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「日本式」ピッチあるある5つ:グローバルに通用するためのコツとは
イノベーションの支援をしているbtraxでは、日本企業のエースまたは起業家たちのスタートアップピッチ(主にスタートアップが投資家に向けて自分たちのビジネスアイデアを発表し、投資にこぎつけるためのプレゼンスタイルの売り込みを指す)を指導することが多々ある。
筆者もその指導者の一人であり、イノベーションブースターと言うプログラムを通じて、日本企業のエースたちにデザイン思考やリーンスタートアップの考え方を叩きこみ、短い時は2週間、長ければ8週間かけてスタートアップ風のビジネスプレゼン、ピッチを作らせ、指導してきた。
一方、筆者はサンフランシスコのピッチイベントでアメリカや他国出身のスタートアップによるピッチも数多くみてきたが、イノベーションブースターの参加者が作るピッチは、それらと比較すると皆、同じようなところでつまずいている。
さらにそれらを俯瞰してみると、日本企業の社員とスタートアップ社員の根本的な違いが見えてきた。
今回は、日本企業の方がよくやってしまうピッチでのつまずきを、「日本人のピッチあるある」として、5つの根本的なマインドセットの違いや改善項目を紹介したいと思う。
これは、ピッチを行う起業家、スタートアップ関係者へのアドバイスだ。それと同時に、最近増えてきていると言う社内アクセレレーターを設営する企業のピッチ審査側の方にとっても役立つ内容となっている。
社内でのピッチイベントでピッチの評価やフィードバックをする際にぜひ参考にしていただきたい。
と、言うことで、「日本人のピッチあるある」早く言いたい、のである。本当に、本当に早く言いたい。本当に、心から早く言いたい、のである。
- 「お客様向け」の喋り方しがち
- ストーリーテリングではなく「説明」しがち
- 浅い問題をたくさん解決しようとしがち
- ソリューションの説明が「アプリの使い方」の説明になりがち
- 競合比較、4象限にしようとしがち
関連記事:ここがちゃうねんデザイン思考。5つの違いを理解してモヤモヤを解決
1.「お客様向け」の喋り方しがち
まずは、ピッチのオーディエンスが「お客様」になっていると言う喋り方のダメ出し。お客様に話すと言うスタンスでいるため、むちゃくちゃ丁寧な敬語を使い、ひどい場合はアナウンサー的な「ええ声」の人を起用することもある。
これでは、語り手と聞き手の距離感がありすぎて、プロダクトやサービスの良さに「いち個人として」共感できない。ピッチのオーディエンスは「(商品をご購入くださっている)お客様」ではなく投資家やポテンシャルユーザーだ。そしてその目的は、多くの場合がアイディアの価値に共感してもらうことである。
つまりへり下って失礼のないように丁寧に話すことよりも、自信を持って聞き手を引き込ませることが大事だ。
スティーブジョブスのiPhone発表会での喋りを思い出してほしい。彼が初めてiPhoneを発表したプレゼンはほとんどの人の記憶に残っているのではないだろうか?
彼のプレゼンは”inspiring(感動的、奮い立たせるもの)”であり、決して「丁寧さ」に重きを置いていない。
アドバイス:ピッチをするときは、丁寧な喋り方よりもinspringな喋り方を心がけなはれ。
2. ストーリーテリングでなく「説明」しがち
特に理系の人によく見られるのがこれだ。
日本企業の社員にピッチを準備してもらうとまるで説明書のような情報盛りだくさんのプレゼンが出来上がってくる。
これはピッチの重点がプロダクトの機能説明、画面遷移、技術説明、その裏付け、などに置かれており、「いかに抜かりがないアイデアか」と言う説明になってしまっている状態だ。
参考:アメリカ型プレゼンの特徴
しかしながら、スタートアップピッチは「説明」ではなく、「説得」だ。したがって、抜かりない説明よりも、聞いている側がサービス価値に共感せざるを得ない説得力が重要になる。
ちなみに1.「お客様向け」要素と 2.「説明」要素が合わさったピッチはまさに、東京ビッグサイトなどで行われる日本のトレードショーなどの「ブースにいる商品説明の人」そのものだ。
パッション溢れる本場のスタートアップピッチとは残念ながらほど遠い…。
アドバイス:ピッチをするときは、聞いている相手に対して自分のサービスアイディアの価値を説得するためのストーリーを語りなはれ。
3. 浅い問題をたくさん解決しようとしがち
ピッチでは、多くの場合、「解決しようとした問題は何か」を説明する場面がある。もっとも、ピッチのメインはこの点だ。
この点に答えるためにやってしまいがちな失敗例が、浅い問題をいくつも挙げて、まるで自分のサービスアイディアが十得ナイフであるかのごとく、アピールをするパターンだ。
聞いている方からすると、「結局、何を解決してくれるサービスだっけ?」となって、いまいち利用シーンが思い浮かばず、ベネフィットもよく分からない状態になる。
まさに「二兎追うものは一兎もえず」という状態。たくさんアピールすればするほど、誰からも深い共感を得られないピッチになってしまうのだ。
ちなみに、この考え方はソリューションの部分にも現れるもので、ソリューションのところで「あれもこれもなんでもできる」と言ってしまうのがこのパターンだ。
これは、サンフランシスコ・シリコンバレーのスタートアップでもやりがちであることに加え、必ずしも悪いとは限らないが、万能な解決策よりも問題の価値の深さに重点を置くデザイン思考の考え方でピッチを評価した場合、低い評価となることが多い。
アドバイス:ピッチを行う時は、浅い問題をたくさん述べるのでなく、深い問題を1つ(多くても3つまで)述べなはれ。
関連記事:イノベーションにはマインドセット変革!シリコンバレーが最適な理由
4. ソリューションの説明が「アプリの使い方」の説明になりがち
これは、多少ニッチなポイントかもしれないが、重要なのでぜひ声高に言いたい。
短時間のピッチで、問題に対するソリューションがどのようなものか、聞き手に理解してもらわないといけない。
ここでよくあるのが、「アプリの使い方」を順を追って説明してしまう。つまり、「この画面でXXを入力し、ここをクリックして・・・」と言うインターフェイスの説明になっているということである。
「アプリの使い方」を説明しても、問題をどう解決するのか?と直接的には繋がらない。それよりも、シーンを設定してあげて、プロダクトがユーザーに対して何をしてくれるかを説明するほうが大事だ。
例えば、Googleについて、短時間でその価値を説明するには以下のような悪い例と良い例になる。
悪い例:
「Googleのトップページにアクセスし、ウィンドウに関連キーワードを入力し、検索ボタンをクリックします。すると、入力したキーワードを含むウェブサイトが一覧表示されます」
良い例:
「例えば、肉じゃがを作りたいが、レシピがわからない。そんな時、Googleで『肉じゃが 作り方』と入力して検索をすれば、肉じゃがの作り方が載っている可能性の高いサイトが一覧で表示されるので、欲しい情報に短時間でたどり着けるのです」
もちろんフェーズや相手によってピッチの内容は変えるべきだが、初見のサービスの価値を理解するのは、基本的に難しい。だからこそ、なるべく相手の目線で説明することが大事なのだ。
アドバイス:ソリューションの説明は「アプリの使い方」ではなく、「アプリがどう問題を解決してくれるのか」を説明しなはれ。
5. 競合比較、4象限にしようとしがち
Airbnbの初期のピッチスライドなど有名なピッチパターンでも採用されているからか、競合の説明をするときに4象限のマッピングをよく見る。
4象限マッピングを使うこと自体は全く悪くないのだが、ばか正直にマッピングした結果、「けっこうレッドオーシャンにいるやんけ!」となってしまっている場合や、結果的に競合との差別化要因がよく分からない状態になってしまっているパターンをよく見かける。
また、無理やり4象限のマッピングで競合との違いを説明しようとした結果、2軸が「直感性」など、何を判断軸にプロットしたのかよくわからないものになっている場合も見かける。
↑「直感的に瞬時に意思決定をできる」アプリのために作られた4象限。「直感性」「即効性」てなんのこっちゃ・・・。
先人スタートアップが使っているからといって闇雲に使ってしまっては逆効果だ。ピッチの1番の目的を忘れてはいけない。それは4象限マッピングを使うことではなく、解決する問題を伝え、オーディエンスに共感してもらうことなのだ。
アドバイス:競合説明をするときは、何が一番わかりやすい形か、よく考えて適切な表示を使いなはれ。
関連記事:ピッチの際に投資家から聞かれる10の質問
まとめ:
色々(偉そうに)ダメ出しをしてきたが、根本的な原因は、つまるところ1つのマインドセットにあると筆者は思っている。それは、「正解があると思い込んでいる」というマインドセットだ。
つまり、ピッチ、ひいてはスタートアップビジネスなんてのは、正解も不正解もない中で、「自分はこれを信じています。(正解はもちろん誰にも分からないけど)あなたも、そう思いませんか?」と共感させるものである。
日本で行う典型的なプレゼンテーションの多くは「ツッコミどころのない正確な説明をする」スタンスをとっており、ピッチは「正解もない中で共感させる」スタンスに重きをおく。これが根本的な違いであり、日本人は後者が異常に苦手なのだ。
苦手というか、教育の性質上、幼い頃からずっと「正解を探すこと」を教え込まれたので、なかなか受け入れられないというのが正直なところかもしれない。
イノベーションなんてのは正解なんてないのだから、イノベーションなんて起こそうと思ったらこのスタンスがなきゃ無理だと筆者は考える。
これからピッチを行う人には是非、上述の点に気をつけて共感されるピッチをブラッシュアップしていっていただきたい。または、btraxのイノベーションブースターに参加し、ビシバシ指導を受けてほしい。
一方、ピッチを指導する人はぜひ上述の点を踏まえてフィードバックをしてあげて欲しい。スタートアップの評価に慣れていないが、社内起業家の育成に関して協力が必要な場合は、btraxと一緒に素晴らしいイントレプレナーを育てまへんか?
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