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【事例編】全ての企業に今こそ「サービスデザイン」が必要な理由
「サービスデザイン」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
一般的にはあまり知られておらず、一見すると接客サービスや、専門的なデザイン領域の話だと思われがちだ。
しかし、実は全ての企業がサービスデザインに関連があるといえる。
デザインが担う役割や領域は、実に大きく拡張してきているのだ。
今回の記事では、前回に続き、サービスデザインがなぜ企業にとって重要なのか、そして実際にサービスデザインを活用し、リサーチからサービスローンチまでした例にはどのようなものがあるのか、サービスデザイナーである筆者の視点から紐解いていく。
アメリカ金融大手Capital Oneでのサービスデザイン活用事例
具体的にサービスデザインは企業でどのように活用されているのだろうか。
ここで、アメリカ金融大手Capital Oneでの具体的な活用事例を紹介しよう。
Capital Oneの課題
Capital Oneはアメリカの最大手の銀行の1つだ。彼らは、銀行の価値の差別化に行き詰まりを感じていた。
テクノロジーが進化するにつれ、人々にとっての銀行の価値は「効率的に金融取引ができること」へと変化してきた。
しかし、Capital Oneは効率性だけでは差別化に限界があり、長期的な価値提供に繋がらないという危機感があった。そこで彼らは、新たな銀行体験を設計することにした。
フェーズ1: リサーチと課題発見
チームは、アメリカ人の65%が家計のことで眠れなくなっているという調査データに着目した。
これらを解決するために、そして、どうすれば人々がお金の感情的な面をナビゲートできるよう、より良い手助けができるだろうか?という問いを起点に、サービスデザインを行った。
まず彼らは、ファイナンスに関する人々の行動や価値観を探るためのユーザーリサーチやエキスパートインタビューを行った。
すると「人々はファイナンスのガイダンスを求めているが、一体どこに向かえばいいのかわからない」という課題があるとわかった。
フェーズ2: アイディア検証
この解決策として、人々がお金との関係に自信を持てるようするための1:1の金融コーチングサービスを考案した。
これはストレスのないカフェのような環境で、お金にまつわる意思決定と感情について自己理解を深めるためのコーチングを提供するというアイディアだ。
チームは、このアイディアが人々に価値を感じてもらえるかを検証することにした。
社内のコンプライアンスグループと連携して実証実験の承認を取得し、社外パートナーとプロトタイプを作成して、サンフランシスコの中心地ユニオンスクエアにあるCapital One Caféで3週間の実証実験を行った。
Capital One Caféとは、同社が展開しているカフェで、誰でも自由に作業やコワーキングができるスペースとして提供されている。
銀行 ✕ カフェという新しい体験も、デザイン思考から生まれたサービスである。Capital One Caféの詳細は下記の記事も参照してほしい。
関連記事:ブランドパーソナリティとは?米国企業の注目活用事例2選
ここでは100人を対象に2人のコーチと4つのコーチング・ツールを用意し、サービスコンセプト検証が実施された。
参加者からの評価は高く、「このサービスのおかげで、生活の質が高まった」」「このサービスをこれからもずっとやってほしい」といった声が寄せられた。
手応えを感じたことで、続いてサービス開発チームはCapital One Cafeチーム内のシニアリーダーや幹部に対して動画や実演を通してサービスコンセプトの売り込みを行った。
こうした活動を経て、実現に向けて投資を得られることが決定し、本格的なサービス立ち上げを行うことになった。
フェーズ3: 完全版プロトタイプの作成
Capital Oneチームは、ビジネス上の制約にも対応できる形でサービスの全体設計を行うために、サービスを反復しながら検証、改善していった。
例えば、より幅広いユースケースに対応できるようコーチングツールの種類を増やしたり、グループコーチングの選択肢を増やしたりとサービス構成を改善していった。これらのプロトタイプも作成し、3週間かけて25人にそれぞれ3回のコーチングセッションを実施し、価値を検証していった。
また、実際の日々の業務に組み込むため、社内組織体制とオペレーションのデザインも行われた。アンバサダー採用や、サービスデザイナーをCapital One Caféのビジネスチームにアサインするなど、組織体制を整えていった。
フェーズ4: サービスローンチ
2016年11月、テキサス州オースティンにてコーチングサービスを正式に開始した。
ローンチ後には、Webサイトやコーチング用の資料、トレーニング資料、Capital One Caféスタッフへのオンボーディングなど、ユーザーの目に触れる接点と、従業員側の接点の双方でサービスを提供していった。
フェーズ5: サービス規模の拡大
持続可能なものになるよう改善しながら他地域へ展開し、2024年4月現在はサンフランシスコ、ロサンゼルス、ボストン、オースティンを含む45を超える拠点でこのサービスが提供されている。
ここからわかるように、Capital Oneの事例ではアイディア企画に留まらず、その実装に向けての組織体制、オペレーション設計、従業員の体験デザインまで扱われている。
サービスデザインでは、まさにこうした組織内の変革やビジネス設計を含めて、ユーザー起点での体験作りを行っていくのだ。
まとめ
このように、サービスデザインが扱える分野は想像以上に広く、独自の価値による差別化が求められるこれからの時代において、企業に不可欠な要素であることがわかる。
サービスデザインの力を用いることで、人々に愛されるサービスを生み出して、組織のカルチャーを変革し、持続的なビジネスとして価値を提供し続ける仕組みを構築できるはずだ。
btraxではこうしたサービスデザインの手法を用いながら、大企業内イノベーションや新規事業・新サービス創出、既存事業の改善、組織改革などに伴走しています。
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