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日本のCSRと何が違う?アメリカ企業が取り組むブランディング手法「ソーシャルグッド」
テクノロジーやイノベーション、スタートアップのイメージが強いベイエリアだが、それと並行してトレンドになっているのが「ソーシャルグッド(ソーシャルインパクト)」というキーワードである。
「ソーシャルグッド」とは、そのまま「社会に良いインパクトを与える」という意味。ソーシャルグッドと検索すれば、いつでもたくさんのイベントが開催されていることがすぐに分かる、テクノロジーやデザインに関連したものも多く、とても興味深い。
そもそもアメリカでは、日本に比べて募金や社会貢献に対する意識が高く、社会人のボランティア参加も当たり前。マイクロソフトのビル・ゲイツ・メリダファウンデーションでは、マイクロソフトの売り上げを非営利事業の資金に回し、世界の貧困問題に取り組んでいるのは有名な話だ。
また、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグも稼いだお金を使って病院を建てたり、慈善事業に寄付したりしている。
日本企業におけるソーシャルグッドの現状
日本でソーシャルグッドというとどのようなものが挙げられるだろうか?一般的な日本企業においてソーシャルグッドといえば、CSR活動としての位置付けが一般的だろうが、企業のウェブサイトを調べると、その多くが「環境に配慮した取り組みをしています」もしくは「奨学金サポートをしています」に終始しているものが多く、どの企業も似たり寄ったりの感じが否めないのが現状である。
もちろん全てがそうであるとは言い切れないのだが、人権や健康、貧困などに関するもの、さらに国際的な規模の問題に関わるものになってしまうと、非営利組織や自治体・政府に任せておくというイメージがなんとなく存在しているのではないだろうか。また企業のCSRはどうしても後回しにされがちなのも日本の傾向である。
一方、アメリカの企業のウェブサイトを覗くと、CSRという言葉はほとんど見当たらない。彼らはソーシャルグッドやソーシャルインパクトという言葉を使って、自分たちの仕事を通して、社会に還元できていることとして、その取り組みを紹介しているのである。
そこには、CSR(Corporate Social Resiponcibility)に含まれる「責任」の概念は感じられない。彼らは「自分たちだからできること」にフォーカスし、ユニークにソーシャルグッドを実践しているのである。
一般企業がソーシャルグッド、そのメリットは?
企業におけるソーシャルグッドな活動の利点は、単に社会に良いインパクトを与えられるというだけではない。ソーシャルグッドな活動は、企業のブランディングやマーケティングにも利用することができる。企業はその活動を通じ、新たに社会との接点を増やすことで顧客となるコミュニティとの連携を図ることができる。
また、ミレニアルズをはじめとし、サステイナビリティ(持続可能な開発)や、ソーシャルグッドといったものに価値を感じる人が増えており、そういった人たちとの共感を得て、支持してもらいやすくなるという利点もある。
アメリカ企業におけるソーシャルグッドな5事例
それでは実際にアメリカの企業がどのようにソーシャルグッドを実践しているのかを紹介したい。
1. LinkedIn – LinkedIn for Good
欧米ではもはや当たり前の存在であるキャリア専用SNSを提供するLinkedInでは、LinkedIn for Goodという10人に満たない小さな部署が主体となり、キャリア開発という点からソーシャルグッドな取り組みを行なっている。Welcome Talent Initiativeは、その一例であり、難民たちのキャリア開発や就職サポートをノンプロフィット団体や政府、民間企業とパートナーシップを結んで進めている。
例えば、難民としてスウェーデンに移住した求職者らがハッシュタグ#welcometalentを使って、難民を積極的に受け入れているスウェーデン企業をサーチすることが可能になった。
これは、スウェーデンにいる外国人移民と優秀な外国人材を取り入れたいという雇用主をつなぐプラットフォームを作ろうとするWelcome Talent In Swedenとの協力プロジェクトである。現在のところ、このハッシュタグ検索に対応しているのはスウェーデンの企業のみだ。
そもそも、彼ら難民の中にはLinkedInの使用経験があまりない求職者も多い。LinkedInは、彼らに使い方に関するトレーニングを行い、個人の経験やスキルがプロフィールとして最大限に反映されるようにサポートも行っている。
これが彼らに見知らぬ土地でのネットワークの構築の機会を提供することに大きく貢献しているようだ。
これ以外にもLinkedInでは、ボランティアを探す非営利団体とボランティア参加者をスキルベースで繋げるプラットフォーム「Volunteer Marketplace」を3年前に設立していたり、最近ではキャリア構築におけるメンタとメンティーをマシーンラーニングのアルゴリズムに基づいて繋げる「Career Advice Marketplace」も一部地域でのみ提供し始めたりしている。
関連記事:【なぜ日本では流行らない?】米国ビジネス上欠かせないLinkedIn
2. Lyft – #RoundUpandDonate
Uberと並んでライドシェアサービスを提供する Lyftは2017年5月より、 #RoundUpandDonateのプロジェクトをスタートさせた。
これは、乗客ひとりひとりが乗車料金を四捨五入して小数点以下を切り上げた分を、Lyftがパートナーを結ぶ非営利団体に自動寄付できるシステム。例えば、乗車料金が$4.65だったとしたら、それを$5に切り上げ、$0.35が寄付に回るという仕組みだ。
実はこのプロジェクトを考案したのは、ソーシャルグッドを実践するための特別なチームではなく、普段は通常業務をこなすプロダクトマネジメントチームだった。
彼らは、1日のうちにものすごい回数の金銭のやりとりが発生しているLyftならではのプラットフォームの仕組みに目をつけ、ひとりひとりの小さなアクションを大きなものに変えられるのでは?と思い立ち、エグゼクティブチームにピッチをして実現させたそう。
このピッチにおいて重要だったのは、①パートナーとなる非営利団体やドライバー・乗客を含むコミュニティとLyftの関係はどのように変わるのか、②どのようにビジネス機会があるのか、③そしてどうしてLyftがそれを行う必要があるのか、の3点を丁寧に説明したことだったと担当者は話す。
実際に、Lyftは競合との違いとして、ドライバーの労働環境にも配慮するなどして、よりコミュニティにフレンドリーなイメージを大切にしていることはベイエリアでは有名である。よって、Lyftが競合との差別化を図るために、このプロジェクトをブランディングの一つとして決定したと考えるのは全く不自然ではない。
ちなみに現状でユーザーが選べる団体は10つ(2017年10月末現在)で、アメリカ赤十字協会、ハビタット・フォー・ヒューマニティー、世界自然保護基金、サンフランシスコらしいパートナー団体としては、女の子のコーディング教育を支援するガールズ・フォー・コードなどが挙げられる。
3. TOMS – One for One Project
そもそものビジネスモデルとして、ソーシャルグッドを掲げ、結果として他のファッションブランドと明らかに違う戦略を採用しているのが靴ブランドのTOMSだ。TOMSでは、消費者が靴を1足購入するごとに、靴が不足する地域の子供に1足の新品の靴が届けられる。
現在は、靴だけに限らず、サングラスやメガネ、バッグの購入がそれぞれ別のプロジェクトのサポートに繋がる。例えば、サングラスなら途上国での目の検診や治療の普及に、バッグなら安全な出産のための設備投資や教育に、その売り上げの一部が回されている。また、届けられる靴の多くは、現地の工場で製造されており、その製造関連の仕事を雇用として生み出すことにも繋がっているようだ。
創業の2006年からこれまでに贈られた靴は7500万足以上で、靴の配布を始めてから200万人の子供を感染症から守ったほか、安全な出産のためのプログラムへの妊婦の参加率を42%増加させるといった成果を出している。このような取り組みに賛同する人々を顧客に取り込むことに成功している。
4. Salesforce – 1-1-1 モデル
顧客管理のクラウドシステムを提供するSalesforceは、創業時の1999年からソーシャルグッドのための「1-1-1 モデル」を取り入れている。これは、株式の1%、製造されたセールスフォースプロダクトの1%、社員の労働時間の1% (年間56時間) をコミュニティに還元するという仕組みだ。
つまり、Salesforceはプロダクトの無料提供や非営利団体等への金銭的サポート、社員による社会奉仕活動の参加にそれぞれの1%を当てているのである。
また、2008年よりSalesforce.orgが非営利団体として設立された。現在彼らは、非営利団体や小中高や大学などの高等教育機関に対し、サービス利用料を最初の10つまで完全無料、それ以降の契約も大幅値下げで提供している。
似たような事例として、会社や団体内での業務の効率化を図るクラウドサービス企業BOXも、自社製品を非営利団体に対し無料で提供している。
5. Airbnb – Airbnb Open Homes
Airbnbでは、宿泊先を提供するというサービス形態を利用して、Airbnb Open Homesを実施している。これは、低所得層の家庭の子供が進学を機に引っ越しをする際や卒業式などがある際に家族が滞在する場所を一定期間無料または低額で提供するというプロジェクト。
これは、進学の選択において旅行費が隠れた壁になっているという問題に取り掛かろうという考えから生まれたもので、Summer Search や United Negro College Fund (UNCF)といった青年サポート団体とチームを組んで進めている。
それ以外にも、Airbnbは低所得者が病気や怪我の治療のために遠方からの移動が必要な場合や、世界を変えようと意気込む社会起業家らが旅先の一時滞在先を必要としている際にも、同様に宿泊先を提供している。
また、災害時の緊急避難先確保や難民の一時滞在先提供のためのプラットフォームとしてもAirbnbのシステムを提供しており、無料で空き部屋を提供したいホストと避難先を必要とする人々をつないでいる。
先日サンフランシスコすぐそばで起こったナパ地方の大火災でも、家を失った人々がこのプラットフォームを利用して仮住まいを見つけていたのは記憶に新しい。このような場合、Airbnbも通常差し引いている取引料を無料にし利益はゼロで対応している。
さらに、Airbnbも社員に月4時間のボランティア有給を支給し、参加を促している。社員らはAirbnbをホストとして利用しているローカルから定期的に地元ボランティアの機会に招かれているそうで、こうした取り組みからコミュニティとのつながりを強めている。
関連記事:デザイン最優先のAirbnbがユーザー獲得のために行う3つのマインドセットと4つのコアプロセス
最後に
以上のように、アメリカでは企業としてソーシャルグッドな取り組みを積極的に取り入れている。彼らの取り組みに共通しているのは、自社のコアサービスをそのまま生かす形で社会に還元していることだ。
例えば、LinkedInならキャリア開発の面から、Salesforceは自社プロダクトを利用して、そしてAirbnbは宿泊先の提供という方法で、社会貢献をしている。
つまり、単に社会に貢献しようというのでなく「自社だからこそできること」を通して世界に還元したいという意図がそこにはある。結果としてそれは自然な形として、自社のブランディングに繋がっているのである。
ソーシャルグッドのトレンドは是非日本でも広がってほしいが、これからアメリカをはじめとし、グローバルにビジネスを拡大している企業には特に注目してもらいたい概念である。
なぜなら、欧米においてソーシャルグッドは当たり前になりつつあり、企業のプレゼンスを高める上でも魅力的なブランディング方法だからだ。
これから、グローバルにビジネスを展開する予定があるという企業は、自分たちにしかできないソーシャルグッドな活動をカスタマーにアピールする機会として是非検討してみてはいかがだろうか?
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