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Withコロナの体験デザイン。世界の企業がとったアクションとは?
全く未知のウイルスの登場により、経済が停滞、数年先どころか、数ヶ月、数週間先の状況まで全く予測することができず、まさに世界中の人々が足踏み状態である。このことから、欧米では現在の状況を「Great Pause(大いなる停止)」と呼ぶようになってきた。
前例のない状況に困惑し、今後の仕事や生活に不安を抱える人の方が多いことだろう。一方で、環境問題の改善や交通渋滞や事故の減少が顕著に見られるなど、人々が経済活動を一時休止したことによるポジティブな側面も注目されている。それはまさに、この停止期間を我々がどう考え乗り越えていくかによって、この後の世界が大きく変わっていくことを示唆しているようだ。
そして、世界を新しく形作っていく上で大きな力を持つのが「企業」である。今、企業はどのようなアクションを取り、メッセージを社会に発信していくべきなのか。世界中が立ち止まっているこの状況こそ、社会に新たな価値や考え方を提案することができるチャンスと捉え、真剣に向き合っていくべきではないだろうか。
すでに米国では、各企業が自分たちが社会に提供できることを考え、迅速な動きを見せている。消費者を巻き込んだそれらの動きは、体験デザインの視点から見ても、非常に参考になるものが多い。この記事では、コロナ危機発生直後の状況に対応する米国企業の体験デザインを考察しながら、この歴史的な転換期に、企業としてどのような行動をしていくべきなのかを考えていく。
コロナ危機に対する企業の迅速な対応が活発に
アメリカではこの世界的危機に対し、企業としてどのように貢献できるかを考えて、即時に行動する流れがとても顕著である。これらの動きは英語で『COVID-19 Corporate Responses』と呼ばれている。
その中でも目立っているのは、資金や物資の支援だ。例えば、Mastercardや、Wellcome、Bill&Mellida Foundationは、3月10日という大変早い段階でCOVID-19事態収束のためのスタートアップを支援するアクセラレーターを共同設立。
CocaColaはフェイスシールドを作る非営利団体の支援のためにリソースとロジスティクスを提供した。各国のマスクの不足に対しては、AlibabaやTrip.comのような企業が日本、アメリカ、ヨーロッパ等に大量寄贈したニュースを目にした読者も多いのではないだろうか。
また、PepsicoやChipotleをはじめとする食品企業やレストラン業が、ウイルスと最前線で戦う医療従事者や経済的に困窮する層に対して、無料で食事を提供する動きもアメリカでは目立った。
ZoomやWorkplaceなどのオフィスツールを提供する企業も、急な自宅勤務が導入された企業をサポートするために、期間限定でサービスの無料提供を行っている。
消費者を巻き込む企業のコロナ対応デザイン
上記のように、直接的に企業の資金や物資を無料提供するような企業活動が目立つ一方で、別の形でコロナ危機に対する企業活動を実践している企業が存在している。
彼らは、この前代未聞の危機の中で私たち消費者側が、お互い助け合い、賢く判断して生活できるようなデザインを提供している。
パンデミックの世の中で新たな社会生活の在り方の創造が求められる中、これらの企業は、他者と自分とのつながりの中で社会が存在することを消費者に再認識させ、新しい社会での行動の仕方をポジティブに提案してくれている。
1. スモールビジネス応援募金系(MealPal, ClassPass)
コロナウイルスの感染拡大防止の自宅退避令により、多くの都市で必要最低限のビジネスが禁止される措置が取られている。サンフランシスコでも、レストランやカフェは宅配とお持ち帰りのみが許され、イートインスペースは閉鎖されてしまっている。
スポーツジムやヨガスタジオといった施設も未だ全て閉鎖されている状況だ(5/1現在)。2ヶ月以上もこのような状況が続くため、多くが従業員の解雇や廃業にまで追い込まれている。
このような状況に対して、MealPalやClassPassは、消費者たちが支援を必要とするスモールビジネスをサポートできるような仕組みを提供し始めた。
MealPal
MealPalは街中のレストランと提携し、オフィス街で働く人向けに格安でランチを提供するサブスクリプションサービスだ。ユーザーはアプリから翌日のランチとピックアップ時間を選択し、その時間になったらレストランまでランチを受け取りに行く。
参加するレストラン側のメリットはMealPalプラットフォームに参加することでレストランを周知してもらえる点だ。また、MealPal用のランチメニューは数種類に限定することができるのと、事前にオーダー数がわかるのでロスも少なく効率的であるというのもメリットだ。ユーザーは通常より安価にランチを手に入れられるほか、お店で待たずに受け取れるのが嬉しい。
しかし、コロナウイルスの感染拡大が懸念される今、ほぼ全てのオフィスワーカーが自宅勤務になった。ここサンフランシスコでも、MealPalを利用できるユーザーが激減してしまった。またレストラン自体が一時休業というケースも少なくない。
自分たちの経営すらも危ういであろうこの状況の中、MealPalが始めたのは、加盟店への募金のシステムだ。
今現在、ユーザーがアプリを起動すると、いまだにランチ提供を続けるお店にランチを予約するだけでなく、今日ランチを注文する代わりにその金額を提携レストランへの募金に回すというオプションも存在する。
また、このような状況の中、多くのユーザーがサービス利用の一時停止を考えるだろうが、お金に余裕のあるユーザーに向けて、1ヶ月分のサブスクリプション費用を全額募金に回すという選択肢も提案している。
ClassPass
MealPalと似たビジネスモデルを持つClassPassは、MealPalのジム版とでも言うことができる。ClassPassのサブスクリプション(回数券)を使うと、ダンスやヨガ、ボクササイズなど、複数の異なるエクササイズジムを横断的に使うことができる。
ユーザーはオンデマンドで様々なクラスを予約、ドロップイン参加できるのだ。ユーザーは特定のジムに会費を払う必要はなく、様々なジムで異なったエクササイズを気軽に楽しめるのが魅力だ。
ClassPassのコロナウイルス対応は、とてもスピーディーだった。サンフランシスコでは自宅退避令が3月14日に発令されたが、ClassPassはその翌日15日には、該当地域に居住するユーザーのサブスクリプションを全て自動で一時停止した。現在ClassPassは、加盟するジムのオンラインストリーミングクラスをプラットフォーム上で提供している。
また、各エクササイズジムのClassPassプロフィールページには「サポート機能」を追加している。この機能を通じて、ユーザーはお気に入りのジムに対して、$5-$500の範囲で金額を設定して簡単に献金することができる。
さらに、エクササイズジムで働く人々に補助金を出すことを求めるオンライン署名活動を促す特設ページも一時期設けていた。
寄付文化が日本より浸透するアメリカであっても、先行きの不透明なこの状況で誰かに募金をしてサポートするというのは決して誰もができることではないはずだ。
しかし、いつも使うアプリからの募金の呼びかけは、普段ランチを手渡してくれる飲食店従業員や、エクササイズをサポートしてくれるジムのスタッフの笑顔がユーザーの頭をよぎらせるだろう。
そうしてユーザーは、コロナウイルスの影響で窮地に追いやられているコミュニティが、実は自分の属すコミュニティであることを実感し、募金という行動を選ぶ。そんな体験のデザインが、MealPalとClassPassの「サポート機能」には隠されているように筆者は考える。
このようにして、この2社は、自分の生活すらも不安な今、スモールビジネスを応援する意味を人々に考えさせ、コミュニティとして支え合い、共存してくという価値観を社会に醸成しているのである。
2. 家にいようと啓発系(Netflix, Uber/UberEats)
次に紹介するのは、コロナウイルス感染のピークを抑え医療崩壊を防ごうとする「Stay Home」の動きを啓発する形で社会に貢献しようとする企業だ。
Netflix
動画配信サービスを提供するNetflixはもう日本でもお馴染み。彼らは街頭に、今一番人気のあるリアリティショーのネタバレ広告を出した。外出する消費者に「家に帰ってNetflixを観たい」という気持ちにさせることで、コロナウイルス感染拡大防止に貢献させるという秀逸な対応である。
このリアリティショーのファンであるbtraxスタッフも「ネタバレし過ぎない程度の絶妙なネタバレ具合で普段から視聴している人にとっては続きが気になって仕方ない」と絶賛していた。
ちなみにNetflixはサブスクリプションベースなので、新規ユーザー獲得でなく、既存ユーザー1人あたりの視聴時間が増えたからといって単純に利益が増えるわけではない。
Uber
また、配車マッチングプラットフォームのUberは「A company that moves people is asking you not to move(人々の移動を生業にする会社が、動かないでとお願いしています)」と広告を出した。
現在、Uberをオーダーしようとアプリを開くと「それは本当に必要な外出ですか?」と確認メッセージが表示され、不要不急の外出を避けるように促される。
また、ドライバーたちにも社内のクリーニングキットを提供してたり、万が一ウイルスに感染してしまった場合には14日間の休業支援金を支払ったりしているようだ。
Thank you for not ridingというメッセージも動画広告で発信されている
UberEats
さらに、レストランのデリバリーに対応するUberEatsでは、現在デリバリー手数料を無料化し、金銭的な面で普段より利用ハードルを下げることで「Stay Home」を後押ししている。
ソーシャルディスタンスの実践をサポートするために、受け取り方法にも「Leave at the door(ドアの外に置く)」というオプションを素早く導入して対応した。
これらの企業は、自社のサービスがどのようにコロナの渦中にある社会で位置付けられるのか、その中で自分たちが取るべき行動はなんなのか考えて即座に行動している。
たとえその動きが自分たちの利益に直接繋がらなかったり、むしろ利益を下げてしまう場合であったとしても、潔く社会のためにその活動を決断している点に注目したい。
3. 家にいてもひとりじゃないーコミュニティビルディング系(Instagram, Coffee Meets Bagel)
ソーシャルディスタンスの実施により、自宅退避を強いられ、多くの人々が友人知人と直接顔を合わることがほぼなくなってしまった。そのことから、強い孤独やストレスを感じている人も多いだろう。
そんな中、自宅にいながらも、人と人との繋がりや新たなコミュニケーションのきっかけをデザインしてくれている企業も存在する。
日本を含め世界中にユーザーがいるInstagramもその1つだと筆者は考える。彼らは「Stay Home(おうち時間)」スタンプを作ることで、コロナ時代の孤独になりがちな「おうち時間」をサポートしている。
「Stayhome(おうち時間)」スタンプは、日本語、英語のみならず、ドイツ語やスペイン語など世界中の言葉に対応されているようだ。Instagramは、このスタンプを作ることで、ユーザーそれぞれが自宅での過ごし方を共有しあうことを促した。
自宅でも有意義な時間の使い方が可能であることを互いに共有しあったり、逆に「家で寂しい思いをしているのは自分だけじゃない」という同胞感を感じさせる体験デザインしているように見える。
この状況で実は大きな打撃を受けている業界は数えきれないが、オンラインデーティング業界も実はそのうちの1つだ。「オンラインデート」とは言うものの、ユーザーの多くがオンラインで「マッチ」した後に直接顔を合わせることを前提にサービスを利用している。
自宅退避令により、実際に顔を合わせるのがいつになるかわからないため、一旦活動を停止してしまうユーザーも多いようだ。
CoffeeMeetsBagel
この状況に対し、Coffee Meets Bagel(以下CMB)は自宅退避令中も(バーチャルで)人々の出会いを支援するデザインを行っている。まずCMBの特徴の1つと言えばマッチした人とのメッセージ機能が7日間でクローズすること(それによって、実際に顔をあわせることを促す仕組み)だが、彼らはその機能を真っ先に「無制限」にした。
自宅退避が終わって安全が確保されるまで、ゆっくりとコミュ二ケーションを取ることを促しているのである。
また、「バーチャルで楽しめるデートのアイデア」や「コロナの時代だから実践すべき恋愛の考え方」などのコンテンツををウェブサイトやInstagramページで紹介している。
自宅退避令が出た後にアプリを開くと、バーチャルデートの勧めがポップアップ表示され、アイデア集のページやリンクが飛ぶ仕組みになっていた。
さらに、CMBコミュニティバーチャルミートアップである『Coffee Talk』も各地域で週に2回開催されている。これは、同じ地域に住むユーザーをオンラインコール上に集め、ざっくばらんにおしゃべりをしてもらうというもの。
このような機会を提供することで、自宅退避中でも新たな人と知り合うことで、家に引きこもるユーザーたちに外の世界との接点を持つ機会を持たせるというのが趣旨の様だ。
筆者も興味本位で参加してみたが、サンフランシスコベイエリアの地域から80名以上が参加しており、途中で7-8人程度のオンラインカンファレンスルームに分けられた。
分割されたルームでは「お気に入りのコロナにまつわるインターネットジョークは?」「コロナが始まってから新しく生まれた習慣は?」などのテーマでおしゃべりをした。
結論、全く知らない人たちと、しかもオンラインで突然おしゃべりするのは少々ハードルが高かったが、参加者からコロナの中だからウケるジョークや楽しく家で過ごせるアイデアを聞けたのは、「ひとりじゃない」と思わせてくれたし、ポジティブな気持ちになれた。
また、仕事帰りにミートアップに参加するのが筆者の日常であったが、Coffee Talkに参加してコロナ以前の生活の感覚を取り戻せリフレッシュすることもできた。
ちなみに、カジュアルなミートアップとはいえど、さすがデーティングアプリの会社。最後にMCが5分程度話している間、気になる人がいればプライベートチャットメッセージを送ることができるというスピードデーティングのような側面もちらりと見えた。
こういったチャット機能解放期間の延長やデートアイデアの提案、新しいスタンプの作成などは、一見とても些細な企業アクションのようにも見える。
しかし、実際は、外界との接触が少なくストレスフルになりがちな生活の中、他の人たちとバーチャルで気持ちや時間を共有させあうことで、「充実した時間」についての新たな考え方をコミュニティから自発的に作り上げさせる、そんなデザインが仕込まれているとも考えられる。
4. インフォデミックを防止する情報共有系 (Medium, note, Google, Facebook など)
コロナウイルスの感染拡大の裏で同時に起こり、人々に混乱を与えているのが『インフォデミック』だ。インフォデミックとは、正しい情報と不確かな情報が混じり合い、人々の不安や恐怖をあおる形で増幅・拡散され、信頼すべき情報が見つけにくくなるある種の混乱状態のことを指す。
ここからは、インフォデミックの問題に着目し、ユーザー正しい情報を得て正しい判断をしてから行動判断するように呼びかける企業の活動を紹介する。
Medium, note
まず、Mediumやnoteなど、誰もが投稿できるブログサイトでは、コロナウイルスに関連した内容である場合は冒頭に「これはコロナ関連のことが書かれていますが、事実関係は自分できちんと確認してください」と表示が出るようになっている。
どんな情報でも鵜呑みにするのではなく、正しい情報を判断するようにと、ユーザーにリマインドするためのデザインだと考えられる。
Facebook, Google, Microsoft, Reddit, Twitter
また、アメリカの大手インターネット企業である、Facebook, Google, Microsoft, Reddit, Twitterは、このインフォデミックの危機に対して、パートナーシップを組み、対処していくことを発表している。
彼らは政府とも連携姿勢を取りながら、正確な情報を収集発信、インフォデミックを助長する恐れのあるコンテンツは各社サービスが除去するような方向で問題に取り組んでいるようだ。
例えば、彼らは政府発信の正確な情報を集めた「コロナウイルス情報センター」をインターネット上に開設している。Googleであればコロナウイルスに関連した検索ワードを検知すると、検索結果のトップに情報センターへのウィンドウが表れるようにしている。
Facebookも同様に、アプリを開くと画面一番上に、情報センターにリンクされるバーが表示される仕様になっている。
Google Mapのアプリを起動すると1番に、情報センターへリンクされるウィンドウが出てくる仕様になっており、出かける前に最新情報を得るように働きかけている。
また最近では、ウイルス感染拡大に伴って営業形態が変更している飲食店等のサービスに関する最新情報もUIを含めてアップデートされているようだ。
これらの企業は、人々との接点が特に多い情報産業という立場を活かし、正確な情報を提供するだけでなく、信頼すべき情報を自分で判断して行動する大切さを強調してユーザーに考えさせるデザインをしていると考えることができるだろう。
世界が変わっていく今、企業として何を提案したいか
ここまで、アメリカの企業を中心に『COVID-19 Corporate Response』の事例と、それが意味する企業からのメッセージや彼らが提供しようとする体験デザインについて解説してきた。
前代未聞の災害に世界中が翻弄される今、企業としての社会的責任が大きく問われており、どの事例からもそれに必死で応えようとする企業努力が滲み出ている。
今、この混乱時においては、企業という立場でどのように混乱解決に貢献できるか、どのようなメッセージを人々に伝えたいか、それぞれが真摯に考え、即座に行動に移すことが必要だ。また、コロナウイルスによる影響は長期化するだけでなく、その後の私たちの生活のあり方や価値観自体を大きく変えるだろうと言われている。
だからこそ単に元の生活に戻ろうとするだけでなく、コロナ後に私たちはどのような世界に住んでいたいかを本気で考えたい。直接自社の利益として還元されることを考えるだけではなく、ポジティブな社会変容のために、自社だからこそ実行できることは何か考えることが重要になるだろう。
そして今、それを現実にしていくための働きかけができる大きなチャンスでもあるのだ。まさに、イノベーションが求められているのである。
本記事で紹介した企業は、コロナ危機発生直後の混乱の中、自分たちが提案できることを即座に考え行動に移した。彼らは、自社サービスの体験デザインを通して、こんな世の中だからこそ、一人一人が正しい判断をして、直接会えなくても支え合える、そんな新しい生活の在り方をユーザーに提案している。
状況が変わっていくにつれ、彼らのメッセージやそれを伝える体験デザインも新たなものが出てくるだろう。
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