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環境保護とUXデザインの両立!3つの例に学ぶ優れたサービスとは
- 環境問題への配慮と、ユーザー体験の良さは両立しうるのか。
- 環境◎ × UX△:紙製ストローに学ぶ、ユーザーを置いてけぼりにしないプロダクトとは
- 環境◎ × UX◎:Square社の決済端末と、Nimble社のポータブル充電器が持つユーザー体験の質の高さ
- ユーザーにとっての課題を問い、問題起点での発想が重要
地球環境問題を解決する方法はどれも辛く、不便なものなのだろうか。真夏の冷房・真冬の暖房を気合で我慢したり、複雑すぎるまでのゴミの分別など日常生活で求められることは多く、環境対策のために工夫が必要な時代となった。
そうした中、環境対策とユーザー体験満足度が両立された製品・サービスは世の中にいったいいくつ存在するだろうか。
環境対策と良いユーザー体験の両立はやはり実現が難しい問いなのだろうか。ロサンゼルスとサンフランシスコで暮らし始めて6年余り、そんな問いが筆者に芽生え始めた。
人口約4,000万人を誇るカリフォルニア州では、2045年までに州内で使用される電力の100%を再生可能エネルギーで賄うという強気な法案を可決するなど、環境対策に関して世界を牽引している州として有名である。
ユーザー体験面に関しても、イノベーションの街、サンフランシスコ・シリコンバレーを中心に環境対策とユーザー体験満足度の両立を目指す製品・サービスが日常的にも体験できるようになってきた。
今回は、その中でも実際の体験を通して気づいた事例を3つ紹介すると共に、果たして環境対策とユーザ体験満足度は両立するのか、もしくは本当に両立させるべき問いなのかを考えてみたい。
この機会に新しい分野の動向をチェックしつつ、自社の次なる新規事業開拓のヒントに繋げて頂けたら幸いだ。
環境に良い × UXに課題ありの例:紙製ストロー
カリフォルニア州では、2019年1月から、同州に店舗を構えるフルサービス型レストラン(店員がお客の注文を取り、席まで料理を運ぶ形式)でのプラスチック製ストローの提供を原則禁止する法律が施工された。
この政策をきっかけに、フルサービス型レストランだけではなく、スターバックス社やマクドナルド社などの大手企業でも、自主的にプラスチック製ストローの提供を取り止めると発表し話題となった。
プラスチック製ストローの代替案として現在市場に出ているのが、紙製ストローである。紙で作られたストローは、ゴミの分別が簡単でリサイクルにも繋がり環境に良く、企業としての導入コストも安いため、多くのレストランや飲料店で提供され始めている。
環境には配慮されている一方で、ユーザーの体験満足度はどうか。正直、それほど素晴らしいものとは言えない。「紙ストローは飲み物を飲んでいる最中に、ふやけて型崩れするから最後まで飲めない」など否定的な声が多く聞かれる。
そしてそれを見越してか、最初からストローを2つ貰う人もしばしば目にする。これでは結果的にゴミの量が増え、環境対策という点においても問題解決に繋がらず、支離滅裂である。
もちろん、上記のような懸念から、より丈夫で環境にも考慮された竹製ストローやシリコン製ストローなど代替品は出てきてはいるものの、紙ストローに比べて導入コストが高く、採用に足踏みをしている店舗が多い印象だ。
試行錯誤は繰り返される一方で、なぜ環境面もユーザー体験満足度も確保された解決策が生み出せないのか。この問題で重要なポイントは、「プラスチックストローの代替案になるのは何か?」という解決策視点ではなく、「そもそもユーザーにとってストローとは何か?」という問題起点で物事を考える視点が必要である。
ユーザーにとってストローは、飲み物を飲むためのただの道具であり、最終的なゴールは飲み物をストレスなく飲むことである。つまり、ストローがなくても、飲み物を飲めさえすればユーザーはHappyなのではないだろうか。
プラスチックストローの代替案ばかりに気を取られ、ユーザー体験を置いてけぼりにしてしまっては使われない製品となり、絶対に問題解決に繋がらないのである。
環境に良い × UXも良い例:Square社の決済端末
アメリカでレストランに行くと、いつもお会計にひどく時間が掛かる。チップ制度があるアメリカでは、各テーブルに1人店員がついてくれるのが通常だが、これがピーク時ともなると、その店員の手が空くまで座席で待つことになり、この時間が本当にとてつもなく長い。
そこから、会計表を貰って、クレジットカードを渡して、チップを計算して、レシートにサインをしてとなると、それだけで最低15分は必要になる(おしゃべり好きなアメリカ人なら尚更時間がかかるだろう)。
また、顧客によっては、レシートのハードコピーを希望する人がまだまだ多く、ペーパーレス化という環境面においても課題が残っているのが現状で、環境とユーザー体験満足度に関して課題を抱えている場面であった。
そうした中、2009年にサンフランシスコで創業された、新しい形の決済サービスを提供しているSquare社がSquare Terminalという新しいサービスを開始した。
Square Terminal
Square Terminalの最大の特徴は、Wi-Fi接続ができ、デバイスの充電は1日持続するため、店員が常にこれを持ち歩いて仕事できるところにある。これにより客は卓上で支払いを済ませることができるようになる。会計表を待ったり、店員がレジまでクレジットカードを切りに行ったりするのを待つという、ムダな時間を過ごさなくて済む。
レシートに関してもデジタルでの送付が可能なため、紙の削減に繋がり、環境にも十分考慮されている。一見、レシートを削減したところで大した環境対策効果はないのではと思われがちだ。
しかし、米国での1年間のレシートの消費量は相当なもので、Green Americaが行った調査によると、年間300万本の木と90億ガロンの水を消費しているとの報告もあるほど深刻な問題なのだ。
こうした環境とユーザー体験満足度が両立された製品が生まれるポイントとして、ユーザー体験に着目し、問題起点で考えられた製品開発を行ったからだと考えている。
今までのクレジットカード決済端末では、持ち運びができず待ち時間が重なり、レシートもハードコピーだけで、ユーザーにとっても環境保護にとっても特別良い体験とは言い難かった。
Square社は、「お店での会計体験がストレス」というユーザーが抱える課題に着目し、どうすればそれを変えることができるかという視点で取り組んだからこそ、多くの店舗にも採用され、レシート紙の削減という環境対策にも繋がっているのだ。
環境に良い × UXも良い例:Nimble社のポータブル充電器
様々な業界が環境対策に動く中、家電・電化製品分野は特に対応が遅れていると言われている。それはなぜか。多くの家電製品は使い古した後ゴミになり、土に還ることができず、リサイクルするにしても引き取りなどには費用が掛かるため、身動きが取れず放っておかれる、もしくは間違った方法で破棄される状況に陥ることが多いからである。あなたの自宅にも使い古しのスマートフォンや電化製品がいくつかないだろうか。
カリフォルニア州に拠点を構えるNimble(ニンブル)社は環境に優しいリサイクル可能なポータブル充電器を製造・販売しているスタートアップ企業だ。
同社の最大の強みはそのポータブル充電器だけではなく、上記のようなユーザーが持つ「使い古しの電化製品の処理方法に困る」という課題を解決しているところにある。
まず製品面。Nimble社では、製造している充電器の素材はもちろん、付属ケーブルや製品をユーザーへ発送する際の梱包もリサイクル可能な材質を採用しており、製品そのものが既に環境に配慮されている。
Nimble社のポータブル充電器
環境に配慮された充電器と聞くと、製品の性能や価格面でネガティブに捉えられがちだが、しかし、使ってみての印象は市販のポータブル充電器よりも長持ちし、充電速度も速く、デザインも素晴らしい。
価格設定も手頃で、ワイヤレス充電器は40ドルからと大手ブランドと比べても同等か安い印象があり、ユーザー体験満足度は高い。
ユーザーとしてはそれだけでも満足なのだが、この企業の素晴らしい点は他にもある。最大の特徴は、製品を使い古した後の処理に掛かるカスタマーサポート面だ。Nimble社の製品を購入すると、電子機器のリサイクルに利用できるグレーの袋が付属品として付いてくる。
付属リサイクル袋
この袋には、最大1ポンド(450g)までの重さであれば、どんな電化製品でも入れることができ、無料でリサイクル業者への配送に対応してくれる。
自宅に転がっている使い古したスマートフォンやカメラなどのリサイクルにも対応することで、電化製品の処理に困っているユーザーの課題を解決し、環境対策にも適用しているのだ。
この例もSquare社同様、ユーザーが抱えている問題は何なのかという問題視点でサービスを作った事が最大のポイントだと言える。ただ単に環境に良いポータブル充電器を作り、販売しているだけではおそらくユーザーには届かず、問題解決には繋がっていなかっただろう。
ユーザーが抱える問題をしっかりと考えた上で作られた製品・サービスだからこそ、多くの人に受け入れられより強い形で環境対策にも貢献できていると考える。
まとめ
今回は、環境対策とユーザー体験満足度が本当に両立するのか、そしてそれは達成されるべき問いなのかを考えるために、事例を用いながら紹介をした。
環境問題は世界が抱える課題の1つで、一刻も早く対策が必要の分野であるが、そこでユーザー体験を置き去りにしてしまっては、せっかくのソリューションも使用されず意味がなくなってしまう。
ここで最も難しい問題は、ユーザーがそのサービスや製品を利用することによって、どれだけ環境保護の役に立っているのか見えづらく、継続に繋がりづらいところにある。真夏の冷房・真冬の暖房を気合いで我慢をする行為は、正直バカらしく続けられない人が多いだろう。
環境もユーザー体験も両立された製品やサービス開拓は難しい問いであるが不可能ではない。それを達成するには、ユーザーへの共感、そして問題起点で考え、ユーザーに継続して利用してもらう必要がある。紙ストローの例のような環境対策だけに目を向けた解決策では、その場凌ぎにしかならず、長期的な展望は見込めない。
Square社やNimble社の例のように、ユーザーが抱える課題を起点に考えられたソリューションであれば、短期的な効果は望めなくても、長期的に利用者数が増えることで、それが結果的に環境対策にも繋がり両立が達成されるのではないだろうか。
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