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アメリカ企業が日本企業に勝るたった一つの事
毎回日本に出張に行くたびに日本企業の凄さを感じる。
特に最近仕事をさせて頂いているクライアントのその多くに勢いがあり、国際的な視点で考えてみてもかなりのクオリティーの企業ばかりである。
例えばアメリカ企業と比べてみても日本企業はその組織力、結束力、勤勉さ、忍耐力、仕事の速さ、おもてなしの心など、優れているポイントは数限りなくある様に思える。
しかし世界市場規模で考えるとその存在感は未だあまり高いとは言えない。
理由の一つとして、日本の文化や国民性が故に「ある一つの考え方の違い」でアメリカ企業に押されている部分があると思われる。
もしかしたら、このたったひとつの一つ理由で海外の企業、特にアメリカ企業に海外市場だけではなく実は日本国内でのビジネスでも優位に立たれている可能性が高い。
それに気づいたのは先週参加したイベントでの Square 創立メンバーの1人によるプレゼンだった。
Square日本市場進出物語
参加したイベントのタイトルは”Launching Square in Japan – lessons learned by Randy Reddig.”
Square のファウンダーの1人である Randy Redding (ランディ) がどのようなチャレンジを乗り越えて Square の日本進出を達成させたかという内容。
スマホでクレジットカード支払い
Squareとは、スマホやタブレット端末に専用のデバイスを取り付けるだけで誰でも簡単にクレジットカードの支払いを受け付ける事が可能になるサービスで、アメリカでは絶大なる人気を誇る。
アカウント作成は全てネットを通じて瞬時に行われ、口座開設費用は無料、取引に必要な費用も売り上げの2.75%と革命的な内容。Twitterのファウンダーでもあるジャック・ドーシーがCEOを務める同社は、サンフランシスコでも最も期待されているスタートアップの一つである。
彼らのアメリカでの最初のお客さんは、とあるカフェ。サードウェーブコーヒーの一つであり、ジャック・ドーシー自身が投資をしているサイトグラスカフェのオーナーとやり取りをしながら製品の開発を進めた。
そののち現在ではスターバックスをはじめてとした多くのカフェや、タクシーやフードトラック、フリーマーケット等でも重宝している。
創業メンバーによる日本進出へのチャレンジ
そして、今回のイベントのゲストスピーカーであるランディは、ジャック・ドーシーと共に Square の立ち上げに関わった人間。
その後2012年頃より同社の日本市場進出の責任者でもあった。彼らにとって日本市場進出は隣国のカナダに次ぐ2番めの海外進出プロジェクト。
日本を選んだのは世界的にも見てもアメリカに次ぐ消費者市場規模であるのが理由。
ちなみに、弊社 btrax はランディに Square が米国でリリースした直後の2011年に一度インタビューを行っている。
また、その後、Squareの日本市場向けのブランディングサービスも提供させて頂いた経験もある。
旧態依然とした日本の金融産業に切り込んだ
ランディによる日本市場に関するプレゼンでも分かった事だが、Square は弊社が仕事をさせて頂く随分前から日本進出の為に実に多くのチャレンジを経験し、それらを乗り越えて来ている。
彼によると、彼らがアメリカで提供しているサービスを日本国内で提供するには、具体的には主に下記の4つの大きな壁があったという。
- クレジットカード決済業社
- 銀行・金融機関
- 政府・法律関係
- ヤクザ
よく考えてみれば当然である。例えインターネット関連のサービスだったとしても、金融業界に革命を起こそうと考えれば、旧態依然とした日本の金融・クレジットカードに関連する仕組み自体に切り込んで行く必要がある。
それも彼らがアメリカで提供しているのと同じ、もしくは、それ同等のサービスにする為には、幾つかの大きなハードルを乗り越えなければならない。
Squareがアメリカで提供しているサービス詳細
- 初期費用無料
- 月々費用無料
- 翌日振込
- 利用費用は売り上げの2.75%のみ
- 5分でアカウント作成 (オンライン)
上記に比べると、いままでの日本のクレジットカード決済業界の常識は著しく異なる。
通常、口座開設にはなにかしらの費用がかかり、利用費用も月々の費用プラス売り上げの5%以上、売り上げの振込は月末締め翌月末日払い。
そして、金融関連の口座開設には審査を含め、最短でも2週間程かかるのが一般的。オンラインのみで5分で開設するのは、制度的にもシステム的にも法規的にもほぼ不可能である。
実際彼らも金融機関や政府機関から何度も「それは無理です」と言われ続けた。
どう考えてみても Square のモデルをそのまま日本で提供するのは無理である。そしてプロジェクト開始から2年近く経った後に彼らが日本国内で提供し始めた内容は:
Squareが日本で提供しているサービス詳細
- 初期費用無料
- 月々費用無料
- 翌日振込
- 利用費用は売り上げの3.25%のみ
- 5分でアカウント作成 (オンライン)
なんと、アメリカで提供しているのとほぼ変わらない内容のサービスを日本でも提供している。
彼らは日本における金融・クレジットカード決済の業界の常識のその幾つかをことごとく覆した。
カードプロセッサーの大元と直接繋ぐ事で、チャージ費用を3.25%まで引き下げる事に成功。
大手銀行全てとの数えきれない程の会議と飲みを行い、翌日振込を達成。そして最も困難とされていた5分でのオンライン口座開設も実現した。
原宿の裏側にある住宅街の片隅にある小さなカフェを最初のお客さんとして獲得した彼らは、アメリカでの彼らのビジョンをそのまま日本にも届けたいという思いを実現した。
シンプルに見えるその裏には、既得権益との闘いがあった。そして彼らはビジョンを突き通す為に決して諦めなかった。
このストーリーは、実にアメリカ企業っぽいな、と感じた。もしこれが日本の企業だったらどうだろうか。
大手の金融機関や政府の役人の方々に、「それは無理ですね」と言われたらどのように思うだろうか。
恐らくほとんどの場合は、「では、しょうがないですね」となるだろう。
既存の法規や仕組みで決められた事に対しては無理に逆らおうとせず、「しょうがない」という表現で納得をする。実に日本っぽい。
では、アメリカの場合はどうだろう?
実は英語には「しょうがない」という単語は無い。近い表現はあるが、端的に一言ですべてを諦めてしまうような、そんな便利な単語は存在していない。アメリカでは「しょうがない」と言うコンセプト事態が存在していない。
実際、うちの社内での会議中も、全ては英語なのに「しょうがない」だけを日本語で言ったりもしているぐらいだ。
これからの日本社会に必要な事
日本の人々は妙に聞き分けがよく、出来ない理由をみつけるのがうまい。
明らかに理不尽な世の中のシステムや、規制に対してもあまり疑う事はしない。「すみません。こういう決まりなんで。」と言われてしまうとそれ以上食い下がるケースは稀である。
消費者も世の中の不便や不満に文句を言わない。それ故に革新的なサービスが生まれにくい部分もあるだろう。
でもアメリカの場合は、多くの事柄に例外があったり、国の歴史が浅い分決まりや仕組みが未熟である事もあり、起業家を始めとした人々は自分たちが新しい世界を作り上げる存在だと言う考え方が根付いている。
特にスタートアップに関わる人々は、これまでの考え方、仕組み、システム、規制などに疑問を投げかけ、それらをひっくり返す事から始める。彼らには「しょうがない」のコンセプトは通用しない。
既存の常識にとらわれずに、非常識な事をどんどん進める。それが起業家及びスタートアップの存在意義でもあるからだ。
もちろん現在の日本の社会や育った環境を考えてみると、なかなか難しい部分もあるだろう。
既存の仕組みを自分の力で変えた経験がある人はごく少数だろうし、多くの人々は無意識のうちにやる前から諦めてしまっている可能性もある。
しかし、コンプライアンスだの、前例がないだの、そういう決まりだの等の、じつに下らない理由でイノベーションを諦めてしまう必要は無い。
特に日本企業は、実に多くの面で世界最高レベルの組織であるのに、「しょうがない」のコンセプトで思考を停止し、挑戦をしないのは実にもったいない。この辺は単純に「カルチャーの違い」だけで片付けたくはない。
ゾウは大きくなったが…
以前にこんな話しを聞いた事がある。小さな子供のゾウをオリに入れてみる。最初はそこから出ようとして体当たりをするが、体が小さすぎてオリから出る事が出来ない。
その後、そのゾウは少し力を加えればオリが開く程成長したが、子供の頃の「やっても無理」という体験があるので、オリを開けようともしない。既存の仕組みを目の前にし、やる前から諦めてしまっている。
なぜSquareは日本国内の類似サービスを買収しなかったのか?
最後に上記のイベントにて、オーディエンスからの質問に対してのランディからの答えが卓越だったので、是非紹介したい。
Q. 日本進出の際にそんなに大変な思いをするなら、すでに存在していた日本国内の類似サービスを買収する事は考えなかったのですか?
人の真似ばっかりをしてイノベーションを起こせないような会社を誰が買おうと思うかい?
Why would you buy a company who tries to copy, not to innovate?
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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