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海外ブランドが「できるだけ買わないでください」を広げる意外な理由
年間10億枚。
これは日本国内で新品のアパレル商品が廃棄される量である。実に4枚に1枚の割合。賞味期限の切れた食品のごとく、多くの商品が誰にも着られないまま、廃棄されていく。
世界全体を見るとそのスケールは甚大で、年間1,700万トン以上に及ぶ繊維製品が廃棄されている。これは、平均で消費者一人につき年間で合計31.75kgの服を捨てている換算。そしてその廃棄量は年々増えている。
2兆5千億ドル規模のファッション業界の闇
この結果は、利益を追求したことによる弊害によるもの。大量に生産することでユニット単位の生産コストを下げ、なるべく安く消費者に届ける。その一方で、大量に売れ残った商品は廃棄するしかないという状況。
また、速いスピードで多くの製品を生産するために、劣悪な労働環境と自然環境や動物に対して大きな犠牲を払っている。そのような状況に対して、よりサステイナブルな仕組みに注目が集まってきている。
安いものを大量に生産する = 大きな犠牲が発生
- 安い労働力の酷使
- 大量廃棄
- 環境破壊
明るみに出たファッション業界における非人道的な労働環境
サステイナビリティ―への関心を高めたきっかけとなった事件がある。2013年4月24日、バングラディッシュ。グローバルファッションブランドの生産を請け負っている多数の工場が入居していた『Rana Plaza』が倒壊した。
倒壊の数日前に建物に亀裂が入っていたことが確認されていながらも、工場の経営者たちは従業員に労働を強要。その結果、1,100人以上が命を落とし、2,500人以上が怪我を負うという、ファッション業界最悪の事故となった。
商品を低価格で提供するため、または企業の利益を拡大するため、多くのファッションブランドが開発途上国の工場にて生産を行っている。
下請け工場で働く労働者の多くは、若い女性や子どもたちで、彼女たちは驚くほど低賃金で、長時間、危険で暴力が蔓延る非人道的な労働環境で働いていることが、この事故によって明るみに出た。
現状を3つの打開する方法
この状況は、大量廃棄による膨大な無駄を生み出してるだけではなく、過酷な労働環境による人権侵害、水や化学薬品の大量使用による環境破壊などを生み出している。そろそろ限界が訪れている。言い換えると、これまでのアパレル業界の仕組みは、持続不可能 (アンサステイナブル) なビジネスモデルだ。
そんな状況を打開する方法として、海外を中心に下記の動きが進み始めている。
- 必要以上に買わない
- 一つのアイテムを長く使い続ける
- リユーズ (中古) 市場を活用する
より多くの人々がモノを買わない方向に
そのようなファンション業界を取り巻く多くの”負”の要素がどんどん表面化してきていることもあり、消費者の意識にも変化が起こり始めている。
GlobeScan社が2020年10月に実施した27,000人を対象としたグローバル調査によると、77%の消費者が耐久性の高い製品に興味を持ち、53%が購入した製品のリユース、修理、リサイクルをブランドに依頼することに興味を持っていることがわかった。
これは、半数以上の人がモノをあまり買わないことに関心があるという結果になってる。
あえて新品よりもユーズド (中古品) を買う人が増加
そんな状況下で、ジェフリーズ社のレポートによると、米国では中古市場が年間300億ドル近くの売上を生み出しており、オンライン再販が牽引し、今後10年間で米国のアパレル市場全体に占める中古市場の割合が、10%台半ばにまで拡大すると予想している。
Z世代の消費者はすでにこのレベルに達しているとのこと。
アパレル市場全体と比較しても、リセールの成長は驚異的。この市場は、多様性、価値、持続可能性を求める消費者の嗜好に対応しており、今後も高い成長が見込まれている。
Z世代も注目する新しい購買パターン
環境への配慮を重視するZ世代の間では、「節約」の人気が高まってる。
パイパー・サンドラーが年2回発表するこの世代の消費動向に関するレポートによると、今年の春に行った10代の若者が好きなブランドのランキングでは、スリフトショップ系や委託販売系が10位内にランクインしてる。この結果は、10代の若者が中古市場に慣れ親しんでいるためで、前年の23位から上昇した結果となった。
18〜24歳の3人に1人が毎年中古品を購入すると予想されており、リセール業界で最も重要な世代なっている。
Z世代の購買意識の変化
使い捨て → 再利用可能
Z世代は、服を買う前に再販価値を考慮する割合が、団塊世代に比べて165%高い。
単独ユーザー → 複数オーナー
Z世代は、「アパレルの所有権は一時的なものである」と強く認識している割合が団塊世代に比べて、83%高い。
廃棄 → 再販
Z世代は、アパレル製品を再販する率が33%高い。
大量消費にNOを叫び出した3つのブランド
そんな結果を意識してか、いくつかのアパレルブランドが、消費者に対して、よりものを「買わないで」のメッセージを発信し始めている。同時に、物を増やしたくないミニマリスト向けのビジネスモデルの構築も模索し始めている。
現時点で、すでにいくつかの著名ブランドがサステイナブルな仕組みへの取り組みを開始している。その中で今回は3つ紹介する。
- パタゴニア
- リーバイス
- ルルレモン
中古アイテムを推奨するパタゴニア
アメリカではクリスマスシーズンのBlack Fridayと呼ばれる日が、年間で最も商品が売れる時期とされている。自ずと多くのブランドが全力でキャンペーンを走らせるのだが、2011年のBlack Fridayでは、パタゴニアは大胆なキャンペーンを行った。
ニューヨーク・タイムズ紙に 「Don’t Buy This Jacket(このジャケットを買うな)」という広告を掲載したのだ。
これは、自分たちが作っている製品がオーガニックやリサイクル素材を使用しているかどうかにかかわらず、パタゴニアのウェアはその重量の数倍の温室効果ガスを排出し、少なくともウェアの半分に相当する廃棄物を発生させ、地球上のあらゆる場所で不足しつつある大量の真水を汲み上げている事実への認知度を広げ、人々の意識を改革するのが狙い。
2016年には、ブラックフライデーの売上の100%を環境保護の非営利団体に寄付。
さらに2019年には、ブランドの草の根活動プラットフォームである「パタゴニア・アクション・ワークス」を通じて、全寄付金と同額を環境保護団体へ寄付した。
そして2020年、パタゴニアが環境に配慮し「Buy Less, Demand More」キャンペーンを展開。このキャンペーンのコンセプトはシンプルで、下記の2つの原則に基づいている。
まず1つは、顧客になるべく購入を控えてもらうこと。そして、もう1つは、リサイクル素材や再生可能なオーガニックコットン、フェアトレードの生産方法を用いた持続可能な製品の購入を推奨すること。
このキャンペーンで最も注目すべきは、パタゴニアがウェブサイトに設置したボタンで、買い物客が新製品と中古品を簡単に比較できるようにした点。新しい「中古品を見る」ボタンをクリックすると、パタゴニアが運営する中古品のマーケットプレイス「Worn Wear」に移動する仕組みになっている。
過剰消費に警鐘を鳴らすリーバイス
アメリカの大手デニムブランドのLevi Strauss & Co.は、消費者に対してできるだけ「少なく」ジーンズを買って欲しいとメッセージを発信している。
該当するリーバイスの広告キャンペーンのテーマは、 “Buy Better, Wear Longer (賢く買って、長く着よう) “
このキャンペーンでは、世界で合計80億人の消費者のために、毎年1,000億枚以上の衣服を生産しているファッション業界の過剰消費に焦点を当てている。一つの商品をなるべく長く着ることで、消費を減らすことが狙い。
リーバイス自身も、毎年60億本ものジーンズを製造している。その製造過程では、何百万リットルもの水を使用し、化学物質や温室効果ガスを環境中に放出している。自ブランドと、ファッション業界全体に対しての警鐘を鳴らしている。
リーバイス社はこれまでも、よりサステイナブルなジーンズの生産に取り組んできたが、それだけでは劇的に地球環境の改善を実現することは難しいこともあり、今回のキャンペーンは、根本的な解決策として「なるべく少なく買い、長く着る事」を消費者に提案する形になった。
上場企業として、リーバイスのこの動きが株主に対してどのように捉えられるかが注目されている。
大量生産、大量消費、大量消費を行わずに売り上げを確保するためには、製品を修理、再販し、最終的にはリサイクルするのがファッション業界の新しいビジネスモデルになるかもしれない。
リーバイスでも、以前よりこの循環的な仕組みへのシフトが進んでいる。2015年には、顧客が製品のカスタマイズや修理を行うことができる「Levi’s Tailor Shop」を立ち上げた。また、昨年10月には、顧客が中古ジーンズを売買できる再販サイト「Secondhand」を開設。
今のところ、全体の収益に占める割合はわずかだが、リーバイスはこのモデルを急速に成長させ、新製品を駆逐することを目指している。
これらの新しいアプローチは、リーバイスが過去10年間にわたって行ってきた環境負荷低減の取り組みと連動している。水の消費量が少ない素材や製造方法の開発に加えて、需要に合わせて生産時間を短縮し、過剰在庫を回避を行っている。
リセールプログラムを提供するヨガアパレルブランドのルルレモン
アメリカのヨガウェアブランドであるルルレモンは、2021年5月より、店頭または郵送で使用済みのルルレモン製品を下取りに出し、ギフトカードと交換することができるプログラムを開始した。
回収した中古品は、オンラインで販売し、より安い価格で多少の着用感を気にしない人たちに提供している。下取りされた商品はすべてクリーニングされ、品質基準に満たない商品はリサイクルされる。
“Like New “と呼ばれるこのプログラムは、リーバイスやパタゴニアと同じく、アパレル産業のリサイクルの仕組みを提供するスタートアップ、Trove社と提携し進められている。
CEOであるカルバン・マクドナルドは、この取り組みに関する声明の中で「ルルレモンは、より健康的な未来を作るために積極的に取り組んでいます」と述べた。
また、2030年までに製品の100%に持続可能な素材と使用済みソリューションを使用するなど、昨年秋に策定したいくつかのサステナビリティ目標に向けて取り組んでいる。
素材もよりサステイナブルなものに
ルルレモンは、再販プログラムの開始と同時に、オレンジ、ビート、ノコギリヤシの木の廃棄物からアップサイクルされた、より低負荷の染料を使用した商品の限定コレクションを発売している。
これらの染料は、従来の合成染料に比べて、水、炭素、合成化学物質の使用量が少ないとのが特徴。よりサステイナブルなブランドへの進化を狙っている。
また、この絞り染めのプロセスでは、毎回微妙に異なる結果が得られるため、この新コレクションのプリントはすべてユニークなものになる付加価値もある。
“Earth Dye “と名付けられたこのコレクションは、2021年5月11日より世界各国のオンラインショップおよび一部のルルレモンストアで発売が開始されている。
よりサステイナブルなファッションに立ちはだかる大きな壁
大量消費から脱却するために、同じ製品を長期的に利用できる仕組みを生み出すためには、何年も使用できて、複数の所有者に利用してもらえるような耐久性を持たせる必要がある。
しかし、単純に製品が長持ちするからといって、それを着続けてくれるとは限らない。エレン・マッカーサー財団の調査によると、消費者が衣服を捨てるまでに着用する回数は、過去20年間で急激に減少しており、近年では、多くの人は、平均で1つのアイテムを7回程度しか着ずに捨てているという結果が出ている。
長く利用してもらうためには、耐久性に加え、デザインの変更が必要になることもある。
パタゴニアは、あえてロゴの掲載を控え始めた
パタゴニアは、製品へのロゴの掲載を控えることで、その寿命を長くしている。パタゴニアの発表によると、一つの製品をより長く着てもらうこよで、より環境に配慮した結果につなげる狙いがあるという。
同ブランドの調査では、ロゴが入ったシャツやコートは、他の人に譲る可能性が低くなったり、部屋着としてきる頻度も下がるという。結果として、アイテムを着てもらえる “寿命” が短くなってしまいがちだという。
リーバイスの製品は、クラシックなデザインと耐久性を誇る
リーバイスの製品は、多くのデザインがクラシックであるため、ある意味ではすでにリセールに適している。また、元々ジーンズは、カリフォルニアのゴールドラッシュの最中に、金鉱夫のために摩耗に強い耐久性のある作業着として生み出されたこともあり、耐久性も非常に高い。
また、ジーンズは長く着ることで、ヴィンテージスタイルにもなるため、サステイナブルファッションへの変換もしやすいと考えられる。
大手も試し始めたユーズドマーケット
Gap、Macy’s、Nordstromなどの大手小売企業も、thredUpなどのマーケットプレイスと提携して中古品市場に足を踏み入れ始めている。
それ以外のブランドも今後どんどんリサイクルや2次流通の仕組みを提供し始めることが予想されている。
大量生産、大量消費、大量廃棄を過去のものにするために
今回紹介した著名3ブランドの動きからもわかる通り、これまでの資本主義の原則であった、大量に安く生産し、多くの消費者に届けるモデルがそろそろ限界を迎え始めている。
これからは、一つの製品をできるだけ長い期間利用できる仕組み、なるべく必要のないものは購入しない仕組み、そして、環境にも人にも優しい製造工程で生み出された「優しい」プロダクトが求められる。
すべてのブランドに求められる環境と人権に対しての配慮
今回紹介したのはファション系のブランドであるが、これからは業界を問わず、すべてのブランドがその生産方法や販売戦略など、すべてのプロセスにおいて社会に対してより良い存在になっていく必要がある。
それは、大量消費時代の終焉と共に訪れた企業に対しての最も重要な責任の一つ。
その取り組みにできるだけ早く気づき、勇気を持ってシフトできないブランドには未来はないだろう。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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