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デザインと経営に関する5つのトレンド予測
Good design is good business.
これはかつてのIBMのCEOが行った宣言である。
そしてついにそれが現実になってきている。それもかなり急速に。
数字で表される経営に対するデザインの力
米国のコンサルティング会社Motiv Strategiesによると、デザイン的考え方を経営に積極的に取り入れている状況企業16社は、その株価の伸びがS&P 500全体と比べ2003年から2013年の10年間で228%高くなっているという統計を発表した。
また、2018年10月のマッキンゼーによる調査では、デザインを経営に活用している企業は平均と比べ、売り上げの伸びが32%もアップし、株主へのリターンも56%高くなっているという結果が出ている。
上記のデータからもわかる通り、これまでは、”なんとなく良い”程度の価値だと思われていたデザインが、ここにきて具体的な数字としてビジネスへの影響を表している。
それは、グローバル規模で見てみると、GAFAをはじめとして活躍している企業のその多くが、デザイン力を一つの武器としているのが明白である。
また、「【デザイン × 経営】ビジネスにおけるデザインの価値を追求する7人の起業家」でも紹介されている通り、話題のスタートアップのその多くが、デザインバックグラウンドを持っているファウンダーによって経営されている。
これらの企業に共通するのは、優れたユーザー体験であり、イノベーションを生み出しやすい組織構成であったり、消費者の心を掴むブランドであったりする。
2019年はデザイン経営元年
その一方で、日本国内において、本当の意味でデザインの経営における重要性が理解され始めたのはここ最近で、おそらく2019年は、デザイン経営元年になると予想される。
ではイノベーションデザインを提供するbtraxの代表とし、2019年におけるデザインと経営の関する5つのトレンド予測を紹介する。
- デザインが経営資源の一つの軸になる
- 差別化要因としてのデザインの役割
- データ活用とAI連動の実用化
- デザイナーの概念の変革
- デザイン会社と企業の連動が常識になり始める
1. デザインが経営資源の一つの軸になる
これまでの概念で経営資源といえば「ヒト、モノ、カネ」であった。しかし、デジタルテクノロジーの発展により、現代では「データ、テクノロジー、デザイン」の重要性が非常に高くなっていると言える。しかしながら、この3つはなかなか財務資料に載りにくいこともあり、評価方法がまだまだ未熟であるのも確かである。
では、デザイン的アプローチを経営に導入することで具体的にどのようなメリットがあるであろうのか。
より顧客を理解することができる
ヒットする商品を作る第一歩はユーザーをしっかりと理解することから。これはデザイン思考のプロセスにおいてもEmpathyというステップで定義されている。そこでは会社都合よりもユーザー都合で物事を捉え、ビジネスを考えていく事が求められる。
ユーザーインタビューなど、デザインのプロセスでは常識とされている、ユーザーとの対話を元に設計を行う方法は、今後経営全体においても重要視される必要がある。「【ユーザーと商品開発】海外の「共創」成功事例」でも紹介されている通り、現に海外ではすでに顧客と一緒にプロダクトを開発する事例も増えている。
未来を予測できる
既存の経営手法においては、過去のデータを元に戦略を立案してきたが、物事がこれほどまでも急速に変化する現代においては「これまでのやり方」の延長線上の戦略ではリスクが高い。
「なぜサンフランシスコでは未来的なサービスが続々と生まれるのか?」をみてもわかる通り、逆に未来を予測したサービスを今のうちに企画できれば、近い将来大ヒットを生み出すこともできるかもしれない。
今の時代、5年も経てば人々の生活は劇的に変化し、そこで利用されるサービスも今日とは全く異なる事が考えられる。そうなってくると、未来予測を立て、それを一つの仮説とし経営を進めていく事が必要とされ、そこにもデザイン的アプローチが有効である。
従業員のモチベーションアップ
デザインを経営に導入するメリットとして意外と知られていないのが、従業員と組織へのインパクト。より働きやすい環境や、モチベーションの上がるプロセスを提供するなど、働いている人の立場でより良い仕組み作りにも役立つ。この辺の詳細は「2019年からデザインが提供する3つの新しい価値」に詳しく説明されている。
そうする事で優秀な人材の獲得や、既存従業員の流失を未然に防いだりする事ができる。特に最近の日本企業は、売り上げは良いが、人事面での課題が増えてきている。
また、今後必ず課題になるであろう、外国からの労働者の受け入れとマネージメントにおいても、「カルチャーの違いを考慮したデザインのポイント」で見られるようなデザインのプロセスを経営に導入する事が役に立つ。
2. 差別化要因としてのデザインの役割
こちらサンフランシスコでは、UberとLyftの2社がライドシェア市場にて熾烈な戦いを繰り広げている。両社とも同じ街でスタートし、ほぼ同じソリューションを提供する。ユーザーからすると違いがわかりにくくなりがちである。そこで、Lyftは大胆な戦略に出た。経験豊富な凄腕デザイナーを5人いっぺんに採用し、差別化要因として思いっきりデザインに掛けたのだ。
デザインを重要視することでどのような差別化になるのか。それは恐らく…
顧客満足度アップ
Lyftのようなオンラインとオフラインの両方の体験、そしてドライバーと乗客という2種類のユーザータイプに対してサービスを提供する場合、そこで得られるユーザー体験の質が、大きな差別化要因となる。それは、心地よさやスムーズさ、ストレスの少なさなどのニュアンスがベースになりがちであり、デザイナーが最も得意とする領域の一つであろう。
ブランド価値の向上
デザインの威力は、ユーザー体験だけではなく、ブランドが発するメッセージを中心としたブランド価値構築にも大きく貢献する。これは、コミュニケーションデザインの領域で、企業が目指すビジョンをより効果的に顧客に届ける事ができれば、”あえて”そのブランドを選ぶ理由となり、他との差別化要因になり得る。
Lyftの場合は、Uberと比べてより「人と社会にフレンドリー」なイメージを構築し、それを差別化要因としている。現に、最近では敢えて「Lyftで帰る」という人も増えていると感じる。
決断スピードアップ
最近Googleでは、スタッフに文字ベースのプレゼンテーションを禁止し始めたという。これは、各種イベントにおける同社CEOによるキーノートでもわかる。彼のプレゼンには文字はほとんど使われず、図解や写真、アニメーションと動画をメインのコンテンツとしている。
これは、人間の脳は同時に複数の事柄を理解する事が難しく、文字よりも画像の方が記憶に残りやすいという理論を元にしていまる。また、新しいサービスを説明する際には、ロジックよりもストーリーで感覚を伝えた方がわかりやすいということもあり、デザイン的アプローチを取ることで、より理解と決断のスピードが上がるというメリットが考えられる。
我々btraxでも、短期間で仮説、検証、決断を行うデザインスプリントを通じて、クライアントの決断スピードアップにつなげている。(参考: デザインスプリントが日本企業のイノベーションに必要な本当の理由)
3. データ活用とAI連動の実用化
デザイナーが感覚やデザイン理論だけをベースに仕事を行う時代は終わるだろう。経営にデザイン的考え方を導入すると同時に、デザイナーはデータを元にしたロジックを活用した仕事が求められ始める。
これまではどうしても定性的になりがちであった「何が本当に正しいデザインか」の判断をある程度データから読み取る事ができるようになる。そして、常にデータを分析しながらデザインの改善を行う時代がすぐそこまできている。
そして、そのデータを元にAIなどのテクノロジーをデザインにも活用すれば、より精度の高い結果を出す事が出来るようになる。
「数字として結果に繋がらないデザインに価値はないのか?」でも説明されている通り、それぞれの目的に沿った正しいデザインを行う為には、データありきで仕事をしなければならない。特にユーザビリティやユーザーエクスペリエンスなど、利用するユーザーありきのデザインの結果は、データが全てである。
得られた数字を元に、デザインを柔軟に変更し、改善を進めて行く事が重要になっていく。これからは、デザイナーとデータサイエンティストという、一見関係の薄そうな2つの職業が密接に関連してくるだろう。
この辺を考えて見ても、この「データドリブンデザイン」の概念は2019年以降もより加速する勢いで、今後経営に対するデザインのROIを測る上で、非常に重要な手法となることは間違いないだろう。
4. デザイナーの概念の変革
ここまでデザインの重要性がアップするとどのような事が起こるであろうか?「デザイナー」という職業自体の概念が大きく変わる必要性が出てくる。既存のグラフィックやWebデザイナーはデザイナーという職業のごく一部の役割でしかなくなり、多くの役職にデザイナー的感覚が求められる。
そして、「時代の変化でこれから生まれる8のデザイナー職」でも紹介されている通り、経営視点で見ると、多種多様なデザイナーが存在し始める。そして、デザイナーとは下記のような概念の職業になると考えられる。
デザイナーはスキルよりもマインドセットである
デザイン経営を実施するには、会社の経営からプロダクトの開発に至るまで、”デザイナー”的感覚を導入する必要がある。ここに必要となってくるのは、必ずしもデザイナーとしてのスキルではなく、デザイナー的マインドセット。
例えば、Steve Jobsは厳密にはデザイナーではないが、デザイナー的感覚を武器にAppleを成功に導いた。(参考: Appleを1兆ドル企業に成長させた6つのデザイン哲学)
今後は”デザイナー”とはデザイナー職以外の人にも必要なマインドセットとなる。これからのデザイナーに不可欠なのは、ユーザーニーズの理解、そこから導きだされる仮説、コンセプト作成、検証、改善のプロセスを通じた未来を作り出す役割。
ある意味で世の中で”デザイナー”と呼ばれている”絵を描くだけのデザイナー”はむしろこれからはデザイナーでは無くなるのかもしれない。
組織へのインパクト
意外と知られていないデザイナーの役割として、組織変革が挙げられる。なぜか?ユーザー視点で物事を考え、新しいアプローチを模索するからである。この考え方を活用すれば、より結果が出やすく、会社のビジョンに合った組織を生み出す事が可能になる。
「デザイン思考を組織イノベーションに活用する10の方法」でも紹介されている通り、真のイノベーションを生み出すには、プロダクトやサービスの前に、組織自体がイノベーティブ出なければならない。そしてその変革にもデザイン思考を活用することができる。
デザイン思考は、組織をクリエイティブにし、他の企業が真似できないような優位性を持つプロダクトを作ることを可能にする。
ダイバーシティーへの理解
ターゲットする顧客がどんどん多種多様になるにつれ、ビジネス側もダイバーシティーへの理解が求められ始めている。特に単一民族国家である日本では、異なる価値観を理解するのが容易ではない。
その一方で、「ユーザーフローから学ぶミスコミニュケーションの発生原因と対処方法」をみてもわかる通り、同じ目的を達成する場合でも、バックグラウンドの違いで、その方法論は大きく異なる。
そこを理解し、正しい導線を作り出すのがデザイナーの仕事であり、企業としてはデザイン経営に求められる戦略にもなってくる。グローバル展開、インバウンド顧客獲得、海外人材の活用など、今後日本企業にはダイバーシティーへの理解が不可欠になってくるだろう。
5. デザイン会社と企業の連動が常識になり始める
サンフランシスコは世界でも有数のデザイン会社が多くある事で有名である。市内の複数の著名デザインスクールが輩出する豊富なデザイナーに加え、世界中から多くの優秀なデザイナーも集まって来ており、ユーザーにとって使いやすく優れたプロダクトづくりの屋台骨を支えている。
古くはAppleのMacintoshのプロダクトデザインをfrogが、マウスの設計をIDEOが行った。最近ではAirbnbやUberなどのユーザー体験を追求したスタートアップとのコラボも盛んである。
また、ここ数年で、サービスデザインやUXデザイン、デザイン思考などの新しいジャンルのデザインを提供する会社も軒並み増えており、現在サンフランシスコは世界でも有数のデザイン都市となっている。(参考: サンフランシスコのデザイン会社まとめ)
このトレンドは今後日本でも広がっていくだろう。企業がデザイン会社とコラボするメリットはいくつかある。
机上の空論ではなくユーザーとの対話を実現
オフィス内の会議だけでは革新的な経営を実現することは難しい。企画を立案する際には、素早いスピードでプロトタイプを作成し、ユーザーにぶつけてみる事で、対話ベースの検証が可能になる。
その一方で、その企業主体では実現しにくい。既存顧客であるケースも多いからである。その場合は、外部のデザイン会社とコラボして、客観的なフィードバックを得る事が出来るだろう。
我々も、第三者機関として定期的にクライアントに対してユーザーインタビューやUXリサーチを提供している。
正確さよりもわかりやすさを重視した戦略
現代の戦略に求められるのは、正確さよりも、わかりやすさとスピード。スタッフや関係者がちゃんと理解し、速いスピードで実戦に対応しなければならないためである。
そのためには、複雑なエクセルや、コンテンツ満載のパワポよりも、ストーリーを重視した動画や、ピッチの方が伝わりやすい。この辺もデザイン会社の腕の見せ所となる。
特にシリコンバレーの企業では、スライドを禁止しているところも増えてきており、よりわかりやすさを重視した戦略が功を奏しているという結果も出ている。
業界の常識にとらわれない自由な発想
これはあまり知られていないメリットであるが、とても重要。複数の業界向けにサービスを提供しているデザイン会社は、クライアントの社内スタッフでは思いもつかないアプローチでアイディアを出したりする。
例えば、自動車メーカーに対して「自動車を所有しなくなる社会」や「移動手段以外の価値としての自動車」など、社内では御法度とされるような仮説も、外部の会社であれば無邪気にする事が出来る。
そして、我々のようなアメリカ西海岸に本社を置くような企業であれば、例えそれがぶっ飛んだアイディアだったとしても、受け入れられやすい。むしろ「アメリカではこれがスタンダードになりつつありますよ」的な切り札で、旧態然とした考え方に鋭いメスを入れたりすることもある。
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随分と長くなりましたが、新年の挨拶として、今後btraxが目指すビジョンを踏まえて皆様に届けたいデザインに対しての思いをまとめてみました。今年もよろしくお願いします。
実際に証明されてきたデザインの経営における重要性はいかなるものか?本記事の約半年後、そしてほとんど1年後ににリリースした以下の2つの記事もぜひチェックしていただきたい。
数字で証明されたデザイン経営の重要性
【今さら聞けない】デザインがビジネスにこれほど重要な理由
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
スタッフ募集中
最先端のユーザーエクスペリエンスを生み出す、デザイン会社ビートラックスでは、現在下記のポジションでスタッフを募集しています。勤務地は東京およびサンフランシスコ。勤務形態はオンラインとオフラインのハイブリッド。デザインで世の中をよくしたいと思う方の募集をお待ちしています!