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終わりを告げたスタートアップ5社に学ぶ教訓
年々スタートアップの勢いが増していく中、大手企業はスタートアップへの投資や共創、そして買収に力を注いでいる。それだけスタートアップの存在が大きいということなのかもしれない。
弊社CEO Brandon K. Hillがスタートアップトレンド – ユニコーンの次はデカコーンでも述べているように、未上場で評価額が10億ドルを超えるスタートアップは”ユニコーン”、10億ドルどころか100億ドルを超える評価額を持つスタートアップは”デカコーン”と呼ばれ、大成功を収めている。
しかしここで忘れてはいけないのが、その一方で急成長を遂げたが何らかの要因によって終了したスタートアップも数多くあるということ。
今回は、資金調達に成功したのにもかかわらず残念ながら終わりを告げたスタートアップ5社と彼らから学ぶべき教訓を紹介したい。
成長企業の70%が失敗に終わる
まず念頭に置いてほしいのがスタートアップの消滅率。サービスの終了に追い込まれた理由は様々だが、リサーチ会社CB Insightsは成長スタートアップの70%が失敗するというデータを公表している。たとえばB2Cのハードウェアスタートアップについてシードレベルのクラウドファンディングキャンペーンを見てみると、その97%が失敗に終わるようだ。
この事実を考えるとむしろ失敗するのは当たり前のようにも思える。Statistaによるとスタートアップが失敗する理由は20ほどあるが、最大の要因はNo market need、つまり「もうマーケットにニーズがない」(42%)となっている。
それではこの事実を踏まえ、実際に今年終了することになったスタートアップの事例を見ていこう。
1. Jawbone
サービス概要:フィットネス・トラッキング・デバイス
投資家:DST Global、SV Angel、Wells Fargo & Companyなど
資金調達額:$590.8M
1999年に創業しかつてはBluetoothスピーカーのメーカーとして人気を集め、2011年にウェアブル市場に進出して注目を集めたJawboneが2017年7月にその幕を閉じた。
最大の要因としてはウェアラブル市場規模の縮少と言っても過言ではないだろう。2013年から2014年にピークを迎えたウェアラブル系ビジネスだったが、当時話題となったGoogle Glassはそのわずか2年後の2015年に消費者向けの提供を終了し、クラウドファンディングの王者PebbleはFitbitに買収されてしまったのだ。
ウェアラブル市場が縮小してしまった原因は、フィットネスバンドの必要性を感じるユーザーがあまりにも少なかったからだ。そこに拍車をかけたのがApple Watchで、トラッキングシステムを搭載したスマートウォッチの進出によりユーザーはフィットネスバンドを買うことに疑問を抱き始めたのだ。
そしてAppleの美しいデザインも大きな魅力となりウェアラブル市場のシェアを一気に獲得した。
ちなみに、Jawbone Co-founder兼CEOのHosain Rahmanは現在新たな会社Jawbone Health Hubの立ち上げ準備をしている。サービスモデルの領域をフィットネスからヘルステックに移行し、糖尿病や高血圧の改善、不整脈の発見、そしてストレスマネージメントなどを目的としたアプリケーションを開発中。まだ確定はしていないが、2018年の上旬頃にはソフトローンチが予定されている。
2. Beepi
サービス概要:中古車マーケットプレイス・サービス
投資家:DST Global、SAIC Capital、Sherpa Capitalなど
資金調達額:$150M
2013年に創業した車の所有者と中古車の販売人を繋げるプラットフォーム、Beepiは2017年2月に終了した。Beepiの大きな特徴は、売り手と買い手の間に入ることでフェアな取引を実現したこと。これにより、中古車業者の不透明な価格提示を回避することできるため、当初は大きなマーケットになることが予測された。
倒産の要因はお金の使い方がスマートではなかったこと。当時従業員の給料が異様に高かったこと、多くの残業代が支払われていたこと、そしてミーティングルームのソファに$10,000費やすなど金遣いが荒かったことが挙げられる。最終的にBeepiは約200人の従業員をレイオフすることになった。
また、ファウンダー達の気が変わりやすく将来の方向性が見えづらかったことも要因にあるそうだ。Fair.comと中古車ディーラーDGDGによる買収の話も一時上がったが、最終的には帳消しになった。
3. Yik Yak
サービス概要:匿名のソーシャルメディア・サービス
投資家:Sequoia Capital、Draper Associates、DCM Venturesなど
資金調達額:$73M
Yik Yakは特定の地域内で匿名のユーザーがチャットを楽しめるソーシャルメディアアプリを展開していた会社だ。こちらも2013年の創業だったが、4月にサービスを終了した。
失敗の要因はユーザーの行動を予測しきれなかったことにある。サービスをローンチした当初はターゲットである大学生達にうけたのだが、次第に”匿名を逆手にとった”オンライン上でのイジメが多発したことから、多くの学校でYik Yakの利用が禁じられたのだ。これを機に2016年のアプリのダウンロード数が2015年同時期比で76%も落ち込み、最終的には従業員を一時解雇せざるを得ない事態となった。
また、同年にニューヨーク大学と提携したセキュリティ・リサーチャー達が、アプリ上の個人情報がハッキング可能な状態だということを突き止め、Yik YakのCTOが会社を去ることになった。
4. Sprig
サービス概要:フードデリバリー・サービス
投資家:Accel Partners、Greylock Partners、CAA Venturesなど
資金調達額:$57M
2013年に創業し、フードデリバリーサービスを展開していたSprigも今年5月にサービスを終了した。実は昨年寄稿したこちらの記事でSprigをとりあげていたこともあり、まさかの急展開にスタートアップの生き残りがいかに大変かを実感した。
サンフランシスコにはフードデリバリーサービスが数多くある中、Sprigは「クリーンでシンプルな食事を通して健康に」というミッションのもと、ユーザーの健康に対する意識を変えるために、専属シェフによって生み出されたヘルシー料理を提供していた。そして特殊なデータサイエンスを活用して、なんとオーダー後およそ30分以内に配達を開始するという仕組みも構築したのだった。
しかし、健康志向のユーザー達は配達の時間よりも食材の質にこだわりを持つことを知り、新しいメニューを開発したり、カフェを開設したりと軌道修正に取り掛かった。試行錯誤を繰り返したが、ユーザーが求める食のクオリティに到達することはできなかったようだ。
Founder兼CEOのGagan Biyaniは「ユーザーが求めるクオリティが非常に高く、その期待に応えるためのクオリティを維持しながら大量生産をするのがとても難しかった」というコメントを残している。
5. Hello
サービス概要:睡眠トラッキング・デバイス
投資家:Temasek Holdings、Horizons Ventures、Acequia Capital
資金調達額:$40.5M
2012年創業、睡眠時間をトラッキングできるデバイスを開発したHelloが2017年6月に終わりを告げた。Helloのデバイスは腕に装着するのではなく部屋に置くだけで睡眠習慣を改善できるというもの。Kickstarterで資金調達に成功した後TargetやBest Buy等リテールでも陳列されていたほど話題となった。
今年の1月には25歳のFounder兼CEOJames ProudがForbes 30 Under 30の表紙を飾り、ネット上では様々なメディアがJamesを取り上げた。少し余談にはなるが、彼は9歳の頃独学でHTMLを学び、12歳の頃にはプロ顔負けのウェブサイトを制作していたという天才少年であった。
会社の閉鎖に追い込まれた要因は明確に公表されていないが、恐らくハードウェアをビジネスにする難しさにあるのではないだろうか。睡眠習慣の改善を図るデバイスはHello以外にも数多くあり、FitbitやApple WatchなどのウェアラブルデバイスやiPhoneのiOS上にさえ搭載されはじめた。これにより睡眠改善ツールがコモディティ化し、Helloの付加価値を生み出すことができなかったと思われる。
↑上記画像はKickstarterのページより引用
スタートアップ5社から学ぶ教訓とは?
教訓① ピボットで軌道修正(Jawbone)
Jawboneから学べること、それは失敗を糧にプロダクトをフィットネス・トラッキング・デバイスからヘルステック・デバイスに変えてサービスをピボットさせたこと。
例として、フードレビューサイトのYelpの原点はEメールレコメンドサービス、SNSプラットフォームのTwitterの原点はブログサイトと当初は全く違うサービスを提供していたのだ。しかし、ユーザーのニーズやマーケットの変化に合わせてピボットさせたことで現在大きな成功を遂げている。このようにマーケットに合わせた軌道修正も時には必要となる。
教訓② 未来の消費者ニーズを見据えた思考(Hello, Yik Yak)
Yik YakやHelloからはどんなことが学べるだろうか。この2社に共通すること、それは未来のユーザー行動を予測できなかったことだと思う。
Yik Yakは大学生をターゲットにした匿名ソーシャルメディアを提供し当初は話題となったが、使い方を間違えると悪用されてしまうことまで思いつかなかった。そしてHelloは睡眠習慣の改善デバイスの重要が膨らんだ時にどう差別化を図るか想定できなかった。
変化し続けるユーザー行動やマーケットを読み解くカギとなるのは未来予測(Future forcasting)だと考える。未来予測とはただ未来を予知するのではなく、未来を生きる人たちの苦痛や問題を感じとり、何が必要となるかを予測するUXを起点とした思考プロセスである。
「データから予測される変化」と「人々のコアとなる価値観」を見出し、交差する部分をプロダクトやサービスに転換させる。こうすることで現在進行形のマーケットに依存することなく、常に未来を見据えたプロダクトやサービスを生み出していけるのだ。
現に、Teslaの生みの親Elon Muskは、無人運転車が当たり前になることを予測して自動運転車を作り、Airbnbのファウンダー達は宿泊施設・民宿のシェアの次に体験のシェアをはじめている。成功している起業家達は常に未来を見据えながらユーザーのニーズを模索し、自ら未来を切り開いているのだ。
教訓③ 資金管理はスマートに(Beepi)
Beepiから学べることは資金管理の仕方そのものだろう。おそらく良い人材を雇うためにありえないような額の給料を支払っていたのだと思うが、従業員の給料や経費は本来セールス状況を把握できる人間がきちんと管理すべきである。
当たり前のように思えるが、CFO(Chief Financial Officer)などの資金調達・運用・財務・経理の分野に特化した人材をしっかり確保することが大切だ。
教訓④ ユーザー視点を忘れない(Sprig)
Sprigに学ぶこと、それはサービスやプロダクトのクオリティとユーザーが求めるニーズを合致させること。そのためには技術ファーストではなく必ず顧客ファーストで物事を考える必要がある。
Sprigはオーダー後30分以内に配達を開始するという画期的な技術を生み出したが、ユーザーが求めていたのは「時間」ではなく「料理の質」であったことを見逃していた。フォーカスインタビューやユーザーテストなどを通して顧客が求めていることを常に探り、サービスの改善をしていくことが最も重要となる。
参考:
・“10 of the most-funded startups to fail in 2017”
・“7 startups that were massively funded that died in the first half of 2017”
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