしたんですね。
CB:そうですね。ブレストにブレストを重ね、ソーシャルになってきているウェブの潮流に合わせて新しいウェブコンテンツ体験のカタチをデザインできないか模索していました。そのタイミングでたまたまiPadが出て、FlipboardはiPadにフォーカスをしてデザインするようになりました。
BH:え、iPadがたまたまということは、最初Flipboardはウェブブラウザ上のサービスを想定していたんですか?
MW:そうなんですよ。最初はウェブブラウザ上で動くものを作っていて、Mikeが最初にぼくに見せてくれたのもそれでした。ただ開発を進めているとiPadの噂が出てきて信ぴょう性が高そうだと。ならばこれにフォーカスしようということでデザインをシフトしたんですよ。だからiPadが発表された時にまさに理想のデバイスだったので、”やったー!”って感じでした。
BH:すごいタイミングですね!それでデバイスをiPadに完全にフォーカスしたんですね?
MW:はい。Flipboardのデザインを創っていくのはとてもエキサイティングなプロセスでしたよ。iPadという新しいデバイス上で、いかにウェブコンテンツをシンプルな体験性へと整理し直すか。ニュースメディアからのコンテンツと、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアからのコンテンツ、これらの様々なコンテンツを一つのデザインのもとに集約することを、とことん考えました。それもクールな動きを体現できるUXを実現しながら。
キーワードは”シンプル” & “フォーカス”. シンプルな情報体験性に立ち返る
BH:Flipboardのデザインを創っていく上で何か参考にしたものはありますか?
MW:ぼくたちは雑誌から多くのインスピレーションを得ていますね。雑誌上に現れているのはとてもシンプルなUIのカタチだとぼくたちは思っています。コンテンツの始まりに、まずそのイメージとなる写真があり、そこにヘッドラインがシンプルに並んでいる。こうした情報体験性をいかにウェブコンテンツにも持って来られるかがテーマでしたね。
BH:ぼくがFlipboardのデザインについていいなと思う点の一つはタイポグラフィーで。ヘッドラインはじめ、コンテンツ内の字体と大きさ、写真のサブテキストまですごく気を配っているのが伝わってきます。
MW:おっしゃる通り。タイポグラフィーにはすごく意識を向けています。実際たくさんのトライアンドエラーを繰り返してきましたよ。iPadでまだ誰もこうしたメディアをデザインしたことがなかったので、すべて自分たちで考えていかなければいけませんでした。それはエキサイティングであると同時にとても大変なチャレンジでしたね。果たしてここにどんな字体が合うのか?この場合はどうか?といった具合に。
BH:そうしたときにも何か参考にしたりしたんですか。
MW:ここでもやはりモデルとしていた雑誌のデザインに立ち返りました。例えばヘッドライン一つとってもただ大きな文字を置くだけではダメなんです。そこに配置する写真とのバランスを考えて大きさや字体を考えていかなければいけない。そうしたことを雑誌のデザインから学び、それをいかにウェブコンテンツの体験性につなげるかを考え抜きました。大変ではありましたが、この積み重ねこそが、今のFlipboardのユーザー体験を生み出しているんだと思います。
BH:実際ユーザーからの反応はどうですか?
CB:良い評価を頂いている一方で、改善のリクエストももちろん頂いています。
そうしたリクエストは一つ一つ吟味し、最終的にはリクエストの多いトップ10のリストを作ってプライオリティーをつけて解決しています。
MW:ユーザーの期待に100%応え続ける。これがぼくたちのやるべきことですから。
デザインとは、適切なロジックと機能を通じて、ユーザーを心地よくするものと考えています。
4. 海外展開及びFlipboardのこれから
日本はチャレンジの多い国の一つ. それだけにやりがいもある
BH:話は少し変わって、国外それぞれの国でデザイン上気をつけていることはありますか?
特に本格的に展開のはじめた日本も、きっと課題が多くあるかと思うんですが。
MW:おっしゃる通りで、日本は特にチャレンジの多い国の一つですね。
例えばヘッドラインです。日本のヘッドラインって長いものが多いんですよね。
BH:確かにそうですね。
MW:配信元の各メディアでは文字の大きさや字体で収まってるものでも、Flipboard上に来ると改行が起きてデザインが崩れてしまう。こういうことが起こってしまっているんです。それこそ今まさに、この課題を解決するために取りかかっているところですね。
BH:確かに難しい課題ではありますよね。
MW:ただもっと言うと、この類の課題はまだ誰も世の中で解決できていないと思うんです。それだけにやりがいはありますよね。
CB:私たちのFlipboardの国別ユーザー統計では、日本は最もソーシャルメディアが活発な国なんですよ。
BH:そうなんですか?でも確かにツイッター等活発ですよね。
CB:それだけに今後もよりよいユーザ体験をお届けしたいですね。
そのためにもこうした課題は積極的に解決をしていきたいと思っています。
最後に
BH:最後に、総じてFlipboardが今後取り組んでいきたいことはありますか?
CB:FlipboardはNever Done、完成はありません。やるべきことは常にたくさんあります。コンテンツ面では今後もより豊かなコンテンツ体験を提供していきたいと思っています。メディアパートナー、そして個人キュレーターとの距離を縮めて、もっと仲良くなって行きたいですね。
MW:ぼくは本当にFlipboardを愛しているし、本当に世の中を変えると信じているんですよ。
世界にはFlipboardが対応しきれていない地域がまだまだある。
そうしたすべての国の人々に愛されて、よりよいウェブコンテンツ体験を楽しんでもらうことが、ぼく個人のビジョンでもありますね。これからも楽しみにしていて下さい!
BH:今後も本当に楽しみですね。お二人とも本当にありがとうございました!
ライター所感:インタビューを振り返って
存在理由がシンプルで明確であること。そしてそれが会社全体で深く共有されていること。
これこそがFlipboardの何よりの強さだと、ぼくは感じました。解決したい課題、その先の実現したい未来、そしてそれを果たすための手段が、とてもシンプルにつながっていて、その一本の線を通すために、社内全体が濁りなく一つになっている。そうした印象を、オフィスや社員一人ひとりの雰囲気、そしてMarcosさんとChristelさんの表情や言葉から受け取りました。きっとそうした結実の一つとしてのUI/UXの美しさであり、その想いがユー ザーに届いた結果として今のFlipboardがあるのではと思いました。いやあ本当に、素敵な会社でした!ありがとうございました!
文責:三好大助 (@daisuke344)
写真:安野貴博(@takahiroanno)
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