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ゼロのつよさ ~選択肢が無い可能性~
最も美しいデザインとはどんなものであろうか?
一つの答えは、不必要なものを極限まで削った出来る限りシンプルなものである。そこには無駄なノイズが一切無く、ミニマルデザインに代表されるように、目的達成の為のバランスの取れた美しいカタチが存在しているだろう。
もしそれを図形で表すとしたら、間違いなく “円” が最も美しい。
円という図形は角が全く無く、どの角度からみても同じ形に見える最もシンプルで、完璧に近い究極の図形と言える。
和の精神やハーモニーを表現する際にも用いられる円。その “マル” は多くのロゴやキャラクター等で多く利用され、人々に最も愛されるシェイプの一つ。
故に円は最も美しく、全てを包み込む力を持つ、強い図形。
では、数字の場合はどうであろうか?
この場合も円の形に近い、”ゼロ(0)” が最も美しく強いのではないかと自分は考えている。
全く何も存在していない “無” の状態を表すゼロは、ここから何かが生み出される可能性を秘めている。それと同時に、たとえそれに何を掛けても変化をしない強さも兼ね備える。
ゼロという数字は、0から1を創り出すクリエイティブの根源であり、極限まで削った究極のミニマルでもある。
実は自分は人生の重要な瞬間にて、この “ゼロのつよさ” について思い知らされた事が多々あった。
元々アメリカに来たのも自ら望んでというよりは、日本の大学に入れなかったのが理由である。そして自分の会社を始めたのも、就職出来なかったから。
会社を続けているのも、辞めるという選択肢が無いからである。
よく考えてみると現在の自分を作り上げているのは、期せずして他の選択肢が “ゼロ” の状態が大きく起因していると思われる。
ある意味、それぞれの重要な局面で選択肢の無さに救われてきている。
言い換えると、様々な局面で “ゼロ” が自分の人生に影響を与えたとも考えられる。
その他の選択肢がゼロであった分、自分にとっては残された状況で最大限突き進むしか方法が無かった。
こういうと不思議に聞こえるかもしれないが、人生においての選択肢は限りなくゼロに近い方が強くなれるのではないかと思う。
なぜなら失うものが無い、もしくは無かった分、迷い無く突き進むことが出来るからだ。
TED Talkの選択のパラドックス (Paradox of Choice) でも紹介されている通り、人間は選択肢が多いと迷いが生じ、選んだ後も選ばなかった選択肢の方が良かったのではないかと思ってしまう。
逆に他の選択肢がない場合は自分に残された状況の中で最大限の結果を生み出そうとする。
一方で、恐らく日本の教育や社会ではとかく選択肢を増やす事が美徳とされる。
偏差値や学歴、職歴やキャリア、ビジネスにおける資金面など、多くの側面でなるべく多くの選択肢を手に入れた方が強いと考えられているだろう。
しかし、ふと考えてみてほしい。自分と同じ選択肢を選んだ人々の中で、それ以外の選択肢が無い人にはなかなか勝てないという事を。なぜなら彼らには”それ”しか突き進む道が無いからだ。
また、選択肢が多い場合はなるべく安全で楽な方法を選び、自分が本当にやりたい道を選ばない理由にもなってしまう。
そういう意味で考えると、いわゆるエリートと言われる選択肢が豊富な人々は意外と不利なのかも知れない。
やはりここでも、自分は “これしかできない、やらない、やりたくない” 事柄をみつけた者の方が強い気がする。なぜなら彼らにはそれ “しか” 無いからだ。
ゼロの強さを手にした者にはかなわない理由がここにある。
Steve Jobsや本田宗一郎など、歴史的に名を残す偉大な起業家たちも恐らくゼロのつよさを日々体感していたのではないかと想像出来る。
もし自分が強烈に進みたい方向が見つかったのであればその他の選択肢をゼロにしてしまうのも悪く無いだろう。
全てを失ってみても、必ずそこにはゼロの強さが残る。
日本では選択肢が多い方が良いとされるが、特にビジネスに関しては、自分が選んだ道以外の選択肢は “ゼロ” の方が強い。そして、何も無い所からなにかを始める者は強い。
なぜなら、何も持たない者には何かを失う恐怖が存在しないからである (If you have nothing, there is nothing to lose)。
ここにスタートアップが大企業を凌駕する程のイノベーションを生み出す力の秘密がある。
もちろん全く何も無い “ゼロ” の状態から何かを生み出すのは容易な事ではない。常に追い込まれている恐怖心があり、そして選択肢が無い状態は非常に孤独である。
この “孤独” という言葉の英語訳は2種類ある。一つはよく知られている”Lonely.”
そしてもう一つはあまり知られていない “Solitude.”
この単語には “孤高” というニュアンスも含まれ、元々太陽を表す “Solar” から派生していると言われる。
周りを明るく照らす存在である太陽自身は常に孤独な存在であるという意味だろうか。
ふと考えてみると、太陽も丸い。そして日本の国旗にはその太陽が描かれている。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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