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ドイツ、アメリカ、日本とグローバル展開を見せるAdjustの海外戦略とは【インタビュー】
- 良いプロダクトがあればそれで終わりではない。海外進出においてはユーザー中心のサポートとローカライズが重要
- 進出先の「暗黙の了解」まで理解することが重要。と同時に、自分たちが大事にすることを明確にすること
- グローバルカルチャー作りに関しても、その国の文化を尊重しつつ、会社として守るものは一貫させ、常にフラットでコミュニケーションが強いグローバル組織を作る
- 小手先の戦術だけでなく、長期的なビジョンを掲げること。ユーザーをどう巻き込んでいくのか、どういう関係になっていくのかまで考える必要がある
海外から日本へ、日本から海外へ。日本がらみの越境ビジネスは、アメリカからイギリスに進出といった越境ビジネスとは比べ物にならないくらい壁のある難儀のように感じる。
しかし、日本の成長市場に目をつけて進出する、勢いのある企業もある。Adjustも日本のモバイルアプリ市場の成長を見込み、2014年に日本進出を果たした。
Adjustは2012年にドイツにて創業したB2B SaaS企業で、モバイルマーケティングにおける効果測定、不正防止、サイバーセキュリティー、マーケティング オートメーション ソリューションを世界中のモバイルマーケターに提供している。現在は世界で16のオフィス、400人の従業員を抱えている。
そして2014年に日本にもオフィスをオープンし、業界トップシェアを誇るまでに成長してきた。そんな世界中で拡大を続けてきたAdjustが、日本進出においてどんな点が他の国とは異なり、ローカライズが必要だったのか、Adjust日本 カントリーマネージャーの佐々 直紀氏に伺った。
日本進出の理由:日本はモバイルアプリ市場において世界トップレベル
Q: Adjustは2014年に日本に進出しました。日本進出の決め手は何でしたか?
A: 日本のモバイルアプリ市場は世界でもトップレベルの市場です。日本は有名なモバイルパブリッシャーの出所というだけでなく、多くのゲーマーがいるモバイルゲームの中心地でもあります。私たちはこの市場に、モバイルソリューションの未開発の可能性を見出したのです。
日本進出への決め手の1つは、日本でのモバイル使用率が世界トップ3であったということです。この現状が日本のモバイル経済の強さを作り出し、モバイル中心のインフラや教育、法律がGDP(Gross Domestic Product)に良い影響を与えることを示唆しています。
(2018年時点でも、言語別モバイルゲームの市場規模で日本語は世界3位。言語利用人数を考えると一人当たりの金額は非常に高いことがわかる。データ引用元)
人口減少、言葉の壁など、日本は海外企業からすると一見、進出には魅力的とは言えない。一方で、モバイルがすでに浸透していたり、ゲームを中心としたモバイルアプリが盛んだったりと、強い分野は存在している。そしてAdjustはこのモバイルアプリに向けたサービスをしているため、日本でも勝機があるのだ。
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日本初のサービスということに甘んじず、ワークショップやサポートも手厚く
Q: 日本市場に進出する際にどのような準備をしましたか?
A: 当初からの最重要項目として、日本のクライアントに対してマーケティング方法をローカライズすることを重視していました。我々のクライアントである日本のマーケターに、データとリサーチに基づいたインサイトとリソースを提供し、業界の新しい知識を伝授することがAdjustの日本進出の秘訣です。
私たちAdjustはクライアントに常にモバイルマーケティング業界の情報に敏感になってもらうため、定期的にワークショップも開催しています。
さらに、現地でクライアントをサポートするためのテクニカルサポートチームも設置しています。このサポートチームは私たちが持つリソースの中でも最も重要にしているものの1つで、クライアントの様々な問題を解決するために尽力しています。
進出当時、Adjustは日本国内で初めての、国内・国外の主要なネットワークと連携しているソリューションでした。国内外の統合が鍵になっており、国内外どちらともに市場を拡大したいと思っている日本のモバイルアプリにとって、非常に強力な差別化要素なのです。
「いいもの」を出すだけで終わらずに、ユーザーとの接点をもち、そこからサービスを広げ、育てる姿勢が見られる。今まで市場になかったサービスであることだけに頼りすぎると、他社が類似サービスを出して簡単に追いつかれる。実際のユーザーを巻き込んだサービス作りをすることで本当の優位性を確立できるのだろう。
Q: Adjustは今までに幾度と他国に進出してきましたが、日本に進出した際に苦労したことはありましたか?
A: はい。当時の日本の社会では、Adjustのようなツールに経費を使うことに対する理解がありませんでした。その上で、対象のクライアントが、マーケティングの重要性と影響力を理解できるようなハイクオリティーなサービスを提供することにしました。今では、モバイルパブリッシャー業界において有料ツールを使うことが普通となっています。
アメリカはマーケティングの職種が細分化され、それぞれの専門職に分かれている(規模の小さい会社は除く)。国土も広いため、営業が人力でまわれる範囲も限られ、マーケティングの重要性が増す。一方で、日本のマーケティングは、アメリカほど重要視されていない印象だ。
営業とマーケティングが混同されることもある。その分野にどのくらい注力し、どれだけの投資をする気があるのかを理解することは、自社サービスの重要性をどの程度教育していく必要があるのかを理解する上で重要となる。
業界の暗黙の了解は理解しつつも、自分たちのスタンスは確立する
Q: Adjustの本社はドイツにありますが、ドイツと日本でのビジネス戦略は異なりますか?
A: はい。1番大きな違いは、広告枠購入のためには広告代理店に仕事を依頼するという文化が根付いていることです。日本の会社は大手の代理店と強い結びつきがあります。近年、世界中の会社が自分たちの会社の中だけで仕事を回そうとする傾向がある中、日本での私たちの戦略は、多くの代理店との関わりを持つことです。
私たちは常に代理店と公平な立場になるように心掛けています。1つの代理店だけに頼るのではなく、多くの代理店やネットワークを持つことが重要だと考えています。
企業文化をローカライズ
Q: ベルリン本社と日本のオフィスはどのように関わっていますか?
A: まず、私たちは日本のビジネス文化を尊重すると同時に、急成長しているAdjustの企業文化を重視しています。これにより日本のクライアントとパートナーとの関係性を良好に保っています。
私たちは、良い労働環境を作るための基礎は 「信頼」だと思っているので、世界的にフラットな企業構造を取り入れています。会社のマネージメントに意見や質問がある場合には、全社員がそれぞれの考えを発信できる環境が備わっています。
さらに、年に2回、約400人の従業員全員を世界中から集めています。昨年の夏の始めにはポルトガルに1週間の招集をかけチームビルディングを行いました。夏だけではなく、冬には毎年ベルリンの本社で集合します。
Adjustは社員の教育にも力を入れています。毎月、約10人から20人の新入社員をベルリンの本社に3週間の研修のために滞在させます。この研修は、社内の教育部門がAdjustの考えをカリキュラム化したものを基に行われています。
全て英語で行われるリーディング、テスト、タスクを含むこの研修は、その後もAdjustが新しい機能を追加するたびに行われます。
Q: 研修が全て英語で行われるということは、日本オフィスの全員が英語を喋れるということですか?
A: 世界中に拠点を置くインターナショナルな会社として、コミュニケーションや情報伝達を円滑に進めるために一つの共通言語を決めることは必要不可欠です。私たちにとってはそれが英語です。バイリンガルに働くことは難しいことですが、とてもやりがいのあることです。
だから、私たちは常に優秀な人材を探しています。国内のクライアントは日本の会社なので、セールスチームは普段日本語で業務を行っています。
日本での主な戦略は、クライアントへの教育とローカライゼーションです。本社に日本語のローカライゼーションマネージャーを置くことで、新しい機能を発表するときに即座に日本語版を公開できるようにしています。
進出先の国の文化を大切にしつつも、自社のコアの部分は貫く。そしてグローバルに拡大しても、フラットさを保つこと、全員が集う場を設けることで、信頼を築いていく。言語による弊害・スピード低下を避けるためのチーム作り。このような思いと活動がAdjustを強くさせているのだろう。
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日米のクライアントとのコミュニケーションの違い
Q: 当時、Adjustの提供するようなサービスに投資することは一般的ではなかったと仰っていましたが、どのようにして今のクライアントから信頼を得ることに成功しましたか?
A: 優秀なセールス、サポートチームを作り、クライアントへの丁寧かつ長期的なサポートをすることで信頼を得たと思います。新しいテクノロジーを浸透させるために、定期的なセミナーを開催することも重要でした。日本市場にローカライズしたサービスをクライアントにとって分かりやすく見せるようにしています。
日本のクライアントの特徴は、製品の詳しい特徴を知りたがるということです。もちろん求めるサービスの質への基準も高いので、状況によっては営業時間外の連絡のスピードも重要です。
ユーザーへのサポートは万国共通の顧客獲得法だ。ただし、ユーザーが何を気にしているのかを見極める必要がある。また、コミュニケーションのスタイルは、個人差はもちろんあるが、日米で仕事・プライベートの分け方などが異なるので適応していく必要がありそうだ。
日本では代理店やベンダー側が下請けで、お客様のために尽くす、といった立場の状況を見かけるが、アメリカでは比較的対等な印象。契約書に基づいて、そこに書かれていることはやるが、それ以上は別料金。いつでもすぐ返信をくれる、何でも屋タイプは少ない。
グローバルにビジネスをするための秘訣
Q: 日本でのビジネスを維持するために重要なことは何ですか?
A: 多くのスタートアップは営業部長を後の経営者として雇います。しかし、営業のみで成功することはできず、大事なことはクライアントと長期間にわたって良い関係を保つこととその視点です。つまり、新しいクライアントを獲得したこと以上に、使ってもらった上でポジティブな意見をクライアントからもらった時に喜ぶべきなのです。そのためには、企業は長期的な戦略を立てることが大事です。
もちろんクライアントを獲得することは大事ですが、営業マンの巧妙なテクニックにより、目先の利益のために製品を売るだけではなく、ビジネスがひと段落した後のことも気にかける必要があります。
海外でビジネスする際に、初期のユーザー獲得や最初の打ち出し方ばかり考えてしまわないように。長期的にその国でどうなっていきたいのか。ユーザーをどう巻き込んでいくのか、どういう関係になっていくのかまで考える必要がある。
Q: 過去5年、日本で事業を展開する上でたくさんのことを学んだと思います。これから日本進出を目指す企業にどのようなアドバイスがありますか?
A: 最初のアドバイスは、従業員全員がそれぞれの仕事に専念できるように人事や事務などの内務チームをできるだけ早く整えることです。自分の仕事に加えて、会計事務所や社労士、人材紹介会社、不動産などとのやりとりに時間を取られ、仕事の妨げになります。
海外の会社にとって、現地の言葉と英語が堪能であることは前提となりますが、更に、日本の文化や業界を知る優秀な人材を雇うことが重要です。そのような人材を見つけること、または彼らがモバイル業界に参入することは簡単ではありませんが。
これに加えて、他のアドバイスは以下の通り。
- 日本の市場向けに製品・サービスをローカライズして、日本の顧客とコミュニケーションを取るため現地の従業員を雇うこと。
- 日本円で支払いを可能にするため、日本で銀行口座を開設すること。
- 代理店やパートナーとは対等な関係を築くこと。
- 本社のビジネス戦略をそのまま新しい市場に持ってこないこと。自社の戦略を新しい市場に適応させるために、その国の文化や市場をより理解している責任者に任せた方が良い。
- その責任者にその国のクライアントにマッチする柔軟な決裁権を与えること。
- 様々な変化への柔軟な考え方を持つため、多様な個性を持ったチームを作ること。
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Adjustの日本での成果と今後
Q: Adjustにとって今まで日本で一番やりがいのあった瞬間は何でしたか?
A: 現在、私たちの製品が多くの日本の会社に使われている現状を見て、毎日やりがいを感じます。特に、クライアントが私たちの製品によって成功したと聞いた時にはとても嬉しいです。
Q: これから数年でAdjustはどのように発展していくと考えますか?
A: Adjustは、Acquired.ioというマーケティングオートメーションプラットフォームと、2019年2月にはUnbotifyというサイバーセキュリティのスタートアップを買収しました。さらに、国内で非常に有力な代理店であるAdwaysとCyberZという会社と戦略的なパートナーシップを結び、彼らの分析ツールを買収しました。
これらの買収はマーケティングをよりシンプル、スマート、安全にするという弊社のミッションを実現するために必要不可欠なものです。
2019年の夏の始めには、$227 million USD(約243億円)の資金調達をしました。今後は、日本チームの発展と機能の拡大に投資し、マーケターが必要なツールを1つのプラットフォームに集約する新製品の発表を予定しています。非常におもしろい新たな機能を準備中ですので楽しみにしていて下さい!
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まとめ
海外進出する企業はすでに売るものが決まっていることが多々ある。自国での実績をあげたあとでの海外進出においては、その商品を広めれば売れると考えがちだ。
冒頭にも述べたように、日本とそれ以外の国はあまりにも違う。この違いは日本にいるだけでは体験しづらいが、これを甘くみると、企業・ブランドの評価がマイナスになりかねない。
違いを理解した上で、Adjustのように、進出先(日本)のやり方、文化、必要なサポートを大事にし、自分たちの持っている大事なものは守る、といった選択と実行が重要になるのだ。
我々btraxは、Adjustのように日本市場に参入する企業のサポートや、日本からグローバル進出を考える企業に対し、参入先のマーケットリサーチやサービスのローカライズのサポートを行っている。ローカライゼーションにおいてユーザーの理解は不可欠であり、btraxはこういったユーザー中心のリサーチ、サービス開発を強みとしている。ご興味のある方はぜひこちらからお問い合わせください。
最後に、佐々 直紀さんには貴重なお時間をいただき、Adjust日本進出の秘訣とアドバイスをお話していただいた。改めてお礼を申し上げると共に、今後のAdjustの発展を祈りたい。
インタビュー記者・英語記事執筆:Cristina Ammon
翻訳:Masamune Toyoda
日本語記事編集:Yasuko Katsumata
英語記事:How Mobile Market Industry Leader Adjust Became a Japanese Success Story
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