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btraxが注目する10のスタートアップ
人工知能(AI)やドローン、ヘルスケア分野での最新テクノロジーへの注目が高く、また日本では新たにスマートスピーカーをはじめとしたバーチャルアシスタントも大きな話題を呼んだ。いずれのサービスも私たちの生活を変える実用的なものが増えてきたのではないだろうか。
btraxでは今年も注目のスタートアップを選出。私たちの生活に変化をもたらすと期待される10のスタートアップを紹介する。
1. Lisnr: 超音波技術を駆使したチケット認証、デバイス間接続、メッセージ
主要投資家: Synchrony Financial, Intel Capital, Progress, Ventures
調達額: $14.35M
サービス概要:
超音波技術を駆使した音声データ通信システムを提供。「音声のインターネット Internet of Sound」とも呼ばれる自社開発の”Smart Tone”技術を使い、スマートフォンを通じて人間には聞こえない超音波を発することで、インターネット接続なしに近距離でのデータ通信を行えるようにする。これをチケットの認証やデバイス間接続、メッセージの送受を含む様々な用途で利用する。
このSmart Tone技術はスマートフォンで利用されるため個人との紐付けが可能。最近アーティストのコンサートやスポーツの試合でのチケットの高額転売やダフ行為が問題視されているが、そういった偽ユーザーの識別から不正なチケットの複製・転売行為まで防ぐと期待されている。またこの認証プロセス自体もシンプルなもので、イベント会場に入るまでの長い行列の解消にも繋がると言われている。
注目の理由:
先述したように、近年チケットの転売行為があまりに多いことからそれに対する対策が各業界、個人で行われている。アメリカのスポーツ観戦チケットでは転売容認の方向に向かい、2次、3次の流通マーケットが拡大している一方で、音楽業界では転売防止対策が積極的に行われている。
特にアーティストが自身のコンサートであらゆる工夫を行っており、例えばビリー・ジョエルのコンサートで最前列の席を通常券購入者にランダムで提供する取り組みや、テイラー・スウィフトの新チケット購入プログラムであるTaylor Swift Tixの導入等が行われている。
これらの取り組みを受けてアーティスト以外にもその動きは広がり、昨年アメリカ大手チケット販売会社のTicketmasterがSmart Tone技術を導入し、それまで使っていたQRコードによる認証を置き換え始めている。今後あらゆるイベントで利用されていきそうだ。
またSmart Toneはイベントのみならず他のセキュリティ認証にも次々と導入されている。Lisnrは昨年、自動車会社のJaguar Land Roverとパートナーシップを締結。同社の自動車のアンロックシステム等に導入される見通しだ。この超音波を使った音声データ通信技術がさらにどのような形で私たちの生活に影響するのか注目だ。
2. Nurx: ピル配送サービス
主要投資家: Lowercase Capital, Y Combinator, Union Square Ventures
調達額: $5.42M
サービス概要:
「ピル用ウーバー」。アプリで医師の診察を受けることでクリニックに行かずともピルを受け取れるサービス。ピルは望まない妊娠を予防する以外に生理不順や生理痛を緩和するものとしてアメリカでは一般的に利用されている。
ユーザーはアプリをダウンロードし、複数の質問に答える。あとは州のライセンスを持つ医師がその回答のレビューを行い、ユーザーに合ったピルと使用方法を提供。ピルは自宅もしくは指定する場所に配達され、その費用はかからない。Nurxはピル適用の保険有無にかかわらず対応し、女性がピルを受け取るまでのプロセスの改善を徹底して行う。
またNurxはピル以外にHIV感染予防、PrEPに効果のある医療薬も同様に簡単なプロセスで提供している。
注目の理由:
スタートアップ養成スクールで有名なベンチャーキャピタル、Y Combinatorを卒業し、2015年に設立したばかりのスタートアップだが、カリフォルニア州から着々と活動の幅を広げ今ではアメリカ国内の16の州に展開。この展開スピードから、これまでのピルの受け取りプロセスがユーザーにとっていかに不便だったかがわかる。
またこのサービスに対する高い注目の背景には政治的な理由もある。トランプ政権がオバマケアを変えることで、今まで保険が適用されていたピルがそうでなくなることが懸念されており、ピルを服用する女性へのサポートが縮小されかねない風潮にある。
このように国として女性のピル使用を支持しない方向にあるなかで、Nurxのように女性のピル受け取りを支援するサービスが注目を浴びているのだ。いずれにせよNurxは先に挙げたように保険の有無にかかわらず対応が可能なのでその使いやすさが注目を集めている。
昨年12月の連邦裁判所の判断でトランプ政権の動きにストップがかかったが、依然としてピルを利用する女性の生活が変わりかねない緊張状態が続いている。もしかしたら今後ピルの継続が難しくなる女性も出てきかねない状況のなか、今年このサービスがどこまで女性の生活改善に貢献するか注目だ。
3. Payjoy: スマートフォン用ローンサービス
主要投資家: Santander InnoVentures, Union Square Ventures, ITOCHU Corporation
調達額: $29.15M
サービス概要:
「すべての人がスマートフォンを入手可能に」をモットーに掲げる2015年誕生のスタートアップ。通常の通信会社が提供するローンを組めない低所得者層向けにフェイスブックアカウント、国の発行する身分証明書、電話番号の3つだけでスマートフォンを提供する。支払い方法には柔軟に対応しており、支払いが滞った際はPayjoy Lockと呼ばれる専用アプリを通じてスマートフォンを使用できないようにする。
市場には低価格のスマートフォンがあるが、アメリカの低所得者層にはあまり利用されていない。その理由として「故障の多さや動きの遅さでほとんど役に立たず、安いスマホを買うぐらいなら高い方を持つ」という声が多かったことから生まれたサービスである。
注目の理由:
昨年9月に新たに$6Mの資金調達に成功。これまでアメリカとメキシコで展開し、2017年にはアジア諸国、2018年にはラテンアメリカとアフリカに展開、とグローバル進出に勢いを見せている。これまでスマホを持ってこなかった層にどれだけ浸透するかが見所。
このサービス利用者数の増加がスマホの全体利用者数にどう影響するのかも注目ポイントの1つ。シリコンバレーのベンチャーキャピタルであるKPCBでパートナーを務めるメアリー・ミーカー発表の2017年のインターネット・トレンドレポートにおいても、ユーザーのデジタルメディアの利用はデスクトップでは変化がないものの、モバイルでは2011年から2016年の5年間でおよそ4倍増だった。
今ではデスクトップよりもスマホを利用する時間が長く、その利用時間は今後も伸びると予想される。同レポート内ではスマホユーザーの伸び率は急減速しているとも書かれていたが、Payjoyがこの状況にどのような変化をもたらすのか見ていきたい。
4. Citizen: リアルタイム犯罪通知アプリ
主要投資家: Sequoia Capital, Peter Thiel’s Founders Fund, Slow Ventures, RRE Ventures, Kapor Capital
調達額: $13M
サービス概要:
リアルタイムで近辺の犯罪や事故をユーザー同士で報告・通知するアプリ。もともと”Vigilante(自警団員)”と別名でサービスを展開していたが、その名の通り一般人が犯罪等の問題を警察に伝える前に「自警」し結果的に犠牲者が増加すると議論を呼びアップルストアから削除された。
今回は警察への通報機能を加え、ユーザーには危険を知らせるだけでなく彼らの安全を守るという目的で新たに再スタートを切った。現在ニューヨークとサンフランシスコで展開。
注目の理由:
アメリカでは無差別の銃乱射事件、日本でも通り魔的な犯罪は今日もよく取り上げられ、世界的に見てもテロ行為が後を絶たず私たちの安全は脅かされている。世界テロリズム指数の2017年レポートによると、世界的にテロによる死亡数は2006年から2016年までの10年間で67%上昇した。
こういった犯罪行為の撲滅は必須であるが、同時にそのような事件に巻き込まれないようできるだけ市民の安全を守る取り組みも必要である。Citizenはそれに貢献できると期待されている。
5. Nauto: AI搭載の車載器
主要投資家: General Motors, Greylock Partners, Softbank, Toyota AI Ventures
調達額: $173.85M
サービス概要:
AIを使った双方向カメラの車載器。前方を見る車外カメラと車内の様子を撮影する車内カメラでドライバーの煽り運転や脇見運転、居眠り運転、その他危険運転を察知し、運転後にフィードバックを行うだけでなく、商業用車両の場合には車両管理側がその様子を確認できるようになっている。また事故時の保険対応も双方向のビデオ映像を使うことでスムーズかつ正確なものになると期待されている。
このようにドライバーの運転データをビッグデータとして蓄積していくことで、将来AIによる事故の分析・予知が可能になる。最終的なゴールとしてNautoは安全な完全自動運転の実現を目指している。
注目の理由:
自動車メーカーによる自動運転技術の開発は今も積極的に進められているが、その技術はまだ限定的であり、今はより多くの実際の運転データ収集が必要な段階である。Nautoの車載器は現在すでに危険運転抑止と事故防止というメリットをユーザーに届けながら、リアルな運転データを集められるサービスとして非常に貴重な存在になっている。未来の自動走行に向けて大きな前進が期待できる。
日本でも昨年煽り運転が特に問題視されドライブレコーダーが売れたが、AIを駆使した車載器はこれまで出ていなかった。運転手にとってより安全な交通社会が作られていく上でNautoは特に大きな貢献が期待されるサービスである。
6. Holberton School: 授業料の用意なしで入学できるコーディングスクール
主要投資家: Ne-Yo, Jerry Yang, Jerry Murdock, Reach Capital, Daphni
調達額: $4.3M
サービス概要:
今日ではコーディングを勉強できるスクールは身近に存在し、特にサンフランシスコでは気軽に通えるものが多い。その中でもこのHolberton Schoolは独特で、学費を事前に納めることなく授業を受けることができる。「生徒が給料を得られるまで授業料を取らないスタイル」なのだ。
スクールでは2年に及ぶプログラムを提供。9ヶ月のサンフランシスコでのトレーニング、6ヶ月のインターンシップ、さらに最後の9ヶ月でサンフランシスコ、もしくはリモートでの学習、という内容になっている。フォーマルな教授たちが授業を行う形式ではなく、講師側はGoogle、Uber、Facebook、Linkedin、Salesforce等サンフランシスコ・ベイエリアを代表するテクノロジー企業で働くエンジニアたちだ。
コースで扱う内容も生徒側が実際に取り組んでいるプロジェクトや講師が過去に行ってきた案件をベースに学び、実際に現場で使えるスキルや経験を積んでいく。
生徒は卒業後3年間の仕事もしくはインターンシップの給料の17%を授業料として支払うことに同意した上で入学となる。そのため生徒向けに均一な授業料というのは存在しない。
注目の理由:
卒業生たちはすでにGoogleやNASAと行った企業で実際にエンジニアとして働き始めており、成果は着々と表れている。エンジニアは世界的に人材不足、サンフランシスコでも優秀なエンジニアは次々と特定の大企業に引き抜かれ、その他企業が太刀打ちできない実態もあるが、このHolberton Schoolはその問題を解消してくれそうだ。
生徒からしても、今からでも始められるコーディング専門スクールが存在するのは大きなメリットである。実施にHolberton Schoolはテック業界に多様性をもたらすことを1つの目標に掲げており、それを実現しようとする姿勢はすでに高い評価を得ている。
生徒の中には今までエンジニアとは縁のなかった人もいるが、スクールはそんな彼らでもエンジニアの道を選ぶことができるという勇気を与えている。2015年設立とまだまだ若いスクールだが、これからテック業界に大きな変革をもたらすと期待できる。
7. Qadium: IoT向けセキュリティプラットフォーム
主要投資家: Founders Fund, New Enterprise Association, Susa Ventures, Institutional Venture Partners
調達額: $65.97M
サービス概要:
元CIAエージェントが政府関連のサーバーの脆弱性を発見した経験から立ち上げたスタートアップ。ネットワークに接続されたデバイスをすべて調べ、ハッキングされる恐れのある問題やその他あらゆる脆弱性を検知しユーザーに警告するプラットフォームサービスを提供。
この防御システムを支えるのは”Expander”と呼ばれるソフトウェアプログラムで、IoTシステムのインターネット接続をマッピングした上で調べ上げることから「IoTのグーグルストリートビュー」とも呼ばれる。
顧客にはアメリカサイバー軍やアメリカ海軍といった政府機関や銀行のCapital One、その他金融系の企業が並ぶ。価格が非常に高額な分、導入できる企業や組織は限られてくるが、その信頼性は高く評価されている。
注目の理由:
毎年10月に業界最大手のIT調査機関、Gartnerによって発表されるITトレンドの2017年版でも触れられていたが、IoT製品の急速な普及により、サイバーセキュリティの脆弱性は早急な対策が必要になるほど重要な問題になる。Qadiumはこの深刻な問題に対処できる役割を担っている。
8. Gladly: 一括管理のカスタマーサービスプラットフォーム
主要投資家: Jerry Chen, GGV Capitals, Greylock Partners
調達額: $63M
サービス概要:
音声通話、メール、チャット、ソーシャルメディア等の複数チャネルでコンタクトのあった同一の顧客を認識するカスタマーサービスシステムを提供。これまでクレーム電話や問い合わせメールはそれぞれ1つの案件として処理されていたが、同社のソフトウェアでは同一人物によるものか認識する。それによって企業側は顧客が過去にどのような内容で連絡を取ってきたか確認でき、それに合わせた顧客対応が可能になる。
注目の理由:
顧客第一を謳う企業はますます増え、顧客の声は改善の何よりの材料として貴重なものになっている。昨年8月にGladlyとのパートナーシップを発表した航空会社のJetblueでも早速導入されたが、飛行機の遅れや荷物紛失等に関するクレームが一定数起きるこの業界において、同社は複数チャネルからの顧客のコンタクトをこのGladlyシステムで全て管理。
それぞれの顧客との会話を全て記録し、また過去の全てのサービス利用履歴も管理して紐付けることで、遅延等によって利用客に迷惑がかかった場合にはその記録から保証内容を決める等、個別のカスタマーサービスを充実させている。
昨年の顧客満足度指数において、Southwest AirlinesやAlaska Airlinesを超え、業界内で一番となったJetblueが行う取り組みの1つという立ち位置から、Gladlyへの今後も注目はさらに高まるだろう。丁寧な個別の顧客対応を追い求める企業こそ必見なサービスになっていくと予想される。
9. Knotel: 中小企業向け本社型コワーキングスペース
主要投資家: Invest AG, 500 Startups, Bloomberg Beta
調達額: $25M
サービス概要:
ビルオーナーとプロフィットシェアを行う形でコワーキングスペースサービスを提供するスタートアップ。WeWorkの競合として紹介されることも多い。今日のコワーキングサービス市場の成長を支えるスタートアップの1つとして世界中に展開している。
本来オフィスビルの賃貸には長期的な契約期間が必要とされていたが、Knotelはその期間を柔軟に対応。従来のコワーキングスペースは今まで通りフリーランサーやスタートアップ社員向けに、現在コワーキング市場を牽引するWeWorkは大企業社員向けにサービスを展開しているのに対し、Knotelは50−200人程度の中小企業向けに「本社として利用できるコワーキングサービス」を提供。
企業側はオフィスにかける費用を抑えながら、カスタマイズ可能な中規模スペースを利用できるので、クリエイティブな職場と自由な働き方を社員に手軽に提供することが可能だ。
注目の理由:
今では企業の大きさにかかわらずスタートアップ企業の職場環境を参考にするところは多く、手軽に利用できるコワーキングスペースと契約し様々な交流を図れるフリーアドレス制度を社員に提供する企業が増えている。実際に昨年IBMはWeWorkが持つニューヨーク・88 Universityのコワーキングスペースのビル全てのデスク契約を決めた。
今後コワーキングサービスはこれまで利用してこなかった層を取り囲んで利用者数を増やしていくが、その中でもKnotelはまだ穴場とされている中小企業向けのサービスをカバーし成長を遂げていくと予想される。
今や働き方改革においてコワーキングスペースの存在は大きなものになりつつある。東京でもついにコワーキングサービスを開始するWeWorkが世界的に大企業の社員に自由な働き方を提供していく裏で、Knotelも中小企業の社員の働き方を少しずつ変えていきそうだ。
10. Hudl: スポーツ用パフォーマンス分析プラットフォーム
主要投資家: Accel Partners, Jeff Raikes, Nelnet
調達額: $108.9M
サービス概要:
練習や試合の動画をアップロードし、コーチングポイントを動画上にマークし、コメントを残すことで、オンラインで選手・コーチ間で改善ポイントの共有ができるプラットフォーム。通常の動画編集プラットフォームとは異なり、1つのプレーを様々な角度から見られるようにしたり、プレー毎に動画を区切り瞬時に確認したりできるようにして、あらゆるスポーツにおけるミーティングの効率化を図ってくれる。
さらにこのプラットフォームは選手のリクルーティングの機会の場としても利用されている。選手は自身を売り込む新たなツールとしてパフォーマンス動画を掲載し、高校、大学、そしてプロチームはそれを閲覧して選手獲得に動く。アメリカは国土が広く、リクルーティングチームは選手を直接見に行くことに限界がある。そんな背景から、今まで埋もれていた優秀な選手の発掘するツールとしても利用されている。
注目の理由:
テクノロジーがスポーツ業界全般に導入された良い例の1つとして以前から注目を浴びており、これまで30のスポーツ、キッズからプロまで15万以上のチームに導入されている。最初はアメリカンフットボールから始まったこのサービスだが、2017年末にはバレーボール用のコーチング・分析プラットフォームを提供するスタートアップ、VolleyMetricsを買収。
今後ますますあらゆるスポーツを支えるテクノロジーとして活用されていくと期待。スポーツの世界でもこのようなテクノロジーが活用されていると理解しておくと面白い。何かしらのスポーツをやっているのであれば使ってみると良いだろう。スポーツにおける体験もきっと変わるはずだ。
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