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現代におけるデザインが提供する3つの新しい価値
今回は独自の視点で、これまでにはあまり取りだたされることのなかった「現代におけるデザインの新しい価値」について具体的に説明したいと思う。
そもそも、デザイン思考に代表される「デザイナー的考え方」とはどのようなものなのであろうか?
それを理解するところから始め、それがどのような価値を生み出すのかを検証する。
デザイナー的マインドセットとは
デザイナーの人たちが普段問題解決を行う際に利用している考え方やプロセスを元にした価値観や考え方。
デザイナー的考え方:
- クリアにコミュニケーションを行なう
- 正しいものを正しいところに
- 自由な発想からスタート
- 制限をクリエイティブの源に
- 顧客/ユーザー視点で考える
- 仮説 → コンセプト→ プロトタイプ→ 検証→ 改善のプロセス
- 失敗から学ぶ
- 心地よさを優先する
- ロジックと感覚の両方を活用
- 分かりやすく使いやすくを優先
- Less is more
- 相手の気持ちを理解する
- 細部にこだわる
- 一つの問題に対して複数の解決方法を考える
- 前例のとらわれずに未来を考える
- 全ては世の中をよくするために
- 企業の利益よりユーザーのメリットを優先
ではこれを踏まえて、まだあまり知られていない下記の3つのデザインの価値を紹介する。
- 組織へのポジティブインパクト
- より使わせないためのデザイン
- 使っていない時間のためデザイン
1. 組織へのポジティブインパクト
そもそも上記のデザイナー的マインドセットのリスト内容が組織内で浸透したらどうだろうか?
おそらくとても良いチーム、そして企業になると想像できる。最近ではアメリカを中心に企業文化の一つの好例として”クリエイティブカルチャー”という考え方が浸透し始めている。
これは、デザイナー的考え方をベースに、より活発な議論と新しいアイディアを創出することを目的とした文化で、簡潔に表現すると:
”チーム間のコラボレーションを通じて部署ごとの壁を飛び越え、異なるバックグラウンドや価値観の人々を繋げることで新しい発想のビジネスアイディアを生み出す” 文化である。
こうすることで、クロスファンクショナル (相互作用) 性の高いコラボレーションが生み出されるし、ユーザー視点で企業のゴールを達成することが可能になる。
これは今の時代に最適な組織カルチャーの一つとされている。例えば、優れたコネクテッド系のサービスを作るには、チームメンバーの一人一人がしっかりとコネクトしている必要がある
このような組織構造とカルチャーを醸成するために、デザイナーが一役買うことも増えてきている。
プロセスとしては、ここのチームメンバーにインタビューを行い、職場での現在の体験についての情報を集める。これにはUXリサーチのプロセスを活用する。
それを元に、問題点を理解し、解決策のための仮説を立てる。
これはデザイン思考における共感と仮説のステップ。そして、正しい人材を正しい場所に配置し、適切な環境を提供し、極力制限を排除する。その際にはロジックと感覚の両方を考慮する。
そして、最終的に生み出される結果に対して、定性的、定量的、両方の側面から分析し、その企業が目指すビジョンに即しているかを加味した上で、結果を分析する。
それを元に「仮説→ コンセプト→ プロトタイプ→ 検証→ 改善」のプロセスを常に回していくのだ。
こうすることで、デザインおよびデザイナーがより良い組織変革 (トランスフォメーション) の役割を果たすことになる。
btraxでも、イノベーションを生み出す最初の一歩は組織変革だと考え、クライアント企業に対して同様のサービスを提供している。サービス詳細についてはお問い合わせください。
2. より使わせないためのデザイン
これまでのデザインの一つの大きな役割は、どれだけユーザーに使ってもらえるかであった。PVやアクティブ率、滞在時間などを上げ、それを企業の利益に変化するのがゴールと設定されているのが一般的である。
デザインの力を活用すれば、ある程度ユーザーの動きをコントロールすることができる。
これは「デザインの力で人々の行動を変える – ビヘイビアデザインの裏側」に詳しく説明されているが、デザインの仕方によっては、ユーザーの動向を喚起することができたりもする。
しかし、ここにきて、果たしてそれが本当に使う人たちに対して正しい価値を提供しているのであるか、ユーザー視点に立った考え方なのか?という疑問がデザイナー達の間で広がり始めている。
「デザインがつくりだすダークサイドの危険性」でも触れられている通り、かつてのiPhoneの最高責任者も自分が生み出したデバイスの中毒性の高さに対して罪悪感を感じているという。
他にも、Facebookがアメリカでカップルの離婚原因の三分の一になっていたり、ゲームのしすぎで餓死するユーザーが出たりもしていることから、必ずしも世の中に良いインパクトを与えてるとは言えない事例も増えている。
デザイナーのその多くが、元々は世の中の役に立つソリューションを生み出すことを夢見ていたのが、気づいたらダブルスタンダードの間で葛藤しているケースは少なくない。
特に効率性と結果至上主義のシリコンバレーでは、最近のホットトピックでもある。
この流れは、Appleが最新のiOSにScreen Timeを実装することで、ユーザーに対して何にどれだけ使っているかを可視化することで、ユーザーが使いすぎないようにする機能が追加されたことからも理解できるだろう。
また、FacebookやInstagram, Googleもこのトレンドに沿って、それぞれの方法で「使わせすぎない」機能を追加し始めている。
企業の利益だけを最優先するのであれば、出来るだけユーザーを中毒にさせ、その時間とエネルギーをお金に変換すれば良い。
それがこれまでの常識とされてきた。しかし、本当に人々に、そして世の中にとって価値のある企業やブランドになりたいと思うのであれば、あえて「使わせない」導線を設計することも一度考慮してみても良いかもしれない。
ある意味、デザインは使う人に対して目に見えないレールを提供する役割もあるため、何が倫理的に正しいかもしっかりと理解した上で設計する必要があるだろう。
特にUXデザインの一番の役割はユーザーメリットと企業メリットの両立なのだから。
3. 使っていない時間のためデザイン
これはとっても逆説的に感じるかもしれないが、実はここ最近のプロダクトのその多くが、それ自体を「使っていない」状態に対してのデザインがされ始めている。どういうことなのか?
例えば自動車は95%の時間使われていないという統計がある。
ということは、自動車というプロダクトの稼働率はかなり低いということになる。だとすれば、自動車会社のデザイナーが利用されている時間 (5%) のためだけにその労力を注ぐのは、非常に非効率である。
ここで発想の転換をし、ユーザーに対してどのように利用していない時間に対しても価値を提供できるかを考えるのが、デザイナーの仕事であり、デザインの役割となってくる。
例えば、Teslaは実装している電池を活用して、家庭の電源としての役割を提供する仕組みを提供している。
これは使っていないためのデザインの一つの例だろう。その他にも、シェアリングに特化した車両をデザインしたり、家のリビングルームと自動車の車内を連動したり、家電の一つとしての利用価値を模索したりなど、多くのメーカーが使っていない時間に対してのデザインを試行錯誤している。
もう一つの例として、デジタルプラットフォームの一つとしてEコマースサービスの代表格であるAmazon。
彼らは、ユーザーがAmazon.comを利用していない時間も、よりユーザーの趣味嗜好や行動パターンを理解するために、Alexaを作った。
音声認識のこのシステムは、同社のEchoを始め、他の企業のデバイスにも導入され、例えユーザーがAmazon.comに滞在していない時にもユーザーとの対話ができるようなエクスペリエンスをデザインされている。
今後 Alexaは「話しかけていない」状態の体験に対してのデザインもされていくと予想される。
この辺はおそらく日本企業だと結構苦手な分野なのかな?と感じている。
なぜなら、部署ごとに役割が明確化されているケースが多く、プロダクト自体を担当する部署は、絶対的に「使っている」時間にフォーカスが当たっているし、マーケティングや広告がある意味「使っていない」時間の担当をしているが、それはあくまで認知拡大に留まりがちであるからだ。
この「使っていない時間」に対してのエクスペリエンスデザインもbtraxがより力を入れていきたいフィールドなのである。
まとめ: どんどん広がるデザインの役割 = ややこしいですよね
何か急激に「デザイン」の一言で表現される内容が広がっていることもあり、”一体なんのことなのよ!”と感じられる方も多いだろう。
そんなこともあり、以前に「design, Design, DESIGNの違いを知っていますか?」でその違いを説明したが、ここにきて、また新しい価値が増え始めている。
いっそのこと「もう社員全員がデザイナーで良いよ! 」なんていう会社も出てくるかもしれない。実はまさにうちの会社がそうで、我々btraxのモットーは”We are all designers!”なのである。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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