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デザインスプリントが日本企業のイノベーションに必要な本当の理由
「デザインスプリントには関心があるが、そもそもチーム全員を5日間フルでアサインするのは難しいかもしれない」
先日クライアントであるBlue Labのメンバーと5日間のデザインスプリントを実施する機会があったが、実施する前にこんなことを言っていたのを覚えている。
話を聞いてみると参加させたいメンバーが他の案件を掛け持ちしていたり、どうしても抜けざるをえない別の会議があり5日間フル参加は難しいとのことだったが、なんとか調整してもらいクリアできた。
今回のプロジェクトを通じて改めてデザインスプリントは新規サービス開発を進めていく上でとても有効な手法だと実感したが、一方でこのような日本の企業に起こりがちな問題を克服していく上でも効果的な手段であると気が付いた。
今回は日本企業の新規サービス開発現場で起こりがちな問題を踏まえた上で、デザインスプリントが日本企業がイノベーションを進めていく上でどのような点で効果があるか考察してみたい。
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新規サービス開発現場にありがちな3つの問題
1. スピード感の意識の問題
これまでもfreshtraxの記事で日本企業からイノベーションが生まれにくい、シリコンバレーの企業に勝てない原因について触れてきたが、まずシリコンバレーの企業と比較して圧倒的に異なるのはスピード感の意識の問題だろう。
最近は日本でもアジャイル型の開発プロセスなど一般的にはなってきているが、スピードに対する企業トップの意識はまだまだ低いし、現場でも従来型のウォーターフォール型のプロセスに慣れてしまっていると何も疑わずに半年くらいのスケジュールを平気で立てて進めてしまう。
社内で誰もスピード感に対して疑いを持つ人がおらず、最初から新しいサービスを開発するためにはそれくらいかかると無意識のうちに思い込んでしまっていることが問題である。
関連記事:シリコンバレーの企業はどのようにしてスピードを上げているのか?
2. リソース配置の問題
また、前述のクライアントのようにリソース配置に問題を抱えている企業も多い。現業を抱えている場合には現業以外の仕事に一定の時間を割けないというのが一般的であり、会社が表向きは新規サービス開発を推進していたとしても、このような状況では成果を出すことは難しい。
また、新規サービス開発を行う部署に所属していても、一つのプロジェクトに集中できる環境にあることは珍しく、何らか掛け持ちをしているケースが多い。
人材の取り合いでその人がいないとスキルセット的に足りず、どちらのプロジェクトもうまく回せないという状況が考えられるが、結果として兼任の嵐で一つのプロジェクトに時間を避けない、残業続きでまともに集中できないという状況に陥りやすい。また、最悪の場合、プロジェクト内で議論に必要な人の時間調整がうまくできずに意思決定が先延ばしになり、プロジェクト全体のスケジュールが遅延するということにも繋がりかねない。
3. 意思決定プロセスの問題
スピード感、リソース配置の問題に加えて、プロジェクト責任者が明確でない、もしくは仮に明確でもその人では最終判断ができず、上司にお伺いを立てないと決定できないということも多々ある。上席の承認を得ることに膨大な時間が費やされてしまい、結局プロジェクトがなかなか進まないという事例は枚挙に暇がない。
意思決定者が明確でないことのもう一つの問題として、プロジェクトメンバー内でコンセンサスを取ることばかりに時間をかけてしまい、気がつくと議論ばかりで何も生み出していないという状況も考えられる。「とりあえず打ち合わせ設定しよう!」という感覚に陥っているのが麻痺している証拠である。日本の企業内ではプロジェクトメンバー全員が同じ認識・方向性を共有できないと前に進めないという感覚があるように感じるが、内輪でいくら話していてもプロジェクトとしては何の成果を出したことにもならない。
デザインスプリントが効果的な3つの理由
今回実際に実施してみて、デザインスプリントがこのような問題を解決するのに効果的と感じた点は下記のような点である。
1. 5日間でやりきる覚悟を持てる
まずは「スプリント」という名前にもある通り、スタートダッシュして一気にゴールまで突き進むスタイルで臨むのがデザインスプリントの良さであり、完璧さを求めるのではなく「スピード感」を意識して取り組むためにはまさにとても良い手法である。
5日間でプロトタイプを作成してユーザからフィードバックを得るところまで本当にできるのか最初は不安を感じるかもしれないが、まずは5日間でやりきるという覚悟を持てるのが最大のメリットである。
2. コアメンバーを短期集中型で確保せざるを得ない
デザインスプリントにおいては「集中力」が求められるが、コアメンバーを5日間フルで巻き込めるかどうかが鍵となる。『SPRINT』の本の中でブルーボトルコーヒーの事例が挙げられていたが、CEO自らが参画しただけでなく、小売のエキスパートであった会長やCOO、CFOなど他の重要なメンバーも巻き込んで実施している。
実際に実施する上ではここが一番難しいポイントだが、このような体制をきちんと組めるかどうかで成否が決まると言っても過言ではなく、5日の短期間に重要リソースを集結させる意気込みが必要である。
3. 意思決定の体制・プロセスが明確で効率的
デザインスプリントのもう一つの特徴として、意思決定の体制・プロセスがとても明確であることが挙げられる。特に体制についてはディサイダーと呼ばれる意思決定者を配置し、ディサイダーがすべての意思決定を行っていく。投票権も他の参加者よりも多く持っており、ディサイダーが意思決定に大きく影響を及ぼすことができるような形に設計されている。
その分プロジェクトに及ぼす影響は大きく、最初に誰をディサイダーにするかは充分に練っておく必要があるが、意思決定者がはっきりすることで途中で余計な時間を取られずスムーズにプロセスを進めていくことができる。
また、意思決定のプロセスも興味深い。Day2で行われる決定のプロセスではスケッチのどのアイディア部分が面白いかそれぞれシールを貼っていき、その上で最終的にどのソリューションが良いか全員で投票して決定する。この時サイレント・レビューという形で話をせずに各自このプロセスを進めていく。
シールを貼ってある場所を見ることで皆がどの部分に興味があったのかヒートマップのように視覚的に把握ができるため、最終的な選ばれた結果についてもなぜそれが良かったかあまり議論をせずに進めることができとても効率的である。
5日間のプロセスはとてもタイトで、それ以前に行われた作業・決定事項について振り返る・共有する時間を設けている余裕はないため、一度他のミーティングなどで席を外してしまうとキャッチアップするのが困難になるというデメリットはあるが、このように視覚的に振り返ることはできるし、各参加者が集中して望むことができれば非常に効率的に意思決定ができるプロセスになっている。
デザインスプリントを日常的に回せるような組織にしていくことが必要
冒頭のような問題があった一方で、そこからの気付きとして、そもそもイノベーションを創出していくためにはこのような「集中力」が必要不可欠であり、社内から新しいサービスの芽を本格的に輩出していくためには、社内でデザインスプリントを日常的に回せるような組織体制にしていく必要があるとの意見がメンバー自ら挙がった。
まさにその通りで、これまでのように長時間かけてだらだらと進めてしまっているような習慣自体を見直していくことが重要で、「マラソン」型ではなく「スプリント」型でチャレンジしているプロジェクトが次々に実施されている状態が理想であり、それを推進していけるような組織体制を構築していくことが必要である。
とりあえず、まずは体験してみること!
今回他にも参加メンバーから様々なフィードバックを頂いたので紹介したい。
- これまでは企業が一方的な都合でサービスを提供してきたが、真のユーザニーズを探り、それに応えていくことの大切さを実感した
- それぞれ違うミッションを背負ったメンバー達が、一つのことにみんなで取り組み短期間でやり遂げることは、チームの組成にも寄与できるものと確信した
- 現場だけで進めるのではなく、上の役職の人たちもデザインスプリントに巻き込んで、どんどんアイディアを出してもらうことが必要
このように実際に参加頂いた方々からデザインスプリントの様々なメリット・効果について言及して頂いたが、実際に参加してみないとなかなかその良さを実感することは難しく、まだ参加したことがない方は是非一度体験してこれらの効果を実感して頂きたい。
btraxでは他にも過去に数回クライアント向けにデザインスプリントを実施しているので、関心がある方はぜひこちらまでお問い合わせを!
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