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ピーター・ティールの思想とFigma誕生秘話から学ぶイノベーションの本質
サンフランシスコで働いていると、日本とシリコンバレーのスタートアップ文化の“前提の違い”を実感することがある。その違いを象徴する人物の一人が、ピーター・ティールだ。
PayPal や Palantir の創業に関わり、投資家としても独自の哲学を貫く彼の思想は、プロダクトづくりやデザインの現場に確かな影響を与え続けている。
そのなかでも特に印象的なのが、世界的デザインツール Figma の誕生背景である。
Figma 共同創業者 ディラン・フィールドの原点
Figma の共同創業者ディラン・フィールドは、ピーター・ティールが主宰する「ティール・フェローシップ」の出身だ。同プログラムが注目される理由は、その徹底した独自性にある。
“大学を辞め、起業に専念すること” を求めるという、大胆なプログラムだ。
ここで特に興味深いのは、あれほど巨大なプロダクトへと成長した Figma が、当初はまったく別の構想から始まっていたという点である。
ディランが最初に持ち込んだアイデアは、Figma ではなく ドローン関連ソフトウェアだった。
一見すると「起業家が最初に別の案を出す」ことは珍しくないが、Figma という“デザインツールの常識を刷新した存在”が、最初から明確な構想として存在していたわけではなかったという事実は示唆的だ。
試行錯誤の過程で、本質的に解くべき課題へと歩み寄っていったという点にこそ、イノベーションのリアルがある。
私自身、もともとは金融業界出身で、デザインツールやプロダクト開発の文化にどっぷり浸かってきたタイプではない。
btrax に入り、非デザイナーながら Figma を日常的に使うようになってからこの背景を知った。
この背景を知り、単なる「便利なデザインツール」としてではなく、ツールとしての価値だけでなく、「なぜこのプロダクトが生まれたのか」という文脈への理解が一層深まった。
発想の出発点は、従来のデザインプロセスへの“違和感”
Figmaの着想源がGoogle Docsであることは知られている。
Figma 登場以前のデザインツールは、基本的に “個人で作業する前提” で設計されていた。複数人で同時編集することは難しく、ファイルの共有や受け渡しが前提となる非効率なワークフローが一般的だった。
そこでディランは素朴だが本質的な問いを投げかける。
「なぜデザインはGoogle Docsのように共同作業ができないのか?」
実際、btraxでも当時は Google Docs 上でスケッチしながら議論するワークショップが行われていたという。
現場の小さな工夫として存在していた“共同作業”という行為を、プロダクトそのものの価値に昇華した。それが Figma の核心だといえる。
現在、Figma は世界的プロダクトとなり、日本でも渋谷スクランブル交差点での大規模キャンペーンが展開されるまでに成長している。
「ゼロから新しい価値をつくる」という思想
ピーター・ティールの著書『ZERO to ONE』が多くの創業者に読まれている理由は、その思想が極めて明快だからだ。
「既存の延長ではなく、ゼロから新しい価値をつくる」
これだけ聞くと極端に思うが、考えてみれば納得できる部分もある。馬車をどれだけ改良しても自動車にはならないように、真のイノベーションは、既存の枠組みの改善では生まれない。
Figmaはまさにその象徴だった。既存ツールの単なる改良ではなく、デザインの働き方そのものを再定義した点に価値がある。
FigmaやSlackに共通する“設計思想”
ピーター・ティールが重視する3つのポイントは以下の通りだ。
1. ネットワーク効果:使う人が増えるほど価値が上がる設計
2. スケーラビリティ:拡張可能な構造を最初から組み込む
3. ブランディング:体験を一貫してデザインし、信頼を構築する
FigmaもSlackも、これらを初期段階で実装し、ユーザー数の増加と共に価値が累積していくプロダクトとなった。
デジタルサービス以外でも、この考え方は応用できる。btrax CEOのBrandonが日本代表を勤める、世界最大のAIコミュニティ「The AI Collective」の日本展開でも、この考え方を活かしている。
イベントやコミュニティ運営自体を「プロダクト」として捉え、3つのポイントを意識している。
ピーター・ティールの思想──“構造を変える”という発想
ピーター・ティールの特徴は、単に優れたプロダクトを生み出すことではなく、既存の社会構造そのものをどうアップデートするかという視点を持っている点にある。
これはスティーブ・ジョブズの「体験の美しさ」を極限まで磨き上げる姿勢とは明確に異なる。
ティールが重視するのは、次の問いだ。
「このプロダクトは、世界の仕組みをどのように変えるのか?」
たとえば PayPal は、当時のオンライン決済の複雑さや非効率さを“前提として受け入れない”ところから始まっている。
Palantir は、データの扱い方そのものを刷新し、国家レベルの意思決定プロセスに影響を与えた。いずれも、既存の枠組みの延長では生まれない発想だ。
ティールの “ZERO to ONE” 的な思考では、課題そのものを再定義し、社会の基盤にある前提を組み替えることをイノベーションと呼ぶ。
そしてこのアプローチは、スタートアップやテック領域に限らず、あらゆる事業・サービスに応用できる。
現代のように変化が速く、不確実性が前提となる環境においては、既存の改善よりも、前提を問い直す力のほうが大きな差を生む。だからこそティール的な視点が、今の時代によりフィットしているとも言える。
ピーター・ティールとスティーブ・ジョブズの違い
btrax のポッドキャストでも以前取り上げたスティーブ・ジョブズも、もちろんイノベーションの象徴的存在だ。
btrax CEO の Brandon は、両者と接点のある人物から話を聞いたことがあり、その対比がとても印象的だったという。
スティーブ・ジョブズは、ユーザー体験の美しさと完成度を徹底的に追求する人だった。
iPhone の精緻なデザインや操作感に触れたことがある人なら、そのこだわりを誰もが実感できるはずだ。
一方、ピーター・ティールは 個別プロダクトの完成度よりも「そのプロダクトが社会にどんな影響を与えるか」に軸を置く。視点のスケールが、プロダクトではなく“社会システム全体”に向いている。
どちらのアプローチも価値があり、優劣をつけるものではない。
ただし、全てが流動的で変化のスピードが加速する現代においては、ティールのように前提を疑い、構造そのものを再設計する思考法がより大きな可能性を生むのではないか、そう感じさせられる。
誰もが“未来をつくる側”になれる時代
btrax で多様なプロジェクトに関わる中で、「既存の延長線だけでは届かない価値」について考える機会が増えている。もちろん改善は重要だが、それだけでは大きな変化を起こすことは難しい。
サンフランシスコやシリコンバレーでは、職種に関わらず、小さな気づきから新しい価値を生み出そうとする人たちを多く見かける。
デザイナーに限らず、エンジニア、PM、マーケターまで、役割を超えて“未来をつくる側”になろうとする姿勢が文化として根付いている。
日々の仕事で見つけた小さな発見が、未来の何かにつながる可能性は十分にあるのかもしれないと思えてくる。
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