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コンコルドの失敗から学ぶスペック至上主義の危険性
コンコルドという飛行機をご存知だろうか?
おそらくある一定以上の世代であれば、知ってる、聞いたことある、見たことある。そして、もしかしたら乗った事がある方もいるかもしれない。
この飛行機はイギリスとフランスが共同開発した超音速旅客機で、マッハ2.0の速度を誇る。現在一般的に飛行しているジェット旅客機の約2倍の速度が出る。
と、いうことは、移動時間も半分になるといった、夢のような旅客機である。
それも驚くべきことに、1960年代に開発が進められ、1971年7月1日には量産型が初飛行、1976年1月21日から定期的な運航を開始したという。今から40年以上も前に飛行をしていたということになる。
その機体のデザインは今見ても、かなり未来的で、とてもカッコ良い。
現在の半分の時間で移動が可能だった
当時は、ロンドン-ニューヨーク、パリ-ニューヨーク間に就航しており、通常の半分の時間で行き来する事が可能であった。もしこれがその他の航路にも採用されれば、世界中の移動がかなり楽になる。
しかし、今は飛んでいない。2003年を最後に全機が退役したから。なぜであろうか?どう考えても絶対的な価値がそこにあると思われるのに、なぜ普及しなかったのか。
実は、このコンコルドには、プロダクト開発、ビジネス戦略、そして、サービスデザインにおける重要な教訓が隠されている。
イギリスとフランスが巨額の予算を投じた巨大プロジェクト
それは、1962年に英仏合同で開始された超音速旅客機コンコルドを開発するプロジェクトで、両国からの大きな期待と優秀な人員、そして多額の予算がつぎ込まれた。
そして、最先端テクノロジーを集め、開発開始から14年後に見事初フライトを成功させ、人類の夢でもある高速、短時間での飛行を可能にした。
コンコルドがすごいのは、そのスピードだけではない。世界の忙しいエリートビジネスマンをターゲットに設計されたその機内は、なんと全席がファーストクラス。
サービスも、コンコルド専用の資格を持った客室乗務員による、コンコルド専用の機内食メニューや飲み物の提供される。まさに、全てが世界最高。
誰もが一度は乗ってみたいと思う、セレブ向け飛行機である。
サンフランシスコ – 東京間が5時間で行き来できる…はずだった
その当時は、今後その就航航路をどんどん増やし、サンフランシスコ-東京間にも就航するというプランもあったらしい。そうなると、現在片道10時間もかかっているのが、その半分の5時間程度で行き来する事ができる。
これは個人的にもとってもありがたい。しかし、残念なことに実現していない。
それどころか、旅客機の飛行スピードと飛行時間は30年以上もほとんど変わっていない。むしろ、燃費や安全性を考慮し、以前よりも少し時間がかかってるレベルだ。
自分としては、短いスパンで一回片道10時間でアメリカと日本を行き来するのは、正直しんどい。日本に出張に行くたびに「コンコルドが飛んでいればなー」と思っていた。
なぜこんなにも素晴らしい飛行機が今は飛んでいないのだろうか?
その理由を紐解いてみよう。
なぜコンコルドは失敗に終わったのか?
コンコルドが撤退した理由はとてもシンプル。
採算が合わないから
である。
250機生産すれば採算が取れるはずだったのが、実際は20機しか製造されなかったのだ。そもそも、航空会社からのオーダー量が絶対的に少なすぎた。
それにより、全く採算が合わず、巨額の損失を生み出し2003年をもって全ての路線が終了した。
誰もが利用したい夢のようなプロダクトなのになぜ?と思うかもしれない。
では、こう聞かれたらどう思うだろうか?
航空券の値段が通常の10倍
そう、コンコルドに乗るには、ニューヨーク – ロンドン間でも往復で通常の約10倍にもなる、
120万円以上の料金を払う必要があった。逆にいうと、開発費、燃料費、そして座席数が100しか無いことを考慮すると、そのぐらいの価格設定でないと採算が取れなかったのだ。
もちろん今までの半分の時間で移動できるのはありがたいし、10倍払ってでも乗れる人はいるだろう。
しかし、おそらくそんな人は世界中でも数百人規模であって、コンコルドが毎日就航できるほどの数ではなかったのだ。
結局、コンコルドは技術のすいを集めたが、十分なユーザーニーズがなかったことが判明し、失敗に終わった。
我々がコンコルドの失敗から学ぶべき3つの教訓
今から考えると、そんなこと気づかなかったのかよ!と思うような失敗内容であるが、そこには、多くのビジネスが陥りやすい3つの落とし穴が隠されている。
1. 多くの予算を費やした分やめられない
実は一説によると、このコンコルドプロジェクトを進めて行く途中で「もしかしたら採算が合わないかも?」という声は出ていたと言われる。
とある時にプロジェクトメンバーが上司に、
「すみません。ちょっと計算してみたんですが、もしかしたらこの飛行機、いつまでたっても採算が合わない可能性があるのでは無いでしょうか?」と聞いたという。
それに対する上司は、
「何言ってるんだ、そんなこと俺もわかってる。でも今さらやめるわけにいかない。これまでにいくら費やしたと思ってんだ!」
と答えた。
そう、このプロジェクトには、イギリスとフランスより巨額の国家予算が費やされている。既に大きな金額と人員を投入している事に加え、各国からの大きな期待と注目を集めていた為に後に引けない状態になっていた。
それもあって、一度プロジェクトがスタートしてしまってからは、引き返す事が不可能に感じたのだ。まさに、Point of no returnと感じられたのである。
論理的には中止することで損害を最小限に抑える事が出来たかもしれないが、人間心理を優先してしまったがゆえの失敗である。
お金、時間、リソース。どうしても費やした分、取り返そうとしてしまう。
これはギャンブルやパチンコの心理と一緒の感覚。この心理的状況はビジネスにとって、非常に危険で、わかっていても売れもしないものに予算を費やし続けてしまい、利益はおろか、損害がどんどん膨らむ。
それを打破するには、プロジェクトの各ポイントで「本当にこれで良いのか?」と問い続け、早い段階で引き返す、打ち切る勇気と、発言しやすいカルチャーをつくる必要があるだろう。
2. プロジェクトに愛着が湧きすぎてた
コンコルドプロジェクトは多くの人数と長い年月が費やされたため、プロジェクトが進めば進むほど、コンコルドに対するメンバーの思い入れとプライドが増幅していった。
そのうち、どんどんバイアスが膨らみ、具体的な根拠もなく「頑張れば、絶対にうまく行くはず」という思い込みが生まれてしまった。
そして、いつしかその状況に対して客観的に判断することが難しくなり始めたのだ
。これもビジネスにおいては危険な状況で、プロダクトマネージャーを始め、参加メンバーは情熱を失わないようにしながらも、常に冷静な視点で状況を確認する必要があるだろう。
3. ユーザーとの対話を怠った
そして、最も重要なポイントが欠如していたと考えられる。それはユーザーとの対話である。
プロダクトやサービスを作り出して行く過程で、できるだけこまめにユーザーからフィードバックを得る。これは「デザイン思考」においては、最も重要なプロセスの一つとされ不可欠である。
しかし、テクノロジーを中心にプロダクト開発を進めて行くと、どうしても忘れがちで、ユーザーのニーズよりも、技術頼み、もっというと技術信仰になってしまうケースが多い。
↑ユーザーの理解がいかに重要かロケットと自転車の比較で示した図。
当初は、多機能で最先端テクノロジーを駆使して作られたロケットを作ろうと思っていたが、様々なテストを経て最低限の機能に絞ったシンプルなロケットをリリースすることに決定。しかし、ユーザーのニーズを満たす為には自転車と坂道だけで十分だったというもの。
どんなに優れた技術を採用したプロダクトでも、最後に利用するのはユーザーであり、彼らが求めるか、対価を払う価値を感じているかが重要で、もしその答えがNoであれば、軌道修正=ピボットが必要になってくる。
コンコルドの失敗を繰り返さないためにやるべき4つの事
理論上は世界最高で、絶対に成功するはずなのに現実はそうはならなかった。我々がこのコンコルドの失敗から学べる事柄は実に多い。
1. 小さく始め、小さく回す
まず、一番の問題は最初から大きくぶっ込みすぎたこと。
スタート時点から費やす予算やリソースが大きければ、後に引きにくくなるのは当然。そのリスクを回避するためには「リーン型」の開発プロセスを通じ、小さく、速くプロジェクトを進め、その状況に対する細かなチェックを常に行う必要があるだろう。
「小さく始める事の重要さ【Amazon, Facebook, YouTube等】大人気サービスの初期バージョンとは」からも分かる通り、最終的なプロダクトが完成するまで世の中に出さないよりも、早い段階からプロトタイプやMVPを作成し、ユーザーにぶつけてみる。
我々がクライアントプロジェクトに採用している「デザインスプリント」も、まさにそれを目的としており、1-2週間の単位で、そのプロダクト、サービスにどれだけユーザーニーズがあるのか、どのくらいの売上規模が期待できるか、などを細かく検証している。
2. ニーズ、ビジネス、技術の実現性を冷静に判断する
これもサービスデザインを進める上での鉄則になるが、新しいプロダクトを作る上で、必ずユーザーニーズの有無、ビジネス的現実性、技術的実現性のそれぞれを検証し、その三つがしっかりとオーバーラップしていることを確認する。
そして、その際は、必ずユーザーからスタートし、その次にビジネス的価値、そして最後に技術的実現性を考慮するべきだろう。
3. 技術頼みではなく、ユーザーの声に耳を傾ける
今回のコンコルドの例を見ても分かるとおり、プロダクトづくりにおいては、ついつい技術主導の考え方になりがちである。
それ自体に問題があるわけではないが、技術やスペック至上主義になってしまうと非常に危険である。なぜなら、現代のユーザーが求めるのはあくまで「体験」であり、技術はそれを実現するための手段であるべきだからだ。
必ずしも「ハイスペック = ユーザーが欲しがる」わけではない。
例えば、8Kや16Kのテレビを作っても、人間の目には識別が付かない。最高時速が300kmの車を作っても走れる場所がほとんど無い。そんなことよりも使いやすいリモコンや、Bluetooth接続のできるカーオーディオの方がニーズが大きいかもしれない。
そんな時は、あえてその技術をデチューンして、ユーザーの目線に合った物作りをした方がヒット商品を生み出しやす可能性もある。さもなければ、製作者側の自己満足としか思われないだろう。
4. ダメな時は勇気を持って打ち切る
そして最後に日本企業が特に苦手な「撤退」する勇気を持つこと。昔より失敗が命取りとされてきた日本文化の中では、なかなか難しいが、現代においては、むしろ早い段階で打ち切るメリットは大きい。
続けているからといって、そのプロジェクトが必ずしも成功に近づいているとは限らない。
むしろ失敗することで”このアイディアはうまくいかない”と発見し、それに大きな予算をつぎ込む事を未然に防ぐ事が出来た点を評価すべきである。
まとめ: コンコルドを作ってないかを考えよう
先日、我々が提供するワークショップにて、参加者がふと「我々はコンコルドつくてないか?」と呟いていた。
この表現は非常に卓越で、実は世の中には多くの「コンコルド型」プロジェクトが存在する、それを打破し、新しいイノベーションを生み出すために、我々ビートラックスでも、常にプロセス改善を進めている。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.