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【スタートアップイベント】TC DISRUPT 2021 – 10の感想
毎年サンフランシスコで開催されている恒例のスタートアップイベントであるTechCrunch DISRUPTが開催された。
このイベントは2011年からスタートし今年で10周年。その名前の通り、主催は大手テックメディアのTechCrunchによるもの。これまでにも数多くの著名人やスタートアップ起業家が出演している大規模イベントだ。最新のスタートアップトレンドを理解するのには最適な機会となる。
去年と今年はオンラインで開催
通年であれば、巨大な会場を借り、メインステージ、サブステージ、出典エリア、スタートアップピッチバトルエリアなど、大々的に行われる。しかし、今年と去年はコロナの影響もあり、完全オンラインイベントとなった。でもこれは逆にどこからでも誰でも視聴することができるし、メリットも少なくはない。開催期間は9月21-23日の三日間。
内容は大物スピーカーとのトークセッションが行われるメインステージ、カジュアルなトピックが多いExtra Crunch、世界のスタートアップたちがしのぎを削るStartup Battle Field, オンラインで参加者と繋がれるCruch Match、バーチャル出典スペースのExpo。
2021年のイベントに参加しての10の感想
今年のイベントはかなり印象に残った。通常オンラインイベントの場合は、感覚的に得られる情報量が圧倒的に少ないため、リアルと比べて記憶に残りにくい。
でも、今年のTC DISRUPTはそんなハンデを覆すほどに素晴らしい内容だった。印象に残った10つのポイントを紹介する。
1. 世界中あらゆる場所から参加・出演
これはオンラインイベントならではのメリットであるが、ゲストスピーカーやピッチに登壇するスタートアップが、サンフランシスコ・シリコンバレーエリアだけではなく、むしろ他の地域からの参加だった。スピーカーセッションでは、オーストラリア在住のCanvaのCEOであるMelanie Perkinsなど、アメリカ国外在住の著名人の出演も実現した。
また、ピッチバトルに参加したスタートアップのほとんどがシリコンバレーエリアではないし、予選を通過した20社のうち過半数の11社が非アメリカ企業で、シリコンバレーのスタートアップは実に1社だった。
応募総数990の中からStartup Battlefieldの出演にスタートアップは下記の通り:
- Enlightapp: 学校の先生向けプラットフォーム, ミネソタ州・アメリカ
- Luos: IoTデバイス向けソフトウェア, ボルドー・フランス
- HerVest: 女性向けレンディングサービス, ラゴス・ケニア
- Tatum: ブロックチェーン生成プラットフォーム, ツーク・スイス
- Happaning: ARビデオテクノロジー, ロンドン・イギリス
- Verdi: イリゲーション管理用デバイス&ソフトウェア, バンクーバー・カナダ
- EyeGage: 目の状態から薬物の濫用を感知するシステム, アトランタ・アメリカ
- Animal Alternative Technologies: 培養肉を生成するテクノロジー, ケンブリッジ・イギリス
- RoboDeck: 自動デッキ清掃用ロボット, クファル・シルキン・イスラエル
- Adventr: インタラクティブ動画プラットフォーム, ニューヨーク・アメリカ
- Prenome: 女性向けヘルスケアテクノロジー, シリコンバレー・アメリカ
- Tide Foundation: サイバーセキュリティーテクノロジー, ニューサウスウェールズ・イギリス
- The Blue Box Biomedical Solutions: 乳がん検査用デバイス, アーバイン・アメリカ
- Koa: 発展途上国向けフィンテックソリューション, ナイロビ・ナイジェリア
- Cellino: 医療用細胞培養テクノロジー, ボストン・アメリカ
- StethoMe: 幼児向け喘息感知デバイス, ポズナン・ポーランド
- FLITE Material Sciences: 車両・船舶・機体・重機向けコーティングテクノロジー, ケベック・カナダ
- Knight by Keep Technologies: 自動車向けセキュリティーデバイス, アトランタ・アメリカ
- Carbix: 環境に優しい建設用マテリアル, マサチューセッツ・アメリカ
- Nth Cycle: EVバッテリー向けサステイナブル金属, マサチューセッツ・アメリカ
2. スタートアップメンバーめっちゃエリート
一昔前であれば、スタートアップのメンバーといえば大学を中退したならず者たち、っていうイメージが強かった。彼らは、学校では教えてくれないストリートスマートな賢さを武器に、世界を変えるようなサービスを生み出した。
しかし、今回のスピーカーやピッチしているスタートアップのファウンダーたちの経歴を見てみると、めっちゃエリート。LinkedInの経歴を見てみると、ハーバード、スタンフォード、MIT卒が目白押しだった。
それだけスタートアップがビジネスとしてメインストリームになってきているサインだろう。
3. 女性の躍進が目立つ
エリートが増えていることに加え、女性の出演者が多かったことも印象深かった。
これまでスタートアップやテクノロジー系のイベント・カンファレンスは、男性中心であることが多く、スタートアップ投資全体の実に96%がトップが男性の企業に行われているという統計もある。
しかし、今回のイベントにおけるゲストスピーカー、ファウンダー、審査員に女性が目立った。スピーカーセッションに出演した193人のうち76名、約39%が女性。
イベントのメインMCも女性。ピッチバトルに優勝したCellino、準優勝のNth Cycleのトップも両者ともに女性だったし、フェムテック系のサービス2社もファイナリストに残っていた。
逆に「女性起業家」セッションは無い。この変化は素晴らしく、スタートアップでも男女差がなくなってきた事で、時代の変化を嬉しく感じた。
4. オンラインイベントは出演者と繋がりやすい
オンラインイベントの隠れたメリットが、目の前で出演している人たちに直接繋がりやすいという点。
方法としては、ライブで話したりピッチしているのを見た直後にLinkedInで個別に「セッションました!めっちゃよかったです!」的なメッセージを送ると、かなりの確率で繋がれる。
普段は無視されそうな著名人でも、本人がアドレナリンが出ているセッション直後に連絡することで、高い確率で繋がれる裏ワザ。また、テンションが高い状態で会話が盛り上がる事も多い。
実際に、今回も出演者ほとんどと繋がることができた。
5. 実生活の課題を解決することにフォーカス
多くのセッショントピックや、スタートアップサービスの内容が人々の実際の生活の課題を解決することに関連していた。それもSaaSのような、オンラインで完結するものではなくて、オフラインのテクノロジーも連動させたタイプ。
例えば、ピッチバトル優勝のCellinoはロボットによって器官移植目的に細胞を培養しするシステムを開発している。次世代のヘルスケアに関するセッションも複数見られた。
それ以外にも、環境や貧困の問題など、まさにSDGsで叫ばれている世界課題をスタートアップサービスで解決することへの意欲が高まっている。
6. 環境問題に関しての注目はかなり高い
世界規模の課題の中でも、環境問題に関するトピックやスタートアップピッチが目立った。
ピッチに参加したのNth Cycleは、EV向けバッテリー製造における環境への負荷を下げるプロセスを開発しているし、ANIMAL ALTERNATIVE TECHNOLOGIESは、食料問題を解決する培養肉のソリューションを、Verdiはより良い農業プロセスへの仕組みを、Fliteは環境に優しい重機コーティングテクノロジーを開発している。
7. 発展途上国向けのリープフロッグ系サービスに注目
今回のイベントがオンライン・フルリモートで行われたこともあり、通常であればなかなか参加しにくい国のスタートアップもピッチを行っていた。
その中でもアフリカに代表される発展途上国向けのサービスがかなり興味深い。例えば、Koaは、アフリカに住む多くの銀行口座を持たない人々のためのフィンテックサービスを提供し、より良い生活の実現を目指している。
クレジットカードを飛び越してフィンテックサービスを展開するような、一足飛びのサービスは「リープフロッグ」サービスと呼ばれ、特に発展途上国では高いニーズがある。
8. かなりフリーダムなトークセッションも
これもオンラインイベントの醍醐味 & アメリカのスタートアップイベントっぽい部分であるが、ゲストスピーカーがさまざまな場所からの参加、及び個性的なスタイルで出演していた。
テクノロジストとして有名なTom Chi氏なんかは、ベッドに横たわりながらの参加で、まるでジャルジャルのコントのようになってしまっていた。
TechCrunch DISRUPTのトークセッション見てたらスピーカーの一人がベッドにもたれての参加で、ジャルジャルのコントみたいになってる! pic.twitter.com/LYYi7xjUym
— Brandon K. Hill | CEO of btrax (@BrandonKHill) September 23, 2021
9. Deepfakeテクノロジーが急激に発達している
イベント内でいくつか紹介されいたテクノロジーの中でも特に衝撃的だったのが、Deepfake系。
モバイルアプリ人気No.1にもなったMyheritageを提供するD-ID社による写真をもとにユーザーの動きに合わせて動きと声を生成するテクノロジーは、何が本当かわからない時代がすぐそこにきていると感じさせた。
右下の少年は左の男性の子供の頃の写真をDeepfakeテクノロジーで動かしている。
10. 日本勢はかなり地味
TC DISRUPT 2021では、スポンサー枠として、国ごとにスタートアップを紹介するセッションも設けられていた。参加していたのは、ベルギー、韓国、台湾、そして日本のスタートアップ。こういう場所に日本のスタートアップが出演しているのは非常に嬉しい限り。
国別スタートアップの中で、台湾と韓国はかなり何度も告知したり、凝った動画を作成していたり、ピッチのクオリティーが高かった印象。
一方で日本のスタートアップグループはかなり地味な印象を受けざるを得なかった。JETROがコーディネートしているとのことだったが、MCのやり方などを含め、もうちょい工夫をこらしても良いのかな?と感じてしまった。また、Startup Battlefieldに一社も選ばれてないのも残念。
まとめ: スタートアップを取り巻く環境は確実に変化している
今回のイベントに参加してみて、スタートアップにおける様々な状況や環境が変化しているのを強く感じた。場所的にシリコンバレーだけではないし、参加する方々の、性別や人種も多種多様に。
これまではドロップアウトたちが多かった起業家だったのが、最近ではエリートが増え、パソコンやスマホの画面で終わらない、より大きな社会問題を解決するサービスを提供。
そして何より、スタートアップのサービスはこれから本当の意味で世界を革命的に変化させるという実感を得ることができたのは大きい。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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