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夢と魔法の国を実現する技術、時代と共に変わるビジネスモデル【ディズニーの成功理由③】
これまで全3回で、『ディズニーのビジネスモデルと世界観の礎が築かれるまで (第1回)』、『新たな表現とグローバル展開(第2回)』とお届けしてきたが、最終回は『今日のディズニーを支える立役者とディズニーのこれから』がテーマだ。
今回はディズニーランドを支えている技術、コンテンツと配給パイプの強化により、時代の変化を伴いディズニーが今後目指す先についてを掘り下げていきたい。
魔法を生み出す技術『イマジナリー』
ディズニーランド、初めての海外進出は日本だったのをご存じだろうか?この話が出た頃のディズニー社はウォルトが残した実験的未来都市をコンセプトした『エプコット』の建設を進めていた。
新たなテーマパークの建設に乗り気ではなかったディズニー社は、現在も東京ディズニーランド運営するオリエンタルランドに条件を出した。内容は契約期間50年、ライセンス料として売上の10%を徴収するというかなり厳しいものだった。
交渉の結果、最終的には契約期間を5年短縮し、手数料を見直すことで合意した。これが国外に持ち出された、最初のディズニーランドであり唯一ライセンス契約で成立している『東京ディズニーランド』だ。
当初はうまくいかないだろうと考えられていたが、予想を裏切り順調に入園者数と売上を伸ばすのを見たディズニー社は、直営のディズニーランドを海外展開する判断に踏み切り、フランス、パリ、中国、香港へと展開した。増設を視野に入れていたため、まずは小規模なパークを建設。
しかし、直営にしたことでローカライズが上手くいかずに客足が伸び悩び東京ディズニーランドのようには上手く行かなかった。現在でも他国のディズニーランドは改良を続けており、ようやく業績が伸び始めているような状態だ。
日本にもかつてはディズニーランドを模した奈良ドリームランド、横浜ドリームランドなどがあったが、どちらもアクセスの悪さや他テーマパークに客足が取られ閉園に至った。
現在のディズニーランドも決して好立地ではないが、そのほかのテーマパークとディズニーランドの決定的な違いはイマジニアリングと呼ばれる美術・芸術・建築・技術のプロフェッショナル集団がショーやパレード、アトラクションの開発をしていることではないだろうか。
彼らはディズニーランドの世界観を実現させるために研究を続けており、パーク内のコンテンツや建物の外観を含めた全体の景観など、決して世界観を損なわないように緻密な計算で作られているのだ。
具体例では、ウォルトが最後にアトラクションの建設に関わった『カリブの海賊』はの当初の構想では地下の空間を歩いて回るアトラクションを予定していた。
しかし、1964年のニューヨーク万博でイッツ・ア・スモールワールドとグレートモーメント・ウィズ・ミスターリンカーン(エイブラハム・リンカーンの名演説を体験できるステージ)の技術が好評だったため、ボートライドとオーディオアニマトロニクスという2つの技術をカリブの海賊に組み込んだ。
ディズニーランド以外のテーマパークでも、乗り物が水の上を漂っているように決まったルートを動くのを見たことはないだろうか、それがボートライドと呼ばれる技術だ。
一方、オーディオアニマトロニクスは音・アニメーションを電子によって同期させ、まるでキャラクターが生きているように見せている。
この技術はディズニーのテーマパークの至るところで使用されており、商標登録されているため、ほかのテーマパークは真似することができない。もっとも、これはディズニーが得意とするアニメーションの専門性が活きているため、同じように真似することも難しい技術だ。
そして、キャラクターも当初考えていた方向性から変更された。
キャラクターのデザインを務めたのは、シンデレラ、アリス、ティンカーベル、マレフィセントなどの人気キャラクターの生みの親であるマーク・デイヴィスだ。
「アニメの描けるアニメーターは他にもいる。彼は、物語を作ってキャラクターに命を宿らせることも、私の望むショーの企画だってできる。彼は私のルネッサンスマンだ」とウォルトを絶賛させたほど高い技術と独自性を持ったクリエイターだ。
カリブの海賊だけではなく、先述のイッツ・ア・スモールワールド、グレートモーメント・ウィズ・ミスターリンカーンも彼の貢献が大きい。
カリブの海賊のキャラクター変更では、海賊の持つ暴力的・攻撃的なイメージを覆し、陽気で少し間が抜けた愛嬌ある海賊たちとして表現した。
カリブの海賊は人気アトラクションとなり、後に映画化に至った。
カリブの海賊は、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズとして物語まで与えられたのだ。
さらに、映画の内容に合わせてアトラクションにも追加修正を加えた。
現在ではキャプテン・ジャック・スパロウをはじめとしたキャラクターが追加されている。
この修正はディズニーランドのみだけではなく、マジック・キングダム、東京、パリでも同じ修正が施された。
コンテンツがエンターテイメントへ、エンターテイメントがコンテンツへとインタラクティブに影響を与え合い、高度なコンテンツとして発展する。
ディズニーが揺らぐことなく提供し続けてきた、人を楽しませるという価値はこのようにして実現されてきたのだ。
コンテンツと配給パイプの強化
かつて、ウォルトが拠点をハリウッドに移したことで、ビジネスモデルに影響を与えた。この背景には、ハリウッドのグローバルビジネスモデルが深く関係している。
莫大な額の投資をして作品を生み出し、作った内の1本が当たれば何本分もの赤字を取り返すような不安定さを思わせる事業が、ハリウッドでは当たり前のように行われる。
巨大な費用を生む金融システムを持ち、安定して広く強い配給網を作る。
効果的なマーケティング施策を導入して、高品質な作品を届けるサイクルを回す。ディズニーが質にこだわり続けるのも、この文化の影響を強く受けているからだろう。
そして、ディズニーは経営資源の強化を目的に、あらゆる会社を買収してきた。米国の3大テレビネットワークであったABCは、ディズニーランド建設時に譲渡した施設の一部権利を買い戻しただけにとどまらず、1995年に親会社を買収して傘下に置いた。
これによって、米メディアの関係性が変わり再編時代に突入。続いて、3大テレビネットワークのCBSも買収したことで、ディズニーは強固で広範な配給網を確保した。
しかし、2000年に入ってから再び低迷が始まった。アニメーションが2Dから3Dに移行を始めたタイミングで、ディズニーは波に乗り遅れて苦戦を強いられたからだ。
2006年にピクサーを買収し、ピクサーの創業者の一人であるジョン・ラセターがCCOに就任すると徹底的な改革を行った。直接作品に関わっていないスタッフも巻き込み、現場が自由に発言できる雰囲気を作り組織の意識を変えていったことで、現場主導のボトムアップ型の制作体制を確立させた。
この時、ラセターはディズニーの伝統を重んじる方向で制作の舵を取った。すでにディズニーを離れていたディズニールネサンス期のスタッフを呼び戻して、周囲に流される3Dアニメーションではなく、あえて2Dのアニメーションを作った。
2009年に『プリンセスと魔法のキス』を公開すると、作品は世界中で大ヒットを記録。続いて同様にディズニーの伝統を踏襲し、童話を元にした王道のプリンセスストーリーとして『塔の上のラプンツェル』を発表。
そして、遂にディズニー史上最高の興行収入を叩き出した『アナと雪の女王』を生み出した。この流れが周囲に、ディズニーの第二期ルネサンスとして印象を与えた。
ピクサーの買収を皮切りに、怒涛の制作スタジオ買収、事業提携で拡大戦略を行い顧客層広げると共に、コンテンツライセンスという経営資産を蓄え始めた。
コンテンツビジネスでは所有しているコンテンツの価値と権利が、そのまま資産になる。
良質なコンテンツは収益を生み、さらに集客や求人効果も生む。一度ヒットすればコンテンツとしてレバレッジが効き、メディアとの相性もいい。一方で権利で守られていなければ模倣可能となるため、知的財産として権利で守られなければビジネスとして機能しない。
ピクサー、マーベル、ルーカス、20世紀フォックスを買収して、米の代表的なコングロマリットメディアを抜き、現在のディズニーがトップまで上り詰めたのは、マーベル作品や『スター・ウォーズ』シリーズなど、人気作品の権利を所有したことも大いに貢献しているのだ。
時代の変化はD2Cへ
現在コロナの到来によって、時代の流れは映画館からオンライン配信へと加速している。
このような大きな変化は数十年に一度、あるかないかの大変革だ。実際、市場の半分近くの興行収入を占めるまでになったディズニーだが、興行収入そのものは下がる一方なのだ。
この変化を受けてディズニー社は2021年のQ4で、従来のBtoB型の配給ではなく直接toCへ届けることを方針として掲げている。
新作は劇場ではなくオンデマンド配信で発表すると公表し、続々とDisney+では新作が配信され始めた。
東京ディズニーリゾートのアプリでは、ゲストが設定したキャラクターアイコンを元に『マイ・フェイバリット・キャラクター』というものを定めており、選ばれたキャラクターをパーク内に登場させるという参加型の企画があった。
ここで第1弾に選ばれた『ズートピア』も、2022年の11月に新作としてDisney+が始まった。(参照)2023年の年明けにはスター・ウォーズの新作も控えている。
ディズニーのみならず多くの企業が行ってきたコングロマリットの利点は、事業拡大、知識や技術力の確保、複数の事業を持つことでうまれるシナジーといった面がある。
また、新規事業を立ち上げるよりもコストが抑えられ、経営環境が変化すれば事業再編を実施して財政の悪化を防ぐが出来るためリスク分散が可能になる。つまり、このような変化にもコングロマリットは対応しやすい。
米メディアの代表的なコングロマリットの仲間入りを果たしたが、時代の変換期と重なり直近数年は目標を下回る結果が続いていた。そして、ディズニー社は現在、徐々に業績を持ち直し始めている。
ディズニー社は半世紀以上の間、同じコンテンツが価値を生み続けるほど高い品質の作品を生み出してきた。そして、かつては窮地を救ったミッキーも実は著作権が切れかかっているのだ。
ミッキーの著作権が切れそうになる度に著作権が延長され、米国ではミッキー保護法と揶揄されてきた経緯もあるが、これ以上は著作権を独占するのは難しくなってきた。
実際に2020年に著作権が失われたくまのプーさんは、皮肉の効いたパロディ映画が作られ始めている。今後は新たにディズニーの世界観を守っていくために、著作権切れの問題と向き合っていく必要も出てきそうだ。
夢と魔法を実現する『現実』の話
ディズニーが『夢と魔法の世界』を実現するために行なっていることは限りなく現実的だ。それは表舞台の明るく正しいイメージと乖離するかもしれない。
SF作家アーサー・C・クラークが残した言葉に「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」という有名なものがある。これは実際には科学に限ったことではなく、ディズニーが提供するものはまさにこれだ。
高い技術を持ち寄り、見ている人を驚かせ、感動させる。この体験こそが魔法だ。
ディズニーが見せている夢と魔法の国の実現には、常に十分な投資が必要である。
安定した資金の確保ために強固なビジネスモデルを求め、才能あるクリエイターと共に魅力的な作品を生み出すことを追求した。仕上がった作品を著作権で保護して、一貫した運用と配給によって世界に夢を届けた。
その夢を、魔法のような体験に昇華させたことで、子供から大人まで幅広い年代の人々に感動を与えてきたのだ。
時代が変わると環境や価値観が移ろい、それによって消費者のニーズも変化する。一度作品が成功しても、次同じように受け入れられるとは限らない。
多くの人に愛され、広く知られるには、常に人々の変化を捉えられる目と柔軟な変化が求められる。
向上心を持って適切に自己批判を繰り返し、現状を変えることを臆さず、新しい挑戦をすることは商業クリエイターとしても起業家としても、成長と発展に必要な資質だ。
コンテンツビジネスはレバレッジが効くと説明されることが多いが、それは『優れたクリエイティブ』と『優れたビジネス戦略』のどちらも実現した上でのみ成立する。これからコンテンツビジネスを始めようとしている人には、まずこの2つから考えて欲しい。
本シリーズの記事はこちら:
- ディズニーが「コンテンツの世界観」を「ビジネス」にするまで【ディズニーの成功理由①】
- 舞台化、グローバル展開の背景にあったディズニーの戦略とは【ディズニーの成功理由②】
- 夢と魔法の国を実現する技術、時代と共に変わるビジネスモデル【ディズニーの成功理由③】
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Written by Yuri Tanaka, Lead UI/UX Designer at btrax Japan
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