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注目のスポーツテック5選。デザイン中心から生まれるイノベーション
2020年東京オリンピックの開催まで1年を切った今、日本では多くの人が来年の夏を今か今かと待ち望んでいる。スポーツ好きにはもちろんのこと、自国でのオリンピック開催によって普段はあまりスポーツに興味のない人からの関心も集まることになるだろう。
前回の1964年東京オリンピックから50年以上経った現在、スポーツ業界で大幅に変わったことの1つとして、テクノロジーの発展・導入があげられるのではないだろうか。実際に、スポーツに特化してイノベーションを狙うスタートアップ、いわゆるスポーツテックも多く誕生してきている。
そこで今回は、
- スポーツテックとは
- スポーツテックの市場規模
- 注目のスポーツテック5選
を紹介していく。スポーツテックに詳しい方も、まだ知らない人も、この記事でスポーツテック業界のおさらいと最新トレンドを掴んでいただきたい。
今更聞けない、スポーツテックとは
スポーツテックとは、スポーツ(Sports)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語で、AIなどの新しいテクノロジーを用いてスポーツ業界に革新的な変化をもたらすサービス、商品、またスタートアップなどのカテゴリーを指す。文部科学省の外局であるスポーツ庁は、スポーツテックを「支える」「観る」「する」という3つの分類に分けており、それぞれ以下のような特徴があるという。
選手を「支える」ためのスポーツテックは、選手やチームのパフォーマンスの向上、怪我の防止に繋がるアプローチから、製品やサービスを開発している。
スポーツを「観る」ためのスポーツテックは、新たな観戦スタイル、観戦者の満足度の向上に繋がるアプローチから、製品やサービスを開発している。
スポーツを「する」ためのスポーツテックは、一般向けの新たなスポーツの楽しみ方の創造、新たなトレーニング方法などに繋がるアプローチから製品やサービスを開発している。
「する」ためのスポーツテックは、当ブログの『米国最新フィットネススタートアップ3選。キーワードは「自宅」』で既に紹介しているので参考にしていただきたい。今回の記事では、「支える」と「観る」を目的とした商品・サービスを提供している最新のスタートアップに注目する。
約3.5倍の成長が見込まれる世界のスポーツテック市場
Statistaから転載
上のグラフを見て分かる通り、日本国内のスポーツテック市場規模は、2019年から2024年にかけて毎年成長すると予想されている。
実際に、今年3月にはスポーツビジネス界のキーパーソンがスポーツテックを含めたスポーツビジネスについて議論する『SPORTS Tech & Biz Conference』というイベントが東京で行われた。さらに、スポーツ系スタートアップのためプログラム『SPORTS TECH TOKYO』は世界中のスタートアップを巻き込んで、日本の中からスポーツテック業界を盛り上げている。
ReportsnReportsから転載
さらに、世界における市場規模成長予想は、2018年から2024年で約3.5倍と予想されていて、スポーツテックは世界的にも注目を集めている。既に様々なスポーツテックのイベントが各地で行われる中、代表的なものでは『CES (Consumer Electronics Show)』『SPORTTechie』『SportsPro』などが挙げられる。
スポーツテック市場全体への期待と注目が集まる中、その中で、世界的に注目を集めるスポーツテックスタートアップを紹介する。
選手を「支える」ためのスポーツテック
1. FORM Swim Goggles: スマートディスプレイ搭載の水泳ゴーグル
カナダ、バンクーバー発のスタートアップであるFORMは、ハイテク水泳ゴーグルを開発・販売している。FORMのゴーグルを使えば、水泳選手がタイムや泳いだ距離など様々な情報を水泳ゴーグルのディスプレイ(レンズ)上でリアルタイムに確認することができるのだ。
FORMの創設者であるDan Eisenhardtはもともと水泳選手だった。泳いでいる最中に自分のタイムを確認できないため、選手自身が正確に自己分析することが難しかったり、選手のタイムや情報の計測のためにコーチが余計な労力を使わなければいけなかったりという、自身の体験に基づく問題からFORMが誕生した。
FORM Swim Gogglesの本体。 Official Websiteから転載
FORMの水泳ゴーグルのディスプレイには距離、インターバルの時間、ストローク回数、消費カロリーなどが表示可能。Bluetoothでスマホとの連携も可能で、ディスプレイの表示をカスタマイズすることもできる。さらに計測された情報は、連携したデバイスに蓄積され、分析されるため、データに基づいた選手のパフォーマンス向上に活用することが可能になるのだ。
技術自体は真新しくなくても、徹底してユーザーのことを考える
スマートディスプレイのアイデア自体は新しいわけではないが、あくまで選手やコーチをサポートするのに特化した製品であるという点に注目すべきである。水泳選手は、ゴーグルという普段から使っているツールを通して、より自然な形で自分のパフォーマンスを把握することができるようになる。コーチも計測や分析にかけていた負担を減らすことができる。
そのため、機械やテクノロジーではまだ難しい、長年の経験からのアドバイスやメンタル面のサポートなどの指導に徹することが可能になる。「支える」スポーツのお手本のような製品であると言えるだろう。
ゴーグルのディスプレイ上。Official Websiteから転載
2. FieldWiz: GPS搭載のパフォーマンス測定デバイス
スイス発のスタートアップAdvanced Sport Instrumentsは、『FieldWiz』という、GPSを用いたスポーツ選手のパフォーマンス測定デバイスを提供している。
FieldWizが利用されるスポーツは主にサッカー、ラグビー、野球などの球技だ。測定できる項目は、選手の走行距離・速度、心拍数、身体の動きなどである。
FieldWizのデバイス本体。Official Websiteから転載
デバイス自体はたったの35グラムという超小型で、背中に装着するようになっている。計測後は専用のドッキングステーションに繋げることで簡単にデータをコンピューターに転送することができる。
GPSによるトラッキングシステムは、従来であればトッププロで莫大な資金がある限られたチームにのみ利用されていたが、テクノロジーの発展によって比較的ローコストでの生産が可能となったことにより、ローカルチームへの導入も現実味を帯びてきた。
データドリブンなコーチングを目指す
FORM Swim Goggles同様、FieldWizもまた、コーチの指導を円滑に進めるためのサポート役を担っている。今までは人が長時間かけて行っていたデータ収集を、FieldWizによって行うことで、より正確で莫大な情報を瞬時にして計測、分析することができるようになる。
データをコンピューターに移行後の分析画面。Official Websiteから転載
また、今まではコーチの感覚に頼った指導がメインであったため、コーチの感情論によって必ずしも正しくない指導が行われたり、選手たちが抽象的な指導に腹落ちできなかったりということもあった。FieldWizによる計測データを基にした選手1人1人に対する指導は、コーチにとっても選手にとっても具体的で有益なものなのだ。
スポーツを「観る」ためのスポーツテック
1. IBM Watson: AIによって試合のハイライト自動生成が可能に
IBMは言わずと知れた、コンピューター・インターネットテクノロジー関連のサービスを扱うアメリカ大手企業だ。様々な製品やサービスを手掛けるIBMが10年以上開発してきたのが『IBM Watson』である。
Watsonは本来、読み込んだ情報をもとに、人の考えが及ばない範囲の答えまで導き出せるという高性能AIによるシステムだ。IBMはこの技術を応用し、スポーツの試合のハイライト動画を即座に作ることを可能にした。
試合分析のイメージ。IBM Official YouTubeから転載。
例えば、従来、テニスの試合のハイライトは、動画編集者が手作業で1つずつ編集してきた。しかし、手作業の編集では時間も労力もかかるので、1日に何十試合も行われる大きな大会などでは全試合のハイライトを作るのは非常に非効率的であった。
IBM Watsonは、テニスの試合が終了した2分後にはハイライトを完成させることができるという。AIが試合中の観客の歓声、選手の動き、点数などの様々な要因を感知し、ベストなプレイを選出するという仕組みだ。
このシステムはテニス界最高峰のトーナメントであるウィンブルドンや全米オープンなどで既に実用化されている。ウィンブルドンで最大18コート以上同時に試合が行われる時ですら、試合後、すぐに世界中のテニスファンにハイライトを届けられるようになったのである。
AIによって要約された、質の良いコンテンツを即座に配信できるという強み
試合のまとめを見たい人、試合を見逃した人にとってハイライトは重要な情報だ。それが試合後、即時に配信されることには多くの需要があるだろう。
ハイライトのイメージ。IBM Official YouTubeから転載。
また、インターネットやSNSの普及により情報が即座に手に入るようになった。より良い情報を早く配信することが、オーディエンスのニーズを満たし、数あるコンテンツの中から効果を生み出す鍵となる。ゆえにIBM Watsonのようにハイライトを試合後にいち早く投稿することで、より多くのインプレッションやエンゲージメントを獲得することが期待できるのだ。
さらに、集められたデータは選手のパフォーマンス向上や怪我防止策にも活用されている。つまり、このシステムは「観る」スポーツテックであり、選手をサポートする「支える」スポーツテックでもあるということだ。
現在は主にテニスとゴルフの試合に使われているが、この技術は他のスポーツへの応用も可能と考えられるため、今後の広がりに注目だ。
2. Brizi: スポーツスタジアムに設置されているカメラを遠隔操作してグループ写真が撮影できるサービス
カナダ、トロント発のスタートアップBriziは、スタジアムでのグループ写真で新たな体験を人々に与えるサービスを提供している。Briziは、スポーツスタジアムに設置されているカメラをモバイルデバイスを通して遠隔操作し、写真や動画を撮影することができるサービスだ。Canonとも提携して、開発に取り組んでいる。
今まではスマホカメラで自撮りをしたり、周りにいる人に頼んでグループ写真を撮ってもらうことが当たり前であったが、グループの人数が多いと自撮りで全員が入りきらなかったり、知らない人に写真を頼むことへの抵抗感あったりと、問題があった。
そんな中、スタジアムにある大きなスクリーンに映るような画角からの写真や動画を、誰でも簡単に撮ってSNSでシェアできるというサービスは画期的だ。
スタジアムに設置されているカメラ。 Brizi Official YouTubeから転載。
このサービスではどんなに大人数のグループであっても、スタジアムでの写真を思い通りに撮影することができる。カメラはスタジアム全てをカバーできる性能性を持ち合わせている上に、ユーザーは自分のスマホから拡大・縮小を調整しながら撮影が可能なのだ。
試合観戦に付随する体験をより豊かにする
スポーツ観戦に行く目的は、ただ試合を観るだけには留まらない。試合観戦の写真や動画をSNSにアップすることで、その時の感動や楽しさを共有したり、自分の応援しているチームについて投稿することによって、友達との共通の話題を見つけたりすることにも大きな価値がある。
ユーザーによってシェアされたグループ写真。Official Websiteから転載。
また、試合中以外の時間の楽しみを作るという狙いがある。試合中は観戦に集中しているので退屈することは少ないが、試合の前や待ち時間にすることがなくなったという経験をしたことがある人も少なくないだろう。Briziがあれば、その退屈な時間を友達や家族との楽しい時間に変えることができ、会場でのファンの満足度をさらに向上させることができるのだ。
試合観戦という娯楽行事の中でも、ちょっとした退屈に目をつけることで、ユーザーのUX体験をより良いものに近づけることができる。
3. Intel True VR: スポーツの試合のライブ配信を会場内の色んな角度から観ることができるVR
PCやソフトウェアを始め、テクノロジーを駆使した製品で有名なIntelも、スポーツテックの将来性を見抜き新しい製品の開発に力を入れてきた。Intel True VRは、専用のVRデバイスを購入することで自宅からNBA、MLB、オリンピックなどの試合をVRで観戦することができる製品だ。
12個のレンズを搭載した広角カメラ。Intel Newsroomから転載。
このVR映像は、12個のレンズを搭載した広角カメラによって撮影されているので、視聴者は実際の試合会場内にいるような臨場感を味わえる。この高機能カメラでとった映像は大容量のデータだが、Intelの技術が詰まったクラウドシステムのおかげで、ライブ配信やオンデマンド配信が可能になったのだ。
さらに、試合会場内にカメラを数カ所設置することによって視聴者は自由に会場の様々な角度から試合を観戦することができる。観客席から、選手が座っているベンチから、ゴールの真後ろからなどと、そのプレイごとに最適な視点を選べると観戦体験の質は上がるだろう。
VRの画面のイメージ。howstuffworksから転載。
同じ「空間」で試合を楽しむという可能性を拡大
スポーツ観戦においてファンが求めていることの1つに、同じチームを応援する友達や家族との時間を楽しむことがあげられる。
実際にアメリカでは、地元のチームを熱狂的に応援しているという人は多く見られる。大事な試合がある日は家で試合を観るのではなく、スポーツバーでお酒を飲みながら友達や家族と観戦するというのはよくある話だ。
VRを試すNBA選手たち。Scoopnestから転載。
誰かと一緒に試合の勝敗に一喜一憂することがユーザーの求めていることである以上、既に結果が分かっているオンデマンド配信ではなく、ライブ配信であることに意味がある。
従来は、実際にスタジアムに行って試合を観るのと、テレビ上で観るのでは臨場感に大きな差があったのだが、VRの質が上がれば上がるほど、現実との境界線が薄れていくだろう。物理的に会場が遠くて試合を観に行けなかったり、コートに近いVIP席は値段が高すぎたりと、今までは不可能だったこともVRによって解決されるのでないだろうか。
まとめ
今回の記事で紹介した5つのスポーツテック製品・サービスは、数あるスポーツテックのほんの一部に過ぎない。比較的新しい業界ではあるが、社会がオリンピックムードになりつつあり、スポーツへの関心がより高まっている今こそ、スポーツテックに注目するべきであろう。
上記の製品やサービスのユーザーへのアプローチを見て分かる通り、イノベーティブな製品やサービスを生み出すに重要なのはユーザー理解だ。ユーザーが本当に必要としているものは何なのか。サービス開発では今までの常識から抜け出して、本当に価値のある顧客体験を生み出すことが重要である。
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