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AX 2023を終えて – 日本に残されたブランドアセット活用
2023年7月1日から4日間、アメリカのロサンゼルスにてAnime Expo 2023 が開催された。このイベントは日本国外における世界最大のアニメの祭典であり、世界の日本のコンテンツファンにとっては “聖地巡礼” で訪れるべき、とも言える場所だ。
Anime Expo 2023概要
Anime Expo、通称AXは毎年ロサンゼルスで開催されているアニメの祭典で、Wikipediaによると今年2023年の累計来場者数は約38万名となっている。(Age Rant調べ)
1992年にシリコンバレー地域のサンノゼで開催された初回、その当時の来場者は1750名であり、かなりニッチなイベントであった。
その後米国におけるアニメ人気が高まり、1994年よりカリフォルニア南部に開催場所を移したのだ。
会場には展示ブースの他に、各種パネルディスカッション、コスプレコンテスト、ミニコンサート、同人アーティストによる作品展示コーナーなどなど、コンテンツはかなり盛りだくさんだ。
拡大する世界におけるアニメ市場
実際に参加してみるとわかるのだが、海外でのアニメ人気は年々加熱しており、会場はものすごい熱気に包まれている。その中でも、日本のアニメの輸出先としても、アメリカは大きな割合を占めている。
下のデータからも分かるように、実際アメリカのアニメ市場は急速に拡大中であり、2030年には500億ドル以上の収益が見込めるという。
アニメは日本に残された数少ないグローバル資産
このように、アニメ人気は世界で拡大している。そして、AXは、ほぼほぼ “純日本製” のコンテンツだけで世界を熱狂させられるイベント。そんなイベントは他にはほぼ無いだろう。
もしこれが日本車だけの展示会や、日本の家電だけで埋め尽くされた家電見本市だったとしたら、10万人以上のオーディエンスが集まることは想像しにくい。
それを考えても、アニメは日本が保有する数少ないグローバル市場に通用する固有資産だと考えられる。
アニメを活用したグローバルブランド構築
ということはこの資産を企業のブランディングに活用しない手はない。と思った。
もちろんアニメ風のCMなどを活用してる企業はいくつもある。しかし、その多くが国内向けだけに放送されたり、単なるプロモーション動画に終始してしまっている。
でも我々は本気で世界で多くのファンが存在しているアニメというコンテンツに真摯に向き合い、あくまでそれ単体で楽しめる商業作品を作る。それも日本の優れたアーティストやクリエイターとコラボすることで世界に打って出るのを目標に。
その第1弾として、クライアントのヤンマーホールディングス株式会社(以下、ヤンマー社)と共にAX会場のロビースペースに巨大な展示を行った。
それも日本のお家芸である「ロボット」の展示
今回展示したブースには今まであまり目にしたことのない造形の「ロボット」が中央に設置されている。これはヤンマー社のデザイン部とのコラボで作成されたアニメキャラクターの一つ。それをいち早くエキスポの入り口ど真ん中に展示した。
ロボットをキャラクターの一つとして採用したきっかけは、とあるサンフランシスコのデザイン会社で参加した “The History of Robots” と呼ばれるセッション。
そこでロボットの歴史が説明されていたのだが、多くのロボット産業に関わるデザイナーやエンジニアが鉄腕アトムや鉄人28号、ドラえもんやガンダム、エバンゲリオンに至るまで、日本で生まれたロボットのキャラクターにインスパイアされていたためだ。
それに、実社会におけるロボット製品も日本が世界を牽引している事実もある。
これはアニメに加えてロボットも日本が世界に誇れるアセットであるという証明だと感じた。
今回は、どうしても筋肉質で男性的な造形になりがちなロボットのフォルムに、あえて繊細なラインを採用することで、より中性的な存在を目指した。
目指すはアート×デザイン×マーケティングのクロスオーバー
ところで、そもそもなぜデザイン会社がアニメ制作や、AXの展示に関わっているの?という疑問が出てくる。
そう、これまでの常識であれば “アニメ” はかなりユニークな業界で、商業的なデザインをしている会社は専門外な感じがする。
しかし、今回我々がチャレンジしているのは、アニメの中だけの世界観ではなく、それをブランディングやマーケティングといった “実生活” にもリンクすることで、さまざまな領域へのクロスオーバーを実現することである。
アニメという、場合によってはクローズドな世界にとどまってしまいがちなコンテンツを、より日常生活にも直結した内容につなげる。そうすることで、今までに無いようなステージを作り出せるのではないか?と考えている。
最初からグローバルに
そしてここがかなり重要なポイント。日本のアニメコンテンツの多くは主に国内の人々に向けて作られている。というのも、その内容がかなりハイコンテキストであるため、その繊細さや情緒が海外のオーディエンスには理解してもらいにくい。と思われている。
その一方で、今回のAXに代表されるように、最近では海外でも複数の大規模アニメイベントが開催され、世界中のアニメファン達が集まっている。そして、その多くが日本の人たちと同じくらいか、場合によってはそれ以上にアニメに対して豊富な知識を持っている。
実際、今回の展示の時にも複数の人たちから、かなり “濃い” 質問を受けた。
そのくらい、現代では世界中にアニメに対して強烈に愛情を注いでいる人たちがたくさんいるということだ。
パネルディスカッションにも参加
今回のAXでは、ロビーブースでの展示だけではなく、メディア関係者や業界の方々向けのVIPパーティー、そして作品の裏側をディスカッションするパネルセッションも開催された。
そこでの我々の狙いとしては、ビジュアルデザインや造形の展示だけでなく、その裏にあるストーリーや哲学、そしてヤンマー社のビジョンを伝える事だった。
もちろん世界のアニメファンの心をしっかりと掴むため、セッション中に今回のキービジュアルのアートワークを担当したYKBX氏によるライブドローイングも披露する事にした。
しかし会場が… 大きすぎる。オーディエンスは集まるのか?
今回は世の中に対して『未ル』のリアルお披露目。そしてセッションの日程が3日目 (月曜日) の朝イチの時間帯ということで、パネルセッションにはあまり多くの人たちが集まることは期待しにくかった。
しかし、前日にリハーサルを兼ねて会場に行ってみると、かなりの大きさ。そしてそこに整然と並べられた椅子の数。300席を優に越していた。まるで株主総会を行うような会場の雰囲気である。
それを見た瞬間「あ、これは厳しいかも」と直感的に感じた。
全く新しいコンテンツのアメリカでの初めてのお披露目。全てが初めてのチャレンジでこのキャパシティーを埋めるのは至難の技である。
以前にアマチュアバンドでライブをした事が何回かあったが、初ライブに来るのは友人を含めて10人程度がせいぜいだろうという感覚だった。
これは無理かな?と思った瞬間の奇跡
そしてパネルセッション当日。
朝イチの時間帯ということもあり、開始30分前の時点で会場の近くには誰もいない。もちろん、パネルセッションの会場内には関係者しかいない。
機材チェックを済ませ「こんな感じで人が来るのかなー?」と思っていた矢先、スタッフの人スタッフの1人から「どうやら100人ぐらいの列ができているらしい」との情報が。
安心して胸を撫で下ろした直後「あれ、ガセネタだったらしいよ」ともう1人のスタッフが言う。
そして、開場の時間になっても誰も入ってこない。そして数分するとやっとポツリポツリと入ってきた。数人だけ。その数名が着席したのが、パネルセッション開始時間5分ぐらい前。会場は異様な静けさに包まれていた。
開始3分ぐらい前になってもそれ以上誰も入ってこない。正直「ダメだこりゃ」と思った。
その瞬間、奥の扉が開き、たくさんの人々が怒涛のように入ってきた。それも100人どころではない。全くお客さんの入りが止まらず、開始時間になってもどんどんどんどんと会場に人が入ってくる。
結局、ほぼ満席の状態でパネルセッションがスタートした。
確かに感じた “マイノリティー” 同士の結束感
そして驚いたのはパネルセッションに集まってくれたオーディエンスの数だけではない。その熱気とアニメに対する情熱、そして今回の作品『未ル』に対しての大きな興味だ。
パネルセッションが進むにつれて、内容に対して大きな拍手と歓声が湧き上がり、その盛り上がりはどんどんエスカレート。
最終的には会場が一体になるロックコンサートのような盛り上がりを感じた。これには本当に感動した。
おそらく彼らはアニメ好きという、アメリカを代表とする海外におけるある種の “マイノリティー” であるからこその結束力があるのではないかと思う。
そして、オーディエンスの強い興味は予定より20分以上も延長して進められた質疑の時間にも現れている。
参加者達はこれから我々が作ろうとしている作品、そしてコンテンツに対しての強い興味とヒット作品を制作する難易度の高さ、そして何より日本企業が世界に向けて発信するメッセージに対してのサポートを示してくれた。
時間切れになりパネルセッションが終了した後も、複数の参加者たちがSNSを通じて熱いメッセージを送ってくれた。
我々の新たな挑戦の門出にふさわしいセッションになったことがとても嬉しかったし、オーディエンスの存在が今後も大きな励みになるだろうと感じた。
グローバルに戦うなら日本の武器を最大活用しよう
このように、AX 2023における我々の挑戦は大成功のうちに幕を閉じた。というよりも、まだ始まったばかりであり、これからが本当の勝負になってくる。
なぜ日本のメーカーがアニメを作るの?という質問が多く寄せられているが、その理由は “Why not?” 。そう、日本が最も世界に誇れるアセットであるアニメを活用しない方が不自然だ。
アメリカの企業はハリウッド映画とのタイアップを頻繁に行なっているし、ヨーロッパの企業はF1をはじめとするレースイベントとのコラボが盛んだ。それらは自分たちの地域が世界的に誇れる “武器” を理解し、活用している。
その一方で、日本企業の多くがグローバル市場におけるブランド地位の獲得に苦戦している。素晴らしいプロダクトと卓越したサービスは提供できる。しかし “ブランド” という概念ではまだまだ存在感が薄い。
これからはアートだってデザインだって音楽だって映像だって、どんどんブランディングに取り入れ、よりダイナミックな体験を消費者に届ける。そんなことができる企業こそがグローバル規模で愛されるブランドになっていくと我々は信じている。
Anime Expo 2023で披露された「未ル」のコンセプトビデオ
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