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ザンビア出身、日米で活躍するUXデザイナーが考える、各国のサービスデザインの違いとは【インタビュー後編】
一級建築士からUXデザイナーへ。業界・国境を超えて挑戦を続けるNondo Sikazwe氏から見た日本のデザイン市場とは?【インタビュー前編】では、アフリカ・アメリカ・日本を移り住みながら、建築業界からテック業界へ転身した異色の経歴を持つNondo Sikazwe氏に、これまでの経歴や、グローバルな視点からみた日本のデザイン市場について話を伺った。
後半では、Sikazwe氏にとってのデザインの定義や、各国の忘れられないプロダクト、今後のデザイナーとしての目標などについて伺った内容をまとめてご紹介する。
目次:
- デザインは「問題解決の手段」
- アフリカ、アメリカ、日本の忘れられないプロダクト
- 日本市場に興味があっても学ぶ手段がない世界のデザイナーたち
- デザイナーとしてのこれからの目標
Nondo-Jacob Sikazwe
ザンビア出身。 南アフリカのウィッツ大学で建築を学び、建築士としてアフリカ各国で複数のプロジェクトへ従事した後、隈研吾建築事務所でのインターンを通じて来日。
その後、千葉大学にて工学の修士号を取得。専門はテクノロジーを活用したサービスデザイン。
修士課程に在学中、スタンフォード大学へ留学。現在は、都内のデザイン会社にてUXデザイナーとして勤務する傍ら、非営利団体での活動や、大学などの講演など、幅広く活動している。
Akiko Sakamoto
btrax UXリサーチャー。東京都出身。国際基督教大学に在学中、オランダのマーストリヒト大学へ交換留学を経験。帰国後、外資系企業にて人事、コミュニティマネジメント、カスタマーサポートなど幅広い職種を経験した後、UXデザイナー/リサーチャーへ転身。
デザインは「問題解決の手段」
Akiko:
前回のインタビューでは、Nondoさんのこれまでのご経歴や、なぜデザインに興味を持ったのかについてお話を聞かせて頂きました。ここで改めてお聞きしたいのですが、Nondoさんにとってのデザインの定義は何ですか?
Nondo:
建築もエンジニアリングデザインも、広義では工学に含まれます。ですので、私は生まれてからずっと工学の畑で育ってきたと言えます。
私たちにとってデザインとは、常に問題解決のための手段です。問題があったときに、それを解決するプロセスがデザインなのです。
例外的なケースは、アートとデザインが組み合わさったときですね。
アートにもデザイン的なパートはありますが、デザインには常に想定されるユーザーがいて、デザイナーの仕事はそのユーザーの課題を解決することであると私は考えています。
デザイナーは、常に自分がデザインしたプロダクトを使う人のことを考え続けなければならないと思っています。
Akiko:
なるほど。建築の場合も同様とのことでしたが、スタンフォードで学んだことで少し考え方に変化が起こったりはしなかったのでしょうか?
Nondo:
スタンフォードへ行っても、自分のデザインへの考え方には変化が起こらず、むしろ確信が持てるようになりました。
私なりの「デザインとは何か」についての考え方は、私が生まれ育ったザンビアで、かなり早い段階で明確になっていました。
日本へ来たことで、自分はアフリカ出身のデザイナーであるという自覚が強くなり、スタンフォードで学んで、自分が来た道と今やっていることは正しいのだという確信と自信を得ました。
Akiko:
建築家、UXデザイナー、エンジニアなどいろいろな肩書きで活動されているNondoさんですが、取り組む課題や、使用するツールが変化しても、根底には「ユーザーの問題を解決する」という共通の目的とアプローチがあるということですね。
確かに、一般的には「デザイン」と聞くと目に見えるビジュアルの美しさを作り込むようなイメージを持っている人も多いように思います。ですが、まちづくりや電子機器の設計、ソフトウェア、日々使う日用品の設計など、私たちの身の回りにあるあらゆるものがデザインの対象なのだと改めて感じました。
アフリカ、アメリカ、日本の忘れられないプロダクト
Akiko:
大学院でサービスデザインにフォーカスを当て研究をされていたNondoさんですが、アフリカの国々、アメリカ、日本のそれぞれのマーケットで忘れられないお気に入りのサービスやプロダクトはありますか?
Nondo:
難しい質問ですね。サービスデザインは、非常にホリスティックで大きなプロセスだと思うんです。
建築でいえば、サービスデザインというのはアーバンデザイン、つまり都市設計の概念に近いと思っていて、その都市に関わるもの全てが設計の一部ですので、評価することが容易ではないんです。
身近なところでは、少し極端かもしれませんが、ディズニーランドはサービスデザインを理解するのには良い例かもしれません。
ディズニーランドへ行ったことがある人であれば、敷地に入ってから目にする色やロゴ、聞こえてくる音楽、飲み物を飲むマグカップの形まで、全ての経験にディズニーの世界観を体現したデザインが落とし込まれていることがわかると思います。
サービスエクスペリエンスとは非常に包括的で幅が広いんです。
リープフロッグ現象
Nondo:
日本のサービスエクスペリエンスについて考えること自体は、比較的簡単かもしれないですね。
なぜなら大きな会社が全てを統括しているケースが多いので、様々なサービスが包括的に繋がっているケースが多いからです。
ただ、そのエクスペリエンスのデザインが上手くなされているかどうかはまた別の話ですね。
一つの会社やブランドが、ビジネスからプライベートに至るまで、あらゆるところでシェアを占めていて、多くのものが一つのアカウントに紐づいている状態に多くの人があるのではないでしょうか?
これはサービスエクスペリエンスを考える上では非常に重要です。
一方、アフリカでは状況が異なっており、多くの会社が小さい単位で分かれて独立しています。
アフリカでサービスデザインの成功例を見つけられるのは、保険と医療、そして銀行サービスの分野です。
正直この3つの分野については、アフリカのサービスデザインは欧米と比較しても世界トップレベルで進んでいると思います。
どれも、ユーザーのライフスタイルと深く結びついている分野で、ホリスティックなソリューションが求められます。
例えば、保険会社のDiscovery Healthは、バンキングと保険をうまく結びつけたサービスを提供しています。
日本では、まだお年寄り向けに紙の通帳が存在していると思うのですが、アフリカの場合はそもそも長らくインフラが整っていなかったので、手紙を送る選択肢すらなかった人々が、ファックスを飛び越えて、突然メールを送る選択肢を得ました。
このような急激なテクノロジーの変化をリープフロッグ現象と呼びます。アフリカのお年寄りたちは、デジタルのプロダクトの使い方を覚える以外に、メッセージを人に送る手段がなかったので、必死にその使い方を覚えました。
ですので、アフリカではお年寄りもスマホが使えます。信じられないかもしれませんが、飲み水にアクセスがなくてもスマホは持っているというような人々が存在するんです。
私は、「お年寄りはテクノロジーへの順応が遅い」というのは誤った固定観念だと思っていて、実際のところ、お年寄りの中にもかなり適応能力の高い人がいて、時には普通の若い人よりも早く学習してテクノロジーを使いこなしてしまう人たちもいます。
もちろん、苦戦したり、困惑する人もいますが、それ以外に方法がなければ彼らは多くの場合、私たちが思っているよりも早く学び、新たな技術へ順応していきます。
日本では飛躍することをせずに、常にバックアップのオプションを用意して徐々に移行をしていくケースが多いので、ユーザーは移行を強いられることがなく、どんどん抜けられなくなってしまうのかもしれません。
美しくまとめられたシームレスな体験
Akiko:
日本のサービスやプロダクトで印象に残っているものはありますか?
Nondo:
日本には巨大企業が多数存在していますが、保守的な業界が多く、包括的なサービス設計ができている企業は稀だと思います。
例えば、スマホとパソコンどちらでも使えるプロダクトを提供している企業において、デスクトップ上では使い勝手が良くても、手元のスマホで開いてみるとデザインが良くないプロダクトをよく見かけます。
しかし、優れたプロダクトが存在していないわけではありません。
例えば、福岡発のみんなの銀行は、デザインチームが非常に良い仕事をしていると思います。
比較的保守的とも言える日本の金融業界の慣習に縛られることなく、若者向けのクールなブランディングとスマートフォンで全てが完結するバンキングサービスを設計し、ユーザー獲得に成功しました。
また、日本では全体的にフィジカルのプロダクト設計の質が高いと感じます。
JRのSuicaは好例で、ユーザー体験の設計が素晴らしいと思います。パスを購入後、それをスマートフォンやスマートウォッチと同期でき、電車に乗るだけではなく買い物の支払いにも使えるなど、シームレスにフィジカルとデジタルの体験が繋がっています。
ソニーのプロダクトも非常に考え抜かれたものが多いと思います。
実は、私の父が昔からソニーの大ファンだったので、子供の頃、家にソニーのプロダクトがたくさんあったんです。
父が新しいソニーの電子機器を買ってくる度に、私も説明書を読んで仕組みを学び、とてもクールだなと思っていました。
例えば、ハイファイセットのビジュアライザーの動きや、CDの挿入ボタンを押した時の蓋の開き方、音楽を流した時の液晶画面の表現など、全てが美しくまとめられていて子供心に非常に印象に残りました。
ミニバスタクシーとの比較にみるUberの革新性
Akiko:
アメリカで思い出深いプロダクトは何でしたか?
Nondo:
アメリカではWow!というほど印象に残っているプロダクトはあまりないのですが、Uberを初めて使った時はとても驚きましたね。
アフリカには「ミニバスタクシー」という相乗りサービスがあります。
これは公に認められているサービスではないのですが、一つの車に複数の人たちが相乗りし、安価に移動することができるサービスです。
アフリカでは最も安い移動方法の手段の一つで、街の道路で乗車を希望得する客がタクシーに乗る時のように手を挙げると、その場でミニバスタクシーが止まってくれて、乗客はハンドサインでどこまでいきたいかを示すんです。
これは独特のカルチャーで、みんなこのハンドサインをサインランゲージとして知っています。金銭的に他の移動の選択肢がない人にとっては不可欠なサービスです。
ただ、会計はキャッシュのみでピッタリ支払うのは大変ですし、計算もその都度ドライバーの暗算ですので煩雑になりがちです。
学生でお金がなかった頃にこのサービスをよく使っていたため、Uberを始めて使った時、ミニバスタクシーのペインポイントが見事に解決されていて非常に感動したことを覚えています。
ミニバスは「予算が限られるが、遠くへ移動する必要がある」というニーズに対してソリューションを提供し、Uberはそこに生まれる会計にまつわる問題をさらにテクノロジーで解決しています。
このようなニーズやペインがあるところに、イノベーションは生まれます。
Akiko:
各地域ごとに特徴がありおもしろいですね。出てくるソリューションに違いはあるものの、似たようなニーズは共通してそれぞれの地域にあることもおもしろいなと思いました。
アフリカの高齢者の方々の適応能力の話を聞いて、世代ごとにリテラシーや、共通認識は異なるものの、それは必ずしも能力の差ではないことも多いのかもしれないと思いました。
最新の技術を使ったプロダクトを作る際に、初めから高齢者を対象ユーザーから切り捨てるのではなく、固定概念を捨てて適切なサポートを提供することが重要なのかもしれませんね。
JRのICカードは日本であまりにも身近すぎて意識していませんでしたが、確かに非常にシームレスで滑らかな体験設計がなされているなと思いました!
日本市場に興味があっても学ぶ手段がない世界のデザイナーたち
Akiko:
少し話が変わるのですが、今回のインタビューの依頼をした際にすでにNondoさんはFreshtraxについてご存知だったとおっしゃっていましたね。どのようなきっかけで知っていただいたのでしょうか?
私が勤めているデザイン会社は、Goodpatchと一緒に仕事をする機会が多いんです。
Goodpatchとbtraxも繋がりが深いので、自然とbtraxが話題に上がることが多くありました。
あるプロジェクトのためにリサーチをしていた時に、日本のローカルなコミュニティにとって良いものは何だろうというディスカッションになり、その時にFreshtraxの記事を同僚が参考資料として引用していました。Freshtraxを知ったのはそれがきっかけですね。
その記事は日本語の記事だったのですが、Freshtraxには日英それぞれの言語の記事があり、日本のマーケットについて英語の記事が読めるのは非常に魅力的だと思います!
日本国内でインターナショナルなバックグラウンドを持つデザイナーはどんどん増えていますし、日本語はわからないけれど、日本に関心がある海外のデザイナーも多いです。
ただ、他の文化圏から来た人がより掘り下げた視点で日本のマーケットを理解したいときや、日本の外から日本のことを知りたいと思った時に参考になる情報はまだ限られています。
特に英語の記事はとても少ないので、btraxのような会社が独自の知見をシェアするコンテンツは非常にニーズがあると思います。
デザイナーとしてのこれからの目標
Akiko:
ここまでNondoさんのこれまでのお話を伺ってきましたが、これからについても伺いたいです。デザイナーとして現在お持ちのゴールはありますか?
Nondo:
3-5年くらいかけて達成したいゴールはいくつかあって、1つはサービスエクスペリエンスについての知見をもっと深めて、テクノロジーを活用したユーザー体験をデザインすること。
これはフィジカルのプロダクトも含めたサービスデザインをイメージしています。
日本や中東では、現在スマートシティのコンセプトがどんどん注目を集め始めているため、できる限りたくさんの機会を見つけて経験を積みたいと思っています。
そして、教育的な活動に積極的に参加していくこと。去年は意図していたわけではないのですが、教育的な活動に携わる機会をたくさんいただきました。
大学での講演や、学生たちのサポートは、自分にとっての学びの機会にもなっていて、非常に楽しく感じています。今年はこういった活動により注力していきたいです。
あとは、東京にいる他のデザイナーたちとコラボレーションを沢山して、デザインコミュニティをもっと大きくしていきたいです。東京では魅力的な人たちがいて、クールなムーブメントやおもしろいグループが存在しているけれど、今はそれらがバラバラになっている状態だと思うんです。
ですので、それらの点を繋いでいくような役割ができたらいいなと思っています。
そして、長期的なゴールとしては、私にとって最も重要なことですのですが、自分が今の仕事を通して得た学びや知見を故郷のアフリカへ持ち帰ってローカライズしていきたいです。
また日本とアフリカを繋ぐことで可能性が広がることがたくさんあると思っているので、二つの国の架け橋のような役割も担っていけたらと思っています。
アフリカでは、前述のリープフロッグ現象のようなことが起こる土壌があるため、日本や中東でやるよりも短い機会でもっとさまざまなことを展開できると思います。
ローカルのコンテクストに合わせて考えていくべきことも多いので、今はできる限り幅広くいろいろな経験をしたいなと思います。
Akiko:
「日本とアフリカを繋ぐ」という点に関して、具体的なアイデアがあればお聞きしたいです。
Nondo:
まずは日本人の友人たちにアフリカに住む経験をしてもらいたいと思っているんです。彼らも僕が日本でそうだったように、たくさん気づくことや学ぶことがあると思うので。
昨年関わってきたプロジェクトはAPAC内で完結するものが多かったのですが、今年は日本人の学生にアフリカに行ってもらう機会をもっと作れるといいなと思っています。
大学も大使館も、学生を海外へ送ることに積極的な人が多いので、適切な人たちを見つけて、橋渡しができる人たちを増やしていきたいと思っています。
Akiko:
最後の質問になりますが、Nondoさんがデザイナーとして大切にしていることはありますか?
Nondo:
全てを絵に描きおこすこと。僕にとって、物事や人を理解するための1番の方法はスケッチなのです。
漫画を描くような感じです。目の前の人たちがどんなふうに会話をしているかや、目の前で何が起こっているかをスケッチして、あとでそれを見返してインスピレーションを得ることが多いんです。
彼らがどんなものを使っていたか、どんな反応をしていたかなど、絵を描くことで、感情も含めた対象の理解ができると思っています。
ですので、スケッチがUXデザイナーとしても建築家としても、自分にとって非常に重要なことなのです。
Akiko:
異なる国や文化、領域を自由に行き来し、点を繋いでいくNondoさんのこれからの活動が非常に楽しみです。
今回お話を聞いていてデザインのおもしろさやパワーを改めて感じましたし、異なるもの同士を橋渡しすることで生まれる可能性の大きさも感じました。
日本の良いものはどんどん世界へ発信し、世界の他の国から学べるものはどんどん学んでいきたいなと思いましたし、現在の自分の肩書きや、今いる場所に縛られずに学び続ける姿勢を忘れずにいたいなと思いました。この度はありがとうございました!
まとめ
複数の国で建築士やデザイナーとして学び・働いてきた経験を持つNondo Sikazwe氏。
発展途上で、変化や成長が著しいアフリカ出身の彼の視点からみた日本やアメリカのサービスの考察は、固定概念に縛られておらず、軽やかで新鮮だった。
彼の最終的なゴールは自分の故郷であるアフリカ大陸の発展に貢献することだが、その過程で彼の包括的な視座や、異なる人・ものを結びつける力、複合的なデザインスキルは、日本をはじめとした様々な国でユーザーの問題を解決し、より素晴らしい体験を生み出すだろう。
弊社は、”We design the future by bridging the gaps”をビジョンに掲げ、2004年米サンフランシスコでの設立以降、2000社を超える様々な企業へデザインを軸としたサービス提供を行ってきました。
日米にオフィスを構え、アメリカ市場への展開を目指す日本企業様に対し、最適な体験からコミュニケーションまでを一貫してデザインし、顧客エンゲージメントの向上とファンの増加をサポートします。
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