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シリコンバレーの未来と日本企業への影響
変化の激しいシリコンバレーでも、ここ1年間ほどの変化は、これまででも最大級だったのではないだろうか、と個人的に感じる。
というのも、2010年ぐらいから2020年の初頭までの10年間は、多くの方々が日本からこの地を訪れ、GAFAやユニコーンを “視察” していた。
同様に、シリコンバレーにオフィスを出したり、駐在員を派遣する日本企業も多く、”シリコンバレーバブル”が半端なかった。
パンデミックで全てが一変
それが、新型コロナウィルスの広がりで、大きく変化した。まるで時間が止まったように、訪問が激減した。
それだけではなく、リモートワークが基本になり、日本に戻られる駐在されていた方も少なくはなくはない。明らかに日本企業とシリコンバレーとの関係性に大きな変化が訪れた。
地元の企業に与えた影響
このパンデミックによる影響は、地元のテクノロジー系の企業やスタートアップにも少なからず出ている。
まず、オフィスにほとんど来なくてもよくなったために、リモートワークの仕組みが急激に進んだ。それまでも充実していたツールが、より一層充実し、時間に加え、場所的にも自由な働き方により拍車がかかった。
その一方で、シェアリングエコノミーやコワーキングスペースなど、リアルとテクノロジーをつなげるサービスが一気に苦戦を強いられた。それに伴ってレイオフも結構発生した。
人々の生活に与えた影響
この変化は、ビジネスだけではなく、地元の人々にも少なからず影響を与えた。
まず良かったのが、家賃がかなり下がったこと。それまでは、一極集中型で、サンフランシスコ市内を中心に、1LDKの平均家賃が35万円と、世界トップレベルの家賃になっていた。
それが、1年間ほどで25-30%下がったとのデータもある。これは、リモートワークの普及で、近郊の街や他の州に引っ越すことが可能になったため。
また、通勤や通学が極端に減ったために、苦痛だった交通渋滞がほぼ無くなった。なので、自動運転もあんまり必要ないかな?とも感じる。
これからのシリコンバレーはどうなっていく?
さて、こんな激動の中でも、最近は良いニュースが増えてきている。なるべく群れない生活スタイルと、ワクチンの普及によって、パンデミックが収束し始めているのだ。
オフィスは再開し始め、街には人が増え、レストランのテラスが陽気な雰囲気で溢れかえっている。
では、このような状況の中が進む中で、シリコンバレーは今後どんな感じになっていくのだろうか?
そもそもシリコンバレーって?
未来を考える前に、そもそも、ここ10年ぐらいでバズっていた”シリコンバレー”は何だったのか?おそらくそれは、地域の名称よりも、カルチャーやビジネスモデルだったんだろうと思う。
具体的には、世の中は必ず良くなる。自分たちが良くする。未来への期待に対して投資をする。皆んなから愛されるモノを作り出し、魔法を使ってお金を儲ける。
そんな感覚。
GAFAやユニコーンに代表される仕組み
そのようなモデルが、GAFAやユニコーンと呼ばれるキーワードだろう。具体的には、テクノロジーを最大活用し、ユーザーにとことん喜んでもらえるサービスを作り出す。
とてつもなく多くのお金を集め、ユーザーを大量に獲得し、会社を急成長させる。その過程で巨額の赤字を出すが、未来への大きな期待を寄せた人々からの投資によってバイアウトかIPOまで駆け抜けるモデル。
エコシステムと呼ばれる巨大なマネーゲーム
実はこの仕組み、冷静に見てみるとかなり強烈。
というのも、IPO (上場) したテクノロジー系スタートアップのその多くが、それまでに利益を出していないからだ。しかしその一方で、その期待値に合わせ、評価額や株価がグングン上昇している。
実際、2020年のハイテクIPOのうち、利益が出たのは16%に過ぎない。
例えば、シリコンバレーの代表的なユニコーン企業だった、パランティアは2020年初頭のIPOの前年の売上は7億4300万ドル。それに対して5億7600万ドルの損失を計上していた。
Uberは2019年に上場したが、当時110億ドルの売上に対して30億ドル以上の営業損失を出していた。
同様に、DoorDashが上場したときは、末尾9カ月の収益が19億2,000万ドルで、それに対して1億4,900万ドルの純損失を計上ていた。
これらの企業の評価額はいずれも数百億ドルで、創業者や投資家は、会社の業績としては儲かっていないにも関わらず、企業価値の上昇に合わせ、大金持ちになっている。
なんちゃってスタートアップも続出
そんな巨大なマネーマシーンとなったシリコンバレーでは、やったもん勝ちのノリで、多くのスタートアップが生み出され、そこに巨額の資金が投入された。
そんな中で、いくつかのスタートアップには、その実態が怪しいものあり、セラノスに代表されるような、いわゆる”なんちゃって系”もいくつか出てきたりもしていた。
それでも、結構な評価額を獲得し、上手に儲けた人も少なくはない。
シリコンバレー 4.0?
実は、シリコンバレーでこのような仕組みが活発になったのは、2009年頃からのことで、そこに辿り着くには、何度かの”バージョンアップ”を重ねている。
軽く振り替えてってみると、
シリコンバレー1.0は、インテルに代表される半導体産業の時代
シリコンバレー2.0は、Apple, HPに代表される家庭用ハードウェア産業の時代
シリコンバレー3.0は、ドットコムバブルに代表されるWebサービス黎明期
そして、2009年から2019年の10年間が、スマホとソーシャルメディアに代表される、一攫千金型のシリコンバレー4.0である。
そして今、次の大きな変革がまた訪れようとしている。
シリコンバレー 5.0 と日本企業への影響
やっとここで本題。これらのシリコンバレーに関する未来予測と、日本企業にとってどのような存在になっていくのかの話題だ。
- “シリコンバレー”的カルチャーの変貌
- 注目される業界のシフト
- 優秀な人材獲得が加速する
- 日本との時差が広がる
- M&Aしやすくなる
1. “シリコンバレー”的カルチャーの変貌
これまで説明したように、ここ10年間ぐらいに見られたシリコンバレーのマネーゲーム型カルチャーがひと段落する。
GAFAに代表されるような、儲かりまくりのビッグテック企業や力を持ちすぎたプラットフォームも、プライバシーや法令遵守、そしてエシカルやウェルビーイングへの取り組みが進められ、利益第一主義からの脱却に進むかもしれない。
スタートアップで言えば、ユニコーンという言葉に代表されるような企業価値至上主義に陰りが見え始めている。未来への期待値をMAXまで高め、大量の資金調達を通じ、大赤字を出しながらも、半ば反則技でユーザーを集めまくるタイプのビジネスモデルはそろそろキツくなってくるだろう。
また、新しくスタートする企業の数は減るかもしれないが、中身がしっかりとある内容が増えると思われる。
2. 注目される業界のシフト
世の中の変化に合わせ、ユーザーニーズも変わる。これからの時代は、両極端な二つのタイプの業界に注目が集まると考えられる。
まず一つ目は、オンラインでの人々の交流がより活発になることで、ゲームとコミュニケーションの融合が進む。それに合わせ、複数の人が同時に遊びながらコミュニケーションを行うことのできるサービスの人気がどんどん高まるだろう。
具体的には、Roblox, Among us, Discordなどがあげられる。
もう一つは、より人々の実生活の課題解決を目指した “地に足の着いた” サービス。具体的には、バイオテクノロジー、サプライチェーン・ロジスティクス、生産性、通信などの分野は、これまでのクラウド、ゲーム、輸送、暗号通貨などと同じような勢いで普及していく可能性がある。
それに連動し、レガシービジネスへのチャンスも広がる。デジタルだけではなく、物理的な世界で事業を展開する方法を知っていること、ブランドを構築・維持する方法を知っているマーケティングチームがいること、そして何より、法律の範囲内で複数のテリトリーで収益を上げる方法を知っているという企業には、大きな優位点がある。
これは皮肉にも、猫も杓子も”DX”を叫んでいる日本とは逆のベクトル。もともとデジタル中心だったのに対し、どのように物理的なビジネスモデルを補完できるかが重要になってくる。
3. 優秀な人材獲得が加速する
これまでは、シリコンバレーの会社で働くために、世界中の多くの優秀な人材がこの地に集まってきた。しかし、パンデミックの影響で、リモートでの勤務が可能になったため、異なる場所に住んでいる人でも、シリコンバレーの会社で働くことが可能になる。
特にアーリーステージのスタートアップは、高い住宅費用や物価をカバーできる賃金で、若くて優秀な人材を入社させることは不可能に近かった。
それが、より物価の安い都市や、場合によっては異なる国に住んでいる人でも働けるようになるのであれば、より優秀な人材を現実的なコストで獲得し、チームを編成することが可能になる。
奇しくも、パンデミックの広がりが逆説的にシリコンバレーを強くする結果となる。これにより、シリコンバレーの規模を地理的なクラスターではなく、ネットワーク的上に広がる、同じミッションをもった人たちの集まりになってくる。
4. 日本との時差が広がる
冒頭の話の通り、現在までのところ、日本からシリコンバレーに来るハードルは高い状態。そうなってくると、現地が実際にどのような状況になっているのかを把握するのが、少し難しくなる。
これは、サービスのトレンドやテクノロジーに関する内部情報へのアクセスが下がるため、日本とシリコンバレーの”時差”が広がる結果に繋がる。
逆に考えると、現地にいるアドバンテージが今まで以上に高まり、1990年代後半のドットコムバブルのような、タイムマシーン型ビジネスモデルもバカにできない状態になるかもしれない。
5. M&Aしやすくなる
そんな現地にいるからこそわかる事情の一つに、M&Aに関する変化がある。最近日本で会社を経営する友人が、アメリカの企業とのM&Aの話を進めている。
それまでも数年間模索していたが、コロナ前まではなかなか相手にしてくれなかったという。それが、パンデミックの広がりで、変化を求める企業も増えてきたのか、ここ一年ほどは、結構 “引き” が良く、売却に前向きな企業も出てきているという。
数年前までは、評価額が跳ね上がり、かなり割高なイメージの強かったシリコンバレーのスタートアップも、最近は現実的な価格での買収交渉が可能になっているらしい。
まとめ: シリコンバレーはいつだって変化をし続けている
大きな変化が訪れ「シリコンバレーは終わるのか?」という声もないわけではない。でも実は、2000年初頭に第一次ドットコムバブルが弾けた時も「シリコンバレーは完全に終了した」と言われていた。
しかし、その後もその産業のシフトはあったものの、シリコンバレーは復活を遂げた。
おそらくその理由の一つが、日本の100倍と言われる速い決断スピードと、変化に柔軟に対応できるカルチャーだろう。そしてそのカルチャーを生み出すような、この気候だろう。
この先数年間は少しバタつくとは思うが、次の時代に向けて頭の良い不良たちが何かを企み始めているに違いない。
この世で変わらないのは、変わるということだけだ。
– スウィフト
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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