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コロナ禍に負けない!アメリカの宇宙ビジネス企業を紹介
- イーロン・マスクのSpaceXはコロナ流行後でも、宇宙事業を継続
- Amazon設立者の宇宙ビジネス企業Bleu OriginはNASAの月面着陸計画に参加
- サンフランシスコの注目宇宙ビジネス企業Planet Labsは衛星画像技術でコロナ禍でも一躍発揮
- Rocket Labの小型ロケット打上げサービスが宇宙ビジネスの未来を切り開く
はじめに
近年、アメリカでは宇宙ビジネスのスタートアップ企業の成長が注目されている。年始にはk、2040年までに宇宙事業は1兆ドル以上の市場規模に成長するとの見通しも、米商務長官ウィルバー・ロスによって発表された。
その背景には、NASAの積極的な宇宙事業の民間委託がある。NASAの宇宙開発の顔だったスペースシャトル計画は、コストが高過ぎるとして2011年の飛行を最後に終了した。
そこでNASAは宇宙事業を民間委託し、企業間の価格競争を起こすことでコストを抑えるという試みを始めた。つまり宇宙ビジネス関連企業が成長する大きなチャンスとなっているのだ。
そして、そこから生まれる新しいサービスにも期待が寄せられている。例えば、Orbital Insightは人工衛星で撮影した石油タンクの画像を、AIを用いて分析することで石油貯蔵量を推定し、石油投資に利用するサービスなど。
日本でも、ホリエモンこと堀江貴文氏の出資で有名なインターステラテクノロジズをはじめとした宇宙ビジネス関連のベンチャー企業のニュースを聞くことが増えてきており、宇宙ビジネスはより身近になりつつある。
一方で、残念なことにコロナウイルスのパンデミックは宇宙ビジネスにも大きな影を落としている。いくつかのロケット打上げが延期され、企業の資金繰りも困難になっている現状だ。
しかし、この状況に負けずに、宇宙という大きな目標に向けて事業を継続する企業も多い。本記事ではこれらの企業とその現状を紹介する。
また、そのサービスを知る上で、重要なキーワードの簡単な解説も入れているので参考にしていただきたい。今後の宇宙ビジネスを知る上で重要なトレンドになるだろう。
テスラのイーロン・マスクが設立したSpace X
イーロン・マスク氏がCEOを務めることで知られるSpaceXは、今最も勢いのある宇宙ビジネス企業の1つだろう。SpaceXのサービスはロケットの開発・打上げ、有人宇宙船の開発と、それを利用した宇宙旅行の提供、衛星インターネットの提供など多岐にわたる。
SpaceXはコロナウィルスの流行以降も積極的に事業を続けている。ここ最近の大きな動きを紹介しよう。
衛星インターネットサービス『Starlink』の人工衛星打上げ
SpaceXは、4月22日に『Starlink』人工衛星の打上げに成功した。
Starlinkとは、衛星コンステレーションによって衛星インターネットを提供するサービスだ。衛星コンステレーションとは、多数の人工衛星を連携させて構成するシステムのこと。近年、小型衛星による衛星コンステレーションを用いたサービスで宇宙ビジネスに参入する企業が増えてきているのだ。
その中でも、SpaceXは12,000基以上の小型人工衛星による大規模な数の衛星コンステレーションを構築し、衛星インターネットサービスの提供を構想している。
これは主に北米・カナダを対象としたサービスを想定しており、将来的には40,000基以上の人工衛星を用いて世界全体にそのサービスを拡大する構想だ。
地上から見ることができるStarlink衛星
コロナウィルスの影響で打上げ延期があったものの、4月22日の打上げでは60基以上のStarlink人工衛星を軌道上に投入することに成功した。この打上げでStarlinkを構成する人工衛星は420基が軌道投入されたことになる。
イーロン・マスク氏は2020年中に北米・カナダで試験的にサービスを開始する計画を語っており、今後も順次衛星を打上げていく予定だ。
また、この打上げに使用されたロケット『Falcon 9』は人工衛星を切り離した後に、大西洋上の無人ドローン船への着艦にも成功し、再利用可能ロケットの実現を確かなものにしつつある。
4月22日に実施されたロケット打上げと回収
SpaceXとNASAの有人宇宙飛行プロジェクト
SpaceXは、NASAから委託された有人宇宙飛行プロジェクトのために、宇宙船『クルードラゴン』の開発を進めている。そして、NASAは5月27日に『クルードラゴン 』の有人宇宙飛行テストのために打上げを行うと発表した。
これはSpaceXにとっては初の有人宇宙飛行ミッションであり、NASAにとっても9年ぶりとなる有人宇宙飛行となる。この打上げの前段階として、2019年に実施されたテストでは無人宇宙船の打上げと国際宇宙ステーションへの往復を達成している。
このテストが成功すれば、その次の有人宇宙飛行も実行される予定となっており、その搭乗者には日本人宇宙飛行士の野口聡一氏も候補に挙がっている。
宇宙船『クルードラゴン』
Amazon設立者による宇宙ベンチャーBlue Origin
Blue OriginはAmazonの設立者であるジェフ・ベゾス氏が設立した宇宙ビジネスのベンチャー企業だ。主にロケット開発・運用、宇宙船の開発などを行っている。Blue Originはコロナ禍の中でも従業員の感染リスクを考慮せずに、打上げ計画を進めていると批判的に注目も浴びてしまっているが、その研究開発に大きな注目が集まっているのは間違いない。
有人宇宙飛行サービスの構想
Blue Originの事業で注目を浴びているのが『ニュー・シェパード』ロケットによる有人宇宙飛行計画だ。この構想は、最大6人が搭乗可能なカプセル型の宇宙船を高度およそ100kmの宇宙空間まで打上げて、約10分前後の宇宙旅行を体験できるというもの。
この宇宙旅行の価格はおよそ20万ドルになると言われている。また、この宇宙船とロケットは再利用が可能。宇宙船はパラシュートで落下し、ロケットはブースターによる垂直着陸が可能なので、次の飛行でも利用することができる。
早速2019年の12月11日に12回目の打上げテストに成功しており、近い未来に宇宙旅行が実現すると期待されている。
『ニュー・シェパード』の宇宙飛行プロセス
月面着陸計画『アルテミス計画』への参加
Blue Originは、NASAの月面着陸計画の『アルテミス計画』のために月面着陸船の開発を進めている。
アルテミス計画では、2024年までに有人月面着陸を目指し、さらに2028年までに月面基地の建設が予定されている。人類を再び月に送り込もうという壮大な計画なのだ。2024年の有人月面着陸では、男女それぞれの宇宙飛行士が参加する予定になっており、実現すれば女性として初めて月面着陸した宇宙飛行士が誕生することになる。
この計画は、アメリカの官民協力体制で進められているが、各国の宇宙機関とも協力しており、宇宙航空研究開発機構(JAXA)も協力を表明している。
さらに、月までの宇宙飛行だけでなく、月面基地や宇宙ステーションの建設資材の運搬や補給などで、多くのロケット打上げが必要とされており、計画には数十社が参加する予定になっている。
NASAは5月15日に、各国の宇宙機関及び民間企業と協調して計画を進めていくためのガイドラインとして『アルテミス協定』を発表し、その実現に向けて準備を進めている。
NASAの月面着陸のロードマップ
このアルテミス計画の開発・実行部隊として、Blue Originの他に、SpaceX、Dyneticsの2社もNASAによって選定された。NASAは今回選定された3社の計画に9億6700万ドルの資金を用意しており、そのうちBlue Originの開発計画には5億7,900万ドルを提供するとしている。
Blue Originは他2社よりも大規模な月面着陸船を開発を計画しているため、最も高額な資金提供となった。この高額投資からはNASAのBlue Originへの期待の高さがうかがえる。
実際に、今回の選定の中で、Blue OriginはSpace Xより高評価を得ていた話もある。そして、Blue Originはこれを実現するため、軍事企業のロッキード・マーティンをはじめとして、ノースロップ・グラマン、Draperと協力して統合型月着陸船(Integrated Lander Vehicle, ILV)の開発を進める予定だ。
Blue Originの月面着陸計画の紹介動画
また、余談にはなるがAmazon自体もKuiperという衛星インターネットサービスの提供を計画している。これはSpaceXのStarlinkの強力な競合相手になるだろうと言われている。
サンフランシスコの衛星画像スタートアップPlanet Labs
Planet Labsは元NASAの開発者であるWill Marshall氏らによって設立されたサンフランシスコのスタートアップ企業だ。人工衛星の開発とその人工衛星で撮影した衛星画像を取り扱うサービスを提供している。
高品質な衛星画像サービスを開発、提供
現在、軌道上にはPlanet Labsの所有する小型人工衛星およそ150基が打ち上げられており、それらで構成される衛星コンステレーションにより、地球上のあらゆる場所の衛星画像を撮影している。
そのうちの120基以上を占める人工衛星『Dove』は、CubeSatと呼ばれる超小型衛星に分類され、高品質の画像を撮影できる。また多数の人工衛星により、地球全体をカバーする衛星画像を毎日リアルタイムで撮影可能だ。
さらに、超小型でありながら分解能は3〜5mで高解像度。また、Planet Labsは別の人工衛星による衛星画像サービスも提供している。例えば、彼らの人工衛星『SkySat』は72cmの分解能をもち、より高解像度の画像を提供できる。
今、DoveのようなCubeSatと呼ばれる超小型衛星が注目されている
CubeSatは、前述の通り、超小型の人工衛星だ。1999年にカリフォルニア・ポリテクニック州立大学とスタンフォード大学によって仕様が策定され、民間企業だけでなく、大学などの研究機関でも教育・研究のために開発されている。
大学での開発が想定されているため、CubeSatは従来の人工衛星に比べて安く容易に開発できるのが特徴だ。
さらに、小型・軽量なため他の打上げ計画に相乗りして打ち上げることが可能となり、そのコストを大きく抑えられるメリットがある。大きさは1ユニット(1U)10cm x 10cm x 10cmを基本として、1U、2U、3Uといったようにサイズが規定されていてる。
また、1ユニットの重量は数kg。Planet LabsのDoveはCubeSatの規格で3Uサイズ(30cm x 10cm x 10cm)に分類される大きさで、非常にコンパクトであることがわかるだろう。
近年では、集積回路やソフトウェアなどの技術向上によりDoveのように小型でも高性能なCubeSatの開発が可能となっており、CubeSatを用いた宇宙ビジネスに参入する企業が増えてきている。
CEOのWill Marshall 氏と人工衛星『Dove』
Planet Labsの衛星画像は、グーグルマップをはじめとする地図の作成や自然環境の変化の研究、物流・交通や災害発生時の状況確認、また北朝鮮のミサイル監視などの軍事的な用途も含めて、多くの分野で使用されている。
また、コロナウィルスの影響の分析にも使用されており、物流・交通状況変化の分析に役立っている。
例えば、次の画像では中国、武漢市の交通状況を確認できる。都市封鎖前の2020年の1月12日と封鎖後の1月28日で、交通状況が大きく変化していることを見ることができる。
Planet Labsの衛星画像。武漢市の様子(1月12日)
Planet Labsの衛星画像。武漢市の様子(1月28日)
ロケットの打上げベンチャーRocket Lab
Rocket Labは主にロケットの開発・運用を行うロサンゼルスの企業だ。
小型ロケット『Electron』
Rocket Labのロケット『Electron』は、主にCubeSatを含む小型人工衛星を打上げることを目的としたもの。打上げコストの低さも売りの1つとなっており、Planet Labsのような人工衛星を利用したベンチャー企業の強い味方となっている。
Rocket Labの顧客には日本企業も含まれる。日本の宇宙ビジネススタートアップSynspectiveだ。彼らは合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar, SAR)というマイクロ波のセンサーを用いた地球観測の衛星コンステレーション構築を目指しており、その初号機となる人工衛星StriX–αの打上げを2020年後半に計画している。
これまで、CubeSatのような相乗りによる打上げを想定した人工衛星の計画は、メインとなる人工衛星自体の開発スケジュールに依存するなどの問題もあった。しかし、Electronのような小型人工衛星向けの打上げサービスが登場したことでロケットの打上げスケジュールや目標高度などを自由に決められるようになったのだ。
実際、前述のSynspectiveは自社の人工衛星単独での打上げを行う予定だという。Electronに代表される小型ロケットのおかげで、宇宙ビジネスに参入するハードルは大きく下がっているだろう。
Electronロケット
Electronは小型人工衛星を高度500kmの地球低軌道(Low Earth Orbit, LEO)へ打上げる能力を持つ。全長は17m、最大で225kgのペイロード(ロケットの搭載貨物)を搭載可能。
使い捨てロケットではあるが、1回の打上げコストはおおよそ500万ドルと言われている。参考までに、用途の違いもあるがSpaceXのFalcon 9は全長がおおよそ70mで、打上げコストはおおよそ6,200万ドルとなる。Electronがいかにコンパクトかつ低コストだということがわかる。
地球低軌道(LEO)とは。宇宙ビジネスをより気軽に、身近にするスイートスポット
地球低軌道(LEO)とは、衛星軌道の分類の中で最も地球に近い高度2,000km以下の衛星軌道のこと。我々に身近な気象観測衛星ひまわりや放送衛星などは、赤道上の高度35,786kmの静止軌道を利用している。
また、静止軌道の利用は国際電気通信連合により管理されており、各国・企業が自由に人工衛星を投入することはできない。それ対してLEOは、人工衛星の投入に対して、国際的な規制はない。
さらに、低高度のため小型のロケットでも到達が可能であり、衛星画像の撮影や地上との通信も容易というメリットがある。SpaceXのStarlink衛星やPlanet Labsの人工衛星も高度500kmのLEOを利用している。
小型人工衛星による宇宙ビジネス参入企業が増えてきている昨今、Rocket Labsに期待されている需要は多いのだが、コロナ流行の影響を大きく受け、3月に計画していたロケット打上げは延期されることになった。本記事の執筆時点(2020年5月)では、再開時期は決まっていないようだ。
ロケットの空中回収テストを実施
Rocket Labは、4月3日にヘリコプターによるロケットの回収テストに成功したと発表した。このテストはダミーのロケットを1台のヘリコプターから落下させ、パラシュートで落下中のロケットをもう1台のヘリコプターで空中キャッチするというもの。
このニュースで注目すべきは、着陸のための地上施設(SpaceXは洋上の無人船に着陸するが)やロケットに着陸システムを搭載するが必要ないところ。現在、世界中でロケット再利用のため、垂直着陸可能なロケットの開発が進められている。
前述したようにSpaceX、Blue Originも着陸可能なロケットを所有しているが、着陸を制御するシステムは複雑になりがちで、その開発費用も大きくなる。もちろん、空中で落下してくるロケットをキャッチするのは簡単ではない。
しかし、この方式が確立してElectronが再利用可能となれば、他の再利用可能ロケットよりも安く抑えられる可能性が高い。そして、その分宇宙ビジネスに参入するハードルは下がり、より多くの宇宙ビジネスベンチャーが誕生することが期待できる。
ロケット回収テストの様子
コロナ禍でも拡大を続ける宇宙ビジネス
IT技術が我々の生活を大きく変えたように、近い将来、宇宙ビジネスはより身近に、そして重要になるだろう。使っている領域が宇宙なだけに、与える影響も全人類に及ぶ可能性大なのだ。
一方で、前述した通り、コロナウィルスの流行は宇宙ビジネス企業にも大きく影響している。例えば、衛星通信サービスを提供するIntelsatや、衛星インターネットサービス分野で、SpaceXの強力なライバルになると思われていたOneWebがチャプター11(米連邦破産法11条)に基づく会社更生手続きを申請したというニュースは話題になった。
OneWebは、ソフトバンクの出資でも話題になった衛星インターネットサービスを提供する企業。コロナ流行に伴う経済不調の煽りを受け資金調達が難航し破産申請をするに至った。また、日本でもホリエモンのインターステラテクノロジズのロケット打上げも延期となった。
こういった世界的な逆風もあるが、振り返ってみて欲しい。現在のGAFAに代表されるIT業界の巨人たちも、10数年前には、大きなチャレンジを経て事業を拡大し、経済的に困難な時期もイノベーションを起こして成長してきた。
関連記事:コロナショックがこれからスタートアップに与える影響
ここで紹介した宇宙関連ビジネスの企業も、この時期を乗り越えられれば、宇宙ビジネスにおける次世代のGAFA的存在、むしろそれ以上の存在になる可能性があるということだ。
btraxでは、こういった次なるGAFA企業、サービスについて日々リサーチし、クライアント様への新たなイノベーション創出へと繋げている。目ぼしいスタートアップやサービスをベンチマークして市場を理解することに加え、ユーザーを中心としたサービスデザインという視点があるのも強みだ。リサーチ、新規サービス開発など興味があるという方はお気軽に問い合わせを。
参考記事:
Commerce Department to develop new estimate of the size of the space economy
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Amid ‘rapidly evolving’ COVID-19 outbreak, Blue Origin’s launch plans spark debate
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