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時代背景から紐解くブランディングとSDGsの関係性
近年、何かとよく耳にする「SDGs」や「エシカル」のワード。流行に便乗して、関連する活動を社内外に向けて実施しているが、本当は実態を理解していないため、あまり手応えを感じていないのではないだろうか?
今回は「SDGs」や「エシカル」というワードがどのような経緯で広まるようになり、そのトレンドが表す現代の消費者の購買動機をご紹介したい。
さらに、ブランドストーリーの観点から、ブランドは今後どのように現代の消費者との距離を縮め、ブランドとしての価値を上げていく必要があるのかを解説していく。
そもそも「SDGs」とは?
最近、ニュースや雑誌など、メディアに常に取り上げられている「SDGs」というワード。「SDGs」は2021年の流行語大賞にもノミネートされ、今年のトレンドワードの一つである。
「SDGs」とは「Sustainable Development Goals」の略であり、日本語では「持続可能な開発目標」と訳す。この開発目標は2015年に国連サミットで合意された、2030年までの持続可能な開発のためのアジェンダである。
「SDGs」というワードは最近の新しい略語に思われるかもしれないが、実はSDGsには前形があり、20年前から「MDGs」(Millenium Development Goals)という指標で2000年から2015年までの開発指標として20年前から掲げられていた。
さらに歴史を辿れば、そのビジョンは1972年に開催された「ストックホルム会議」から取り上げられており、長年世界で取り組んできた社会的課題である。
「SDGs」の浸透で見る、日米の根本的な違い
日本の民間企業での「SDGs」への積極的な取り組みがはじまったのはここ最近のことでありながらも、このように行政の業界では半世紀以上前から国連で世界が団結して目指すビジョンとして取り上げられていた。
以下のGoogle Trendsの分析からわかるとおり、アメリカでは「SDGs」の指標が決定された翌年の2016年の当時から関心が高く、検索数が徐々に伸びているのがわかる。
<アメリカにおける「SDGs」検索数>
その一方で、日本はアメリカと比べて、大きく遅れをとり、2020年から2021年にかけて、遅れを取り戻すかのように、急激に検索数が伸びている。実は、他のアジアの国と比べても、日本は検索件数が増えるタイミングが圧倒的に遅い。
<日本における「SDGs」検索数>
ではアメリカではなぜ、早い段階から「SDGs」について検索されており、日本は遅れをとったのか?その答えとして、アメリカと日本では「SDGs」の浸透方法が根本的に違うことがある。
アメリカはボトムアップ
アメリカでは「SDGs」が目指す、環境保護、ジェンダー平等性、貧困差を削減することを促すアクテビズムなどの活動は前々から進んでおり、ここ数年は加速を見せている状況である。
CSISのレポートによれば、2009年から2019年の間では、世界中の社会的プロテストは毎年11.9%も増加しており、各政権に対してのフラストレーションが溜まっていることが明確である。
このように、アメリカでは市民のボトムアップ型から政治改革や大企業へより公平な社会への変化を促し、結果的に「SDGs」の活動を推進してきた。
日本はトップダウン
その一方で、日本ではアメリカと比べて市民によるプロテストやアクテビズム、社会へ訴えかける習慣があまりない。そのため、市民から取り組むボトムアップ型より、政府の促しにより推進されるトップダウン方式で拡散されていた。
日本政府は日本人にとって、より身近な、地方創生や経団連などの政策目標との取り組みや、SDGsに貢献した団体や企業を表彰する「ジャパンSDGsアワード」や著名人(ハローキティ、ピコ太郎)等と協賛する手段で2020年あたりから我々の日常生活の中で頻繁に見かけるようになった。
「SDGs」の浸透がもたらす社会や意識の変化
海外と比べて、経緯やスピード感が違ったものの、今では日本社会でも「SDGs」が大事な取り組みであることは社会に浸透しており、社会や企業にも変化が起こり始めている。
例えばZ世代は、「ブランドイメージよりもブランドの活動内容を重視」するようになり、その中でも、「高い社会貢献に対しての意識」と「環境に対しての意識も高い」というデータがある。このデータから、顧客はその商品に込められた思いや意義にも着目するようになったことがよく分かる。
そのため、「SDGs」にまつわる行動指標を実現している、または買うことにより顧客も貢献できるといったイメージを持つ企業が高く評価されている。
エシカル消費に対しての意識も
また、経済的格差や環境保護などに対する課題意識で社会貢献への意識が高まったアメリカでは、「SDGs」の議論のうち、自分たちが日々消費する物が、人や社会へのどのように影響するのかをより意識すること、すなわち「エシカル消費」という思想が広がるようになった。
エシカル消費とは、「人や社会・環境に配慮した消費行動」である。アメリカでは”Vote with your dollar”「ドルで投票する」とする、消費者がもつお金の支払い先の選択肢の権利をどの会社に払うことでどのような経済活動を支援するのかという考えが浸透している。
このように、消費者は企業に対して厳しい目で審査することで、企業に生産する際の環境への影響や人権に対してより配慮する生産モデルに切り替えるように求め、より人や環境に配慮した消費行動を企業にも促すようになった。
「SDGs」時代の今、企業やブランドに求められること
このように、さらなる活動内容の透明性を求められるようになった企業やブランドは、消費者の信頼を得るために、自社の商品がどのような課題を解決するために生産され、どのような生産手法で顧客に届けているのかを説明する義務が生まれた。
それを伝えるために多くの企業が活用するようになったのが、ブランドストーリーである。
過去の記事では、「カタログスペック」の終焉を掲げた。商品の機能性を伝えるよりも、その企業が何を提供し、何を実現しようとしているのかが重要となっているということを指す。
また、同じブログでは「ストーリーはブランドと消費者をつなげる架け橋」と述べた。企業が社会や環境にもたらす影響に対して消費者が大変厳しく審査するようになった現代では、ストーリーは、消費者の信頼を得て、ブランドのファンとして継続させるために必要不可欠なツールである。
ブランドストーリーを活用して、ファンから信頼を獲得し続けている企業
Motherhouse
「途上国から世界に通用するブランドをつくる」と掲げるハンドバックとアクセサリーを生産するMotherhouse。ブランドの紹介ムービーには各国の職人が紹介されており、Motherhouseでは職人たちが主役であることがわかりやすい。
同時に、企業がこれまでどこの国の職人と関わってきて、これまでの企業の成長の経過も時系列で顧客に伝わる。
Motherhouseは、生産者の労働状況が見えないという不安要素をブランドストーリーに組み込むことで解消し、顧客にとって共感しやすいブランドになっている。
agnès b
シンプルなデザインが売りのフランスのファッションブランド、アニエスベー。多くの大手ファッションブランド同様、サステナビリティに対する活動を多く推進している。
アニエスべーはサステナビリティを推進する活動に加え、その想いを商品のタグにも記載している。こうすることで、購入者が、アニエスベーの想いを日常的に感じられるようにし、結果的にブランドをより身近な存在に感じさせる効果的な工夫である。
H&M
世界的ファッションブランドであり、ファストファッションとして代表的なH&M。H&Mといえば、生産手法が環境への負荷や不公平な賃金についてメディアに批判を受けていた過去がある。
その批判に対して、H&Mはここ数年をかけて、生産方法や生産者への取り組みを詳細に説明したムービーシリーズなどをYoutubeに数多く展開している。サステナブルであり、環境に負担が少ない衣服の制作に力を入れていることは、商品を紹介するブランドムービーにもよく反映されている。
2021年の秋・冬コレクションの下記の動画の中では、登場するモデルの会話から「I try to recycle and try not to waste water (私もできるだけリサイクルに取り組み、水も無駄にしないように気をつけているの)」と、とても直接的にサステナブルへの取り組みを伝えている。このように、商品や商品の購入を促すモデルを通じてブランドとしての強い想いを顧客に伝えている。
KAPOK KNOT
カポックという木の実を使って、ダウンジャケットと同レベルの防寒性を、植物から採取される繊維を利用することで実現しているD2Cのアパレルブランド。
KAPOK KNOTはブランドストーリーが明確であり、なによりも商品の製造プロセスがとても透明である。
「Farm to Fashion」というスローガンのもと、原材料の選定から顧客の手元に届くまでの各過程におけるステップが明確であり、拘り強く作られている商品であることがわかりやすい。
このKAPOK KNOTが作り上げる世界観は他のダウンジャケットの生産者と差別化する要素にもなり、根強いファンの構築を期待できる。
まとめ
社会的公平性、環境保護に対する意識がより高まるようになったここ数年。
日本では「SDGs」という略語をきっかけに認知が高まったが、その根本にある社会や環境へ配慮する思想は、一時的な流行ではなく、これからも長期的に取り組み続ける社会の課題であると言えるだろう。
その中で、経済活動を続ける企業は顧客からの信頼を得るために、自社の存在意義を伝えることが必要不可欠となってくる。
顧客とのコミュニケーションの取り方はさまざまであるが、その中でも今回はブランドストーリーに着目した。企業が提供する商品の社会的意義や商品の生産方法を、一貫性があるストーリーとして提示することは、企業の透明性を明確に伝え、顧客の不信感をなくすことに繋がる。その結果、ブランドへの共感や納得性を獲得することが可能である。
ブランドが「愛されるブランド」として長期的に成長するためにも、ストーリーを伝えていくことは非常に重要だと言えるだろう。
参考:
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