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瞬間的にめっちゃ流行った Clubhouse (クラブハウス) はなぜ失敗したのか?そこから学べる5つの教訓
コロナ禍真っ只中の2021年の初頭、日本を含め、世界で大きな話題を呼んだサービスがある。「Clubhouse (クラブハウス) 」だ。
今でも覚えている人もいるかもしれないが、招待制の音声メディアサービスで、当時は参加したい人が増えすぎて、招待券がメルカリで売られるレベルにまで加熱していた。
その理由の一つが、イケてる起業家からインフルエンサー、そしてアイドルまでが参加し、ユーザーとの”生” の交流ができていたから。
イケてる奴らはみんな使ってるClubhouse
また、イーロン・マスクやマーク・ザッカーバーグ、a16zなど、シリコンバレーの著名起業家やVC, そして暗号通貨コミュニティーの間でも頻繁に利用され、大きな話題を呼んでいた。
2021年の1月から4月の3ヶ月間で実に1400万ダウンロードを記録し、”The Next Big Thing” として大きな注目を集めた。それに合わせるように評価額も40億ドルを超え、ユニコーンが4頭いた計算になる。
しかし、その成長の勢いを保てず、さらにプラットフォームの収益化にも失敗した結果、ユーザーの利用頻度が低下し、その評価額も下落していった。
Clubhouseの主な投資家
Clubhouseは一気にユーザーを集めただけではなく、シリコンバレーの著名投資家やVCから資金調達を行なったことでも大きな話題になった。
特にAndreessen Horowitz (a16z) は、イチオシ投資先スタートアップとして、パートナーの2人が主要インフルエンサーとして出演するなど、マーケティング面でも大きな支援を提供していた。
Andreessen Horowitz
Clubhouseへの初期投資家の一つで。2020年5月に1000万ドルのシード資金を出資し、2021年1月のシリーズAでも追加出資を行った。このシリーズAでは1億ドルを調達し、評価額は10億ドルと報じられている。
同ファームのジェネラルパートナーであるアンドリュー・チェン氏はブログで「Clubhouseは偶然の出会いが生む会話とユーザー生成コンテンツを見事に実現した」と評価していた。
また「ソーシャルオーディオの主要プラットフォームになる可能性がある」とも強調していた。
DST Global
DST GlobalはClubhouseに1億ドルを出資し、評価額を10億ドル規模まで引き上げた。わずか数カ月前までは1億ドル程度の評価額だったため、飛躍的な上昇といえる。この投資により、Clubhouseは世界で最も価値あるソーシャルメディア系スタートアップの一つとみなされた。
DST Globalの創業者兼CEOであるユーリ・ミルナー氏は投資当時、「Clubhouseは音声を軸にした新しいタイプのSNSで、世界中の数百万人の注目を集めている」と述べ、アプリの可能性に期待感を示していた。
Tiger Global Management
2021年4月のシリーズCにおいて5,000万ドルを調達し、評価額は40億ドルにまで達したと報じられている。リード投資家はTiger Global Managementであった。
同ファームのマネージングパートナーであるスコット・シュライファー氏は「Clubhouseは音声をソーシャルに変革し、人々のコミュニケーションの在り方を変えている」とコメントしている。
実際の損益や数字は明らかになっていないが、2020年から2021年にかけての急速な人気と、その後の失速ぶりを見るだけでも、その落差は非常に大きかったといえる。CEO自身も「(アプリが)急速に伸びすぎた」と語っている。
Clubhouseの栄光と挫折から学べる5つの教訓
ではなぜここまで急激にユーザーと資金を集めたClubhouseが失速したのか?また、そこから得られる教訓を考えてみよう。
教訓 1:過度なブーム(ハイプ)に注意する
Clubhouseの初期成功の大きな要因は、「次なるSNSの本命」ともてはやされた過度なブームであった。有名人や業界のインフルエンサーがこぞって参加し、話題を集めた。
しかし、この盛り上がりは必ずしも持続可能ではなく、Twitter (X) やSpotifyなどが類似機能を提供し始めると、Clubhouseはユーザー数を維持できなくなった。
瞬間風速的に一気に注目を集めたからといって、必ずしも継続性があるわけではない。これまでの多くのスタートアップサービスがそうであった通り、過度なブーム=ハイプに気をつけなければならない。
教訓 2:競合環境を見極める
Clubhouseは、Twitter (X) の「Spaces」などの競合サービスに直面し、十分な差別化ができないまま競争にさらされた。
先行者優位があったとしても、差別化できなければ市場に埋もれてしまう可能性がある。競合の多い市場で差をつけるのは、優れたスタートアップであっても容易ではない。
特に新しいカテゴリーを開拓する場合、既存の人気サービスに後追いされる可能性が高い。そうなってくると、一時は先行優位性で引っ張れるが、後発サービスに駆逐される可能性がある。
教訓 3:明確な収益化戦略を持つ
Clubhouseは広告やサブスクといった収益源を持たず、収益化に苦戦した。
魅力的なプロダクトやユーザーベースがあっても、長期的に財務的に安定する方法を持たない企業は投資においてリスクが高い。
最初のうちは無料サービスでガンガンユーザーを増やすのは良いが、どこかのタイミングでプロダクトやユーザー特性に合った明確な収益モデルが重要である。
特に音声系のサービスは、SoundCloudやSpotifyが苦戦したように、マネタイズすることは容易ではなく、その辺の戦略を早い段階で立てておく必要があるだろう。
教訓 4:長期的なユーザーエンゲージメントの可能性を見極める
Clubhouseは急激にユーザーを増やしたが、そのユーザーを継続的に引き留めることに失敗した。
多くの人がアプリを一度ダウンロードしてみたものの、すぐに飽きて使わなくなるケースが多かったのである。そもそも、何度か使っているうちに、Clubhouse内での会話がかなり「不毛」であることに気づき、時間の無駄使いをしていると感じるユーザーも少なくなかっただろうと想像できる。
その結果、ユーザーが望む機能よりもそうでない機能が先行してしまい、ユーザーにとっての魅力を保ち続けることが難しくなった。
むしろ、現在でも引き続き使い続けている人がいるのだろうか?
教訓 5:一時の社会的変化にだけ合致したサービスを避ける
Clubhouseが大バズりしていた時期は、世界的に新型コロナウィルスが蔓延し、多くの人々かコロナ禍での「ステイホーム」を余儀なくされていた。
その結果、時間を持て余すものの、人との交流ができないため、何かしらのコミュニケーションツールを欲していた。それも、文字だけではなく、音声といった「血の通った」方法で。
そんな時期に、顔を出さずに気軽に音声だけで参加できて、同じトピックでさまざまな人たちと交流できるプラットフォーム、Clubhouseが出てきたもんだから、大流行り。
しかし、コロナが明け、リアルに人と会えるようになったことで、わざわざ音声ツールを使う必要がなくなった。
まとめ
Clubhouseの急成長と急失速は、とりわけサービスをデザインする際、そしてスタートアップのビジネスモデルを考える際の大きな教訓になる。
どんなスタートアップにも成長と成功の可能性は確かに存在するが、競合環境、収益化戦略、長期的なユーザーエンゲージメントなどの要素を慎重に見極める必要がある。
そのためには、ユーザーニーズの掘り起こし、競合サービスの状況、そして未来予測をした上でのプロダクト作りが求められるだろう。