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D2CブランドのエキスパートAllbirds, Casperに聞く、ブランド構築の6つのポイント
日本でも認知が高まりつつあるD2Cブランド。すでにアメリカでは、Everlane、Allbirds、Warby Parker、Casperなどのブランドの人気が高く、急成長やバイアウト、上場などの大成功する事例も増えてきている。
freshtraxでは、これまでも何度かD2Cに関する記事を書いてきたが、今回は実際にD2Cブランドを構築している人たちによるアドバイスを紹介する。
Direct to Consumer とは
Direct to Consumer (D2C) とはその名前の通り、自ら企画、製造した商品をどこの店舗にも介すことなく販売するビジネスモデルのことである。もともとは店舗を持たず、オンライン販売のみが主流であったが、ここ数年でオンラインで販売開始後に、実店舗を出す事例が増えてきている。
中間業者を極力省き、製造から販売までをブランドが一括管理することで、消費者に直接商品をリーズナブルに届けられるようになるだけではなく、それぞれの工程の透明性を高め、ブランドに対しての高い帰属意識を構築しているのが特徴。
アメリカを中心に、このD2C型のビジネスモデルをベースにするスタートアップが急激に増えてきている。
D2Cビジネスの成長例
日本ではD2Cはまだまだ個人事業や中小企業のイメージを持たれがちだが、アメリカではかなりのビッグビジネスになっている。
- 2015年創業のAwayは1年目に5万台 (売上約12億円) を達成
- Warby ParkerがFast Company誌上で最もイノベーティブな会社に選ばれる
- Casperの売り上げ: 1年目1億円、2年目100億円、3年目200億円、現在上場準備中
- Allbirdsが創業2年で売り上げ100億円を突破
- Bonobosが創業10年でウォールマートに約350億円で買収される
D2Cの2つの特徴
D2Cは従来のブランドと比べると下記の点においてかなり特徴的である。
選び抜かれた少数精鋭のアイテム
D2Cブランドは選び抜かれた少数精鋭のアイテムでスタートすることが多い。ブランド力を築いてから販売商品を増やしていくという方法はかつてラグジュアリーブランドが行ってきたそれと共通している。ルイヴィトンが鞄メーカーとしてのブランドを築いてからライフスタイル提案という形で販売商品を増やしていったのは有名な話だろう。
今となっては多くの販売商品を抱えるD2Cブランドも最初は少ないアイテムでのスタートであるケースが多い。前回の記事でご紹介したWarby Parkerが当初扱ったのは$95のメガネのみ、Bonobosはデニム以外のメンズパンツのみ、Everlaneも無地のTシャツ・ネクタイ・かばんのみでのスタートだったという。
ストーリーによるブランディング
ストーリーによるブランディングもD2Cの特徴としてあげられる。D2Cブランドの多くは歴史が浅く、著名なデザイナーを擁している訳でもない為、ストーリーによってアイデンティティを確立させるブランドが多い。
例えば、Warby Parkerの誕生のきっかけは創業者自らの辛い経験に基づいているという。公式サイトにはこう書いてある。「私が学生の頃、バックパッカーをしている間にメガネを無くしてしまいました。新しいものを買いに行きましたが、値段が高すぎたため購入を断念せざる得えなったのです。その結果、大学院での1学期間は目を細め、不満を言いながら過ごすことになってしまいました。Warby Parkerを興したのは、そんな苦い思い出を皆様には味わって欲しくないという思いがきっかけです。」
ストーリーによるブランディングは従来の店舗での販売をメインに行うブランドよりも、自宅で落ち着いてゆっくり買い物が出来るD2Cとの相性が良いと言えるかもしれない。ストーリーに引き込まれると、彼らの魂の篭った商品を思わず買ってみたくなってしまうだろう。
D2Cブランドに共通する主なブランドメッセージ
これはあくまで感覚的なのだが、D2Cブランドがユーザーや世の中に発している共通のメッセージがある。
- サステイナブルな素材で人と環境に優しい
- 製造工場などでの労働環境が良い
- プロダクトができるまでのストーリー重視
- 誇大な広告にお金を掛けない
- 高い透明性でユーザーと共に成長してく
- 店舗がある場合はその地域に還元する
- 性別やLGBTなどの多様性への高い理解
- 世の中を良くすための寄付活動を行っている
- 中間業者などの既得権益を払拭する
- 他のストアでは手に入らない
D2Cエキスパートに聞くブランド構築のポイント
これから紹介するのは、D2Cの第一線で活躍するエキスパートによるアドバイス。ユーザーに正しいD2C体験を届ける際に役立つ。おそらく近いうちに日本でもD2Cの潮流が来ると思われるので、知っておいて損はないはず。
- 体験を最優先したブランド構築を
- 他のブランドを真似しない
- スピード重視
- できるだけ早く告知を始める
- ゴール設定は現実的に
- 時には競合も支援する
1. 体験を最優先したブランド構築を
D2Cはユーザーに届ける体験を通じてそのブランド価値を生み出している。例えばマットレスを提供するCasperは、マットレスそのものよりも、質の良い睡眠体験を販売している。同じく、Glossierはそのプロダクトを通じて、より良いコスメ体験を提供しているのだ。
それを実現するためにはどうしたら良いのか?Casperでは、マットレスに入っている素材よりも、より良い睡眠の効果をユーザーにストリートして届けている。もちろん素材に関してもしっかりと説明はしているが、広告でもキャンペーンでも、彼らのメッセージは必ずより良い睡眠に関してのものだ。
体験を通じたブランド構築をするもう一つの方法は、それぞれの顧客の特性をしっかりと理解すること。Glossierが提供する楽しげなブランディングの裏には、ブランドを愛する顧客の嗜好をしっかりと理解することを差別化要因としている。そして、ソーシャルメディアなどを通じて、専属のコミュニティースタッフが日々やりとりを重ねている。それが功を奏し、アンバサダーを中心に口コミで多くのファンが広がっていった。
Dollar Shave ClubやWarby Parkerなどの以前までのD2Cブランドが、便利さを前面に出していたのと比べてみても、最近のD2Cは、より体験を重要視したブランド構築を行っている。
2. 他のブランドを真似しない
成功しているモデルを徹底的に研究し、それをなぞるのが、これまでのビジネス戦略の定番の1つだった。これがD2Cになると全く通用しない。むしろ逆効果になってしまう。
そもそもD2Cブランドは、プロダクトやストーリーにおいて、オリジナル性が非常に重要になっている。ユーザーの記憶に残り、周りの人々に自慢したくなるようなブランドにするためには、他もやっていないようなオリジナル演出が不可欠だ。
その1つが開封体験だろう。オンラインで販売されたプロダクトが届き、パッケージを開ける体験は、ブランドに接する一番最初のタッチポイントであり、ユーザーに強烈な印象を与えることができる。
実に、Dotcom Distributionが2016年に実施したEコマースのパッケージングに関する調査によると、しっかりとブランディングされたプレゼントようなプレミアム感のあるパッケージは、ブランドに対するロイヤリティーを上げ、さらにクチコミを促進するという。
3. スピード重視
多くのD2Cはスタートアップである。これは、デジタルテクノロジーを活用しているからだけではなく、スピードも重要視しているから。既存のブランドは、じっくりと時間をかけて行うことが多いが、D2Cブランドの場合は、それだけ早く動き、アップデートできるかが勝負の鍵となる。
そのスピード感を実現するために、小さくスタートすることが多い。Bonobosは当初お洒落なズボンだけで始めたし、Allbirdsの初期ラインアップもウールのスニーカーだけであった。
もちろん色やサイズのバリエーションはあるのだが、全ての工程でのスピードを上げるために、最小限のプロダクト数にするのがD2C流。その後、ユーザーからのデータを元に、次の商品の企画や、翌月の選定を行うのが一般的になってきている。
4. できるだけ早く告知を始める
D2Cでは、店舗を出すよりも早い段階でオンラインで売り始めることが多い。もっと言うと、プロダクトの配送準備ができる前にサイトを公開するのも珍しくはない。デジタルチャンネルの良さは、実物がなくても見せ方次第でユーザーを引きつけることができること。
試作品ができた時点で、サイトやソーシャルメディアなどを活用して告知を開始し、潜在ファンを集めた時点で一気に販売を開始することで、初期のオーダーを多く獲得することが可能になる。
5. ゴール設定は現実的に
実店舗を持ち、雑誌に広告を出すなどの既存の方法と比べて、オンラインを中心にブランド構築を行う場合は、その成果に対して現実的なゴール設定を行う必要があるだろう。成功例ばかりが目立っていることもあり、1年目から数十億の売り上げを目指す場合もあるが、最初の目標はなるべく小さめに設定した方が良い。
D2Cブランド構築の多くは、初期の熱狂的なユーザーが中心となって行われることが多く、そこには多少なりとの時差もある。最初の1、2年は目先の売り上げよりも、根気よくファン作りをすすめること。
6. 時には競合も支援する
D2Cブランドの多くが、サステイナビリティなどの世の中に対してのポジティブな影響を目指している。その一環として、Allbirdsのように、他のブランドに役立ててもらうために、その製造工程や商品の素材などを100%公開しているケースもある。
場合によっては、競合ともなり得る相手に対しても、アドバイスをすることもある。これは、多くの人々とビジョンを共有し、より良い社会を実現するのが目的。
一方で、形や雰囲気など”外側”だけを真似るだけで、環境によくない素材などを使っている場合には、徹底的に戦うこともある。
以前にAmazonにAllbirdsそっくりで、値段が半額の商品が売られたことがあった。しかも価格を下げるために、環境によくない素材と方法で製造していた。それに対して、Allbirdsの創業者は、”Dear Mr. Bezos,” というタイトルのブログを通じて、「パクるなら、我々のサステイナビリティに対するアプローチをパクってください」と皮肉った。
アメリカでD2Cを展開してみませんか?
btraxではユーザーのインサイトに基づいたD2Cブランドのグローバル進出をサポートしている。アメリカでヒットを生み出せれば、日本にブランドを逆輸入するのも効果的。ブランド、ウェブサイトの構築、UXデザインを含むブランド認知のためのマーケティング戦略立案も一貫して行っているので、ご興味のある方はぜひお気軽にお問い合わせを。
* アドバイスを提供してくれたD2Cエキスパート達
- Nick Shackleford – Co-founder & Managing Partner, Structured Social
- Patrick Pan – Manager, Digital Strategy & Interactive Marketing, NEST Fragrances
- Megan McCullough – Growth Marketing Manager & SEO Manager at ThirdLove
- Nik Sharma – Founder, Sharma Brands
- Joey Zwillinger – Co-Fouder, Allbirds
- Jeff Chapin – Co-Fouder, Casper
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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