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優れたUXデザイナーが持つ資質・マインドセットとは?【インタビュー】ホワイトハウスも注目のUXデザイナーJanice Fraser氏(後編)
前編の「ユーザーエクスペリエンスとは何か?」【インタビュー】ホワイトハウスも注目のUXデザイナーJanice Fraser氏(前編)では「UXとは何か」といった基本的・概念的な部分を中心に取り上げた。
本編では彼女の少しユニークなバックグラウンドや、良いUXデザイナーが持つ資質やマインドセット、彼女がホワイトハウスでのワークショップでも語ったという「Lean UX」等に焦点を当てていく。
◆目次(後編)◆
- Janiceさんのバックグラウンドを探る
- 良いUXデザイナーになるには?
- Lean UXとは?
- 日本へ向けてのメッセージ
◆話者プロフィール◆
<h4ゲストトーカー:Janice Fraser
LUXr, Inc. CEO @clevergirl UXデザイナー、起業家。UXを重視したウェブサービスのデザインを手がけるAdaptive Path社の共同創業者、初代CEO。
15年に渡るシリコンバレー・スタートアップで経験を活かし、経営コンサルタントとしても活躍。現在世界中で講演を行っており、「UXとは?」「Lean Startupとは?」「Lean UXとは?」などのホットな話題について持論を展開している。 (Janiceさんに関するまとめ記事に関しては、こちら。)
インタビュアー:Brandon K. HIll (ブランドン・片山・ヒル )
btrax, CEO @BrandonKHill サンフランシスコ州立大学デザイン科卒。
北海道札幌市出身の日米ハーフ。高校卒業時までほぼ日本で育ち。現在は サンフランシスコに本社のあるグローバル市場向けデザイン会社btrax, Inc. CEO。今後の目標は日本の若い起業家、起業家志望者に向け、より多くの成功事例を見せる事により、世界進出の夢を与えること。
1. Janiceさんのバックグラウンドを探る
—UXに特化したサービスを手がけるAdaptive Path社のCo-Founderであり、2006年に同社を去ってからは自らがCEOを務めるLuXr社でスタートアップ等に対するプロダクトを開発し、経営コンサルタントとしても活躍しているJanice氏。彼女が現在に至るまでに、一体どのような道を歩んできたのだろうか。
編集者からデザイナーへ!?予想外の大転身
Brandon K Hill(以下BH)Janiceさんのバックグラウンドについて少しお伺いしてもいいですか?なぜ、今のようにUXデザインに興味をお持ちになったのでしょうか?
Janice Fraser(以下JF)私は本当に偶然デザイナーになったというだけなんです。
私は大きな出版会社で雑誌の編集者を5年間していて、それ自体は上手く行っていました。そんな時、インターネットが突如現れた。本当に文字通り、突然「現れた」というか、「何もなかったところから生じた」という感じでした。
1996年、私の雑誌出版関係者の一人がNetscapeのWebサイトのチーフ編集者になったんです。当時のNetscapeは、Facebookよりも大きく影響力のある企業だったと言えるかもしれません。Facebookの査定はしたことがありませんが…。
それで私は編集関係の仕事ということでそこに行ったのですが、実はそこでは原稿を編集したりしませんでした。
私がしていたのはデザイン、プロダクトのデザインをしていたんです。ビジュアルデザインではなく、プロダクトのコンセプトに関わる仕事でした。
その時全てが変わったんです。その経験は私の仕事に対する考え方を完全に変えました。私はインタラクションデザインが何かということさえその時知らなかったのですが、主に私がやっていたことはそれだったんです。
幅広い経験が生み出したユニークさ
BH) 何かその前にデザイナー、もしくはデザインに近いバックグラウンドをお持ちだったんですか?
JF) ありませんでした。当時はインターネットの世界が登場したばかりだったことが良かったんだと思います。誰もやり方を知らなかったし、誰もインターネット関連の学位を持っていなかった。皆その場で何とかして行ったんです。私は元々は生物学が大好きでした。
細胞や細胞疫学、そしてそれら全てのメカニズムがどう機能しているかといった事に強い関心を持つ、科学大好き人間だったんです。そして私が学位を取得したのは、なんと英語学でした。ほら、これが私がどんな人間かを語っているでしょ。
私は本当に幅広い分野を経験してきたんです。銀行で働いていたこともありました。
それで雑誌の編集者になったかと思えば、そこで物を作ることを体験して、自分がそれが得意であることに気付いたんです。
私たちは皆どこかで力を発揮できるポイントを持っていると思いますが、私の場合、「急いで物を作ること」のようでした。そして私はいつの間にか、未来を創りだしている人々のコミュニティの中にいることに気付いたんです。
こうやって、私は今に至りました。今日では私と同じような道を辿ってデザイナーになれることはあまりないかと思いますが、アントレプレナーになることは間違いなく可能だと思います。
ひょっとすると間違っているかもしれませんが、デザイナーに関して言うと、私と同じ方法でデザイナーになることは不可能ではないものの、
今日では当然のように持っていなければならない基本的なスキルが多くあるように思います。
なので、それらのスキルを得られるほど独学が本当に得意でない限り、デザインで学位を取ることがほぼ必要になっているように思います。デザインの学位か、本当に優れたポートフォリオのどちらかが必要とされている、みたいな。最近はそんな感じを受けますね。
2. 良いUXデザイナー・UXパーソンになるには?
BH) それでは、どういった人が良いUXデザイナー(あるいはUXパーソン)になっていくのでしょうか。教育だとか、人との付き合い方だとか、何か必要なバックグラウンドはあるとお考えですか?
JF) 一つはっきりさせておきたいことなのですが、私は既にデザインの世界を完全に離れていますし、2006年にAdaptive Pathからも去っています。
デザインの世界にフラストレーションを感じ、距離を置いたんです。私はスペシャリストになったうえで、最近は言ってみれば独学でジェネラリストになりつつあります。「カーネギーメロン大学のマスターを取っていないと駄目だ」などと真剣に言っているような場は好きではなかったですね。
私はもっとこう、何かを作り出すことに興味がある人、作ることに対する強い意欲(Drive)を持っていて、かつそれを達成するのが好きな人達と一緒にいたい、という思いがありました。もちろんデザイナー達もそういった強い意欲を持っているのですが、アントレプレナー達はそれをもっと「差し迫った」感じで持っている。
「デザイン」という言葉の広さについて
話を戻すと、そう、「デザイン」という言葉は非常に広い意味を持っていて、私はピクセルやグラフィックの話をしている訳ではないんです。
私はUXをデザインの集合だと思っていて、とても広い分野だと思っています。一方で、ビジュアルデザインや美的デザインを、限定的ーピクセルベース(Pixel Oriented)のデザインだと思っています。
マインドセットでUXの才能を測る
なので、私がUXの才能ある人を探すとすると、マインドセットを見ることになりますね。
求める人の特性としては「協調性(Collaboration)」「好奇心(Curiosity)」「探究心(Exploration)」それと「現状へ苛立ちを感じていること(Impatience with the status quo)」あたりがあるかと思います。
私は物事を良くしたいと思う人を求めていますが、それと同時に謙虚さもあるべきだと思っています。物事を良くするのは自分だけの問題でもなければ、トントン拍子に進むものでもないですからね。
ただ単にピクセルに取り付いている人やワイヤーフレームに恋しているだけのような人を欲しいとは思わないですね。フレキシブルな考え方ができて、解決方法よりも問題自体に恋することができること。
そういう部分を求めています。そして、「自分がやってきたこと」「そこにどうやって行き着いたか」「なぜその問題が面白いと思ったのか」「どうやってプロジェクトのゴールを達成させたのか」そういったストーリーを語れることも大事なことだと思います。
「ロジック」「他者理解」「謙虚さ」〜UXパーソンに欠かせない3つの資質〜
BH) 優れたUXデザイナーが持つ能力・資質には、どのようなものがありますか?
JF) そうですね…まずはロジカルな頭脳が必要だと思います。そう、「筋の通ったロジック(Good Logic)」と「他者の気持ちを理解し汲めること(Empathy)」、そして「上手く行っているかどうか、経過を謙虚に見れること(Humility)」ですかね。
これら3つが、持ち合わせている必要のあるものだと思います。
というか、この3つがあれば大体の物事を明らかにできますよね? とことん考え抜いて、「こうだ」というものを世の中に出してみて、どうなるかを観察して、改善点を見つける。このような学びの姿勢とロジカルな頭脳があれば上手く行くと思うし、物事を正しい方向に導けるはず。私はそう考えています。
3. Lean UXとは?
Lean UXとは、Lean Startup×UXから生まれた概念で、”「不確実性が極めて高い」状況にあるチームに対して有効な「行動指針に基づいた(principle driven)」プロセス”だと彼女は定義している。 細かい部分やLean UXの実践方法等については、彼女のSlideShareや彼女のワークショップについてまとめたブログ等を参照して頂きたい。
BH) LeanUXのコンセプトについて少しお話してもらえますか?
JF) もちろん。ユーザーエクスペリエンスに関して長年実践を重ねているので、初めてカスタマーディベロップメントとリーンスタートアップを知った時に、私が最初に思ったことは、「今行っているプラクティス、自分がやり方を知っているもののうち、どの部分を使えて、どの部分を変えなければいけないのだろうか」と考えました。
仮説ベースではなく、実験ベース
Lean UXというのは、まず相応しいプラクティスの周りに円を描いて、後からそこにいくつかのプラクティスを付け加えようとすることです。
UXの実践において新しい概念の一つは、実験(Experimentation)をしていくということです。 UXの人間は、仮説の優先順位を決めたり、仮説を定義したりするような考え方を取らないんです。
私たちは、「デザインはこんな感じにしていこう」と、最初から正しいソリューションに向かっていくことを求められます。そして「オプションを考え、正しいものを早く決める」ことがリーンスタートアップを実践していく上では求められます。
マインドセットの差が生む効果〜Lean UXと従来のUXの違い〜
リーンを実践する時には、広く観念的に捉えた上で、それを可能な限りベストに近そうなソリューションに落とし込んで、その後テストを行っていくんです。テストというのは、コンバージョンの結果等を実際比較することができるA/Bテストになるかもしれないし、他の実験方法になるかもしれません。
つまり、私たちは自分の実践方法の全てを変える訳ではないんです。
一つ一つのケースに合うように並べ替えているんです。デザイナーが私のところに来て、「デザインはこれですが、まだ仮説の段階でこれからちゃんと決めていきます」と言ってくることは決してありません。このようなマインドセットの違いなのですが、この部分が新しいと思っています。
Lean UXを実践し始めることで、従来のUXから変わったことは、デザイン(アップフロントデザイン)を考えるという重い仕事にかかる時間・労力・お金が大幅に削減できるようになったということです。
Lean UXのアプローチでは、いくつかのオプションを作ったり、あるいはそれらを連続的に実践してしまうんです。そして自分たちのソリューションが、リアルの世界でリアルなお客さんとどう関わって行くかを見るんです。
私たちはUXの観点では、「パーフェクトではない段階でローンチすることに抵抗を感じないように」とデザイナーに伝えてあります。ただ、これは本当に難しいことなんです。「自分がパーフェクトではないと感じるもの」をローンチすることに対して、私も以前は文字通り胃が痛くて仕方ありませんでした。
いざローンチしてみると「これは違う!」と感じたりして改善したいと思う気持ちが高まると思います。なぜなら何が正しいかのビジョンを自分自身が持っているから。そしてそこからは、「違う」と感じたその直感とのバランスを取るために、論理的に思考を重ねる必要があります。
タイポグラフィーの改善に更に2日かかるかもしれません。ただ考えた結果がそれなら、それで良いんです。実験のクオリティを改善することはできなくて、今ただ実践してみるしかありません。でも一度実験を行っても、またもう一度やることはできますよね。
そうやって最終的に細かい部分を全て修正して行きますが、本当に重要なことは「これからも生き残らせてもらうためには、自分たちが何を学び、得なければいけないか」だと思います。それを学んで次の手を打って、そしてまた次の手を打って、その繰り返しになるのかな。
壁に貼られていた目標設定に関する “SMART” コンセプト:
- Specific – 具体的な内容であること
- Measurable – 測定可能であるとこ
- Actionable – 行動に移す事の可能であること
- Realistic – 現実的に達成可能であること
- Time-based – 締め切りが定められていること
4. 日本へ向けてのメッセージ
BH) 最後の質問です。何かこの記事を読んでいる日本の人々に向けてメッセージやコメントはありますか?
JF) そうですね、勇気を持って欲しいと思っています。
自分のアイデアを追い求める勇気を持ち、物を作って世の中に出して、質問をどんどん投げかけていくこと。間違いを冒す勇気を持ち、「そのコミュニティにいれば自分が色々間違いを冒しそうだ」といったコミュニティを見つけることで、最終的に世の中に素晴らしい物を作り上げていって欲しいです。
BH) なるほど。僕は日本の人々は我慢強い、我慢強すぎるくらいだと思っています。
iPhoneの前に日本で使われていた携帯電話をとってみても、それらは機能が本当にたくさんありますが、僕から見ると使えないものが多いように思います。なぜならエクスペリエンスが悪くて、ボタンを押すと何が起こるかさえも全く想像つかないから。
ただ、日本の人々はそれに慣れてしまっている。
Webサイトのインターフェイスにしても携帯にしても何でもですが、UIがひどくても、エクスペリエンスが悪くても、彼らはマニュアルを読むんです。どうすれば動くかを理解しようと努めるし、それに対して文句も言わない。ユーザーエクスペリエンスの点では彼らは全く選り好みをしないので、そこはもっと変わって行くべきなのではないかと思っています。
JF) それも勇気を持つことと関連するかなと思っています。勇気がなければ文句も言わないですしね。
面倒なものを面倒だと言う勇気を持っていれば、その意見は価値あるものとなって、どうすればそれを改善できるのか考え始めることができる。ひとたび私たち皆がどうすれば物事を改善できるかを考えて実際に行動に移して行くことができるようになれば、それは全ての物事を変える原動力になるでしょうね。
BH) 日本人の目から見ればアメリカ人は本当に自己中心的で扱いづらいでしょうね。
モバイルアプリにしてもWebサービスにしても、一度「使いづらい」と感じると、アメリカ人は諦めるんですよね。使うのをやめてしまう。日本的な観点で見てしまうとここってすごくトリッキーで、「なぜまず説明書を読まないのか!?」って話になってしまうんですよね。アメリカ人は説明書を読まない。
JF) RTFNですね。
BH) 何ですかそれ?
JF) Read the F***ing Manual(笑)そう、アメリカ人は本当に全く読まないですね。
ぱっと見でやり方が分からないものは、良くないものだと考える。どの文化にも強みと弱みがあってー私たちアメリカ人の最大の強みであり、最大の弱みでもあるのが、良くない部分に対する短気さですよね。
それは改善のための原動力にはなるんですが、すぐに我慢できなくなってしまうということも意味しているので、弱みでもあると思います。 フランス人の人々は犬と食べ物に関してはうるさいですよね。それも、弱みでもあり、強みでもある。
BH) 人々が食べ物にうるさいから、食べ物が最も美味しい国の一つになるんでしょうね。
JF) そうですね。ただ、食べ物にこだわっているが故に、少し反抗的すぎて、なかなか満足のいく物がなくて文句を言うことが多いなんてこともありますよね(笑)
BH) 確かに(笑)Janiceさん、今日は本当にありがとうございました!
文責:西山 七穂 (@sanuco_74)
写真:安野貴博(@takahiroanno)
ユーザーエクスペリエンスとは何か?【インタビュー】ホワイトハウスも注目のUXデザイナーJanice Fraser氏(前編)
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