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ヘルスケアのDX – Carbon Healthを試してみた【UX分析】
なぜアメリカではコロナの検診スピードが格段に速いのか? その秘密の一つが、デジタル技術を活用したテストプロセスに隠されている。今回UX分析の対象として試してみたのは、ヘルステック系のスタートアップ、Carbon Healthが提供するサービス。
このスタートアップは元々、遠隔医療に関する仕組みを提供していたが、新型コロナウィルスの拡大により、現在ではそれら加えて、サイト、アプリ、そして検査用のポップアップステーションを活用した検査を迅速に行っている。
アメリカでは誰でも無料でコロナ検査が可能
現在アメリカでは、誰でも無料で検査を受けることが可能で、保険がない人でも政府によってカバーされる。より多くの人々に検査を提供するために、既存のクリニックに加え、Carbon Healthは空いている駐車場などのスペースにプレハブ型のテストステーションを設置している。予約はサイトやアプリから簡単に行うことができる。
Carbon Healthのサイトから検査ステーションが検索可能
Uberライクな予約体験
今回利用してみてまず驚いたのは、その予約の簡単さ。合計2回テストを受けてみたのだが、初回はサイトから、2回目はアプリから行った。まずサイトからユーザーの自宅もしくは勤務先から最寄りのステーションを選択。次に日時を選択する。
1回目は、サンフランシスコ市内のbtraxのオフィスから徒歩で行ける距離のステーションにて、翌日に予約。2回目はなんと当日の2時間後に予約ができた。ユーザー体験的にはUberやUberEatsに匹敵するスムーズさ。
ちなみに、アカウント作成に必要なのは、名前、メールアドレスと電話番号のみ。その後のデータ管理は、全てWebもしくはアプリで行う。
自分の場所から最寄りの検査ステーションとスケジュールを確認
事前の問診もアプリで行う
検査場で費やす時間を最小限にするために、事前にアプリ経由にてチャットボット形式にて問診が行われる。AIとのやりとりを自動的に行えるように、選択肢の設定や、UIの要素が上手にデザインされている。
検査前の問診はアプリ経由で行う
検査直前にアプリとSMSからリマインドが届く
予約した後にアプリをダウンロードして、ログインすると予約の詳細が表示される。また、検査直前にリマインドの通知がアプリとSMSから届くため、予約忘れが生じにくくなっている。
予約内容と直前通知がアプリから確認可能
実際の検査もめちゃくちゃスムーズ
検査ステーションに行くと、入り口のあたりで名前とIDの提示が求められる。その後、全く待たされることなく、プレハブのような建物に通された。なお、2回目はIDの提示すら求められなかった。ちなみに、検査に要した時間は2分弱。
スムーズな受付で、待ち時間はほぼない
診察はiPadで遠隔から行う
そして、今回最も驚いたのが診察方法。建物の中には検査担当のナースと、iPadが一台置いてあるだけ。そして、ドクターとはそのiPad経由でやりとりを行う。これは、いわゆる遠隔医療スタイルだが、かなり理にかなっている。
というのも、それぞれの検査場にドクターを一人ずつ配置すると、効率が悪いし、感染リスクも高まる。一回の診察が数分で終わることを考えれば、遠隔で全米にある複数のステーションをつなぎ、次から次に診察を行った方が効率が格段に高まる。サンディエゴからのドクターとのやりとりは30秒程度、簡単な質疑で終わった。
ドクターは遠隔から診断を行う
結果は2-3日中にアプリ経由で届けられる
数分以内で検査が完了し、あとはアプリ経由で届けられる結果を待つのみ。2回とも2日後に結果が届けられた。アプリとSMS経由で通知が届き、それを開くと、チャットボット形式の画面にメッセージで結果が表示され、詳細のPDFをダウンロードすることも可能。それまでのプロセスの記録が明記されているため、ユーザー体験の側面から見てもかなりストレスが少ない。
検査結果はアプリを通じて届けられる
DXにおける正しいユーザー体験は、デジタルとリアルを上手に融合する
UX分析してみて最も優れていると思ったのは、サイトやアプリ単体の体験ではなく、リアルな検査ステーションにおけるオフラインでの体験を間にはさみつつ、その前後のデジタル体験をスムーズに繋ぐことで、ユーザーに一切のストレスを感じさせないUX設計。それぞれにかかる工程もかなり短く設定されており、予約から検査が完了するまでの日数は1週間以内、サービスに費やした実質の時間は5分程度に抑えられている。
今回の体験におけるカスタマージャーニーマップ
Carbon HealthのUXにおける特質するべきポイント
- ユーザーの登録に必要な基本情報は、名前、電話番号、メールアドレスのみ
- ユーザーのロケーションに合わせて自動的に検査ステーションが表示される
- 同日もしくは翌日での予約が可能
- アプリによる事前問診によって、現場での問診時間を最小限にとどめている
- 検査費用は無料
- 検査場での待ち時間はゼロ
- ドクターは遠隔からの参加なので、効率性が高い
- 検査時間は1-2分程度
- 2-3日以内に結果が届く
- 結果内容のPDFがアプリ内に保存されるので見やすい
- アプリによって検査履歴のデータがいつでも閲覧できる
- アプリ経由での事前・事後のやりとりがチャットボット形式でスムーズ
- アメリカ国民や永住者ではなくても無料で検査を受けられる
- 名前、電話番号、メールアドレス以外の個人情報が求められない
ヘルスケア業界に求められるDX変革
アメリカのヘルスケア業界は急激にDXを進めているが、今回のパンデミック拡大で、そのスピードは格段に高まった。今回利用したCarbon Healthもその勢いにのり、2020年の5月に2800万ドルの資金提供を、11月には1億ドルの追加出資を獲得した。今後は、ワクチンの準備が整い次第、ワクチンの普及に役立つインフラを提供する予定。
正しいDXを達成するためには、まずはUXリサーチから
おそらく日本ではまだまだ遅れ気味なヘルスケアのDXだが、アメリカのサービスをリサーチ・分析することで、正しい設計に近づけるのではないかと感じる。ご興味のある方は、ぜひお問い合わせを。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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