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ユーザーフローから学ぶミスコミニュケーションの発生原因と対処方法
UXデザインのプロセスの一つとして「ユーザーフロー作成」というものがある。
これは、特定の目的を果たすために、ターゲットとなるユーザーがどのようなプロセスを経るのかを明確にすることで、そこにたどり着くまでの「流れ」を設計するもの。
例えばアプリのデザインをする際には、下記のようなユーザーフローが設計される。
このプロセスの中では、それぞれのタスクごとにフローを作成し、よりユーザーにとって使いやすく、加えて、サービス提供側のゴールをスムーズに達成できる「流れ」に対しての導線をデザインする。
しかし、いきなりこのような「しっかりとした」画像を作成することは少なく、最初は文字や線だけのごくシンプルなフロー図をスケッチする事が多い。
ユーザーフローによって明確化されたミスコミュニケーションの発生原因
このユーザーフローを作成する一番の大きなメリットは、サービス提供側とユーザーの「ズレ」を明確にできる点だろう。
例えそれがごく単純なタスクだったとしても、そのズレは意外と発生しやすく、それが大きなミスコミュニケーションにつながることも多い。
では、下記の具体的な例を元に検証してみよう。
社内ワークショップでユーザーフローを作成
我々btraxでは、定期的に社内ワークショップを行う。
そこでは、スタッフの一人が、自分の得意分野をチーム全体に共有することで、相互関係を生み出すクロスファンクショナルチームを作り出すことを目的とする。
今回のテーマに関しては、サンフランシスコオフィスにて、UXデザイナーのMimiがセミナーとワークショップを提供した。
テーマは「コーヒーを飲むまでのプロセス」
今回のワークショップのテーマは、「コーヒーを飲むまで」のユーザーフローの作成。
このごく単純なゴールを達成するのにも、実はいくつかの複数のタスクとデシジョンポイントがある。そして、驚くことに、その作成者が誰であるかによって、その内容が大きく異なっていた。
おそらく、皆さんが想像するフローは、だいたいこんな感じだろう。
実はユーザーのバックグラウンドによって異なるフロー
しかしながら、対象とするユーザーによってはその内容が異なってくる。
実際に、多種多様な人種と文化的背景で構成されるbtraxのチームメンバーを対象にユーザーフローの作成をしてもらったところ、驚くべき結果となったので、紹介したい。
ケース1: 日本人スタッフ (30代) によるユーザーフロー
実際に作成されたユーザーフロー図の例を紹介する。下記は、日本で育ったスタッフが作成したもの。それぞれのタスクをリスト化すると、ざっとこんな感じになる。
- お湯を沸かす
- コーヒー豆の種類を選ぶ
- 豆を煎る
- フィルターに粉をセットする
- お湯を注ぐ
- 少し待つ
- カップにコーヒーを注ぐ
ケース2: アメリカ人スタッフ (30代) によるユーザーフロー
では、全く同じユーザーゴールに対して、他のスタッフはどの表に描いたのか。始めるまではあまり差がないと思われたそのフローが、実はやってみると大きく異なっていた。
下記のステップからも分かる通り、なんとアメリカ人スタッフの彼は実に木からコーヒー豆を探すところから始めている。
面白かったので、ちょっと茶化すと「俺はマジだ。実家が農家なので、コーヒーを作るプロセスは、豆を選ぶところから始まるんだよ!」と力説していた。
- 良いコーヒーの木を探す
- 農家の方と売買交渉をする
- 豆を木から採集する
- フィルターにかける
- 良い豆だけを集める
- 豆を乾燥処理する
- 豆をローストする
- 豆をパッケージに詰める
- 良いロケーションの店舗で売る
- 買う際に香りを確かめる
- 選んだ豆を買う
- グラインドして淹れて飲む
ケース3: 日本人スタッフ (20代) によるユーザーフロー
そして、最も面白く、意外なのか下記のケース。世代の差なのかもしれないが、若者にとって「コーヒーを飲む」と言ったら自販機で買うことなのもしれない。
- 自販機を探す
- コーヒーを選ぶ
- 飲む
学び: 製作者の思い込みが大きなギャップを生み出す
このように、一見単純と思われるタスクひとつとっても、そのプロセスにはいくつかのオプションがあり、ユーザーの趣味嗜好やバックグラウンドによってなにが正しいかが異なる。
そして、それぞれのステップに対しての重要性とフォーカス度合いも大きな差が出ている。
効率性を最優先するユーザーもいれば、品質とプロセスの楽しさを重視するケースだってある。
今回のテーマで考えると、もしかしたら上記のケースに加えて「カフェに行って買う」というのもあり得るかも知れない。
この辺は、製作者側がしっかりと理解して取り組む必要があると思う。
これがミスコミュニケーションの発生原因
そして、今回のワークショップで、ミスコミュニケーション発生原因も浮き彫りになった。
例えば上司が部下に「〇〇君、コーヒーが飲みたいんだけど」と言い、それに対して部下が缶コーヒーを買ってきたとする。そこで上司が「何ふざけてんだ」となる。
上司は当然コーヒーを淹れてくれるものだと考え、そう伝えたつもりでも、新人のスタッフにとっては「コーヒー = 自販機で買うもの」がスタンダードになっているので、自分は間違ってないと思うだろう。
ビジュアルでコミュニケーションすることの大切さ
同じゴールでも異なるプロセスがあり得るので、コミュニケーションをする際には、言葉に加えて、ビジュアルで説明する方が伝わりやすい。
この辺は「シリコンバレーの企業はどのようにしてスピードを上げているのか?」でも説明されている通り、昨今デザインが注目される一つの大きな理由であろう。
実際、今回のワークショップでも、チームメンバー同士が図を見せながら説明し、それぞれ相手のフローをインタビューを通じで作成したりもした。そうすることで、より深いユーザー理解が得られる。
チームにおけるダイバーシティーが重要な理由
もしこのセッションが同じ人種やバックグランドを持つ同世代だけのグループで行ったとしたとしたら、これほどまでの違いは出てこなかったと考えられる。なぜなら、参加者の価値観がおおよそ一定になるはずだから。
この辺が、実は画一的な国民で構成される日本の弱点でもある。
同じタイプの人々の集まりだと、新しいプロダクトやサービスを考える際に、ユーザーが通るフローを考える際の想像力がどうしても足りなくなる。「カルチャーの違いを考慮したデザインのポイント」ではその具体的な理由をより論理的に説明している。
逆にシリコンバレーなどは、多種多様な人々が多角的な面からアイディアを出せる土壌となっていることもあり、イノベーションを生み出しやすい。
プロセスをショートカットすることで生まれるビジネスモデル
「コーヒーを飲む」ためには、コーヒー豆を探すところから始まるのか、はたまた自販機でサクッと買うのか。もちろん手軽さを求めるなら後者である。
これはビジネスとして考えた場合、消費者に対してのステップの短略化を価値として提供している。最近のコンビニのコーヒーマシーンも近いコンセプトである。
たとえ全く新しいプロダクトを作り出さなくたって、イノベーションを生み出すことは可能だという良いヒントにもなるだろう。
参考: UXデザインにおけるユーザーフロー作成の3つのプロセス
ここで実際のデザインの現場ではどのようなプロセスでユーザーフローが作成されているのかを簡単にご紹介したい。
1. ユーザーゴールを設定する
一番重要なのが、なにをゴールとするかを設定し、可視化すること。これが意外とクリアになっていないケースが多く、それゆえにそのあとのフローがブレてしまう。
2. 各タスクを明確化するためのタスクフローを作成する
Step1で最終的なゴールを設定した後は、それに到達するために必要とされるそれぞれのタスクを明確化する。
そこでは、主に行動に伴う「アクション」とユーザーが考え、決定する「デシジョン」に分けることが一般的である。
3. アクション/画面とタスクをワイヤーでつなげる
そして最後にそれぞれのタスクで必要とされるアクションや操作画面を線で結ぶことで、ユーザーのフローが完成する。
ここでは画面と線の部分に軽い注釈を入れることで、ユーザーのとるアクションや思考がより具体的に可視化される。
UXはユーザーニーズとビジネスゴールを達成させる為にも重要
“UXの最終目標はユーザーゴールとビジネスゴールの一致”
優れたユーザーエクスペリエンスは、ユーザーのゴールとビジネスのゴールが一致する。
従ってある意味企業における最終的な目的を果たす為に最も重要な役割を果たしていると言えるであろう。UXとはそのぐらい重要なファクターなのである。
また、顧客がプロダクトを通して受け取る体験こそが企業や商品のイメージ作りに直結しているので、優れたエクスペリエンスをユーザーに体感してもらう事は、もっとも良いブランディング構築方法でもある。
そして、もしUXを通じた競合他社との差別化がしっかりと出来ていない場合は熾烈な安売り競争に巻き込まれるだろう。
UXがもたらす価値
- 対ユーザー: 使いやすい
- 対ビジネス: 売り上げが上がる
- 対ユーザー+ビジネス: 期待値が合致してる
優れたUXは上記の三つのバランスが絶妙に取れている。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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