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シリコンバレーでは教育が始まっている“STEAM人材“とは?
STEM人材という言葉を聞くようになって久しいが、ここ最近、STEAM人材の重要性が高まっていることをご存知だろうか。
STEM人材は、情報社会において必要とされる人材を指す。産業革命等の変革を繰り返してきた世界経済では、テクノロジーの発展がもたらす情報に価値が置かれるようになり、情報を司るスキルが必要だと言われてきた。
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しかし、いざ情報時代が到来すると、次に注目されたのは、人間らしさとテクノロジーの関係性であり、STEAM人材だ。例えば、文部科学賞が2016年に発表した『超スマート社会』と呼ばれる社会では、仮想空間と現実空間の融合により、経済の発展と社会課題の解決を目指すことを提唱している。そしてそんな社会で人間は、人間の感性や能力を活かす方法が求められるようになった。
このように、テクノロジーと共存しつつ、人間らしい創造力や感情をうまく取り込んだアプローチを目指す人材こそが、これから求められているSTEAM人材なのだ。
本文では、STEAM人材とは具体的に何のことなのか、なぜ重要なのか、そして実際のSTEAM事例を紹介する。
STEAM人材とは?
STEAM人材のSTEAMとは、Science(科学)、Technology(テクノロジー)、Engineering(工学)、Art(アート)、 Mathematics(数学) の5つの領域を表す言葉の頭文字をとった造語である。この5つの領域を結びつけて、物事を捉えるのがSTEAM人材の最大の特徴である。
そしてSTEAM人材のマインドセットの特徴は大きく2つある。まずは1つ目は、人間中心であること。STEAM人材はSTEM人材と比べ、Aにあたるアート分野への理解を持つ。ここで指すアートは、芸術、音楽、演劇、映画、さらに、文学や哲学などのリベラルアーツ(一般教養)の領域も含まれる。
テクノロジーだけでなく、アートやデザイン領域の要素も取り入れて物事を発想する。そうして生み出したものが、「人間のためになっているかどうか」が重要となる。複数の領域を横断的に身につけて生まれるシナジー効果はあくまで手段にすぎず、その本質には、人間にとって価値があるか、という思いが存在しているのだ。
2つ目は、イノベーティブなマインドセットを持っていること。型にはまることなく、自由な発想で物事を考え、ひとまずそれにチャレンジしてみる。そして、失敗してもポジティブに捉えるという考え方を持っている。スピード感を持ってトライアンドエラーを繰り返し、アップデートを重ねながら精度を高めていく。
この2つの特徴に共通しているのは、デザイン思考のマインドセットであることだ。STEAM人材は、人間のため、ユーザーのために発想する。そして、失敗を恐れず、速いサイクルを回しながら成果を出すというアプローチの姿勢が、まさにデザイン思考とも共通するマインドセットなのだ。
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STEAM人材注目の背景:デザインの重要性の高まり
STEM人材からSTEAM人材へシフトした背景には、デザインの重要性の高まりが大きく影響している。
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まず前提として、あらゆるモノがデザインの対象となり、デザインが持つ意味や役割が広がっているという背景がある。近年では、モノだけでなく「体験」が消費の対象となっている。それに付随して、サービスを考案する際には、ユーザーがどんな体験をするのかを考えることが必須になっているのだ。
そしてまさにSTEAM人材には、人間のために発想し、体験を包括的にデザインすることが求められている。デザイナーの役割は、装飾的に優れているものをつくるだけではない。その先にユーザーに求められるものをつくるという仕事がある。使うユーザーが実在するものをつくることが重要なのだ。
こういった背景からも、人間の体験をデザインするマインドセットを持つ、STEAM人材の注目度・重要性が高まっている。
STEAM人材を育てるには
では、STEAM人材を育てるにはどのような教育・人材開発をするべきなのか?その教育スタイルの特徴を3つ挙げていく。
まず、STEAM人材を育む教育は、人間の潜在能力を伸ばすことを目的にしている。従来の教員による指導型の教育とは異なり、学習者は能動的に発見をしながら学びを深める。教員はあくまで「ファシリテーター」役に徹し、学習者の自由な発想をアシストする立場にいる。
また、学習者が自ら課題を設定し、その上で持っているリソースの活用方法を考えるため、知識の応用力や思考力、考えていることをデザインに落とし込んで伝える力が身につく。さらには、チーム単位で活動するため、チームビルディングやリーダーシップなど、社会で活躍するためにも必要な実践力を培うことができる。
そして、STEAMの特徴でも述べたとおり、5つの領域を結びつけて物事を捉える力を育むために、また、教育プログラムは、複数の学問領域を横断的に結びつけることで、理解を深める学びのスタイルになっている。例えば、発明品について歴史の授業で学んだ後、実際にその発明品のプロトタイプを自ら作ってみる、など。知識として学んだことを体験を通して感覚的な経験をすることで深い理解に繋がる。
シリコンバレーで実践されるSTEAM教育
最後に、シリコンバレーで実際に行われているSTEAM教育を事例とともにご紹介。若いうちからSTEAM人材を育成するために、主に学校で取り組まれている例ではあるが、大人の我々が学び取れる部分も大いにあるので参考にしていただきたい。
事例1. オローニ小学校
オローニ小学校は1976年の開校以来、「体験型学習」というスタイルの授業を実施している。「体験型学習」は、理論と実践の両方を組み合わせた学習プログラムだ。
例えば「体験型学習」型の科学の授業では、教員による一般的なレクチャーを受けるだけでなく、学校敷地内の菜園や動物を飼育している農園で授業が行われることがある。農園での野菜の収穫や動物の世話を通して、子供たちは実践的に学ぶ。習ったことを、さらに実際の体験から学ぶことで、モノの色味・匂い・その時の感情なども自分の知識・成果にしていくことができるのだ。
農園での授業風景 こちらのサイトより転載
事例2. ヌエバ・スクール
ヌエバ・スクールは過去3回にわたり、アメリカ教育省から優秀校として選ばれている。同校では、幼稚園の年中にあたるプレスクールから高校生までの14年間、デザイン思考を取り入れた教育プログラムが実施されている。
彼らの特徴的なプログラムとして、プレスクールで実施される「コンポスト(落ち葉や生ゴミを有機的に処理して作られる堆肥)」の例を挙げる。
まず、子供たちは、コンポストの必要性についてクラス全員で議論する。この時、大きな紙を広げ、教師も含めクラスの全員でそれを囲み、ブレインストーミングをしながら出たアイデアを文字や絵で書き込んでいく。
その後、実際に園庭へ出て、コンポストが作られていく様子を観察する。そして最後に子供たちは、園庭で土を触ったり、匂いを嗅いだりして得たものを思い思いのアートにして表現し、クラスで発表する。
授業の様子。画像はこちらより転載
この一連の流れを通して子供たちは、社会、理科、芸術を横断的に学ぶことができるのだ。さらに、思考力やディスカッション力、クリエイティビティなどのスキルも同時に身につけることができる。
ここでご紹介したのは、主に子どもを対象にした学校教育だが、大人向けにも取り入れられる。例えば、何かを調査する時に、机上のリサーチで終わらせるのではなく、実際に体験し、五感を使って学び取ることで、価値の高いアウトプットへ繋げていくこともできる。また、テクノロジーに対して、五感を使って多角的に物事を捉える姿勢を持つことで、STEAM人材の素質である思考力や応用力、発想力を鍛えることができるだろう。
まとめ
注目を集めるSTEAM人材について、STEAM人材とは何かと、その重要性、実際に行われている教育プログラムの事例をご紹介した。現在、イノベーションやSTEAMをより意識したキャリア形成に励んでいる方だけでなく、これからのイノベーティブ人材・STEAM人材の育成を強化したい方にはせび認識していただきたい。
btraxでも人間中心・体験重視のデザイン思考を通して、サービス開発や人材開発のサポートをしている。どこから始めれば良いかわからない、実施してみたもののいまいち納得感がないなど、どんなご相談でもぜひお気軽にお問い合わせいただきたい。
参考: 【STEAM人材】心と頭をともに育てる──オローニ小学校
【STEAM人材】一貫教育にデザイン思考を取り入れる──ヌエバ・スクール
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