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リテールテックの革新:アメリカ主要小売店の最新テクノロジーが描く顧客体験の未来
リテールテックがもたらす小売業界の革新
近年、急速に進化するデジタル技術は、小売業界において大きな変革をもたらしている。これにより、顧客体験の向上や業務効率化が実現され、小売店は新たな競争力を獲得することが可能となっている。
本記事では、アメリカの主要小売店で展開されている最新のリテールテックを紹介し、その効果について探っていく。
リテールテックの概要
リテールテックは、小売業界における最新のテクノロジーの活用を指す。このテクノロジーは、さまざまなカテゴリーに分類することができますが、特に注目されるのは以下のような分野である。
新しい決済方法
小売業界では、顧客の支払い体験を向上させるために新しい決済方法が導入されている。これにより、レジ待ち時間の短縮や支払いのスムーズ化が図られ、顧客はよりストレスフリーなショッピング体験を享受することができる。
ロボット
ロボット技術の進化により、小売店では在庫管理が大幅に効率化されている。自動化されたロボットが品揃えの確認や商品の位置の更新などの作業を行い、従来の手作業に比べて迅速かつ正確な在庫管理が実現されている。
ドローン配達
ドローンを活用した配達サービスは、小売店の配送プロセスを革新し、顧客により迅速かつ柔軟な配送オプションを提供している。遠隔地や交通の混雑する地域への配送も容易になり、顧客満足度の向上につながっている。
Virtual Care(遠隔医療)
小売店では、オンライン上で医療相談や診断を受けることができるVirtual Careサービスも提供されている。顧客は店舗を訪れることなく、自宅から医療サポートを受けることができ、健康管理における利便性が向上している。
これらのカテゴリーにおける最新のリテールテックの導入により、小売業界はますます革新され、顧客体験の向上や業務効率化が実現されている。
事例紹介: アメリカ主要小売店が導入しているリテールテック
【新しい決済方法】
Whole Foods Market
アメリカの大手スーパーマーケットチェーンWhole Foods Marketは、Amazonに買収されて以降Amazonが持つテクノロジーとWhole Foods Marketが持つ様々なデータを上手く掛け合わせたサービスを提供している。
手のひら決済
そのうちの一つに、Amazon oneというサービスを用いた「手のひら決済」という革新的な支払い方法がある。このシステムでは、顧客の手のひらをスキャンすることで支払いが完了し、レジ待ち時間を大幅に短縮することができる。
ちなみに、Amazon oneへの登録は非常に簡単である。順序は以下の4つで1分ほどで完了する。
①Whole foods店舗内にある「Amazon One」の機械で登録開始
②クレジットカードを差し込み登録する→ここまではオンラインで登録可能
③両方の手のひらを機械にかざして登録する
④最後に電話番号を登録して終了
Amazon Dash Cart
さらにWhole foods Marketは「Amazon Dash Cart」の機能を用いて、手に取った商品をカート内でスキャンするだけで支払いを行う事ができ、チェックアウトの列に並ぶ必要がない便利なサービスも提供している。
【ロボット】
Walmartの清掃ロボット
世界最大のスーパーマーケットチェーンWalmartは、店内の清掃作業を自動化するためにロボットを導入している。それだけでなく移動しながら清掃すると同時に、棚の在庫状況をチェックも同時並行で行う。
これにより、店舗スタッフはより効率的に在庫管理や顧客サービスに集中することができ、店内の清潔さと品質を維持することができている。
Krogerの在庫管理ロボット
全米最大のスーパーマーケットチェーンKrogerは、店内の在庫管理をロボットを利用して行っている。既に800機以上のロボットにより、毎日20,000件以上のオンラインオーダーに対応している。
このシステムにより、商品の在庫状況をリアルタイムで把握し、顧客が欲しい商品を素早く的確に提供することができる。また、従来の手作業に比べて効率が大幅に向上し、顧客満足度を高めている。
Krogerの無人トラック
また、Krogerは自動運転車を提供しているGatik社と提携し、無人トラックによる配送業務の自動化&高速化を目指し試験運用している。
店舗受け取りや店内での買い物体験に加えて、新しいテクノロジーを用いた『ロボットによる在庫管理と自動運転による配送』を組み合わせることで、顧客にシームレスな体験の提供、それに伴う顧客満足度の向上とリピーターの増加を目指している。
Lowe’sの案内、警備、配達ロボット
アメリカの大手ホームセンターLowe’sは、店内での在庫管理&案内、警備、配達の主に3つの作業にロボットを活用している。これにより、顧客は迅速かつ正確なサービスを受けることができ、店舗スタッフの負担を軽減することができている。
在庫管理&案内ロボット
高度な人工知能と3Dマッピング ソフトウェアを搭載したNAViiを利用している。NAViiは店舗内を歩き回り、正確にどの場所のどの商品を補充する必要があるかを知らせるだけでなく、価格が間違っていたり、間違った場所にある商品も識別することができる。
さらに、NAViiは顧客のサポート業務としても機能しており直接話しかけたり、NAViiに搭載されたディスプレイを用いて、特定の製品や部門の場所を尋ねると適切な場所に直接案内してくれる。
警備ロボット
Lowe’sは盗難の防止や店舗の安全性向上のために自律型セキュリティロボットをテスト導入している。
このロボットは、周囲を移動しながら潜在的な問題を特定し、懸念事項を監視チームに報告する。また、顔認識機能はないが、熱異常検出及び人物検出センサーを装備しており、望ましくない侵入者をオペレーターに警告するなどの働きをしている。
移動中はヒューヒューという音を発することで視覚障害のある顧客への配慮もしている。また、ロボットを使用して助けを呼ぶことができるなど双方向通信システムを備えている。
配達ロボット
Lowe’sは輸送サービスを提供している米国大手のFedExと提携し「SameDay Bot」という自律型ロボットを利用した同日配送サービスを試みている。
このボットは、歩道や道路脇で動作し、安定した状態を維持して障害物を回避しながら、縁石、未舗装路面、急カーブを通過できるように開発されており、段差も難なく進む事ができる。
このように米国ではロボット技術を用いた顧客体験の向上施策がどんどん進んでいる。
【ドローン】
Walmartのドローン配達
Walmartはスピード、安全性、持続可能性を重視するWingやZiplineなどの専門家と緊密に連携することによって、過去2年間でドローン配送をテキサスで試験的に実施し、20,000件を超える安全な配送を完了した。
ドローン配送により、顧客は今まで以上に迅速な配送オプションを利用できるようになり、商品は30分以内に届けられ、場合によっては10分ほどで届くこともある。利用料は無料であることも大きい。
これまで「忘れた食材や市販の風邪薬など急遽必要になったものや午後の甘いもの、カフェインの欲求を満たすスナックや飲み物、卵などの壊れやすい品物」など様々なジャンルの品物がオーダーされている。
その結果を受け、Walmartや提携先の企業は ”ドローン配送の需要は本物だという事が明らかになり、2024年がドローン配達の年になると信じている”と述べている。
Krogerのドローン配達
Krogerは2021年にドローン配送のPilot Testを実施したが、バッテリー、技術面、制限面などの問題から2024年2月時点ではドローン配送サービスの提供を停止している。
Pilot Test時のサービス内容は重さは5ポンド(2.26kg)まで&配達範囲は半径1マイル(約1.6km)などの制限があったものの、配送は無料で1時間以内に到着することを保証していた。
現在サービスは停止しているが、2023年にKrogerのドローンパートナーであるDrone Expressが資金調達を実施し、Krogerの顧客へのドローンサービスの再開と拡大に向け動いていると報道されたため、サービスの再開の日は近いかもしれない。
【Virtual Care(遠隔医療)】
Walmartのオンライン診断サービス
Walmartは「Walmart Health Virtula Care」という遠隔医療サービスを一般会員に向けて提供している。そのサービスでは、電話またはビデオによる、資格のある認可を受けた医療提供者への24時間365日のアクセスを提供し、質の高いケアへのアクセスを増やすことで会員の満足度向上を目指している。
「緊急処置、男性&女性のプライベートな健康上の懸念、トークセラピー、ティーンセラピー、精神科」など様々なジャンルに対応したサービスがある。
さらに、ビジネス向けの遠隔医療サービスも提供しており、企業と協力して医療コストを削減し、遠隔プライマリケアなどの既存及び将来の従業員に特典を提供する遠隔医療ソリューションを開発&提供している。
Amazon Clinic
Amazonもアメリカ国内で「Amazon Clinic」遠隔医療サービスを展開しており、顧客は24時間365日オンライン上で医師との面談や処方箋の受け取りを行うことができる。
これにより、顧客は緊急時の医療サポートを迅速に受けることができ、健康管理がより身近になっている。Amazon Pharmacyを選択することで処方箋も配送可能となり、診断から処方箋の受け取りまで一連の作業をVirtualで行うことも可能になっている。
Costcoの遠隔医療サービス
Costcoはオンライン医療プロバイダーのSesameと提携することで会員に遠隔医療サービスを提供している。
遠隔プライマリ ケアを$29、健康診断を$72、バーチャル メンタルヘルスセラピーを$79など、高額な医療費が大きな問題としてあるアメリカにおいて手軽で安価な医療サービスを提供し、よりヘルスケアを身近なものにしようと取り組んでいる。
なぜアメリカの小売店ではリテールテックが進んでいるのか?
以上に述べてきたように、アメリカの小売店では当たり前のようにロボットやドローンなど最新テクノロジーを用いたリテールテックが進んでいる。そしてアメリカでは既に顧客は以上に述べたような革新的なサービスを目の当たりにしている。
なぜアメリカの小売店は日本の小売店に比べてリテールテックが進んでいるのか?理由は主に2つ。
①高額な人件費
現在私がいるサンフランシスコでは、2024年の4月から最低賃金が時給$20(約3000円)となる。
それに加えて、下記の記事でも述べたように、アメリカではシングルタスクが一般的なためたくさんの従業員を雇う必要があり、多額の人件費が大きな課題になっている。そのため、ロボットなどの最新技術を活用したリテールテックを推し進め人件費削減を目指している。
②セキュリティの強化
カリフォルニア州をはじめ、アメリカ全体で万引きや凶器を用いた窃盗が相次いでおり、その件数は年々増加傾向にある。
対応策として多くの店舗ではセキュリティガードを採用してはいるものの、高い人件費に加えて犯罪の数が多すぎてあまり防止策とはなっていないのが現状である。
人件費削減&人的被害の軽減のためセキュリティロボットなどの最新テクノロジーを積極的に活用している。
アメリカのリテールテック市場は2030年には35兆円規模へ!
以上の理由からアメリカの小売店におけるリテールテック市場(smart retail market)の需要はますます拡大し、年平均29%で成長し2030年にはUSD 232.36 Billion(約35兆円)に達すると予測されている。
日本のリテールテック市場も成長段階へ
また、日本においても技術革新と消費者ニーズの変化を背景にリテールテック市場の成長が見込まれている。
実際に、2030年には国内市場規模が5,553億円に達すると予測されている。特に、日本においては将来の人手不足の問題解決の糸口としても注目される重要な市場と今後なっていくだろう。
アメリカリテールテックの今後の展望
このように、アメリカの小売店では窃盗や万引きなどの社会的な問題や人件費などの金銭的な問題などからリテールテックを導入したいという需要が急速に拡大している。
小売店側の課題解決のみならず、ドローン配達や手のひら決済、virtual care(遠隔医療)などのリテールテックの導入によって顧客体験も向上し、顧客満足度が上がっているため一石二鳥どころか、何倍ものリターンがある。
現在は主にアメリカ国内のWalmartやWhole foods marketなどの主要な小売店がリテールテックの導入を進めているが、間違いなく主要な小売店以外でも今後リテールテックを導入したい小売店は増えていくだろう。
日本企業が参入するチャンス
世界的にみて、顧客ニーズの把握&顧客体験を追求し最適なサービスを提供する日本のコンビニなどの小売店はトップクラスにリテールテックが発達している。
現在のアメリカにおけるリテールテック需要の急速な拡大は、日本における小売店でのデータやテクノロジーを用いたサービスをアメリカの小売店に展開する大きなチャンスになるだろう。
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