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オフィスへの投資を無駄にしないデザインの捉え方
昨今働き方改革が推進されるのに伴い、オフィスデザインへの注目はますます高まっている。しかし、様々な企業が洗練されたデザインをオフィスに導入している中で一つの問題が浮上している。
デザインした側と実際に利用する側の間で空間利用の仕方に溝が起こる、ということ。デザインした側の意図や目的が利用者に十分に浸透しないまま、設計された空間がそのポテンシャルを持て余すという現象が起きている。
例えば、社内イベントスペースにもなるよう多くの机を置いた広いスペースを用意しても、利用者からは「少人数でミーティングのできる机が並べられたオープンスペース」といった印象しか持たれないこともあり得る。
より自由な働き方を許容するとした企業がオフィス内でリラックスできるスペースやパーテーションで囲まれた集中ブース、仮眠スペースを導入しても、それを導入した意図や目的、使い方が社員に共有されていないと多くの人が利用に戸惑う空間になってしまいかねない。
Capital Oneサンフランシスコオフィスにある隠れ家スペース。リラックスするバーや読書スペースでちょっとしたミーティングもできそうだ。
ここ10年でシリコンバレーのテック企業のオフィスを真似るようなデザインを日本でも目にするようになった。しかし、デザインをそのまま持ってきても、多額の資金を投入しただけで効果が期待以上に得られない、という問題に直面しては意味がない。働く環境の改革は新しいデザインを取り入れるだけで事足りる話ではないのが現状だ。
デザインした側は、デザインの経緯を社員に共有すること
先日株式会社岡村製作所が運営する働き方メディア、Work Millにて、富士通のオフィスにおける共創空間の興味深い記事があった。「顧客と共に問題提起・解決を行う並走型のビジネス」をテーマに、六本木にあるHAB-YUと呼ばれる空間を新しく作り、そこで顧客とミーティングやワークショップを行えるようにした。
その際、原則デザイナーが立ち会うことで、会議室のようなもの、と誤解をしていた利用者にこの空間が作られた本来の目的を浸透させるような努力をしてきたのだ。
このようにオフィスはデザインだけでなく、その後社員にどう使われるかがスペースの価値を高めることに繋がるのだと最近みられるようになっている。
特にこの富士通のように社内でワークショップを開催したり、その他イベントを開催するような企業ではオフィスに多機能性が求められるため、意図された以上にスペースが利用可能であることが必要になる。
Lyftサンフランシスコオフィスのミーティングルームの一つ。ミーティングや勉強会のみならず、ちょっとしたパーティも開くことができる。
実際のところ、オフィスが再設計される際に提案されるデザインというのはあくまで「オフィスがこのように使われる予定」という計画案であって、実際の価値はその後も開拓されていくことで見つかっていくことになる。
言い方を変えれば、デザインした側は新オフィス完成後もスペースの可能性を提案し続けていることが重要であり、利用する側も積極的に新たな利用法を模索する姿勢が求められる。
ベイエリアのデザイナーが意図していることとは?
過去の記事でも取り上げてきたが、サンフランシスコ・ベイエリアは興味深いことに、テクノロジーだけでなく働き方の改革も積極的に行われてきたエリアである。その背景には、単にデザインが素晴らしいだけではなく、それを利用する社員も新しいテクノロジーに興味深々であるのと同時にオフィスの新しい利用価値を積極的に見出そうとしている姿勢がある。
オフィスが意図されたように、もしくはそれ以上に社員に使われるようにするためには、デザイナーがどのような点に注意を払って設計されているかを彼らに理解してもらう必要がある。これまで筆者がベイエリアのデザイナーに話を聞いてきた中で共通している点は次の3つであった。
オフィスを通して企業理念がわかるようにすること
特に人材の動きが激しいベイエリアでは、面接にきた社員候補者に企業がどのような理念やビジョンを持ってビジネスを運営しているか、またその理念達成にどれだけ真剣であるかをオフィスを通して一目で理解させる必要がある。ベイエリアのあるデザイン会社では、デザインを依頼してくる企業に対して最低2週間のスクリーニングを最初に行い、これまでの企業文化とこれから目指す文化を徹底的に洗い出し、理解を深めるようにしている。
btraxオフィスでも”We Are All Designers”の理念のもと、夕方からオフィス中央でデザインに関する勉強会やワークショップ、イベントを開催しやすいようなオフィス作りを取り入れている。
社員の声にできるだけ耳を傾け、徹底的に話し合いを行い、それをデザインに反映させること
今までにあったオフィスの問題点を一人では明確にできない社員も多くいる。彼らの声がオフィスデザインに反映されるほど、彼らにとって働きやすい環境ができるだけでなく、自分の声が受け入れられたと思い会社に対する忠誠心が高くなる。時には社食で働くシェフに話を聞くことも非常に参考になる。
社員にできるだけ多くの環境を提供し、彼らが気づきもしなかった新しい働き方を提供すること
今まであまり整備された環境で働く機会がなかった社員は、「オフィスとは常に気を引き締めて働くもの」という固定観念に捉われ、時にはリラックスして働くという考えが頭に浮かばないケースが多い。そのような社員に働き方のエキスパートとして、デザインを通していかに自由な働き方を提案するかがデザイナーの大きな役目である。
オフィスデザインにおけるデザインの立ち位置
このように、ベイエリアのオフィスデザイナーは自身の仕事を「社員がベストなパフォーマンスを出せるよう、あくまでその環境を整えてあげるところ」というように認識し、クライアントに「デザインがすべてを変革させる」と思われることを極端に嫌う傾向がある。
実際に上記の「オフィスを通して企業理念がわかるようにする」ということに関しても、社員候補者はオフィスの作りそのものではなく、そのオフィスで社員がどのように働いているか、をみて自分がそこで働く未来を想像する。オフィスデザインは働く人を裏から支える立役者的存在であることで一番の効果を発揮する。
同じ手法、異なる結果
日本では、様々なメディアで働き方改革に熱心に取り組む各企業の特集を見る機会が増え、企業の想いが込められたスペースも多く目にするようになった。過去に本ブログでベイエリアのオフィスデザインの特徴として挙げてきたのと同様に、より現代にあった満足度が高いサービスを提供したいと考える企業ほど、ミレニアル世代が働きたいと思うようなオフィスデザインを取り入れる傾向が日本でも強くなっている。
それにもかかわらず、奇妙なことに日本人の職場における満足度は依然として決して高くはない。2016年に発表されたSteelcaseの研究結果を見ても、研究対象となった20カ国中日本人の職場生活の質は最下位であり(※1)、下グラフにもあるように、日本人の労働環境への評価は他の研究対象平均よりも大きく下回っている。
残念ながら日本では、必死に取り組まれている成果が未だ見られずにいる。社員にとってより働きやすい環境を提供しようとしているにもかかわらず、それを使う社員自身とどこかですれ違いが起きているのかもしれない。
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